「2015年2月、NPO法人くらしとバイオプラザ21では、誰にでもできる「バイオ・カード・ゲーム」を筑波大学遺伝子実験センター形質転換デザイン拠点との共同研究で開発しました。遺伝子組換え作物・食品のリスクコミュニケーションのために作りましたが、遺伝子組換え作物・食品の教材としてご利用いただけます。
カードと手順書 |
遺伝子組換え作物の商業栽培は1996年に米国で始まって以来、世界各国に広がっています。2014年には米国、カナダ、ブラジル、スペインなど世界27カ国に広がり、そのうち19か国が発展途上国です。栽培面積は約1億8500万ヘクタールになりました。これは日本の国土の約4.9倍です。 日本は米国やカナダなどから大量の遺伝子組換え作物を輸入しており、世界で最も大量に遺伝子組換え作物を輸有している国のひとつとなっています。日本の家畜飼料の大部分は遺伝子組換え作物でまかなわれており、食用油や甘味料などの原料に多くの遺伝子組換え作物が使われています。
国内で大量に利用されている遺伝子組換え作物 |
家畜飼料として大量に利用されている遺伝子組換え作物 |
遺伝子組換え作物にはいろいろな機能を持った作物があります。特定の除草剤をまいても枯れないダイズやナタネ、殺虫剤をまかなくても害虫に強いトウモロコシやワタ、干ばつに強いトウモロコシ。除草剤への耐性と害虫への抵抗性など複数の性質を合わせ持つ作物。更に、さまざまな有用な性質を持った作物が開発され、商業栽培されています。
一方で、「本当に食べて大丈夫か」「安全性は確かめられているか」「子孫への影響はないか」「遺伝子組換え作物の花粉が飛んで交雑種が生まれ、生態系の影響がないのか」などのリスクについても考えなくてはなりません。
私たち全員が自分の食をめぐる状況について情報を得て、学び、納得して食品を選べるようになることは、自立した消費者として努めなくてはならないことですが、なかなかひとりでできることではありません。そこで、私たちは、ゲームを通じて、遺伝子組換え作物・食物に関する状況について知り、参加者同士が考え、話し合う機会をつくることはできないかと考えました。
そのきっかけは十数年前に、サイエンス・コミュニケーションにおいてカード・ゲームが使われていることを知ったことでした。英国で開発されたカード・ゲームDEMOCS(Deliberative Meeting Organized by Citizens)について小林信一氏(元筑波大教授)らのグループが報告されていたのです。小林先生のご指導のもと、くらしとバイオプラザ21の事務所で、“遺伝子組換え作物”をテーマとしたDEMOCSの翻訳版を使って私たちは試行し、検討を始めました。その後、改良版をつくりいろいろな方にご参加いただき、試行研究を行いました。その結果の詳細は「日本リスク研究学会誌17(3):123〜128 2008」にまとめてあります。
DEMOCSは多種類のカードを使う複雑な仕組みであるため、カードゲームの経験が乏しいプレイヤーにとって、ゲームを楽しみながらテーマを理解することは難しいようでした。また、時間もかなりかかりました。カードの種類を単純にしたり、文章量を大幅に減らしたり、日本の状況にあった内容に変更したり、工夫しました。
その頃、吉川肇子教授(慶応義塾大学)らが開発した卓上訓練(Tabletop Exercise)型「クロスロードゲーム」の存在を知りました。吉川先生と相談させていただき、ある人が複数の選択肢の選ばなくてはならない「クロスロード」に立ったという設定にしたほうが参加者は参加しやすいのではないかと考えるようになりました。そして、今回のバイオ・カード・ゲームの形へと進めてきました。この詳細は「日本リスク研究学会誌19(4)3-10 2009」にまとめてあります。
バイオ・カード・ゲームを行うと、そこに参加する人々の間でお互いの考えを聴きやすくなり、理解しやすくなります。情報発信者(研究者、企業、行政など)から一般市民に一方的に知識を渡すときに生じやすい上下関係と異なる新しい関係を生み出され、ゲーム参加者相互に通常の対話(Dialogue)以上の多重話(Multilogue)が発生します。共通の問題に対する異なる視点の交換が可能になります。カードを用いると、自分から意見を言うのが苦手な人も意思表示できます。これらがバイオ・カード・ゲームの狙いです。
バイオ・カード・ゲームは遺伝子組換え作物に係わる10項目のテーマが記載されたコンテンツ・カードと「YES」「NO」からできています。あるコンテンツカードが提示されたとき、プレイヤーはこれに対して「YES」または「NO」のいずれかを選び提示します。多数派の意見であったプレイヤーがポイントを獲得します。10項目について同じようにしてポイントを競います。参加する人々の間でお互いの考えを聞き理解していく過程で、自分の考えがまとまっていきます。情報発信者から一般市民へ一方的に知識が送られるのとは異なる、新しい関係が生み出されます。
実際には、「バイオ・カード・ゲームへの招待」という手順書に従って、①会場の準備、②開始する前に全員で確認すること、③用意するもの、④ゲームの概要、⑤ゲームの流れ、⑥進行係への注意、⑦終了後のふりかえりを手順書通り実施すればよいのです。
カードと手順書は以下からプレビューできます。実際に使ってみたい人には無料(紙媒体)で差し上げますので(送料のみご負担下さい)、実施してみてのご感想をいただきたいと思います。皆様のご意見でさらに良いものになればと思っています。
カードと手順書のプレビュー(PDF)
「カードゲーム希望」として、82円切手4枚を同封し、送り先を明記し、下記宛先までお申込みください。
手順書に書かれているメダルやチップは含まれていません。各自、身近なものを工夫して使ってみてください。
宛先:
103-0025
東京都中央区日本橋茅場町3-5-3鈴屋ビル8階
NPO法人くらしとバイオプラザ21