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バイオカフェ「科学的に考える〜賢いワインの選び方」

 2015年1月9日、くらしとバイオプラザ21事務所でバイオカフェを開きました。お話は明治大学農学部 教授中島春紫さんの「科学的に考える〜賢いワインの選び方」でした。予算2,000円以内で失敗しないようにワインを選ぶという、庶民の味方のお話でした。さらに2,000円以下のワイン10種類を飲み比べてみるという演習付きで、参加者全員、大変に盛り上がりました。

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中島春紫先生のお話 10種類のワインの試飲

お話の主な内容

はじめに
乳脂肪摂取量と虚血性心疾患の死亡者数は大体比例しているが、国ごとに比べるとフランスだけが死亡者数が少ない。これはフランス人が好きな赤ワインに含まれるポリフェノールのせいではないかという仮説が立てられた。これを「フレンチパラドックス」という。
清水健一さんは私の大学時代の先輩で、協和発酵に入社し、ワインの著書「ソムリエの知らないワインの話」を書かれている。年間500本のワインをのんでいるという。私のワインの知識はこの本によるところが多い。
 
お酒のでき方
糖はアルコールになる。麦、米などの穀物の場合は、デンプンを糖にしてからアルコールにする。また分子量でみると、分子量180の糖が分子量46のアルコール2分子になる。できるアルコール濃度は糖の濃度の約半分になる。
ワインの場合、ブドウの果糖はそのままアルコールになる。これを「単発酵」という。
麦のデンプンは発芽して麦芽になったときにできるアミラーゼによって糖化されて麦汁になる。これに酵母が働いてビールになる。これを「単行複発酵」という。
蒸し米が、麹菌がつくるアミラーゼで糖化される。麹菌が死んでもアミラーゼは働き続けて糖化工程は継続する。同時に糖に酵母が働いてアルコールになるので、これを「並行複発酵」という。
 
ブドウの栽培
ワインはブドウの果糖がアルコールになるので、ブドウの品質が8割効いている。だから、ブドウを栽培する土地が大事になってくる。
ブドウの根は酸素を要求するので、砂地などの水はけのいい土地がよい。また糖の多いブドウの実は雨にあたるとはじけてしまうので、日本のように雨の多い気候はワイン向けのブドウ栽培には向かない。
火山国である日本で、火山灰に有機物がつくと、良い土壌となり保湿性が高まる。けれど、これはブドウには向かない。
それで日本のブドウには糖分が足りないので、「補糖」が必要になる。
欧州では、150年前にブドウの木が全滅し、アメリカのブドウが入った。今でも台木の多くはアメリカ産。
 
ブドウの品種
ワインの味は使うブドウで決まってしまうので、私はブドウの種類と味を覚えておくのがいいと勧めている。
・カベルネソービニオン:ボルドーなど世界各地で栽培される。カシスの香りで重厚な味わい。赤ワイン。
・ピノ・ノワール:ブルゴーニュ地方が多い。ラズベリーの香りでしなやかな味わい。赤ワイン。
・シャルドネ:ブルゴーニュ地方など世界各地。独特の芳香。バランスがよい。白ワイン。
・リースリング:ドイツワインの原料。フルーティな香り、甘口にも辛口にもよい。緑色。
 
ワインの作り方
白ワインは、緑色のブドウ果汁だけ(くき、種、皮を除いて)に亜硫酸を加えてつくる。以前は樽に硫黄を入れて火をつけて亜硫酸ガスで樽をいぶしてから使っていた。亜硫酸がないと、とても酸っぱくなってしまう。
赤ワインは、くきだけ除いて皮と種も入れてつくる。白ワインとの一番の違いは樽熟成をすること。
白ワインと赤ワインの甘みは、ともに果糖。
白ワインの酸味は酒石酸とリンゴ酸。赤ワインの酸味は酒石酸と乳酸(リンゴ酸が樽の中で変わる)。リンゴ酸はカルボシキル基が2つあって酸っぱいが、乳酸は1つだから酸っぱさが弱くなる。これをマロラクティック発酵という。
赤ワインだけに含まれる渋みは、皮の成分から出てくるタンニン、ポリフェノールによる。
白ワインは辛口と甘口に分けるが、赤ワインは軽口と重口に分ける。
よくないのは、渋くて酸っぱい赤ワイン。また、重くて渋い赤ワインは高い。
温度で影響される味覚は甘味で、温かいと甘味が増す。渋みは低温の方が効いてくる。
白ワインはリンゴ酸で酸っぱいので、糖が残してあり、低温で甘味を抑えた方がすっきり飲むことができる。リンゴ酸は清涼飲料にも使われていて、清涼飲料も同じ理由で冷やして飲む。
 
国による分類
○ドイツのワイン
ドイツはブドウ栽培の北限。ブドウが栽培できない気候では、ビール作りに向いている。
赤ワイン向けブドウの方が白ワイン向けブドウより北限が低いので、ドイツはリースリング種を用いた甘い白ワインがよい。国が等級をつけている。シュペートレーゼとアウスレーゼは真ん中くらいの等級だが、シュペートレーゼが1300円、アウスレーゼが1500円なら買ってみてください。
ドイツではアイスワインをつくる。木になったままのブドウが凍り、氷が落ちた時に水分が抜けて自然の干しブドウになっていれば、糖度があがっており、これでアイスワインをつくる。ドイツはこうして甘味を求めている。
ドイツのボトルはなで肩。茶色の瓶はラインガウ。その内のマドンナはまろやかな甘口。
緑の瓶のモーゼルはフルーティで甘口の白ワイン。
シュバルツ・カッツという黒猫の絵がついた白ワインがある。猫が小さく描かれているほど高級品。白ワインの甘口の代表格。
○フランスワイン
大西洋側にボルドー地方がある。北部は赤ワイン向きのブドウ栽培は難しい。
AOCという原産地呼称統制があり、生産地域の範囲が狭くなるほど高級になる。
ボルドーのボトルは肩が張っている。なで肩のボトルはブルゴーニュ。
白ワインをつくるピノ・ノワールは根が最も酸素を要求する品種で栽培地を選び、ブルゴーニュが適している。
シャブリは辛口白ワインの代表。シャブリは1000円ではあたりは難しく、1500円は出してください。
ボルドー地方ではカベルネソービニオンとメルローのブレンドというが、実態は畑に混在しているのではないかと私は思っている。
ボージョレー地方はブルゴーニュの南。ピノ・ノワールが栽培できない地域で、ガメイ種を栽培する。ガメイ種は熟成しないので安いワインになる。そこで、ボージョレー・ヌーボーとして、11月第3木曜日に新しいワインを解禁するという商業戦略を始めた。このアイディアは巧み。ボージョレー・ビラージュという2-3年熟成したもの(1600円くらい)を私はお勧めする。
シャンペンはシャンパーニュ地方のドン・ペリニヨン神父が開発した。瓶詰めしたワインに糖を加えて瓶内二次発酵を行う。二次発酵が進むと糖が分解して、半分がエタノール、半分は二酸化炭素になる。ここで瓶を逆さにして凍らせて、ふたをとり、凍った滓を削りとって、栓を打ち直す。このために水面の高さがそろわないので、瓶の肩まで金紙で巻く。
○イタリアのワイン
軽いワインが多い。1000円-1200円で、はずすことはないので初心者向け。
キアンティはサンジョベーゼというブドウでつくる。キアンティクラシコ 2500円以上出してください。軽い口当たり。
○スペイン
世界でも最も売れているマテウス・ロゼはスペイン産。少し泡がでてのみやすい。ボトルの横幅が広く、値段もそんなに高いことはなくコストパフォーマンスがいい。利益が薄いのか生産数が少ないようで、あまり売っていない。マテウス・ロゼを見つけたら、買ってください。
○日本のワイン
日本は土壌も気候もブドウ栽培に向いていないが、世界的にいい評価をうけている。この技術はすごいことだと思う。
 
豆知識(おいしい温度)
ワイングラスは脚が長い。これは体温でワインが温まらないようにするため。脚を持つのがマナー。
3000-5000円以上の赤ワインは15-20度でのむと、渋みが抑えられ、香りが立つ。1000円の赤ワインは冷やしたほうがいいでしょう。
ウィスキーは40度だから氷水でうすめる。けれどブランデーは40度で香りを楽しむものだから、氷を入れてはだめ。
乳酸を含む紹興酒は、酸味が柔らかいので温めた方がおいしい。
 
まとめ
世界の五大ウイスキーはスコッチ(スモーキーな風味)、アイリッシュ、カナディアンウイスキー、バーボンに日本のウイスキー(スコッチ風)。日本のウイスキーもワインも本場に追いついた!!といえる。
残念ながら、日本ワインには安くて掘り出し物は少ない、値段で信頼できるといえる。
ワインはブドウで決まるので、ブドウで味を覚えて、自分のお気に入りを決めてはどうでしょうか。


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ワインの開け方 試飲したワインの答え合わせ

話し合い 
  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • シラーが一番おいしかったのですが → シラーは赤ワインで色が濃く重い。アメリカ、オーストラリア、タスマニア、南アフリカで栽培。赤ワインでいうと、カベルネソービニオンも温暖な気候を好み、皮が厚く重い。ブレンドすることが多く(たぶん混植されているのだろう)、余り土地を選ばない。メルロー種も代表的赤ワインで、朱色がかっている。タンニンは強くない。日本の気候にもあっていて、日本産はメルロー種がいいと思う。
    • 熟成とは → 高級なほど、長期に熟成する(5年で熟成に達する)。ワインは高温に弱いので、赤道を越えると劣化する。コンテナの船底に積む方が海水で冷やされるので高い。
    • 当たりと外れとは → 基本は好み。高級ワインの外れの方が安ワインの当たりを見つけるよりいいと思う。
    • お店で一番安いワインはどうか → 玉石混交だが、玉は増えている。また外したら、自己責任。400円くらいのワインやペットボトルのワインではまず、当たりはないでしょう。
    • 貴腐ワインとは → 灰色のカビに感染して樹になったまま糖度が上がったものを使う。フランスのソーテルヌ、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ、ハンガリーのトカイが世界の三大貴腐ワイン。

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    試飲したワインのリスト(予算15000円で10本購入しておつりがありました)