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市民公開懇談会「もっと知りたいiPS細胞」「患者さんの役に立つiPS細胞」開かれる

 2013年2月27日 医科学研究所付属病院会議室で市民公開懇談会が開かれました。どうやってiPS細胞がつくられ、患者さんのためにどのような研究が行われているのかお話がありました。
懇談会は、医者や研究者だけでなく、みんなでこの技術が患者さんの役に立つように見守っていくのが大切という、私たちへの呼びかけで結ばれました。


「もっと知りたいiPS細胞」 
           東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター ステムセルバンク 大津真氏

iPS細胞とは
 幹細胞とは、自己複製する能力があって、多分化能力も兼ね備えている細胞のこと。万能というのは、言いすぎかなと感じ、多能性ということばを使っている。iPS細胞が生まれたのは、胚盤胞(何度か分裂した受精胚)の一部から作られる胚性幹細胞(ES細胞)を用いた多くの研究成果と、山中先生と高橋先生の意志の力があったおかげ。ES細胞は受精卵からつくるので倫理問題があり、作れるES細胞の数に限りがあったが、iPS細胞は、一見多能性がないようにみえる血液や皮膚からつくることができるので制約が少ない。
 
作り方
 iPS細胞は正しい使い方をしなければならない。計画書に基づいて倫理審査委員会で審査を受け、患者さんの同意を得て、初めて作ることができる。
おおざっぱに言うと、iPS細胞は5ccの血液があれば、4つの遺伝子を入れて条件を整えて2-3週間待つとできる。よく増殖するか、多能性があるか(筋肉、軟骨、腸管細胞などに分化するか)、幹細胞の特徴的なタンパク質を持っているか、幹細胞に特徴的な染色ができるかを確かめる。本人の細胞かどうか、染色体異常が起こっていないか、病原体に侵されていないかなども調べ、全く問題がなければ目的とするiPS細胞ができたことになる。
 
使い方
1 病気の原因をつきとめて新しい治療法を開発する
 原因究明のためであっても、難しい病気の患者さんの心臓の筋肉や脳神経はとってこられないので、モデル細胞を作れば利用することができる。近い将来、患者さんのiPS細胞を利用して、体細胞や臓器を作り出すことができるかもしれない。
 たとえば、慢性肉芽腫症では、好中球(細菌やカビを食べる血液の成分)が細菌やカビを殺せなくなる。患者さんのiPS細胞から好中球をつくって調べたら、細菌を殺す活性酸素がつくれないこと、遺伝子に変異があり中途半端なたんぱく質ができてしまうこと、など患者さん血液中のiPS細胞と同じ特徴が残っていることがわかった。
2 新薬をつくるツールとして
 患者さんのiPS細胞にたくさんの薬の候補の物質を作用させて、細胞が正常になるかどうかを調べて、よく働く薬の候補を選ぶ。
3 再生医療の基礎として
 傷ついた細胞や欠損した細胞を補充したり、複数の多様な細胞からできている臓器ごと入れ替えられたりできるようになるかもしれない。もし、培養皿で臓器ができても、組織になじんで働けるようにする研究も必要になると思う。
 
iPS細胞は安全か
 iPS細胞は未分化だから体に入れると、増えて腫瘍になる可能性がある。将来、悪性腫瘍なりそうなiPS細胞を見つけて、それを体に入れないようにしたり、がん化したときにすぐに除去されるようなスイッチをいれておいたりする方法も考えられる。
 
これから、大事なことは
 医者、患者、マスコミ、政治家、市民 みんなが、どんなにすぐれた方法でも100%安全は無理であることを認識することが大切。私は北大で10年前、重度の免疫不全への遺伝子治療に成功した。しかし、2年後に、フランスで遺伝子治療後に白血病が出たとき、日本では遺伝子治療は危険!だということになり、研究者も減ってしまった。欧米では原因究明が始まり、改善策を講じる努力を社会全体で行い、新たな治療法を開発した。日本の遺伝子治療は10年の遅れをとってしまった。このように、社会の受け止め方は医療の進歩に影響を与える。
 iPS細胞は自分で複製できるところが、がん細胞と同じだから、がん化の問題を抱えながら、進めていかなくてはならない。


「患者さんに役立つiPS細胞」
          東京大学医科学研究所付属病院 小児細胞移植科 辻浩一郎氏

iPS細胞の可能性
 患者さんの皮膚や血液から細胞をとってきて、iPS細胞をつくると、体のほぼすべての細胞に分化できる能力がある。臓器をまるごとつくって移植できたら、それは理想かもしれない。
 すい臓ができないマウスの胚盤胞に正常なiPS細胞を胚盤胞にまぜて、メスの子宮にいれると、正常な膵臓をもったマウスが生まれた。次にラットのiPS細胞を胚盤胞に入れてメスのマウスの子宮にいれると、ラットの膵臓をもったマウスが生まれ、ラットの臓器をマウスの体でつくれたことになる。こうして研究を進めると、将来、ヒトの正常な臓器をもった豚ができて、ヒトの臓器がつくれるようになるかもしれない。
 
いろいろな利用の仕方
・肝臓病の患者さんに正常な肝臓をつくることは難しくても、iPS細胞を使ってインスリン産生細胞をつくって糖尿病の患者さんに入れる方法もあるかもしれない。
・輸血用の血液をiPS細胞から作れないか。白血病の患者さんが放射線治療などを受ける前にiPS細胞を使って、赤血球をつくり輸血のときに自分の血液を使えるようになるかもかもしれない。O型RHマイナスの人のiPS細胞から血液がつくれたら、どんな血液の人の輸血も使えるようになるのではないだろうか。
・がん細胞を殺すリンパ球が減るとがん細胞を抑えられなくなる。iPS細胞からがんをやっつけるリンパ球を一杯つくって入れて、がんをやっつけようという治療の研究も進められている。
・網膜に支障が生じ、視力が失われる患者さんの皮膚からiPS細胞をつくり、網膜のシートのようなものをつくって患部に移植したら、視力を回復できるのではないか。これは、今、倫理審査委員会で移植後にがん化しないかを審査しており、安全性を国が認めたら2013年末か2014年初に臨床試験第1号が出るかもしれない。
・薬の副作用の検査にiPS細胞を使う方法もある。心臓に副作用がないかをiPS細胞からつくった心臓の細胞を使って、培養条件を変えて安全な薬かどうかを実際に検証する。これは現実的に進んでいる。
・病気の治療法の開発のためのモデルをつくる。治療がうまくいかない病気、原因が分からない病気の患者さんの体からiPS細胞をつくる。これを「疾患特異的iPS細胞」という。たとえば疾患特異的iPS細胞をつかって、疾患によって赤血球ができなくなった原因をつきとめたり、赤血球をつくる方法を考えたりする。
・花粉症では、粘膜の肥満細胞に花粉がつくと、ヒスタミンが分泌されてくしゃみがでたりする。花粉症の患者のiPS細胞から肥満細胞をつくったところ、肥満細胞は花粉がくるとヒスタミンを放出し始めた。重い花粉症の人の肥満細胞をつくったら、効率よくアレルギーを抑える薬を見つけるのに使える。すべての花粉症の人の肥満細胞をつくれれば、みんなに効くアレルギーの薬も作れることになる。
 
まとめ
 iPS細胞は夢の細胞。しかし、まだ安全性など、確かめないといけないことがいっぱいあるので、辛抱強くまってください。


質疑応答 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 質問1  ぜんそくの治療には使えないだろうか→気管支の粘膜や肺の細胞をiPS細胞からつくろうとしている研究者はいるだろう。気管支に正常細胞を注射するのか、気管支を取り換えるような大手術なのか、今後、いろいろな研究が必要だろうと思う。
    • 質問2  損傷部分に正常な細胞はたどりつくのだろうか→ネズミで造血幹細胞移植をすると骨髄まで届くのは7分の1だそうだ。肺でトラップされたり、脳に送りたいのに骨髄などの目的でない場所で脳ができても困る。必要な場所に適切に細胞を置いてくるような方法がいいのではないか。しかし、脳の神経細胞ができて手足は動くようになるかもしれないが、記憶までもどるかは難しい。もうしばらく待ってください。
    • 質問3  献血が不要になる時代はくるだろうか→血液の成分の多くが肝臓でつくられる。肝臓が作れて、機能すれば、いろいろなたんぱく質をつくることは可能になるかもしれないが、個人的には10年では無理ではないかと思っている。