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総会記念講演会「健康食品をめぐるいくつかの問題」開かれる

 2013年5月16日、NPO法人くらしとバイオプラザ21総会において講演会を開きました。 ご講演は長村洋一先生(鈴鹿医療大学教授、一般社団法人日本食品安全協会理事長)による「健康食品をめぐる幾つかの問題」でした。

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長村洋一先生 会場風景

主な内容

はじめに
 臨床検査技師の養成にかかわる中で、「病気にしない社会づくり」に関心を持つようになった。尊敬する東口先生の「がん患者はがん以外で亡くなっている」という言葉から、食事を自らできなくなることが問題だと思った。アメリカは政策的に野菜食を進めてがん患者は減ってきており、このことからも健康に自ら食べられること、つまり「健康食」が健康に影響を与える大きさが推察される。
 
健康食品をめぐる大きな問題
 健康食品には定義がないために誤解されていることがらが多い。有効性のレベルがわからないので、宣伝もいい加減になり、品質にも疑問がある。さらに、医薬品との相互作用にも注意が必要である。
 
健康食品の定義
 消費者委員会の議事録をみると、46通知に立ち戻ったような状況。これは健康食品の定義がないためと考えられる。
「健康食品」の定義では、「広く健康の保持増進に資する食品として販売・利用されている」となっており、これでは健康食品と豚肉、ホウレンソウに区別はないことになる。
 例えば、アメリカでは、Dietary Supplementといって、製造工程まで規制対象になっている。欧州連合、オーストラリア、カナダ、ASEAN、中国、韓国、台湾もそれぞれに、定義を持っている。
※46通知:「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46年6月1日厚生省薬務局長通知)。口から摂取するものは、医薬品(医薬部外品)と食品に大別され、それが医薬品に該当するかどうかを判断するため、「医薬品の範囲に関する基準」が示されている。
 一方、食品の機能として、健康増進に役立つなどの明白な事実があっても、それを書くと薬事法違反になってしまう。食品として重要なことは栄養機能と安全性の両方があるべきなのに、健康食品は食品というのだから安全性が保証されていると誤解している人が多い。健康食品は医薬品ではない!効果のある食品もあるが、過剰摂取には問題がある。
 「好転反応」ということばがあり、たとえば健康食品で健康に悪影響が起こった時に、体内の悪いものが排出されている証拠だから、飲み続ければ改善されるという説明がされる。このために取り返しのつかない皮膚障害に陥ってしまった事例がある。これには、市民が賢くなるしかない。
 医薬品で考えてみると、医薬品では疾病の治癒と安全性が必要。医薬品には安全性より疾病治癒を優先させることもある(副作用は承知のうえで用いるなど)。
 
安全性のレベルが不明
 飢餓になると、体が維持できず、エネルギー不足で戦えず、ヒトは死んでしまう。食品には「栄養機能」があり、これを一次機能という。
 食べることは楽しい。たとえば、こんにゃくは栄養がなくてもおいしいし、緩和ケアを受けている患者さんがアイスクリームを食べたおいしさで、生きる楽しさを思い出し、社会復帰したという報告もある。このような働きを食の「感覚機能」で、二次機能という。
 レモンのビタミンCは壊血病を防ぎ、ニンニクに含まれるアリーンはビタミンBと結びついて吸収されやすくなる。このような食品の働きは「生体調節機能(三次機能)」という。
 血糖値を下げるのに桑の葉の粉が効き、高血圧にはどくだみ茶が効くことはわかっているが、桑の葉の粉末の量と効果の関係はわからない。実際に高血圧だった私は、一日5-6gの徹底した減塩で降圧剤が不要になり、食事の効果の大きさを実感している。しかし、食品の量と安全性の問題は解明されていない。
 また「○○が気になる人のために」と表示されていると、実際にはすでに○○病になってしまっている人が健康食品に目をつけ、期待して治療薬に上乗せして利用していることが多い。健康食品はあくまでも食品で医薬品ではないことへの認識が必要。
 
有効性のレベル
 動物実験の結果が出ると、ヒトに効果があるように扱われてしまう。たとえば、アガリスクはガンを治すとして売られているが、その実験データはネズミの実験や試験管で行われたもの。ネズミのがんの大部分は、キノコや海草の抽出物で完全に治るが、ヒトのがんを治せる健康食品はない。
 ある「やせ薬」には未承認医薬品が入っており、高校生が死亡する事故が起きている。しかし、未承認医薬品が入っていることを公表しているので、違反にはならず、今もネットで購入できる。
 
コマーシャルにも問題がある
 タレントを使用し、派手な体験談が書かれている。さらに、学者による権威づけが行われている。その背景には、悪徳健康食品業者と学者のつながりが推測される。力強い断言口調であることも特徴。
 
品質について
 ひざ痛で健康食品をとる人が多いが、それらの健康食品に表示どおり有効成分が含まれているか、国民生活センターが調査した。すると、実際の含有量は表示されている数値以下だった。これを取り締まるとすれば景品表示法になる。ほとんど含まれていなかったものもある。
 健康食品は定義のない食品として販売されており、表示された含有量を満たしていなくても取り締まれないことになっている。16種のサメ軟骨由来の成分が入っていると表示されている箱の中身を調べたら、哺乳動物由来の原材料が多かったという事例もある。これも食品衛生法違反には該当しない。
在中国日本国大使館では厚生労働省の報告をもとに、2002年から報告のあった中国製健康食品・未承認医薬品の健康被害事例は724人、死亡は4人と報告している。
 厚生労働省は健康食品にもGMP(Good Manufacturing Practice)を取得するように指導する通達を出した。国民生活センター報告によると、食品製造に関する品質管理として、ISO、HACCPを取っていても、問題のある健康食品が出まわっている。ISO取得と品質は一致していない。
 健康食品も医薬品と同じくらい厳重に取り締まらなければならないと思う。健康食品では厳正なGMPを施行していただきたい。米国FDAはGMPを得ていない食品を販売禁止にした。日本では、健康食品に関する公的認証機関はなく、公益財団法人日本健康・栄養食品協会、一般社団法人日本健康食品規格協会のふたつでGMPを認証している。また、自治体の薬務課が監視している。
 
医薬品との相互作用
 食品と医薬品の相互作用についてはある程度、わかっている。たとえば、グレープフルーツのフラノクマリンがカルシウム拮抗剤CTP3A4を阻害する。食品で摂取した成分が肝臓で解毒を行う酵素の作用を弱めてしまい、作用が強く表れるなど。医薬品は水で服用することを前提として審査されているが、実際に利用される場合には、いろいろな状況が起こることがわかっている。
 しかし、健康食品と医薬品の相互作用はまだ調べ始めたところ。日本食品安全協会で急いで調査したところ、効果の弱い多くの健康食品と医薬品の間ではあまり問題が起きないだろうということがわかった。しかし、健康食品としてセントジョーンズワート(セイヨウオトキリソウ:ハーブティなどに用いる)を摂取したら、免疫抑制剤の効果が減り拒絶反応が起こったことは有名で、病気の治療をしている人が健康食品を利用するとき、お医者さんと相談するべきである。