アクセスマップお問い合わせ
花楽バイオカフェ「世界に一つだけの花を創る」

 2014年5月10日、静岡科学館る・く・るで科学茶房「花楽バイオカフェ〜世界でひとつだけの花を創る」を開きました。お話は農業・食品産業技術総合研究機構 大坪憲弘上席研究員でした。クイズをしたり、珍しいトレニアのサンプルを見たり、質問も活発なバイオカフェでした。このイベントは国際植物の日の一環として行いました。
 
国際植物の日のサイト

写真 写真
大坪憲弘さん 美しい花々のスライド

お話のおもな内容

品種改良の技術
(1)交配
交配は一般的な品種改良のひとつの方法。花き研ではこの方法で、ミラクルルージュ、ミラクルシンフォニーをつくった。エチレン(バナナやりんごからでる老化ホルモンの気体で、熟すようになる)を作れないようにして日持ちを3倍にした。
花恋(かれん)ルージュも交配で作られ、病気に強い。「枯れない」、「可憐な」にかけて「かれん」としている。
 
クイズ
「カーネーションの品種改良に何年かかったと思いますか」
15年、3年、7年から挙手。正解は15年。ナデシコからはじまり、7世代、まわした。果樹はもっともっと時間がかかり大変。
 
(2)突然変異育種
枝変わりを見つけて育てる方法。今は、放射線や化学物質でかわった性質(変異)を効率よく作りだすことができる。
 
(3)遺伝子組換え技術
必要な遺伝子を取り出して、目的の植物に入れる。
交配、突然変異育種、遺伝子組換えの3つの方法のどれを使っても、植物の遺伝子の組み合わせや働きは変化している。
 
品種改良の原理
私たちの体は約60兆個の細胞でできていて、その中のDNAに生命の設計図の暗号が入っている。理化学研究所仁科加速器研究センターでは、大きな電磁石でイオン粒子を加速し細胞にあて変異を作り出す実験をしている。これを重イオンビームといって、ビームの当たった遺伝子の一部はその働きが変化したり、働かなくなったりする。たとえば、私たちの体の細胞でも紫外線や宇宙放射線があたると同様の変化が起こることがある。

  • 参加者の質問「重イオンビームをあてると生物は変化するか」 → 細胞によっては遺伝子の並びがかわったりするかもしれない。植物のDNAの何か所も切断されることがあるが、例えば色や匂いに関わる遺伝子を切ると変化が起きる。
    γ線は1重鎖を切ることがほとんどだが、重イオンビームは2重鎖を切る。DNAが切れると普通は修復されるが、たまに元通りに直らないことがあり、これが変化となって現れる。キクとトレニアにの葉に照射し、葉の切れ端を育てた。菊は花弁にふがはいったものなど、2500株のうち10個に変化が現れた。船底花びら(花びらが深くくぼんでいる)、舌状花のねじれの部分が長いものも出てきた。

写真
遺伝子を組換え、重ビームをあててできた花の標本

 
遺伝子組換え技術とは
アグロバクテリウム法という方法では、小さい葉の断片をアグロバクテリウムという微生物の入った液に浸す。切り口から感染し、アグロバクテリウムの遺伝子が植物細胞に組み込まれる。アグロバクテリウムは、予め私たちが植物に送り込みたい遺伝子を持たせてある。アグロ液につけた断片を寒天培地上におく。うまく組換えが起こった細胞だけが成長し、3-4cmの草丈に育ったら、土に植え人工気象室に入れる。
 
花の色
例えばバラ、キク、ユリは青色色素をもっていない。バラやカーネーションの花の色(赤、黄色、青はすべて)はアントシアニンというグループの色素。赤はシアニジン、黄色はペラルゴジン、青はデルフィニジンという名前がついている。
サントリーでは、ペチュニアの持つデルフィニジンを作る遺伝子を2個入れることで、白花から青いカーネーションを作った。花の細胞のPhや色素の重なり方で発色が変わる。細胞内の環境づくりが難しいらしい。青いバラやカーネーションをさらに青くする研究が続けられている。

話し合い 
  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 質問「開花遺伝子を使ったのか」 → トレニアは3か月で咲くので使っていない。開花調節研究によると、開花遺伝子と開花抑制遺伝子のコントロールが必要だということがわかっている。
    • 質問「うまく組換えができたものをどうやって選ぶのか」 → わかりやすくために薬剤抵抗性を入れたりするが、花の咲き方までは咲いてみないとわからない。
      これまでの遺伝子組換え技術では、遺伝子はゲノムにランダムに組み込まれるため、多数の組換え体の中からほしい形質になったものを選んできた。今はねらった場所にいれられるようになってきている。全ゲノム配列がわかり、変異を起こしたい場所のDNAの並び方を認識してねらった場所に変異を起こせる安全性の高い技術がでてきている。
    • 質問「遺伝子を組換えたものは次世代にはどうなるのか」 → 遺伝子が変化したものを交雑させるとメンデルの法則の通り、3種類の遺伝子の組み合わせの植物体ができる。これに対してさし芽は同じ遺伝子の植物体を増やす。
    • 質問「江戸時代の黄色い朝顔の小説を読んだことがある」 → クリーム色の朝顔はあるが黄色はもともとアサガオにはない。黄色い朝顔は遺伝子組換え技術で作れるはずで、カロテノイドの遺伝子を導入した黄色いアサガオの作出に花き研と筑波大が取り組んでいる。
    • 質問「寒天培地の成分は」 → 植物が育つためのバランスの良い栄養。例えばスクロースやビタミン類が入っている。カルスという細胞の塊から根を出させるときなどに植物ホルモンを与える。トレニアやキクは葉の細胞から新たな植物を作りやすい性質が強い。植物にはもともと動物で言うところのiPS細胞に戻れる力がある。
    • 質問「トレニアを選んだ理由」 → 花弁が4枚で変化を観察しやすい。ゲノムサイズが小さい。トレニアの遺伝子を組換えてたくさんの色変わりができた。この中から5種類を選んで、さらに重イオンビームをあてた。花の形が変わったり、色の出方が変わったり、セクターといって中心から放射状に筋がでる(トランスポゾンによる)、配色パターンが変わったものがでてきた。淡色のものはイオンビームをあてると変化が見えやすいが元の色が濃いと変化がみえにくい。淡色の品種だからいろんな形質がでやすいのではない。
     
    重イオンビームを当てて、キクは色や形の変わったものが10種類できたが、トレニアは組換えとの組み合わせで289種類できた。商品にはならないが、289種類のトレニアに囲まれていると「私だけの花園」と思う。
    遺伝子組換えは野外で環境に影響を与えないよう、厳しく審査したものしか出せない。そこで、今日はトレニアの花のアクリル標本を持ってきた。花の色を変えないで封入できる技術は国陽工芸しか持っていない。
    植物の遺伝子の働きを抑えると花の色や形を変えることができる。新しい遺伝子を導入するのが遺伝子組換えだが、遺伝子の働きを抑制したり、その抑制を外したりして異なる形質になる。
    例えば、花びらのふちをなめらかにする遺伝子を抑えたり、抑えるタイミングを変えると、花びらがフリル状になったり、色や花の形が変わったりした。遺伝子のスイッチの働きをする「プロモーター」を変えたら、花の色や形にさらに多様な変化があらわれた。このようにして生まれた品種は、親の性質をほとんど変えずに受け継いでいるので、たくさんの種類があっても栽培の仕方が変わらないのが利点の一つである。
    • 参加者の質問「ふちの形をつくる遺伝子の働く場所やタイミングを変えるのはどんな花で成功しているのか」 → トレニア、トルコキキョウ等で変化が起こった。どんな花でも同じ効果があるはず。
    • 参加者の質問「200種類の学名がつくのか」 → それぞれを品種登録すれば品種名は200種類になるが、。学名は「トレニア・フルニエリ」で変わらない。遺伝子組換え技術を使っても学名は同じ。
    • 参加者の質問「組換えた後にビームをあてるのと、ビームを当てて組換えるのと同じか」 → ビームで種類が増えてからひとつずつ組換えると手間がかかるので、組換えを先に行った。菊はイオンビームでは変異ができにくい。
     
    クイズ
    「この花びらがたくさんある花はさくら、シクラメン、チューリップのどれか」正解はシクラメン。
     
    写真 写真
    休憩時間は花の標本のまわりに集まって  会場には青いカーネーションと
    「せいめいのお手紙」に紙芝居が展示されました

    花の形
    北興化学では花びらが40枚のシクラメンをつくった。数年で店頭に出るかもしれない。遺伝子組換え技術を使った。
    花の形はA、B、Cという3つの遺伝子の働きの組み合わせでできていることが、シロイヌナズナでみつかった。
    C遺伝子をこわしたら、めしべおしべができなくて花びらがたくさんになった。シクラメン培養の特許もあり、日本でしか、この多弁咲きは作れない。
    朝顔では、風船という名の江戸期の変化朝顔の再元に成功した。花弁が開かない黄緑色の古文書の朝顔も再現している。
    • 参加者の質問 「イオンビームのメリットは」 → 1度にたくさんの色や形の変化を作り出すことができる。

    光る花をつくる
    GFP(オワンクラゲの光るタンパク質)やいくつかの遺伝子を使って、光る花をつくるのに7-8年かかった。
    ホタルはルシフェラーゼという酵素がルシフェリンという基質にあうと光る。GFPは青い光のエネルギーを緑の蛍光に変えて発する。キリディウス・ポッペイという海にすむミジンコの仲間のもつGFPを使って光花をつくった。青色LEDで光り、スマホで写真がとれるぐらいよく光る。
    • 参加者の質問「どうして食品には非組換えと書かれているのだろうか」 → 知らない国からやってきた食品を躊躇するのと同じで、未知のものに不安を抱く心がかべになっているのではないか。今、ある遺伝子組換え作物は農家にはメリットがみえるが、消費者にはメリットがみえにくいのも理由かもしれない。β-カロテンをつくる米はビタミンA欠乏症で苦しむこどもを助けたり、花粉症治療米の治験に協力してくれている人には花粉の時期でも外出できるようになった人もあるそうだ。消費者に受容してもらえるようなものをつくり、その説明をしていくつもりです。組換え作物由来のタンパク質や油などは、皆さんが思う以上に食べているはず。この事実を伝えなくてはならない。

    話し合い 
  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 質問「F1種子、イオンビームは植物の持っている力を促進しているが、組換えは人為的に遺伝子を入れているので嫌がる人がいるのではないか。私は気にすることはないと思う」 → どこで、人為的かどうかの線引きは難しい。人のつくった作物は自然環境では生きられない。自然交配で起こらない遺伝子の導入をどう考えるか。組換えはそんなに違っていないと思うが、どこが気持ち悪いのか。社会的科学的に理解して使ってもらいたい。
    • 質問「昆虫が遺伝子組換え作物の花粉を媒介したら、生態系への影響が不安」 → おしべ・めしべがないシクラメンなど他の生物に影響しないような品種もでてきている。
    • 質問「どんな花を作ってみたいですか」 → 野菜をやってみたい。例えばイタリアには日本にない野菜がたくさんある。日本人は苦くなく、甘い作物の方向の育種でできた野菜ばかり。日本人の食べ方を変えるような野菜をつくれないかと思う。花では7色に光る花。ひとつの花のなかでもいろんな蛍光をだせるかもしれない。

    失念していましたが、昨年10月にサントリーと基生研でオーロンを蓄積させた黄色いアサガオの作出に成功しています。
    http://www.nibb.ac.jp/press/2014/10/10.html

    写真
    会場風景