2013年10月20日、神奈川工科大学エクステンションセンターで第2回医食同源バイオカフェを開きました。お話は島根大学生物資源科学部 板村裕之教授による「身体によい柿の話、あれこれ」でした。柿の種類、渋ぬき、柿の成分、柿について幅広いお話をいただきました。はじめに神奈川工科大学バイオ生命科学科長 栗原誠教授からウエルカムスピーチがありました。
神奈川工大 栗原誠教授 | 島根大学 板村裕之教授 |
はじめに
島根大学は日本海に近い大学で、アクティブに地域貢献のための研究を行っている。西条柿を中心として果実軟化のメカニズムの研究をしているが、悪い酔い防止効果などの機能性に注目し、商品も開発している。みなさんの机には3切れの皮をむいた柿があります。果肉が白っぽいのが太秋(たいしゅう)、赤いのが早秋(そうしゅう)、熟して柔らかいのが西条(さいじょう)。つまみながら始めましょう。
柿には甘柿と渋柿がある
柿は初め、すべて渋い。甘柿には完全甘柿と不完全甘柿がある。種が入っても入らなくても甘いのが完全甘柿。不完全甘柿は受粉してうまく種がはいると甘くなる。種の数が少ないと渋い部分が出てくる。
机にある皮がついた柿で白いほうが伊豆で完全甘柿。他に完全甘柿には次郎、富有がある。不完全甘柿には、ゴマが入っていて、西村早生(にしむらわせ)などがある。ゴマは種が入ると生じ、渋くないことの表れで、木の上で種が入るとだんだん渋くなくなる。
完全甘柿は木の上で、種の有無に拘わらず自然に甘くなる。
渋くなくなるのは種からアセトアルデヒドが出て、タンニンと結合し、不溶性になるから。
完全渋柿は種の有無にかかわらず渋い。種がアセトアルデヒドをつくらない。例)西条(さいじょう)
不完全渋柿では、アセトアルデヒドができて、種の周りのごく一部だけにゴマが生、じそこだけ甘くなる。しかし、全体としては渋柿である。例)平核無(ひらたねなし)
なお、平核無は種ができにくいので、基本的には種のない完全な渋柿である。
柿タンニンの特徴
タンニンはお茶のカテキンの仲間の化合物。タンパクと結合するので、舌の味を感じる「味蕾」のタンパク質に可溶性タンニンが水に溶けてくっついて渋味を感じる。紙などの大きい分子にタンニンはくっつきやすいので、紙に渋をぬって傘をつくる。
アルコール脱渋の際には、タンニンの水酸基OHの間にアセトアルデヒドが入り込んで大きな分子になり、不溶性タンニンになる。水に溶けない「不溶性タンニン」ならば渋く感じない。これが脱渋のメカニズムである。
実験 1 スタンプの比較
皮のついた柿を一口かじって渋みを確かめてから、用意した黄色のろ紙にスタンプする。
平核無と伊豆をスタンプすると、渋いほうの平核無が黒くなった。伊豆でも渋残りがあると、スタンプは黒くなった。
ろ紙には、FeCl3(塩化第二鉄)2%の溶液がしみこませてある。これは3価の鉄といって、黄色い。タンニンのOHにこの3価の鉄が結合する。ろ紙上では鉄がプラス3(三価の鉄 黄色い)からプラス2に還元され2価の鉄(第一鉄)になり、黒くなった。
ろ紙に渋柿をスタンプする | スタンプが黒くなった |
実験2 甘柿と渋柿のジュースの比較
平核無ジュースはポリエチレングリコールを入れると白濁した。
富有ジュースはポリエチレングリコールを入れてもあまり変化がない。
甘いということはすでに不溶性タンニンになっているので、高分子のポリエチレングリコールとは結合しない。
渋柿を食べて渋かったときは、外からタンパク質をとると口内のしびれがとれる。例)牛乳、生玉子
この仕組みを使って、白濁や結合の様子から可溶性タンニンの量をみることができる。
渋み
8月の若い平核無にアルコール処理をすると可溶性タンニンが不溶性になりグラニュー糖のような不溶性タンニンがとれる。
果肉の中の柔細胞(ジュウサイボウ)の中にタンニン細胞が点在する。タンニン細胞とは、タンニンをためた液胞でいっぱいになった細胞のこと。
植物の細胞の中には液胞といって老廃物をいれる場所がある。ここに糖やタンニンが蓄積される。細胞質の中でカテキンのでき方とその背景の遺伝子はわかった。液胞の中でカテキンが組み合わされて分子量13,000の高分子であるタンニンができるらしい。その仕組みはまだ解明されていない。
かじってみて渋いですか」 | 「焼酎をつかって渋抜きをしましょう」 |
脱渋
渋を抜くこと脱渋といい、「さわす」ともいう。
柿のアルコール脱渋:柿を焼酎にひたして新聞でくるみ、セロテープでとめて、ビニール袋に入れ、輪ゴムで縛る。1週間くらい、温かいところにおく。
山形、新潟はアルコールでさわして、北海道に運んでいたので、北海道の人はアルコールで熟したものを柿だと思っていた。今は炭酸ガスで脱渋する。以前は1週間、炭酸ガス中に置いて真っ黒になる炭酸ガス障害があったが、今は1〜2日、炭酸ガス中に置く、CTSDという方法が行われている。
最後に
柿のタンニンをつかって、「晩夕飲力」と言うドリンク剤をネット販売している。二日酔い予防になる。安全性審査もしており、これまでに約2万人が利用してクレームはない。
渋抜きをする参加者 | 猪又さんのスピーチ |
神奈川工科大学大学院 猪又真麻さん
厚木で学ぶ学生さんへのエールを込めて自分の研究紹介の場を設けました。
「KAITb022というLヒスチジンを分解する酵素をつくる菌をみつけた。Lヒスチジンは体内でつくれない大事なアミノ酸。ストレス軽減、紫外線の害の軽減の働きがある。しかし、魚に含まれるヒスチジンが体内でヒスタミンになるとアレルギー症状になる。Lヒスチジンオキシダーゼを菌につくらせ、食物中のLヒスチジンを測定したり、食品中のLヒスチジンを削減するのに利用したいと思っている。
今行っているのは、短時間で増える大腸菌にKAITb022の遺伝子を入れて大腸菌で大々的につくらせること。KAITb022からLヒスチジンを抽出し、精製する。電気泳動やカラムクロマトを利用し、目的の酵素のアミノ酸配列をプロティンシーケンサーという装置で調べ、それをもとに大腸菌に遺伝子を入れて大量に作ろうとしている」
座がある珍しい中国の柿 | 会場風景 |
- 北海道にいた時には、腐ったようなものが柿だと思っていた。だから東京の柿は固くてまずいと思った。今日は科学的な理由がわかった→北海道は柔らかい柿が好きの人が多い。
- ヒトはタンニンの渋みを味蕾で感じる。小鳥は渋くないのだろうか?→鳥はつついて様子をみて、熟してから食べにくるようだ。
- 庭に柿を植えたら、毎年なって、休み年はない。小鳥はおいしくなったらつつくので、それから収穫している。
- タンニンと味蕾のタンパクが結合して渋く感じるなら、舌のたんぱくをブロックするものを一緒に食べたらどうか→そのアイディアはいただきました!
- 30数年前、東大の農場近くの甘い柿を横浜に移植したら、甘いのと渋いのになってしまった→猿蟹合戦の絵にあるように、同じ木にも甘い柿と渋い柿ができる。この移植した木は不完全甘柿と思われる。これは種が入れば甘い柿に、入らないと渋い柿になる。東大の農場の近くではこの木(不完全甘柿)のそばに授粉樹になるものがあり、虫が仲介したりして、種ができていたのではないか。今の場所だとそばに授粉樹が近くにないので、種が入らず渋くなる。禅寺丸(ぜじまる)、正月(しょうがつ)、サエフジ、西村早生などの雄花を持つ授粉樹を近くに植えると、甘い柿がなるでしょう。
- 日本には甘百目(あまひゃくめ)が昔から多い。これがアメリカにわたり、欧州に伝わった。イタリアの柿ティッポは甘百目と同じと考えられる。
- 太秋は完全甘柿で雄花がある。栽培を続けると木が弱り、雄花が多くなる。強く剪定すると雌花が多くなり、弱く剪定して放っておくと雄花が増える。
- 簡単な柿酢の作り方を教えてください→簡単柿酢のレシピを配布したのでやってみてください。悪酔い防止と血圧降下作用がある。渋柿でも作れる。
- 干し柿に適した柿は→渋柿で干し柿をつくると渋が抜ける。皮をむいて、水分が2割になるまで干す。粉をふいた「ころ柿」、4割の水分含量を残す「あんぽ柿」などがある。水分を飛ばすと、TCA回路が回らなくなり、アセトアルデヒドができて、タンニンが不溶化するとともに、乾燥の過程で細胞壁を構成しているペクチンが可溶化し、タンニンと結合することで渋が抜ける。
- タンニンを含む他の食材にどんなものがあるのか→タンニンはタンパク質と結合するので、皮をなめすのに使う。樹木の皮、ある種のキノコにも含まれる。私は柿の縮合型タンニンを研究している。加水分解型タンニンもある。渋みがある食材にはタンニンがあると思っていい。
- 柿が渋を持つのは鳥につつかれないようにするためだろうか→鳥が来ないように防衛して渋がある。タヌキ、アナグマ、イノシシは熟してから食べる。ダーウィンの進化論だと、種が熟さないと渋く、熟してから動物に食べられて種を散布してもらう。種に発芽能力が備わるまでは渋みがあると考えられる。
- タンニンは黒いのか→不溶化したときは透明だが、酸化して黒くなる。和歌山では平核無を樹上脱渋する。袋かけして固形アルコールをいれておき2日で袋を切る。同じ平核無ではあるが、果肉が黒くなるので紀ノ川柿というブランド名で販売している。
- 台木を渋い柿にして、甘い柿をついだが、渋い柿がなる→台木のいかんにかかわらず、継いだ柿の穂と同じ性質の果実がなる。甘柿に渋柿を接げば果実は渋柿となる。なお、接木不親和といってマメ柿に甘柿の富有を接いだ場合は2年目に枯れることがある。マメ柿を台木にするのは避けたほうがいい。
- 完全甘柿があるのは日本だけ。中国から柿が入ってきたと考えられ、日本で突然変異が起こり、完全甘柿ができた。奈良の御所柿は完全甘柿で渋を形成する遺伝子がすべて劣性になった。日本の柿の生産量は年間25万トン。韓国は40万トン、中国は500万トンである。