2014年6月13日、茅場町サン茶房でバイオカフェを開きました。お話はサイエンスライター 佐藤成美さんによる「おいしいウナギをカガクする」でした。はじめに佐野理恵さんによるフルートの演奏がありました。ウナギをテーマにした曲は見つからなかったそうで、たった4つの音から成るツルツルと長いテーマとその変奏曲が、楽しい解説つきで演奏されました。
佐野理恵さんの演奏 | 佐藤成美さんのお話 |
大学院のときに、ウナギを研究することになった。やってみると興味深い魚で地下室の水槽で飼育していた。ウナギは、今でも生態や性質に謎の多い魚で、何か発見されると新聞にも取り上げられることが多い。
ウナギは魚か
18世紀まで欧州ではウナギは魚でないと思われていた。魚は背骨、顎、ひれ、えらがあるものと分類されている。ウナギにもひれはあるが、胸びれが前の方にあり、体が細長いので蛇などの仲間だと思われてしまった。
私たちが食べているニホンウナギの学名はAnguilla japonica(アンギラジャポニカ)。世界のウナギでわかっているものは19種。インドネシア近辺にいろいろなウナギが分布することから、この近辺の海域で祖先が生まれたようだ。インドネシア近海に残ったグループ、アメリカウナギ、ヨーロッパウナギ、アフリカウナギ、オーストラリアウナギが主な種類。近年、新種もみつかり、これからも新種が発見されるかもしれない。
2009年にパラオでみつかった「ムカシウナギ」は、2億年前にほかのウナギと分化した原始的なウナギで、新たにムカシウナギ科がつくられた。これは体長が短い。一方、ウナギは内臓が前の方にまとまっていて、体が長い。体中の筋肉を使ってクネクネ泳ぐ。進化の過程で、ウナギは筋肉を使って泳ぐために体が長くなったのかもしれない。水槽のウナギは昼間はあまり動かないが、夜になると活発に泳ぐ。水槽の壁をのぼって隙間から出てしまうほど活発だった。
ウナギの仲間には、ハモ、ウツボ、アナゴなどがいる。ウナギにはウロコがあるが、アナゴにはないなどの特徴がある。また、ヤツメウナギは、口がまるくて顎がなく、餌を吸う「無顎類(円口類)」に分類され、魚類ではない。したがって、名前にウナギがついていてもウナギの仲間ではない。
生態
ウナギは、回遊魚で、海水と淡水と行き来する(一生淡水で過ごす種類もいる)。そのため、ウナギは海水と淡水に適用するための仕組みをもっている。
ウナギは産卵のために海に下り、産まれた卵が孵化し、レプトケファルスという仔魚になる。レプトケファルスが変態してシラスウナギとよばれる稚魚になると海から川に上り、そこで育って成魚となる。成魚になるまでに7-8年かかる。親ウナギとなると、川から海に下る。養殖ウナギや川のウナギがその場で成熟、産卵したことはなく、産卵や孵化が観察されたことはなかった。そのため、ウナギの生態は長く謎に包まれていた。
東京大学の塚本勝巳教授らの研究グループは毎年生態調査を行い、ウナギの産卵場所を探しておられていたが、2009年についに卵をもったメスを発見し、ウナギの産卵場所がマリアナ諸島あたりとつきとめた。
2008年には、水産総合研究センターの研究グループがウナギの完全養殖に成功した。ウナギの養殖は、シラスウナギ(海からとってくる)に餌をやって大きく育てているもので、卵からかえしているわけではない。ウナギはストレスに弱く、環境が変わると餌を食べずに卵もうまなくなる。養殖するにもわからないことだらけだった。
ウナギに卵を産ませることができたのは、サケの脳下垂体から取り出したホルモンを注射するとウナギが成熟することがわかったからだ。しかし、卵を孵化させることはできても、エサなど仔魚の飼育条件がわからず、育てることできなかった。仔魚がサメの卵(幼魚用の餌)を食べることがわかり、これをきっかけにウナギを成魚まで育てることにつながった。養殖の研究が始まってから40年かかった。
ウナギのなぜ?
○ウナギの体のヌルヌルはなぜあるのか
体表をまもり、水分を保つために、体の表面を粘液で覆っている。細菌などの侵入を防いだり、外部環境から身を守るため、粘液を出す。粘液には生体防御の物質を含んでいる。
○食べているウナギの7割はオス
ウナギには養殖するとオスばかりになる。この理由はわからないが、遺伝的な性よりも環境によって性が決まるのではないかと考えられている。
○おいしさの秘密
天然ウナギは養殖ウナギに比べるとあっさりしている。養殖ウナギは200gくらいの大きさのものがおいしく、大きくなりすぎると味が落ちる。油がのっておいしいのは餌による。栄養豊富で夏バテに効くというが、ビタミンAやビタミンEなどのビタミン類は豊富に含まれている。ウナギのおいしさはたれや油が一体となった風味にある。
○どうして丑の日にたべるのか
夏バテによいといったのは、平賀源内といわれる。夏場にウナギが売れない悩みを相談された平賀源内が、丑の日に「う」のつく食べ物であるウナギを食べると夏バテしないと宣伝するように助言したとか。7〜8世紀ごろの万葉の時代にすでにウナギは食べられていたが、広まったのは江戸時代。
○なぜ、刺身がないのか
うなぎは生で食べてはいけない。ウナギの血液にはイクチオトキシン(イクシオトキシンともいう)、粘液にはレクチンという毒が含まれている。どちらも火を通せば食べても大丈夫。
○日本では世界中のウナギが食べられている
日本人はウナギが好きで、世界中のウナギを食べている。海外では、日本人ほどウナギを食べない。老舗のウナギ屋であればニホンウナギかもしれないが、スーパーマーケットなどで売られている輸入ウナギはヨーロッパウナギなどが多い。日本にいてもニホンウナギにあえる可能性は高くないかもしれない。
○ニホンウナギが絶滅危惧種に
ニホンウナギが、IUCN(国際自然保護連合)「レッドリスト」の絶滅危惧種1Bに指定された。1Bとは、近い将来に絶滅の危険性が高いという分類。食べてはいけないということではないが、これからはウナギの資源保護についてもっと考えなくてはならない。
ウナギの国内漁獲量は60年を境に減少した。その原因として、高度成長期のころの護岸工事などの環境破壊、乱獲、エルニーニョ現象による気候変動などが考えられているが、日本人の乱獲の影響は大きいと思う。ウナギの完全養殖に期待する。大量に養殖できるようになり、コストが下げられたら、食用になるかもしれない。
「ウナギは魚か」 | 会場風景 |
ツルツルの曲の選曲で思わず笑い |
- 天然うなぎはどこで食べられるか → 牛久沼のそばで食べたことがある。冬場の海でウナギがとれることはある。
- うなぎの血液に毒があるというが、アナゴもあるのか → アナゴにも同じ毒があります。
- 江戸時代に出雲のうなぎが人気だったときいたが、日本海側にいたのか → 川由来だろうと思う。
- ニホンウナギと他のウナギでは味に違いがあるのか → 実際に食べ比べたことはないが、インドネシアウナギ、ヨーロッパウナギ、老舗のニホンウナギを食べ比べたが、違いはわからなかったという記事を読んだことがある。
- なぜ、完全養殖まで時間がかかったのは → 産卵や孵化させることはできたが、餌がわからず仔魚を育てることができなかった。
- ウナギはどのくらい卵を産むのか → ホルモンを投与して成熟させたウナギでは数万〜数十万粒もの卵を産んだ。実験室で、メスを成熟させ卵を産ませるときにはサケのホルモン、オスを成熟させるときには、ヒト由来のホルモンを使った。卵を集めて、精液をしぼって、人工受精させた。
- 研究用のウナギはどうやって入手するのか → メスのウナギを入手するのが難しかった。自分のころは、①愛知県水産試験場で実験用メス化ウナギをわけてもらった、②ウナギ問屋で購入、③海に下るウナギが網にかかることがあるので、漁師に頼んでおいて分けてもらう。
- ニホンウナギの産卵場所はどうして特定できたのか → マリアナ海溝のあたりだと思われていたが、何十年にもわたる調査やいろんなデータ(海流やレプトセファルスの耳石の解析など)から、確かめられた。