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第1回医食同源バイオカフェレポート「現代人にとって健康食品の意義」

 2013年9月8日、神奈川工科大学(KAIT)エクステンションセンターで第1回医食同源バイオカフェを科学技術振興機構のご支援、神奈川工科大学応用バイオ科学部のご協力を得て開きました。
 はじめに神奈川工科大学教授松本邦男さんによるウエルカムスピーチがありました。同大は厚木市と市内5大学と連携して「あつぎ協働大学」を開校したり、KAITシンポジウムを開くなど、21世紀型市民の育成を目指して活動してきていることが紹介されました。

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松本先生のスピーチ 高橋先生のお話

お話のおもな内容

はじめに
 アメリカではサプリメントに対して「構造機能表示」が許されているが、日本では「ある成分が体のどこに(構造)どのように効果がある(機能)のか」の表示は禁止されている。2014年度には、日本でもアメリカにならった構造機能表示を可能にする準備がされているときいている。健康食品のメーカーが効果効能を表示することは、利用者とのコミュニケーションを始める第一歩である。もし表示をすることで、ある種の弊害が生じるのであれば、その弊害に対する有効な防止策は別途考えるべきであろう。
 
人類の歴史から考える
 700万年 チンパンジーと分かれてヒト属が誕生した。5万年前には、現生人類の祖先(ホモ・サピエンス)はアフリカを出て、世界中に生活域を拡げた。ようやく1万年前になって、それまでの狩猟採取生活を卒業して農業により食を得ることが始まった。ヒトの体の働きの基本は農業が始まる遙か以前に遺伝的に決まっており、様々な方法で推測される旧石器時代の人々の食事、生活こそが「ヒト本来の栄養環境」を示していると考えられる。
 例えば、絶え間ない野外活動に伴う日照によって、ビタミンDの血中濃度は現代人よりはるかに高いレベルにあったと考えられる。また、われわれ自身では作れない必須脂肪酸のオメガ3脂肪酸(以下、オメガ3)は、何らかの形で食事から摂取する必要があり、石器時代の人々はかなり大量の海産物を食べていたと考えられている。現代、オメガ3の健康機能が研究されるようになったのは、ほとんど魚と動物しか食べないイヌイットに、心臓血管疾患が極めて少ない「イヌイット・パラドックス」が注目されてからである。そして、もともと自然界のオメガ3の主たる生産者は植物プランクトンで、それが魚の油の中に蓄積され、魚や海獣を食べているイヌイットが常に多量のオメガ3を摂っていることが心臓血管疾患の少ない理由であることが明らかにされた。
 
オメガ3脂肪酸
 オメガ3の効果は周知の抗炎症作用に加えて、細胞、特に神経細胞の正常な機能を維持する作用がある。ヒトは2足歩行をするサルといわれる。しかし、2足歩行は単距離の走行速度を著しく下げ、肉食動物のように単独で他の動物を狩ることができなくなった。そこで狩りを集団で行う必要が生じ、集団の狩りの効率は、如何に言葉をうまく使えるかに依存することになった。つまり、言葉を上手に使えるか否かがヒトの生き残りの大きな選択圧になった。言葉を駆使するためには、大脳の発達が必須で、人類の頭蓋の容積は200万年前から急速に拡大を始めた。集団での狩りを支える脳とさらに眼の機能は、複雑な構造と機能持つ莫大な数の神経細胞が必要である。そのためにはオメガ3の1つであるDHAを食事から摂ることが必須である。サバンナで肉食動物と争って動物を狩る人達より、競争者のいない魚・海産物を食に積極的に取り入れるような“新奇性”を恐れずに生き残った人達が、我々の祖先になったのだろう。
 人類の移動の軌跡をみると、5‐7万年前頃アフリカ大陸を出て、海岸伝いに海産物、すなわちオメガ3を確保しながら移動して生き延びたと考えられている。現代人は1日1g程度のオメガ3の摂取が望ましいが、実際に足りている人は少ない。以上のような議論を踏まえれば、そもそも現代の食生活自身が“不自然”なのであって、栄養素の不足分を健康食品で補充することは、決して“不自然”なことではない。
 
ビタミンD
 19世紀、アイルランドではジャガイモがほとんど唯一の栄養源だったが、1885‐9年に大凶作があり、多くがイングランドに逃れ、彼らは結果として産業革命を支える労働力となった。霧と工場からの煤煙で日照が極端に不足し、労働者の子供には“英国病(後にクル病と判明)”と呼ばれる奇病が多発した。それが契機となりビタミンDが発見され、クル病の原因はビタミンD不足であることが判った。
 ビタミンDは実際にはステロイドホルモンの1つで、私達の持つ遺伝子の約1/100の遺伝子の転写活性を直接コントロールできる。今、研究の世界では、ステロイドホルモンとしてのビタミンDの作用、あるいは欠乏がもたらす弊害に関する論文が沢山出ている。ビタミンDは腎臓で活性型に変換されるが、たまたま過剰になりそうな時には、腎臓で活性型の代わりに不活性型を作って過剰の害から免れるメカニズムを持っている。
 ホモサピエンスはアフリカで黒人として誕生。5‐7万年前にアフリカを出た時には、メラニン色素による黒い皮膚を持って、皮膚ガンの原因になる強い紫外線をコントロールしつつ、一方で必要量のビタミンDの体内合成能を確保していた。しかし、日照の少ない北欧に移動した人々は “白人”に変化して、ビタミンDの合成量を確保した。つまり、ビタミンDの要求度が民族の皮膚の色を規定する程に決定的な健康価値を有していたのである。
 日焼けを防ぐサンスクリーンは皮膚ガン予防にも有効だが、ビタミンDの欠乏症になる。現在アメリカでアフリカン・ネイティブと呼ばれる黒い肌色を持つ人々とって、日照の少ない北米は、ビタミンD欠乏を起こす可能性が高い。このことが、彼らにより多くの健康問題を引き起こし、結果として、社会的弱者の地位に甘んじさせている原因になっている可能性も考えられるのではないか。一方、加齢の結果、ビタミンD合成の最初のステップの酵素が減り、日に当たってもビタミンD不足になる傾向にある。以上のような議論を踏まえれば、人々にはビタミンDのサプリメントを摂取すべき合理的な理由があることは明らかである。
 
カプサイシン
 穀物のタンパク質は必須アミノ酸のバランスが悪く、“過食”しない限り必要量の必須アミノ酸を確保できない。穀物を主食にするネズミは、本能で一晩に10km走り、過食による余剰エネルギーを消費して肥満を防いでいる。人々の大半が厳しい農業労働に従事して余剰エネルギーを消費していた時代には、穀物を主食にしても“肥満の流行”は起きなかったが、過去の農業労働のようなエネルギー消費手段を失った現代人の多くが、肥満の問題を抱えるのはある意味では当然である。つまり、もし、自然に沢山運動した状態を再現できるようなサプリメントが存在すれば、現代社会に大いに貢献するはずである。
 トウガラシは、辛味成分のカプサイシンを含み、交感神経を刺激して熱産生を高め、カロリー消費を促す作用がある。広く熱帯地方で食文化として取り入れられている理由は、カロリー消費を高めることで食事量を増やして、必要な栄養素を確保するチャンスを高めるメリットがあるからである。しかし、トウガラシ大量摂取の食文化が成立していない日本などでは、カロリー消費を十分高めるだけのカプサイシンの量を摂取するのは困難である。そのような状況の中、京都大学の研究者により辛くなくても交感神経系を刺激するトウガラシ成分が発見されて、カプシエイトと命名された。毎日3㎎のカプシエイトを摂取すると、50kcal/日程度消費エネルギーが増加することが確かめられている。この増加分を1年間積算すると、体脂肪2kg分のカロリーに相当する。これが体重の増減にどう反映するかは、それぞれの人の生活環境により一概には言えないが、場合によっては2kgの体重減少をもたらす可能性のあることは確かである。「運動代替サプリメント」と言えよう。
 
睡眠
 脳は眠っている間は休んでおり、ほとんど働いていないと長い間信じられてきたが、起きて活動している時の80%の代謝活性が維持されていることが判り、脳には睡眠中にしか現れない独特の活動があり、それが睡眠の必要性を生んでいると考えられるようになった。「記憶の定着」と言われるような現象は、その一例である。
 大人の一晩の睡眠は90分の睡眠エピソードが3-4回繰り返すことで成り立っている。ヒトの赤ちゃんとヒト以外の動物は、このエピソードを断続して終日繰り返している。大人がまとめて眠るのは昼間の“集団の狩り”に備えるための適応で、加齢するとこの適応が不完全となり、しばしば「中途覚醒」が起きるようになる。起きたり眠ったりを繰り返している赤ちゃんが眠る前に手足が暖かくなることが観察されるが、これは、深部体温を下げるための生理現象で、深部体温の低下と入眠は少なくとも赤ちゃんでは一致している。
 1つの睡眠エピソードは、ノンレム睡眠とレム睡眠で成り立ち、深いノンレム睡眠は外部刺激を絶った状態で脳を整理している状態、レム睡眠は整理した脳をいわば試運転している状態と言える。深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が無いとレム睡眠が消失して“熟眠感”が失われる。レム睡眠時には夢を見ており、レム睡眠の後半あるいは終了する時に覚醒すると、夢を覚えており、最もスムーズに起床を迎えることができる。
 グリシンは最も小さなアミノ酸で、体内でも沢山作られている。我々は、このグリシンを一度に3g程度摂取すると、脳の中の“視交叉上核”という視床下部の特定の場所に働きかけ、深部体温を下げる働きがあることを発見した。そこで眠る前の人がグリシンを摂取する実験を行ったところ、第1,2回目の睡眠エピソードに、徐波睡眠が現れるのを助ける効果があることが判った。現代の大人は、生理的に深部体温が下がり始める、日が暮れて暗くなる時間に睡眠を開始する人はほとんどいないので、就寝の準備ができた段階でグリシンを摂取すると、深部体温との関係はヒト本来の睡眠に近付く可能性が高いと考えられる。ちなみに昼間グリシンを摂取しても、睡眠剤のように眠くなる人がいないことが確かめられている。これは、昼間覚醒度が高い大人は、赤ちゃんと違って、深部体温が下がっただけでは眠りに入れないからである。
 
まとめ
 人の体の生理機能は長くとも50年分働くようにしか設計されていないらしく、いわゆる生活習慣病の本来の役割は、寿命を終わらせることにあったのであろう。しかし近年、人の寿命は医療・科学技術のおかげで急速にこれを越えて延長している。このような長寿は人類初めての体験だから、50歳を越えて元気に、健康に生きていくためには、それ相応の知恵が必要であろう。
 老化は治せないが、遅らせることはできる。良い“サプリメント”を上手く使って、老化を遅らせる投資をすることを勧めたい。老化を遅らせていれば、最終的には多くの不具合が一度に訪れることで寿命を全うできる。つまり、「死ぬまで元気」という人生である。
 生物はDNAで自己の情報を次世代に伝達するが、人類に限っては言葉を持っている。生殖可能年齢を越えた現代人の寿命は、「言葉による情報を次世代に伝えるための寿命」であろう。であれば、この寿命は専ら次世代のより良き繁栄のために使われるべきものである。
 
〜会場参加者のうち、希望する人はグリシンをのんでみて、眠くなるかどうか体験してもらいました〜


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老野さんのお話 老野さんのお話


5分間スピーチ 神奈川工科大学大学院 老野克紀さん「植物生育時の活性炭吸着物質の影響評価」

 医食同源バイオカフェは神奈川工科大学バイオ科学科と連携して行っています。大学の研究について、院生の老野さんに紹介していただきました。
 植物は動くことができず、他の生物との相互作用の中で生きている。冷害、病虫害などで収量が減る。その中に、植物の自家中毒がある。そこで、土壌の環境の改善(連作障害対策、削土、二次代謝産物の除去)のひとつとして、二次代謝産物を活性炭添加によって除去している。活性炭を使うとカイワレダイコンが長さで1.7倍成長がよくなった。
活性炭に付着した物質を添加したカイワレでは、1.7倍の生育阻害が行った。
 活性炭は二次代謝物による生育阻害を防止することがわかった。ブロッコリー、エンドウマメも活性炭で生育促進がみられた。次に、阻害物質について調べたい。

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • サプリはのまず、食事だけで健康にしたいと思うが?→とても大事な質問。「正しい食事にサプリ不要」は正しい。でも「正しい食事」はどうすれば実現するのか?クル病でなければビタミンDは足りていると皆思っていた。しかし、ビタミンDの血中レベルが低いと色々な疾患のリスクが高まること判るようになった。その結果、先進国ではビタミンD不足の人がとても多いことが明らかになった。健康上のハンディキャップを極力減らせるような社会を目指すとすれば、サプリメントの利用は有力な手段の一つであろう。
    • 糖類はデンプンからつくる異性化糖より砂糖からとる方が歴史的な流れではないか→人類の歴史で現代のように大量に砂糖を摂った経験はない。近年、砂糖が消化されて生成されるブドウ糖と果糖を同時に大量に摂取することには、代謝上大きな無理があることが証明されるようになった。異性化糖は食味のためにトウモロコシのデンプンを加水分解して得られるブドウ糖の一部を、酵素を使って果糖に変えて製品にしたものであるが、砂糖と同様の大きな問題がある。人類の歴史というタイムスケールで言えば、デンプンを食べ、それをブドウ糖に消化して吸収するのが一番自然なことである。
    • 血中ビタミンD測定は人間ドックの検査に入っていない?→お願いすると2万円程度で対応できる病院はある。将来保険対象なる可能性はないわけではない。
    • 家族が糖尿病で導眠剤を使って眠れないという。グリシンは蓄積しないのか→グリシンは体内で沢山作られており、その量が調整されることで3g程度では全く蓄積はない。グリシンと導眠剤の睡眠に対する効果メカニズムは全く異なるので、両者を併用しても問題はない。
    • ビタミンDの過剰摂取は害があるか→タミンDは過剰摂取しても腎臓で不活性化できる。腎臓が健康であれば問題ない。
    • EPAは努力して食べたほうがいいのか→EPAはオメガ3脂肪酸の一つだが、最近研究が進んで、EPA、DHAの欠乏と全身にわたる健康問題との関連が明らかになりつつある。
    • 環境変化のヒトへの影響は→、最近の急激な環境の変化は、人類700万年の歴史からいうとまだほんの短い期間。ヒトの進化に影響を及ぼすには至っていない。
    • 体毛を失ったのもビタミンDのせいか→アフリカのカンカン照りの中で“狩り”をしようとすれば、深部体温は40度を直ぐに越えて動物は生きていけない。ヒトの体毛が無くなり、汗腺を極限的に発達させたりしたのは、昼間の狩りで自分の体温の上りを抑えて、毛皮で覆われた獲物の体温が上昇して動けなくなるまで長期間追跡するための適応。

    〜医食同源バイオカフェは科学技術振興機構の支援を受けて行われました~