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バイオカフェレポート「免疫って何〜日本で生まれる抗体医薬」

 2013年10月11日、茅場町サン茶房で、バイオカフェを開きました。お話は協和発酵キリン㈱コーポレートコミュニケーション部PRグループ 井上和昭さんによる「免疫って何〜日本で生まれる抗体医薬」でした。免疫の基礎のお話に始まり、日本発の抗体医薬まで、期待される日本の先端技術が紹介されました。
はじめに渡辺佳代子さんのオーボエの演奏がありました。ご専門であるバロックオーボエの珍しい曲目でした。

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井上和昭さん 会場風景

お話の主な内容

自己紹介
 薬学部では糖尿病の研究をしていたが、就職活動の時期にはモニターといって治験に関係する仕事をしたいと思っていた。ところが、協和発酵工業に入社して従事した仕事は薬理研究(動物を使って薬の候補を評価する)だった。今はコーポレートコミュニケーション部でメディア対応を担当している。
 
免疫とは
 免疫とは疫病を免れること。風邪のウイルスが体内に侵入すると、発症する人としない人がいて、症状も人により異なる。この違いはその人の免疫力などによる。
体内にはマクロファージという細胞がある。マクロファージは病原菌を捕まえる「警官」で、入って来たウイルスや病原体を食べる。食べた断片を使って、病原菌の情報をT細胞に提示する。Thymus(胸腺)の頭文字のTをとったT細胞はその表面の突起物と結合することで、B細胞に取り調べ結果を教える。B細胞は取り調べた結果をもとに、病原菌をやっつけるミサイルである「抗体」をつくる。BはBone Marrow(骨髄)の頭文字のBをとっている。
 抗体は狙ったもの、すなわち自分でない、外から来たものだけを攻撃し、体内にあるものは攻撃しない。攻撃する相手を抗原という。抗体はY字形で描かれるが、実際は複雑で立体的な構造をしている。Y字形の頭の部分で攻撃する相手を見つける。1種類の抗体は1種類の特定の抗原だけを攻撃するので、これを「特異性がある」という。赤ちゃんは生まれて数か月は、へその緒を通じて親からもらった抗体で過ごす。その後、自分で抗原に出会って抗体をつくり、これが何万にもなる。
 予防接種とは、弱い抗原をわざと体内に入れて抗体をつくらせ、抗原が本当に来たときに攻撃するしくみをつくるもの。はしかのワクチンでは、はしかの原因ウイルスがわかっているので、そのウイルスを弱くして子どものときに摂取する。体内で抗体ができ、本当のはしかのウイルスが来たとき予めつくられた抗体が速やかに攻撃をする。これを、「免疫の記憶」という。
初めての病原菌が来たときには抗体がないが、抗体以外にも病原菌をやっつけるしくみがあるので、それを使って攻撃する。抗体がないと全く負けてしまうわけではない。抗体は抗原が来て数日でできる。
 
アレルギー
 私はアトピー性皮膚炎(幼児期)だった。成長とともにおさまったと思ったら、高校生のときから鼻水が出るようになり、ステロイドでおさえたりしていた。これも実家を離れて大学に入ったら治った。実は、鼻水の原因は実家の犬だった。咳や鼻水はのどや鼻の粘膜の病原菌を洗い流すため、熱は体内の病原菌を殺すため、それぞれの症状は体が持つ病原菌をやっつけるための仕組み。
 スギ花粉症の人は、花粉の季節になると目や鼻がかゆくなる。異物である花粉をやっつける反応が過剰になり、ひどい症状になる。
給食で乳製品のアナフィラキシー(血管が広がり、血圧が下がる、気管が収縮して呼吸ができなくなる)を起こして亡くなった児童がいた。保護者、教員、みんなで注意しておられたのに、お気の毒なことだった。
 アナフィラキシーショックは、「エピペン」という応急処置で予防できるようになっている。エピペンはエピネフリン(血管を収縮させる物質)の注射で、太ももに自分でも打つことができる。太ももというのは、肉が厚くて、自分でうちやすい場所だからではないかと思う。また、筋肉内投与であるために、じわじわ血管にはいるので、急に血圧が上がることはないので都合がいい。血管に入れる静脈注射だと急激に変化が起きて、都合が悪い。
 
がん
 がんは異常に増殖する細胞。私たちは免疫でがんに対応できないのか?と考えている。たとえ、がんと診断されなくても、私たちの細胞は日々がん化している。それを免疫がたたいているのでがんにならずにすんでいる。がん細胞の増殖速度が免疫を上回るとがんになる。
 がん細胞は、マクロファージががん細胞を食べてがんの特徴を提示するが、いつのまにかその特徴をなくしたがん細胞に変化して生き延びようとする。毒素を出して免疫細胞を弱らせるがん細胞もある。
 がん細胞は増殖する速度が速いため、その特徴を捉えて攻撃するタイプの抗がん剤を使うと、がん細胞の周囲やがん細胞同様にで増殖しやすい細胞(粘膜や毛根など)も攻撃をうけることになる。重い副作用が起こる。抗体医薬とは、がんを攻撃するのでなく、体をがんから守る仕組みを強化する新しい発想に基づくくすり。
 血液がん、乳がん、大腸がんなどの抗体医薬がある。原理は、体の外からがんをやっつける抗体を入れる。抗体医薬はリュウマチ治療にも役立っている。日本では20種類以上の抗体医薬が売られている。
 
まとめ
 免疫には3つの役目があり、病原菌を捕まえる警官はマクロファージ、取り調べる刑事はT細胞、攻撃するのがB細胞。B細胞のつくるミサイルが抗体。
免疫を高めておくと病気に打ち勝つことができる。そこで、免疫を高める5カ条を結びに紹介します。バランスのよい食事、十分な休養・睡眠、運動不足に気をつけ、ストレスを減らし、よく笑うことです。ぜひ、みなさんもやってみください。


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オーボエ奏者 渡辺佳代子さん 抗体医薬の話がはずんで

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • コーポレートコミュニケーションとはどんな仕事をするのか→プレスリリースの発信やメディアからの問い合わせ対応が主ですが、最近では抗体医薬に関する情報提供をしている。漫画家のこしのりょうさんとのコラボで「新抗体物語」をウエブサイトで掲載したりしている。http://www.kyowa-kirin.co.jp/shin_koutai/
    • おかあさんからもらった抗体はどのくらい機能するのか→数か月(赤ちゃんの免疫ができ始めること)で分解する。
    • がん細胞が出す毒素とは→末期のがんだと悪液質といって、臓器不全を起こすような様々な物質が分泌されることがある。
    • がん細胞が形を変えるというのは糖鎖が変化することをさしているのですか→がん細胞が持つ抗原(糖鎖、アミノ酸など)の形が変化するケースも含まれます。
    • 免疫力を高めるといいというが、自分の免疫力を知ることはできるのですか→通常の健康診断ではわかりにくい。しっかりとした検査センターで血液の中の免疫細胞を測定したり、もしくは血液にウイルスなどを反応させることで測定もできると思います。生活のスタイルを変えると免疫力があがったと感じることがあります。たとえば、運動を始めたり食生活を変えると、季節の変わり目で体調不良にならなくなったりした時に実感した経験が私はあります。数値では、白血球数が高い(T細胞、B細胞)ときは免疫力が高いが、炎症が起きている時も高いから、数が多いからいいともいえません。
    • 私は白血球がいつも少ないが、風邪もひきません→白血球にも種類がある。たとえば、白血球のうち、抗体をたくさんつくれるB細胞とそうでないものはあり、個人差があります。そのため、白血球の数だけではわかりません。
    • 協和発酵キリンはどんな抗体医薬をつくっているのですか→成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)という病気のためのくすりが、2012年、厚生労働省に認められました。これは、初めての日本発の抗体医薬の抗がん剤。
    • ATLというガン細胞にはCCR4という抗原が表面にあり、そこをめがけて抗体をうちます。分子標的薬という薬のタイプです。ATLは患者数が年間で1000人発症する稀少疾患ですが、1年で半分近くが亡くなる進みの早い病気です。このため、臨床試験でよい感触が得られた後は開発が早く進みました。九州に多かったので風土病だといわれたが、疫学調査から日本中に拡散しはじめたことがわかりました。海外では、現在、臨床試験段階にあります。
    • 2013年3月、パーキンソン病のくすりもつくりました。これは世界に先行して日本で承認され、5月から販売されています。
    • 日本発のくすりだと、日本から研究や知見蓄積が始まるので、いろいろと有利なことがあります。国内のパーキンソン病の患者数は15万人、日米欧で150万人と考えられており、期待されているくすりです。
    • それらの新しいくすりの売上はのびているのか→新しいくすりは、発売から1年間は長期処方ができないこともあって、今はそれほど大きな売上ではない。
    • 抗体医薬のこれからは?→抗体医薬はのびてきている。世界の医薬品の売り上げランキングのトップ10のうち5つは抗体医薬。1種類のくすりで数千億円の売り上げが出ているものもある。ランキングで上になっているくすりは単価が高い。政府には、ジェネリックを活用して医療費を抑えたいという考えがある。しかし、バイオ医薬品ではジェネリックがつくれない。同じ形のものはできないが、バイオ医薬品の後続として「バイオシミラー」がつくられている。
    • 協和発酵キリンは富士フイルムと5分5分の出資でバイオシミラーをつくる会社をつくった。特許が満了したバイオ医薬を少しでも安価なバイオシミラーとして日本でつくれるかもしれない。
    • アメリカの製薬企業が有利な理由は→特許戦略がうまい。しかし、病気がくすりでなおる時代が成熟してくると、新しい薬を一からつくるよりもジェネリック、バイオシミラーの時代がくると思う。ジェネリックとバイオシミラーの法律やしくみは欧州、ついで日本が進んでいる。アメリカはファイザーに代表されるように、新薬開発をねらってきたのでバイオシミラーには遅れている。
    • ジェネリックでなくバイオシミラーしかできない理由は→抗体医薬はアミノ酸や糖鎖がいっぱいくっついている。アミノ酸配列は遺伝子をコントロールしてつくりだせるが、同じ糖鎖をつくりだすことはできない。できるだけ似た立体構造の糖鎖しかできない。バイオシミラーの評価は先発薬とバイオシミラーが同じように体内で機能するか、同じように症状を改善したかどうかを調べる。
    • 抗体のつくりかたは→まず、遺伝子を操作して、ベースとなる細胞をつくる。ベースとなる細胞、例えばCHO(ハムスターの卵巣)細胞に栄養などを与えてどんどん増やす。増えた細胞から抗体がつくられるので、その抗体だけを回収してくすりにする。臨床試験ではできた抗体が安全かどうか(へんな症状がでないか)、どのくらいの用量がいいのか、プラセボなどと新薬を比較して効果をみる。試験が進むにつれて被験者数が増え、データも増えていく。普通のくすりも同じように安全性と効果を調べる試験をして承認される。
    • 抗体医薬はヒトの細胞からつくるから安全だと思っていたが。→もともとは、動物(マウスなど)の抗体ですが、遺伝子を作成する際に、人の遺伝子をミックスしたキメラ抗体やほぼ人と同じヒト化抗体、そして動物細胞から完全に人の抗体をつくることもできます。人に近い抗体をつくるには訳があってマウスの抗体を人に投与するとはじめは効くが、2回目には抗体は攻撃を受けて効き目がなくなる。なので、人の抗体もしくは人に近い抗体をつくる必要がある。キメラ化やヒト化する技術の特許は切れている。
    • 日本の製薬企業は抗体医薬の副作用が出たことをきっかけに、抗体医薬の研究開発から離脱したが、協和発酵工業、中外、キリンファーマだけが続けていた。