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「教員・一般市民向けバイオ実験教室」レポート

 2014年8月21日、東京テクニカルカレッジにて同校と共催で標記実験教室を開きました(協力 日本モンサント株式会社)。遺伝子組換え作物・食品の利用の現状、食品としての安全性審査、作物の環境影響評価、食品表示にルールなどの説明の後、除草剤耐性遺伝子組換えダイズと、そうでないダイズのタンパク質検知実験(ストリップテスト)を体験し、その原理を学びました。

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三上校長のウエルカムスピーチ 大藤先生のお話

タンパク質検知実験

遺伝子組換え除草剤耐性ダイズとそうでないダイズ10gをそれぞれコーヒーミルで粉末にし、タンパク質抽出液と混合し*て放置すると抽出されたダイズのタンパク質が上澄みに集まります。この上澄み液に試験紙を浸します。それぞれに、ピンクのライン2本、または1本現れたら2種類のダイズのタンパク質の違いを見つけられたことになります。両方がコンタミネーションしないように、実験室の端と端で、コーヒーミルは専用のものを用い、カバーをかけて粉砕しました。


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遺伝子組換えダイズを粉砕する タンパク抽出液を泡立たないように注意しつつ混ぜる
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抽出液と取り出す 試験紙を浸す。2本のラインが出ているのは組換えダイズ

講義「イムノクロマト法によるダイズからの組換えタンパク質の検出」
          東京テクニカルカレッジ 大藤道衛博士

免疫とは
病原体が体内に入ってくると(抗原と呼ぶ)貪食細胞(マクロファージ)が病原菌を食べる。病原体を食べたことを提示する細胞もあり、これに刺激されてB細胞は抗体を作る細胞(抗体産生細胞)に変化する。抗原と抗体の関係はとても特異的で、決まったもの同士だけが反応する。例えば、HIV(ヒト後天性免疫不全ウイルス)の抗原(タンパク質)に対してHIV抗体ができる。しかし、検査で検出できるくらいのHIV抗体ができるには感染から3か月くらいかかる。
抗体はY字型をしていて、分子量は16万くらい。タンパク質のアルブミンが6万だから、これはとても大きい。
Y字の頭の部分は可変部(やってきた抗原に対応して変化する)で、足の部分は定常部位で不変。
例えば、ネズミに除草剤耐性ダイズのタンパク質を注射すると、抗体ができる。抗体には抗原のタンパク質を立体で認識するものと、アミノ酸配列を認識するものがある。今日、使う試験紙の抗体は熱処理したタンパク質を検出するので、アミノ酸配列を認識する抗体が使われている。
 
試薬としての抗体
抗体は特異的に抗原であるタンパク質と結合するので、微量のタンパク質を見つけるのに使って定量的、定性的に調べることができる(免疫化学的手法)。
○ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法
酵素と基質(酵素が特異的に分解する物質)の関係を使って、物質の有無(スクリーニング)を簡便に調べる。多数検体の処理が可能。これは一次検査。
医療分野で、ウイルスやホルモンの検出、腫瘍マーカーで利用されている。感度がいい自動分析機器もでている。食品分野(遺伝子組換え食品の検出、BSEの検査など)や基礎研究(特定タンパク質の検出)でも使われている。
○ウエスタンブロッティング(Western Blotting WB)法
タンパク質を電気泳動で分離しておいて、抗体と特異的に結びつくタンパク質を確定する。これは二次検査。多数検体処理は難しい。
例えば、BSEでは初めELISAでスクリーニングし、WB法で2次検査(確定検査)を行った。ELISAは偽陽性がありうるので、2次検査でBSEでなかったというケースも出てきた。
 
遺伝子組換え食品表示の根拠
定性的では特定のタンパク質の有無を調べる。イムノクロマト法やDNA検知定性PCR(特定のDNA断片を増幅される)を使う。定量的手法では、ELISA法やDNA検知定量PCRを用いる。
PCRでは、導入された目的遺伝子の前後にある、反応を進める「プローモーター」、反応をやめる「ターミネーター」も増幅させる。
イムノクロマト法による組換え(GM)タンパク質の検出
今日の実験で使う試験紙の構造は、溶液につける部分にコンジュゲ―ションパッドがある。ここから毛細管現象でタンパク質を含む溶液が上っていく。
コンジュゲーションパッドの中には、GMタンパク質からつくった抗原に結びつく大量の標識抗体があり、これにはナノサイズの金が着付けてある。GMタンパク質が溶液に入っていると、抗原と結びついた標識抗体は抗原であるGMタンパク質と結びつくニトロセルロース膜上の抗体に結合し、1本目のラインになる。GMタンパク質が含まれていないと、標識抗体はこの抗体をすり抜けて上っていく。次に2次抗体があり、標識抗体と結合し、2本目のラインになる。2本のラインだとGMで1本だとノンGMとなる。
 
表面プラズモン共鳴
標識抗体についている金はナノ粒子。金の表面に光をあてると、赤と緑を反射して、青を吸収するので金色に見えるが、ナノ粒子だとその表面に多数の電子があるので、緑、青が吸収され赤のみが反射するので赤く見える。
この試験紙では、金のナノ粒子が集まったところでピンクのラインが見えるのは、この現象「表面プラズモン共鳴」が起こっているから。
この技術は古く、金コロイドはノートルダム寺院のステンドグラスの赤色部分にも使われている。
この試験紙には、表面プラズモン共鳴と抗原抗体反応という先端の科学技術が使われているので、高価でも納得できると私は思います。みなさんはいかがですか。
抗原となるタンパク質
EPSPS(5エノールピルビルシキミ酸 3リン酸合成酵素)は、すべての植物が持っている代謝経路(ヒトや動物にはない)を回すために働く大事な酵素。モンサント社の除草剤ラウンドアップはEPSPSを合成できなくすることで植物を枯らすので、道路わきの雑草駆除などに世界中で使われている。
土壌細菌が持っているEPSPSに似た酵素CP4EPSPSをつくる遺伝子をダイズに導入し、この酵素を植物体内でつくらせておくと、GMダイズはラウンドアップを散布されても、CP4EPSPSを使って大事な代謝経路を働かせることができてGMダイズは枯れない。
標的とする雑草にだけ効く除草剤と同じ考え方でヒトのガン細胞だけを攻撃する分子標的薬もある。
 
遺伝子組換えパパイヤ
日本で表示の対象になっていて食べられる遺伝子組換え作物は、ウイルス耐性遺伝子組換えパパイヤだけ。ハワイのパパイヤはリングスポットウイルスで壊滅的な被害を受けたが、ハワイ大学ゴンザルベス博士の研究成果でリングスポットウイルスのタンパク質の一部を植物体内で作らせることによって、このウイルスに強くなったパパイヤが誕生し、V字回復を遂げている。


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ダイズやトウモロコシからDNAの粗抽出を行う エタノールを注ぐ
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向かって左から、ダイズ、トウモロコシ、
バナナのDNAを粗抽出したもの
海外の生物の教科書の展示(大藤先生のコレクション)
 

この後、バナナ、イースト、トリひき肉、ブロッコリー、トウモロコシからのDNA粗抽出を行ったり、茶話会ではウイルス耐性遺伝子組換えパパイヤ「レインボー」を試食したりして、集まった人たちみんなで意見交換をしました。

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参加者のみなさん 茶話会風景