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茅場町バイオカフェレポート「健康食品の現代的意義-ヒトと人のミスマッチを埋める-」

 2012年9月14日、茅場町サン茶房でバイオカフェを開きました。お話は高橋迪雄さん(東大名誉教授)による「健康食品の現代的意義-ヒトと人のミスマッチを埋める-」でした。はじめに福田徳子さんにより、「愛の挨拶」、「赤いサラファン」などのなじみ深い楽曲がフルートで奏でられました。蒸し暑い夕方の清涼剤のようでした。

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福田徳子さんによるフルート演奏 高橋迪雄さんのお話

高橋先生のお話

はじめに
東京大学時代、獣医生理学教室で、主に生殖生理学でホルモンの研究をしていたが、後に味の素の健康基盤食品の立ち上げから12年間関わった。今は、グローバルニュートリション㈱で若い人達と楽しく仕事をしている

現代は健康食品の市場が混乱している。女性は90歳、男性は86歳で最も多くの方が亡くなる。昔は60歳まで生きられたらいいと思われていたが、今は人生の設計図が30年延びた。60歳過ぎてどう生きたらいいのか。そのための栄養学はどうか。高齢者の栄養学・健康は未知の領域。
産業革命(蒸気機関)、緑の革命(麦の増収)、IT革命(コンピューターとヒト頭脳の融合)、そして医療革命があったが、人口増加と長寿に、科学・技術は貢献できたか。 
動物の死ぬ最大の理由は、高齢で体が弱ったときの感染症だった。ヒトは一生、無菌の水を飲み続け、清潔な環境で暮らし、感染症にかかっても、抗生物質で生き延びられる。これは生物の歴史の中ではむしろ「不自然な環境」と言える。

健康基盤食品
生物としての「ヒト」と文明人としての「人」の間には乖離がある。生物としては、子孫を残せないメス、狩猟・労働しないで生きているオスは意味がないことになる。
砂糖を結晶させ、油成分を搾油して大量に摂取したり、「長い飢餓と短い飽食」の枠組みを外れて、食物が常に安定的に供給されたりするのも、人類史上かつて無い、生理的には極めて負荷の強い営みである。
ヒトの最長寿の記録は120歳、生殖寿命は50歳(普通の動物はこれで死ぬ)。生殖寿命を超えたヒトが働く世代の邪魔にならないようにすればどうしたらいいのか。本来のヒトは生殖寿命を過ぎて、今で言う生活習慣病で死を迎えていた。
健康基盤食品とは、疾病を治すのでなく、疾病と診断される前に心身の不調をみつけ、健康基盤食品(生物活性のある物、体の中で使っている物など)で不足を補うことで、加齢による障害の進行を極力遅らせて、結果として複数の疾病が累積することで急速に死に向かう手段と考える。即ち、「死ぬまで元気」を実現するための手段である。

ビタミンDの問題
16世紀アイルランドでジャガイモが主食になると人口が増加し、その人々がイギリスの産業革命を支えた。霧深く、煤煙に覆われ日照の少ないイギリスで、アイルランド人労働者の家庭の子どもにクル病が多発。くる病はイギリス病と呼ばれた。原因が、タラ油などで補えるビタミンD不足とわかったのは100年後。
ヒトの祖先が二足歩行を始めたのは700万年前。ホモサピエンスは20万年前にアフリカで出現。5-7万年前、彼らはアフリカを出た。そこで出会った、明らかに肉体的能力に優れたネアンデルタール人には、ホモサピエンスは投擲器を使って勝ち残り、全世界へと拡がった。ホモサピエンスは紫外線の強いアフリカで、体毛のほとんどない皮膚を皮膚ガンから守るために、黒人として成立した。
ビタミンDはビタミンと名が付いているが、紫外線を浴びれば、自分の皮膚で作ることができる。黒人としてアフリカを出た人類の5-7万年後の子孫の皮膚の色が緯度に応じて規則的に変化するのは、ビタミンDの合成が如何にヒトの生き残りに大切であったかを示している。紫外線の少ない北欧では、紫外線の吸収能力の高い「白人」しか生き残れなかった。アメリカに連れてこられた黒人は、「高緯度で紫外線が少ない割には肌の色が濃く」、ビタミンDをつくる能力が低い。アメリカの黒人には、白人に比べて健康問題(健康の不平等)が起こりがちだが、それは貧乏や教養の問題と言うより、アフリカとは異なる環境に置かれたためだと考えられるようになりつつある。
ビタミンDはステロイドホルモンの一種で多くの遺伝子の発現を、遺伝的にも、食事を含む環境によっても(エピジェネティックなやりかたで)変える事ができることが最新の学問の進歩が明らかにしている。日光に当たって、ビタミンDを体内で合成するには、その基になるものが必要だが、年をとると肝心なこの基が少なくなる。高齢者の日光浴は皮膚ガンの発生は促進するが、ビタミンDの供給のためには意味をなさないことになる。ビタミンDは、サプリメント、健康食品の現代的意義をよく表している。「人類の肌の色を決めるのに役立ったのは、ビタミンDの働きのうちのどれだったか?」は興味ある設問である。私は、脳のある特定部位に対する作用ではないかと考えているが、これは今後解決されるべき課題である。

睡眠
ヒトの眠りは、ノンレム睡眠とレム睡眠からなる。深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が取れると、レム睡眠が現われ、その時は夢をみる。ただし、直後に覚醒しないと夢は憶えていない。明け方比較的長いレム睡眠が取れた後に目覚めると、夢を見たことを憶えており、さらに、子供の時のようなすっきりとした目覚めを迎えることができる。逆に徐波睡眠の出ない、浅いノンレム睡眠に終始すると、レム睡眠が出現せず、長い時間眠っているにもかかわらず、目覚めがとても悪い。
自動車が走っているときは整備できないように、脳は睡眠状態の間に整備される。外部刺激を遮断した状態で頭をリセットできて、次の日が来るのが良い。寝ていても脳の活動の8割は残っている。ノンレムは整備中の状態にたとえられる。整備が正しく行われ、脳がリセットされたかどうかの試運転が必要。レム睡眠はこの試運転に例えられる。試運転中は「夢が実現」しないように、身体の筋肉は脱力して動けないようになっている。
成人は、1晩に90分睡眠が3-4回、子どもは5-6回まとまって繰り返す。幼児や動物の眠りは、ばらばら。高齢者は幼児や動物に近くなり、まとめて眠るのが下手になる。ヒトがまとめて眠るのは狩猟などの集団の作業をするためで、長時間続けて起きているために、結果として、本来の睡眠の特徴を無理に押さえ込んで、まとめて眠るようになった。
ヒトは、昼は活性が高く、夜は低いという日内リズムを持ち、本来はこのリズムに乗って睡眠が取られていた。睡眠は昼間の活動で心身の疲労が溜まるから必要になるもので、その必要度を「睡眠圧」と言い表す。例えば、徹夜すると睡眠圧が上がるから、翌晩は直ぐに眠れる。逆に昼寝をすると睡眠圧が上がらず、寝付けない(入眠困難)。昼間の生活強度が上がれば、入眠はスムーズになり、生活強度が下がると入眠が難しくなる。生活強度を上げるためには、意識して脳を使う(考える 動く)ことが大切である。
不眠には、①寝付けない(入眠障害)、②途中で起きる(中途覚醒)、③朝早く目が覚める(早朝覚醒)④朝起きてすっきりしない(熟眠障害)の4種類がある。
睡眠薬は①〜③によく対応しているが、徐波睡眠の出現がほとんど無く、レム睡眠が現われないことが多いために、熟眠障害への対処は難しい。
睡眠薬は覚醒度を落として眠らせるから、昼間に飲んでも眠くなる。1)昼間飲んでも眠くならず、夜飲むと眠くなるものが作れないか?また、2)睡眠薬が苦手とする「熟眠感」を与えるものが作れないか?夢のような話だったが、偶然にそのような素材に巡り有った。
きっかけは、ある素材のヒト試験で使ったプラセボ(偽薬)としてのグリシン。ヒト試験に参加した社員が、プラセボのグリシンで「いびき」をかかなくなったことに気が付いた。その後、眠りにくい条件下のネズミにグリシンを与えると、よく眠ることが判った。
グリシンを与えたネズミに何が起きているかを調べると、深部体温が下がり、しっぽの血流の上がっていることが判った。赤ちゃんは眠くなると、手足、顔が温かくなる。これは、体表に血流をまわして、深部体温を下げているから。それと同じことがネズミに起きていた。このときに、グリシンを摂取すると脳脊髄中のグリシン濃度がわずかに上がり、NMDA型のグルタミン酸受容体(グリシンの結合部位を持つ)が活性化されることがメカニズムであることも見付けることができた。
グリシンは睡眠の初期段階に徐波睡眠を出させる作用があり、その結果レム睡眠もよく出現するようになり、睡眠の必要時間が短縮することで、比較的朝早く、レム睡眠の後に自然に覚醒することが多くなり、熟眠感が得られる。普段睡眠障害のない人も、熟眠感が足りない時、疲れたとき、時差ぼけのときに、長い睡眠時間が取れない時、などは効果感の得られることが多い。なお、昼間は飲んでも眠くならないのは、人には、昼間に活性が上がっている(覚醒度が高い)日内リズムがあるからと考えると、よく説明できる。だから、グリシンには、睡眠薬のように覚醒度を下げる直接作用が無いことも推論できる。

健康基盤食品とは
・医師、薬剤師、歯科医師に介在してもらって用いるのがいい。
・複数の素材がまざった食品の検証は難しいので、有効素材の数は最小限にするべき。
・健康基盤食品のアクセプタンスが高まると、多くの人に摂取してもらいデータが集まる。
・無いことが望ましいある特定の症状を「健康食品」のある素材が改善できることが判れば、その症状は「疾病」と考えるべきで、それを改善する素材は、既に「食品」である必要はない。
・グリナのようなメカニズムと効果が明らかな素材は、対象とする症状を外形的に限定できれば、「対象とする症状」を「疾病」と定義した上で医薬と考えても何らおかしくない。例えば、「高血圧」自体が「疾病」と考えられるようになったのはごく最近のことで、以前は、「高血圧」の存在すら誰も知らなかった。


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会場風景 会場風景


話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 娘が生まれて3ヶ月でドイツに行ったとき、ビタミンDをのませた。4-5年いる間、飲ませていたが、大人は飲まないほうがいいといわれたが→日本の目安は200IU、上限は2000IU。クル病はこどもの骨の成長に関係する。クル病に対する用量が設定されている。自己免疫、欝など、ビタミンDに関係すると考えられるターゲットが増えている。自己免疫や欝のためには、2000-4000IU摂取しないとだめ。ガン抑制のために、1万IUの錠剤がアメリカでは販売されている。ビタミンDは、遺伝子に働きかける物質(活性型)そのものでなく、活性型を作る基の素材の位置付け。過剰に摂取すると、不活性型へ変える仕組みがあるので、過剰摂取の害は、理屈上も起きにくいと考えられている。
    • 私はうつ病だった。睡眠障害(途中覚醒が多かった 疲れがとれない)があり、お酒をのんだりしたが、医者でうつと診断された。薬で途中覚醒をおさえている。今日の話を聴いて、欝の人のゆるやかな改善にグリシンはいいのではないかと思った→中途覚醒は、もともと生理的なものだから、30分くらい以内に、また眠れたら問題はない。それでも眠れなかったら、思い切って起きて、普段の活動を始めれば、次の日は睡眠圧が上がっているから「睡眠障害」は回避できる。午前3時に起きてテレビをみても、パソコンしてもいい。眠ることを目的にしてしまうのが問題ではないかと思う。眠ることより、昼にどう活動するかが大事。眠るのが目的で無く、昼間の活動を活発に、豊かにするために眠っている。入眠に問題を抱えている人は睡眠薬をのんでもいいし、グリシンがすべての欝症状に対応できるとは思わないが、グリナを良い睡眠を取る切っ掛けに使ってもらえれば、開発者としては嬉しい。「眠れなくたっていい 悪夢でも、夢を見ないよりまし」と、睡眠をもう少し気楽に考えたらいいのではないかと思っている。
    • 欝で会社を休むことが負のプレッシャーだったが、会社に行かないために、睡眠圧が低くなっていたと思った。自分で納得して会社に行くのが大事だと思う。
    • グリナはいつのむのがいいのか→寝る時に飲むと、30分くらいで体温が下がる。入眠作用は弱いが効く人にはとても感謝されている。
    • グリナを3本飲んだらどうなるか→値段が高い以外は問題はない。ただし、脳脊髄中のグリシンが作用している部位の有効濃度は決まっているので、量を増やして効果が大きくなるわけではない。グリシンは非必須アミノ酸で、体内でも沢山作られている。したがって、口から取るものが多くなれば、自分で作る量を減らすような仕組みが存在する。
    • 過剰摂取で悪さをしないか→健康基盤食品は10倍量をとっても問題がおきない程度のレベルにしておく必要がある。トクホは10倍量で安全性試験をしている。
    • グリシンは食品から摂取できるか→もちろん食品から摂取できる。ただし、タンパク質を消化・吸収した上で始めてグリシンは血液中に入るから、血中に高い鋭いピークを作ることはできない。従って、グリナのような作用は期待できない。
    • 外から摂取すると、体の合成能力は落ちないのか→例えば、副腎皮質ホルモンを飲んでいると、やめたときに体内で合成できなっていることが大きな問題である。タンパク質は体内で常に「つくっては壊し」を続けている。必要なタンパク質が壊された瞬間に、必要なアミノ酸が供給されて新しいタンパク質が作れないとだめ。したがって、非必須アミノ酸は、ホルモンなどとは全く異なり、沢山外から摂ったから、作る能力が下がるというようなものではない。
    • 私はサプリを飲んだことがないが66歳になった。サプリはとるべきか、誰が決めるのか→人間は生物学的にあるべき姿と違う姿の生活を営んでいる。その乖離をうめるのにサプリがあってもいい。飲んでも意味がないサプリは多いと思う。本当にヒトと人のミスマッチを埋めるサプリを、責任ある企業が作るのがいい。その結果、合理的でない健康食品が淘汰されていくことがいいと思っている。
    • 先生は飲んでいますか→自分たちが開発したものを飲まないのは申し訳ないので、発売前から飲んでいる。自分の責任で商品化されたものは、全て、毎朝、がばっとのむ。長期間飲んで問題がないか、飲み合わせで問題が生じないかなどの実証していくために、死ぬまで飲むつもり。その結果、人より元気だと思えるようになったら、言うことはない。