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「アンチエ―ジングサイエンスーコエンザイムQ10の魅力と応用」

 2015年2月27日、三鷹ネットワーク大学で「サイエンスカフェみたか」を開きました。お話は㈱カネカQOL事業部 細江和典さんによる「アンチエージングサイエンスーコエンザイムQ10の魅力と応用」でした。超高齢化社会において、QOL(生活の質)の高いくらしを手にいれるには、老化と何か、アンチエージングのためにできることは何か、科学に基づいたお話をいただきました。

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細江和典さんのお話 会場風景1

主なお話

はじめに
日本は5人に一人が65歳以上の超高齢化社会。2025年の医療費は一人あたり92万円と予想されている。その中で、認知症患者も480万人になると考えられ、「認知症施策推進総合戦略〜認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて」(新オレンジプラン)が2015年1月27日に発表された。一方、年金はマクロ経済スライドにより毎年目減りし、年金額は90歳までに現役時代の収入の42%まで減らすといわれている。
これでは、経済的にも健康寿命が大事!
PPK(ピンピンコロリ、健康度を持続しつつ死を迎える、理想的な老化モデル)は長野県で北澤豊治さんが、健康寿命体操とともに提唱したもの。今では長野県は長寿日本一。
これは予防医学を広げるためのキーワードでもある。
日本は平均寿命では世界でも一番長いが、男性・女性ともに健康寿命と平均寿命の差が9.2年、12.8年と大きい。これらの不健康な期間が短くなれば、QOLは向上し、医療費も削減できる。
エビデンスのある機能性食品は、健康寿命を延ばすのに貢献できるのではないか。
 
生活習慣病
生活習慣病が進行すると心筋梗塞、脳卒中、糖尿病合併症などにより、本人も家族にとっても大変な要介護の状態になる。
厚生労働省は、生活習慣病の予防に、「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にくすり」といっている。賢い食事をすることが重要だが、素材の状況が変わっている。
カルシウムを例にとると、昭和38年から平成12年でホウレンソウ中の含有量は3分の1になっている。ダイコンでは8分の1、カボチャでは半分に。
このように野菜の栄養成分が減っていて、補助食品摂取の必要性が生じてくる。
 
老化とは
老化とは、エネルギーをつくる能力が低下すること。エネルギーは細胞の中のミトコンドリアでつくられる。原料は食べ物と酸素。
細胞を車に例えると、ミトコンドリアはエンジンで、エンジンは空気とガソリンを取り込んで車を走らせる。ミトコンドリアは呼吸から得た酸素と食事で摂取した栄養を使ってエネルギーの通貨であるATPをつくる。ATPが欠乏すると細胞は死ぬ。
心筋と脳細胞は非再生細胞で、死んだら再生しない。ATP欠乏は脳と心臓に深刻なダメージを残す。
加齢により、エネルギー不足が起こると、視力低下、肌にはりがないなどが起こる。
ミトコンドリは運動で増やすことができるが、加齢や使わないでいると減る。手術後、すぐに歩かせる理由の一つにミトコンドリアの減少防止がある。
すべての生命活動でATPは使われ、その95%は栄養素と酸素からつくられるが、ATPは必要なときにだけつくられ、貯蔵できない。栄養素は貯蔵できるが、酸素は貯蔵できない。走ると呼吸が速くなるのは、酸素がATPを作るのに必要だから。
エネルギー低下はあらゆる機能低下を引き起こす。この状態が続くと病気になったり、老化が進んだりする。
 
病気や老化
酸素と栄養素を使って、ミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)でATPができる。コエンザイムQ10はエンジンオイルの役割で、これがないとATPはできない。
1日に推奨されるコエンザムQ10の摂取量は100mg。これはイワシ20匹、牛肉3Kg、ブロッコリー12Kgにあたる。これは食べられない量で、サプリメントで摂取することに意味がでてくる。
サプリメントの3原則は①安心・安全、②高品質(副作用がないなど)、③エビデンス(動物やヒトで効果が確認されている、作用メカニズムがわかっている)である。コエンザイムQ10は3原則を満たしている。
また、呼吸で取り込んだ酸素の一部は活性酸素(車の排気ガス)となって細胞を傷つける。放射線、喫煙、アルコール、虚血・再潅流も活性酸素を発生させるので、体によくない。このほかに精神的ストレスも活性酸素をつくる。過剰な活性酸素は体をさびつかせる働きがある。
活性酸素は遺伝子(DNA)を傷つけ、タンパク質や脂質を酸化させ、酵素を失活させる。
しかし、ヒトには抗酸化物質や抗酸化タンパクを作る力がある。また、さびを修復する力がある。これらがうまく働かないと、ガン化したり、細胞数が減少したりする。活性酸素には、細菌やウイルスを殺す働きもあるので必要だが、過剰な活性酸素は有害。
抗酸化作用を発揮するだけでなく、抗酸化物質合成やサビの修復にもコエンザイムQ10は貢献する。
DNAには毎日、一つの細胞あたり10万か所の傷がつく。そのほとんどが修復されるが、100%ではない。「DNAが傷つく」、「不完全修復」の状態が繰り返され、長く続くとガン化する。年をとれば怪我が治りにくくなったり、皮膚が老化したり、DNAの傷の蓄積による負のスパイラルは生まれたときから始まっている。
例えば、ウエルナー症候群(早老症)という病気の原因のひとつは、DNAリカーゼ酵素タンパクをつくる遺伝子の異常。この患者さんはDNA修復能力が遺伝的に低下している。
活性酸素と戦う力を補強するには、十分な抗酸化物質を摂取することが必要で、そのためにはバランスのとれた食事が大事。そのため、現在、野菜は350g、果物は200g、毎日とることが奨められている。三大栄養素であるタンパク質、脂質、糖質に、ビタミンとミネラル、植物繊維、ファイトケミカルが加わって7大栄養素と言われている。ポリフェノール、フラボノイドなどの抗酸化物質は代表的なファイトケミカルである。ブロッコリーは多くの抗酸化物質を含む抗酸化野菜のひとつ。
 
ミトコンドリアを増やす
ATPをつくる工場であるミトコンドリアを増やす必要がある。これには適度な運動が必要。適度とは、少し強めの有酸素運動。30秒早足で歩いて、脈が整うまで歩く。よい姿勢をとる、スクワットをする、社交ダンスなどがある。お腹をすかせること(だらだら食べない)。
 
腹八分目
これらは長寿遺伝子の活性化に影響する。すなわちアンチエイジング。これがわかったのは最近の事。
運動がアンチエイジングに良いことの例として、台湾での416,275人の調査で、運動しない人より、した人の方が死亡リスクが14%減。寿命が3年延びていることが分かった。
ロコモティブ・シンドローム(骨、関節、軟骨、椎間板に障害がおきる)で転倒骨折すると、認知症発症のきっかけになる。適度な運動で「ロコモ」を予防することが大切。
基礎代謝(体温維持、呼吸、心臓の脈動に必要なエネルギー)は青年期以降、低下する。栄養過多は内臓脂肪や皮下脂肪になる。原生動物からラットまでの実験で、カロリー制限により寿命が延びることがわかっている。
2009年にはアカゲザル(メス30頭、オス46頭)で3割のカロリーを減らして20年観察した結果、老化抑制が確認された(アメリカ)。
カロリー制限は栄養士の指導などを受けないと骨密度も下がるので要注意。運動で減量すると骨密度は下がらない。


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会場風景2 希望者にはお土産

歴史ヒストリア(NHKのTV番組)から
○徳川家康
関ヶ原で勝っても、敵方の大名が多数生き残っており不安であった当時の平均寿命は34歳であり、戦をしなくても、自分が健康で長生きすれば彼らは勝手に死んでいき、徳川幕府は安泰となる。鷹狩りで体を鍛え、秘薬を開発して服用、熱海の温泉でリフレッシュして、努力して75歳の長寿を得た。
○水戸光圀
 家康の孫  73歳の長寿。
「大日本史」の完成に貢献した。これを作るためには全国行脚が必要で健康づくりに注力した。中国思想をとりいれてタンパク質、カルシウムのあるミルク類を摂取し、漢方も利用した。
○貝原益軒
養生訓を書いた。39歳の時に22歳の嫁、東軒(とうけん)と結婚。病弱な嫁と自分の長寿のために、薬草の研究、独自の健康法を開発した。東軒は63歳、益軒は85歳まで生きた。腹八分目を実践。
 
コエンザイムQ10
コエンザイムQ10はエネルギー生産に必須。加齢、喫煙、コレステロール低下薬(スタチン)の服用、病気(うつ、心筋症、乳がんなど)、特定の遺伝子の異常でもコエンザイムQ10は減少する。体内のコエンザイムQ10は20歳をピークに減少する。加齢で、心臓のコエンザイムQ10は40%まで、腎臓では60%まで低下する。心臓は1日に10万回拍動する。腎臓は170ℓの原尿をつくり、1.7ℓに減量させる。心臓と腎臓の作業量はとても大きい。これらの臓器中のコエンザイムQ10含量が多いのはこのような重労働に必要な多量のエネールギーをつくるため。
喫煙で血液中のコエンザイムQ10は2分の1から3分の1になる。うつ病患者では血液中(白血球)のコエンザイムQ10及びATP(エネルギー)が健康な人の半分にさがる。脳のATPが減るとバランスのよい思考ができなくなり、悪循環。
コレステロールは食事からとり、体内でも合成される。ホルモンや細胞膜形成に重要。コレステロールを下げる薬である「スタチン」はコレステロール合成経路の上流にある酵素の働きを抑制する。この経路の下流にあるコエンザイムQ10の合成も妨げられる。
最近のコホート研究では、コエンザイムQ10の血中濃度が低い人のほうが認知症発症のリスクが高いらしい。まだ、第一報がでたところ。
 
還元型コエンザイムQ10
コエンザイムQ10には酸化型(うっ血性心不全の薬であるノイキノン。安全だが服用量が少ないので効かないと臨床医では知られている)と還元型(抗酸化活性の本体)の2種類がある。
人体でつくられるのは還元型。健康な人の血液では還元型が98%を占める。酸化型は体内で還元型にしてから利用される。還元型で摂取したほうが、還元型にするエネルギーが節約できる。還元型についてヒトへの有用性が実証されている。ドーパミンを服用しているパーキンソン患者では還元型コエンザイムQ10で病態の進行が抑制された。
予防的にコエンザイムQ10を与えたネズミでは気道内のインフルエンザウイルス数が、コントロールの25%だった(タミフルは感染後に効く)。
進行したうっ血性心不全患者が既存の治療に加えて、還元型コエンザイムQ10を摂取することで、要介護のグレード4(ねたきり)から3(すわっていられる)に改善され、さらに1(歩いて帰れる)になった人もいる(アメリカの事例)。心筋症ではミトコンドリア機能が低下しATP合成が低下。さらにアポトーシスで心筋細胞数が減少還元型を服用すると、残存している心筋細胞が活性化。血管の内皮機能も向上。
ドライマウス(加齢で唾液分泌が減り、誤嚥が起こりやすくなる)ではコエンザイムQ10で唾液分泌量がふえる。
片頭痛患者の中にはミトコンドリアの能力向上でよくなる患者もいるらしい。

まとめ
若さと健康には元気の源であるミトコンドリアを増やすことが大事。その対策として運動、腹八分目、還元型コエンザイムQ10の摂取は健康なうちから始めてもらいたい。
還元型コエザイムQ10が足りないと、細胞は薬やサプリメントを活用できない。コエンザイムQ10は細胞の健康にとって基礎となる素材。全ての細胞を元気にしてサプリメントや薬の効果を内蔵、肌、筋肉に現れやすくする。高血圧、糖尿病、心不全の方は医師と相談して利用してください。


話し合い 
  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 食品には食べても効果がないものもあるといわれていますが、コエンザイムQ10はどのように摂取したらいいのか → コエンザイムQ10は脂溶性なので、食後に摂取してください。空っ腹では吸収がよくありません。
    • コエンザイムQ10はどのくらい吸収されるのか → 人によって違うと思う。体内のコエンザイムQ10不足の程度は生活習慣や遺伝子にも関係があることがわかってきている。これからは子どもときの遺伝子検査でコエンザイムQ10をつくる能力が低いと分かれば、小さいころから摂取を勧められるようになるかもしれない。
    • コエンザイムQ10は何からつくっているのか → 酵母を用いた発酵法でつくっています。