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サイエンスカフェみたか「身近な草花のヒミツ〜春の雑草を楽しむために」

 2014年4月10日、三鷹ネットワーク大学でサイエンスカフェみたかを開きました。
お話は保谷彰彦さんによる「身近な草花のヒミツ〜春の雑草を楽しむために」でした。保谷さんの“タンポポ愛”のあふれるお話に、笑顔いっぱいのひとときでした。

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タンポポへの愛情あふれる保谷彰彦さんのお話

主なお話の内容

 2000年からタンポポの研究を始め、今年は長年の夢であった「草花の本」ができた。
地球上には被子植物(進化した種類)が25万種、日本には5000種、そこに外来種1300種が加わる。草花のことを知ると、散歩が楽しくなるという利点がある。島国の日本と異なり、地続きの国では外来種の定義も難しい。
雑草の定義は明確ではないが、野草は野外でひとりで育ち、作物は人が育てる。雑草はその間にあって、人のそばにいる。しかし、境界には重なっている部分もあり、ゆるい分類となっている。
 
雑草の生える環境

  1. なぜ、過酷な環境である市街地にはえるのか
    市街地はコンクリートが多く、過酷な環境だが、コンクリートの隙間に生えると独り勝ちで競争が少ない利点がある。
    1979年、グライムは、ストレスの強さとかく乱の度合いで植物を整理した。光合成で得られた限られたエネルギーをどのように配分するかという視点で、彼は、ストレスとかく乱が弱ければ、みんな生存しやすいので、競争に強い植物が生き残る。極相林(時間とともに変化する植物相がそれ以上は変化しない状況の林)で勝ち残るシラビソ、ブナなど。
    海岸沿い(砂地、塩水、光が強い)などのストレスの強い所では、植物の葉が厚くなったり、毛が生えたり、ワックスで紫外線をさえぎったりする。例)ハマグルマ、ボタンフウキ。高山(岩場で水がない。紫外線が強く、低温で風も強い)も葉が厚くなり、成長がゆっくりになる。例)イワギキョウ、シコタンソウ、イワベンケイ、コマクサ。コマクサは人気があるが、人がそばまで近づくと根が切断されてしまう。
      農家が行う除草は定期的なかく乱。かく乱には強さ、速度があるので、かく乱にうまく入りこむと競争相手が少ない。例)タンポポ、エノコログサ
  2.  
  3. 市街地に生える植物
    雑草の特徴は
    • 1年サイクル
      マメグンバイナズナの場合は、秋に生えて冬はロゼットでこし、夏前に種を落とす。冬をロゼットや種子でこすのは進化した植物の生き方。反対に、カタクリは1枚葉で7年過ごし、ゆっくりと成長し、花をつけるまでに8年ほどかかる。
    • 送粉昆虫なしで生きられる
      ツユクサは餌用花粉のおしべと授粉用花粉のおしべがある。1日だけ咲く花を閉じるとき、おしべとめしべはくるくる巻いて自家受粉するので、虫が来なくても種子を残せる。ツユクサの蕾には4つの花があり、そのうちめしべのあるのとないのが混在していて、日をずらしてひとつずつ、花が咲く。
      キキョウソウ(ダンダンギキョウ)は高さ30-40センチの植物で、閉鎖花といって自家受粉する、開かない花をつける。
      ホトケノザは根で広がると群落をつくる。開く花と閉じた花があり、閉じた花は自家受粉する。複数の花が時間差で咲く。
    • 遠くにいく
      タンポポは風で綿毛が飛び、コセンダングサ(ひっつきむし)は動物の体にくっついてライバルの少ない遠くに行く。
    • 雑草のまとめ
      雑草は競争が少ない環境で、かく乱の間をかいくぐって、生きている(山崩れや川の氾濫で子孫を広める)。
      市街地で訪花昆虫が少ない時は自家受粉でがんばる。
      雑草は(日照を奪われる)山の中には生えない。
    •  
  4. タンポポ
    タンポポは葉をライオンの歯に見立てて、dandelionと呼ばれる。
    槍を包む「たんぽ」の形に穂がついてタンポポとか、田に生える菜(田菜)に穂ができるからたんぽぽなど、名前の由来には諸説がある。
    タンポポの多産地は北半球の涼しい所。主な多産地は、アラスカ、アイスランド、スカンジナビア、ヒマラヤ、日本で、現在では20種類に整理されている。
    日本には里山に生えるタンポポとして、たとえば、シナノタンポポ(中部と新潟)、カントウタンポポ(関東、東海)、カンサイタンポポ(関西)などがあるが、その境界はあいまい。頭花といわれる花の集まった部分を包む「総苞片(そうほうへん)」といわれる部分の形で分類するが、中間体も多い。
    タンポポはキク科。キク科の花は小花が集まっていて、舌状花と筒状花という、二つの形の花がある。タンポポは舌状花だけで外から内に向かって咲き進む。ひまわりには両方ある。
    サラダの材料としてセイヨウタンポポがはいってきた。全国の800個体のセイヨウタンポポらしいものを遺伝子で調べたら、日本のタンポポとセイヨウタンポポの雑種がその8割という研究報告がある。私が世田谷の約300個体の遺伝子を調べた場合、95%が雑種でセイヨウタンポポは5-6個体だった。
    タンポポは、総苞片の形で見分ける。日本のたんぽぽはそうほうへんが花びらに寄り添っていて里山に多い。
    セイヨウタンポポは花粉が多く、そうほうへんがそりかえっている。そりかえっているのに花粉がないのが雑種(おしべはある)。他家受粉せずに種を残し、2000種類のクローンがある。
  5.  
    話し合い(○は参加者、→ はスピーカーの発言)
    • やがてはすべてが雑種になってしまうのだろうか → 里山が残されていれば、そこに日本のタンポポは残ると思う。
    • 雑種タンポポには、総苞片のそり方が強いものと弱いものがあるのか→そりかえりの穏やかな雑種には花粉をつけるものがある。雑種は授粉せずに単為生殖で増える。
    • 一般に他の花の花粉で受精する植物は2倍体といって染色体を2セットもつ。これらの花粉の大きさはそろっている。単為生殖するタンポポは3-8倍体で花粉の大きさも異なる。2倍体はヒトと一緒で染色体を2セット(両親からもらう)持っている。
      3-8倍体は自分で種をつくる。セイヨウタンポポは3倍体。
    • 在来タンポポは近くに仲間がいて、訪花昆虫がいないと種ができないので、群でいられる里山で生き、市街地には行かない。これに対して、セイヨウタンポポはクローンだから市街地に広がる。逆にいうと、里山ではセイヨウタンポポは生きにくいが、在来タンポポのDNAを持った雑種が入り込むと、増えるかもしれない。

  6. タンポポ以外の雑草
    オオイヌノフグリ:花が揺れやすく虫がしがみつくので、虫の身体に花粉が付着する。
    トキワハゼ:夏に種をとばし、秋にもう一度咲いてロゼットで越冬。自家受精しやすい花の形をしている。
    ムラサキサギゴケ:トキワハゼと花は似ている。茎が地面を這うように横にひろがる。
    キランソウ:別名を「ジゴクノカマフタ」という。薬草だから地獄にいかずにすむという名前。地獄のふたの形という説もある。
    ドクダミ:日本に生えているドクダミはすべて3倍体で種ができない。地下茎でふえる
    ドクダミの花びらのように見える部分は「そうほう」という葉の一種。小さい花が集まっている。
    コモチマンエングサ:外来植物。日本に入って来たのは稔性がない(種ができない)。むかごが水辺で流れて増える。
    ネジバナ:ねじれている方が虫からよくみえる。右まきと左まきがある。ランの仲間
    ヤセウツボ:地中海原産。タンポポなどのキク科に寄生するが、生き方にはわからないことが多い。
    シロバナタンポポ:関東北部が北限 
    フデリンドウ:初めはおしべ、あとからめしべがのびる。初めオスで後からメスになる。リンドウ、キキョウはメスの時期とオスの時期があり、自家受粉しないようにしている。

  7. 話し合い(○は参加者、→ はスピーカーの発言)
    • タンポポはなぜ南半球にないのか → 北半球に主に分布している。暑いところが苦手なので、赤道を越えられないのかもしれない。
    • タンポポは野菜としてはいってきたというが他の用途は → ヨーロッパはサラダにする。根を使ってタンポポコーヒーがある。花はてんぷら、葉は和え物、根はキンピラ。ロシアは白い粘液の強いボムタンポポを栽培している。在来タンポポの中にも中間体があるのは日本同士の交雑だろうと思う。たとえば、カントウタンポポとシナノタンポポのような日本のタンポポ同士で受粉すれば種ができる。一概に分類するのは難しい。