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コンシューマーズカフェレポート「フーコムネット設立から1年余〜科学的な食情報を消費者に届ける苦闘を振り返る」

 2012年11月13日、第7回拡大談話会“コンシューマーズカフェ”を開きました。お話は一般社団法人Food Communication Compassを立ち上げられた松永和紀さんによる「フーコムネット設立から1年余〜科学的な食情報を消費者に届ける苦闘を振り返る」でした。食の関係者だけでなく、研究者、コミュニケーション関係者、院生、いろいろな方が参加し、同サイトへの期待や応援が語りあわれました。

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松永和紀さん 会場のみなさん


主なお話の内容

はじめに
  2001年より、ライターとして環境gooなどのWEBサイトで情報提供を行なってきた。今日は、10数年の科学ライターとしての活動と昨年立ち上げたフーコムネットの活動を通じて、最近、考えていることについて話す。フーコムネットのまとめはまだしておらず、ありのままの状態をお話して、一緒に考えるきっかけにして頂きたいと思う。
 団体の正式名称の「コンパス」は、食について考えるときの方角を示す役割を担いたいと考えてのもので、事務局長の森田満樹と立ち上げた。東西南北を示して、「決めるのはあなたですよ」と呼びかけるもので、決して、方向を定めるものではない。
 活動の中から、「食にまつわる科学情報をどう伝えたらいいのか」「新しい消費者運動を創出すべきなのか、どのような運動にしたらよいのか?」という2点について、特にお話ししたい。

科学的な安全と消費者・市民の感情がなぜ乖離するのか

  • 食品のイメージと実像:市民の抱く食品のイメージと実際にはずれがあるが、フーコムではきっちり伝えたい。例えば食品から放射性物質が見つかると、一般市民はまっさらな食品に放射性物質だけがあると思うが、専門家は食品の中に含まれるいろいろなハザード物質の中のひとつに放射性物質があると理解する。食品には数多くハザードがある、ということが知られていない。
  • 「安全」の科学的不確実性:たとえば、遺伝毒性のある発がん物質や放射性物質については、よく分からない部分があることは皆さんご承知の通り。ほかにも、さまざまな不確実性がある。
  • リスクアナリシスに対する理解不足
  • リスク認知の心理学:食の保守性の中でリスクを正確に伝えるのは難しい。
  • 報道、情報伝達にゆがみ:フーコムでは報道の間違いを早く指摘したいと思っている。
  • 行政施策の傾向:「感情、不安対策重視」が強まっている

フーコム立ち上げにいたるまで
消費者が求めている情報と提供されている情報の「ずれ」を解消したいと思うが、科学者からの情報提供は「上から目線」の印象がある。マスメディアからの情報も市民の求める情報とずれがあるようだ。
日経フードサイエンスが継続されなかったように、食の安全にかんして消費者を脅かすのではなく冷静に伝える「情報ビジネス」は成り立たない現状を考えて、消費者活動としてウエブサイトの利点を活かした情報提供を行なうことにした。会員制度にして、会費は、情報の対価が半分、残りはフーコムの活動への応援として、頂くことにした。
企業と市民ではほしい情報にずれがあると思うが、将来重要だと思う情報を伝えたい。

2011年3月末 FOOCOM.NETスタート
目的は「消費者団体・事業者・行政・研究者と連携しながら科学的根拠に基づく情報発信を行うことで、消費者が冷静に食の問題に対処できる社会をつくるための活動」とした。具体的には「ウエブサイトFOOCOM.NETで、食情報を無料で広く発信し、活動を応援してくださる有料会員にはメルマガで詳細情報を届ける」活動を行う。
  • 2011年3月11日、東日本大震災が起こり、スタートと同時に苦難の道のりが始まった。
  • 特定のスポンサーを持たない。支援が広がらない。
  • 法人会員の製品を批判することがあるのに、個人・法人会員ともに会費を出しても口を出さない精神を貫いてくれている。会員とはもう一歩踏み込んだお付き合いをし、投稿をお願いしたり、情報を一緒に発信するなどを考えている。
  • 活動への応援のための会費という位置づけが理解されにくい。フードサイエンスの後継とみなされて、会費が情報の対価と思われてしまう。消費者運動を共に起こすという発想が理解されにくい。
  • 「フーコムは消費者団体ではない」といわれることがある。消費者団体は行政や企業を糾弾する存在と考えている人もいる。私たちは、行政・企業を是々非々で応援したり、批判したりしたい。

成果が認められた例もある
社会の動きに一石を投じたり、マスメディアの報道に影響を与えたりするような記事をいくつかは出せたと思っている。例えば、
など。字数制限がなく、タイムリーに情報を提供できることが我々の強み。コチニール色素のときには、ワイドショーの語調が変わったとまで言われた。
寄稿者が気になることをリアルタイムで投稿して下さるのも心強い。先日、遺伝子組換えトウモロコシについて、発がん性があるとする実験結果が論文として発表された時も、専門家の宗谷敏氏に情報提供していただいた。カリフォルニアにおける遺伝子組換え食品の表示をめぐる選挙の問題点については、宗谷敏氏の記事を通じて理解できた方も多いことと思う。

考えていること
最も大事なことは科学的に妥当な情報を提供することと、そのタイミング。読まれるかどうかは、記事の質よりもタイミングの方に依存すると感じている。
社会で不足している情報を出さなくてはならない。世の中に基礎的な情報はかなり多くあるが、人々は「今、動いている情報」を探すために検索するもの。しかし、多くのホームページは基礎的な情報提供から始めてしまい、これではリアルな問題解決には適さないものになってしまう。これが、現在行われているサイエンス・コミュニケーションやリスク・コミュニケーションの実態ではないだろうか。
リスク・コミュニケーションについて思うのは、特定のリスク情報の提供だけでは成立しないということ。例えば、昨年秋から放射能汚染に関する情報提供を行ってきた。原稿も相当数書いているし、講演も50回以上したと思う。放射線リスクの評価とその不確実性、リスクとベネフィット、リスクのトレードオフ、食品の現状や食品のそもそも論などについて述べてきた。
市民が知りたいのは「私はどう生きたらいいのか」ということで、縦割りの情報では、市民の要望に応えられない。放射線リスクの内容、その大きさを理解し実際に対処するには、放射線リスクの知識だけでなく、それを避けたときに被るリスクにかんする情報や、コスト、そうした行動をとった時に他者や社会に与えてしまう影響など、多くのことを考えなければならない。ところが、そうした多岐にわたる情報、暮らしを俯瞰したような情報は、現在のリスク・コミュニケーションでは提供されない。
私たち消費者、市民はリスク・コミュニケーションをしたいのではなく、リスク管理に役立つ情報を得て、どうするか考えたいのだ。
そのため、私個人は、縦割りに基づく限定的な情報ではなく、広く多岐にわたる情報を提供し、読者や聴衆にまず、「今、現実に起きていることは、『これをすれば解決』『これを避ければ大丈夫』というような簡単な話しではない」ということに気づいてもらいたい、と思っている。食の問題であれば、化学的・生物学的・物理的なリスクが組み合わさっていて、そこには、必要量の食料の確保、環境影響、経済性、栄養、味、外見、文化、道徳などが関係してくる。それらを網羅し、ひっくるめて語るのが科学技術コミュニケーションだと思う。

消費者、市民とは誰か
リスク・コミュニケーションに参加する人たち、パブリックコメントを送る人たち、抗議運動をする人たち、行動しない人たち、無関心な人たちなど、いろいろな人たちがいる。「消費者」「市民」に定義はない。我々がこれまで、「市民」「消費者」といっていたのは「仮想市民」「仮想消費者」でしかない。私たちは「仮想市民」「仮想消費者」に語りかけていたのではないか。

新しい消費者活動
例えば、食品表示一元化検討委員会について。フーコムでは、表示を食の安全や品質等にかかわる情報を事業者から消費者に直接伝えることができる非常に重要なツールであると考えている。企業には、表示の意義を把握してもらいたい。表示で科学的な事柄を伝えるのは難しいが、とても重要なこと。事務局長の森田は検討会委員になっていたので、フーコムにはあえて記事を書かず、フーコムには他の表示に詳しい方に投稿していただいた。
表示一元化検討会の報告書に不満をもつ消費者団体が消費者庁長官に非公開で会って陳情したりしていた。フーコムは他のグループと一緒に「公開で議論してほしい」という要望書を提出した。その結果、マスメディアが傍聴する中で、意見交換会が開かれた。
従来型の消費者団体とコストに見合った要求をする消費者団体が半々参加したこの会合は、消費者団体の歴史の中でエポックメーキングだったと思う


森田満樹さんから

食品表示一元化の検討では公開を求めて活動してきた。現在は、食品表示一元化のための法制化作業が行われているが、事業者は意見交換会に消極的な気がする。このままでは、食品衛生監視員が表示監視委員になってしまうのではないかと懸念する。


質疑応答
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • フーコムへのアクセスはどのくらい→記事がとりあげるテーマによって、千差万別。タイミングよく話題の情報を提供できると1日に万単位になる。
    • なぜ消費者団体と位置づけたのか、消費者団体の定義は→日本の消費者は食品の心配事を企業に質問する。欧米の多くの国は行政が信頼されている。我々は、行政、企業のどちらでもない第三極。欧米には、食品の問題について専門に、科学的な根拠を持って調査したり批判したりする市民団体がある。しかし、日本では現状、少ないように思える。行政も企業も仕事を離れたら、消費者のはず。みんなが消費者だと考え、いわゆる第三極は消費者団体という位置づけを考えた。 
    • 「倫理」はどう解釈するのか→遺伝子組換え、クローン牛など、感情、文化を背負った事項について「倫理」という言い方がされる。放射性物質が降ってきた地域の人たちの暮らしと生産を考えるとき、応援しようとするとき、倫理が関わる領域は広い。倫理は、人が行為を選択するときの基準のひとつと考えている。
    話し合い 

    3つのグループに分かれて、グループディスカッションを行いました。各グループからのまとめは以下の通りでした。「新しい消費者団体とした活動に期待し、支援したいと思っている」という意見は、3つのグループに共通したものでした。

    ○ 第1グループ
    フーコムのあり方について思うことは、既存の要求をするいわゆる消費者団体があって、別の視点に立つフーコムがあって良いと思う。消費者の視点から情報発信していただきたく、会員構成や消費者目線を明確にして発言をしていく。編集長が科学ライターであることは「知る人ぞ知る」であってよいのであり、あくまで消費者のスタンスで合理的な主張を貫くことが良いと思う。そんな団体は日本では少ないからこそフーコムの存在が重要であると思う。
    構成員が明確であり、いわゆる旧来の消費者団体ではない立ち位置を明確にしていけば良いと思う。
     フーコムは正しい情報発信を迅速に行える消費者団体であり、フーコムにアクセスすれば正しい情報が得られる存在に行き着けば良いと思うし、それを期待している。

    ○ 第2グループ
    フーコムは、専門性が高く、いわゆる消費者団体のイメージがない。だから別の呼び方、適切な日本語表現がないのではないか。よって、いろんな消費者団体があってしかるべきである。それを許容できる社会であってほしい。現状において消費者と企業は対立軸ではなく共生の関係であってほしい。また科学でなく政治が介入してしまい、最後にどんでん返しになってしまう現実は嘆かわしいことだと思う。

    ○ 第3グループ
    フーコムの立ち位置については、消費者団体としての情報が斬新であり、消費者団体といった認識はなく公平性を追求されている。「メディア」という印象さえ受ける。
    だから、アレルギーをもった母親らがフーコムを通じて意見が言える、いわゆるコミュニケーションの媒介者としての役割を担ってほしい。また情報源として大いに活用させていただける存在になってほしい。一般に企業と消費者団体は対立的であるため、中間的な役割を担ってほしい。