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つくば農場見学会(7月28日)開催報告

 7月28日(月)つくば農場見学会がスタッフを加えて49名の参加者を得て、開催されました。今回は約半分が看護専門学校の学生さんたちでしたので、老若男女和やかに見学、講演会を行うことができました。梅雨明け間近、雨にも降られず広い農場の中を歩き回り、かなりいい運動になりました。


(独)農業技術研究機構 中央農業総合研究センター
試験研究圃場(説明者:香西修治業務第1科長)

 研究所がある観音台本部地区圃場の広さは約22.5ヘクタールあり、一周は約2.5kmあります。圃場は大きく7区画に分けられており、各区画は研究目的によりさらに細かく分けて使います。
 所内にはコシヒカリほかのいろいろな稲を植えた水稲見本園、役に立つ畑作物を植えた畑作物見本園、畑にはえる代表的な雑草を植えた雑草見本園の三つの見本園があります。水稲見本園にはミルキークイーンやコシヒカリ、キララ397や昔の品種など45種類の稲を植えてあります。また、畑作物見本園ではハトムギ、アワ、キビ、ヒエ等の食用雑穀類、綿、亜麻、ジュート、藍などの工芸作物、ゴマ、ナタネ、ヒマワリなどの油糧作物ほか58種類の作物を栽培展示しています。雑草見本園では畑でよく見かける37種類の雑草をお互いに混じらない状態で栽培して展示しています。ここから得られた純粋な雑草の種子は雑草の生態や有効な防除法の研究に使われます。
 夏の圃場は、研究用作物が栽培されている圃場と冬作物(主に麦)栽培のための準備をしている圃場に分けられます。圃場全体にトウモロコシやダイズが植えられている圃場は、冬に使う圃場です。夏は生育の旺盛な作物を栽培し、9月〜10月に小さく切り刻んで土の中にすき込み、肥料にします(緑肥という)。こうすることにより畑の地力が高まります。また、畑全面に同じ作物を同じ条件で栽培すること(均一栽培という)により、土の条件を同じにする効果もあります。試験研究圃場では畑の条件を同じにすることはとても重要です。均一栽培では農薬類は最小限度しか使用しません。多くの場合、種を播種した後に除草剤を1回だけ土壌表面に散布します。これで、大部分の雑草を抑えることができます。場所により雑草が発生してくることもありますが、緑肥用のトウモロコシやダイズが雑草よりも早く大きくなり日光を遮ると雑草は大きくなれないので、問題になりません。しかし、最初の除草剤をうまく効かせないと雑草が大問題になります。
 子実の収穫まで行う圃場については各県毎に定められている防除規準(ここでは茨城県の防除規準)に従って除草剤、殺菌剤、殺虫剤を使用します。一般的には播種後の土壌表面に土壌処理除草剤を散布し雑草の発生を抑えます。作物が大きくなる途中で病気や害虫が発生すると、それぞれに対応した殺菌剤や殺虫剤を散布します。薬剤は栽培期間中の使用回数が決められているので、その回数を越えないようにします。実際に最初の除草剤だけで雑草を完全に抑えることはなかなか難しいものです。試験研究圃場では雑草により作物の生育が影響を受けることは許されませんので、雑草が発生した場合は特定の雑草にのみ効果がある選択性除草剤を使ったり、人手による除草を行います。試験研究圃場ではこのほかにも研究のため、一般農家では行わないような手間をかけた管理作業を行うことがあります。
 この圃場で栽培されているアマランサスは、リジンの量を増やすこと、栽培しやすいように草丈を短くすることを目的として資源作物育種研究室が研究しているものです。約100種類のアマランサスが栽培されています。アマランサスは人気の高い雑穀で、粉にして小麦粉に混ぜビスケットやせんべいに加工され、市販もされています。近い将来に新しい品種が出ることを期待しています。

 アマランサス

 冬にはうどん用小麦、病気に強い大麦の育種研究のため、10月末から麦を栽培します。冬作物の試験研究に使用しない圃場には緑肥としてエン麦、ライ麦などの麦類を均一栽培し、翌年3月頃に畑にすき込みます。試験研究圃場はこのように、夏作物用圃場と冬作物用圃場を半年間ずつ休ませるようにして使用しています。


稲見本水田に植えてある稲の一覧表 お米の品種45種が1列ずつ植えてある稲見本水田(手前)と役に立つ作物が植えてある畑作物見本園
稲見本水田に植えてある稲の一覧表 お米の品種12種が1列ずつ植えてある稲見本水田(手前)と役に立つ作物が植えてある畑作物見本園
畑に生える雑草の見本園 背の高いトウモロコシは畑の地力を増すために植える緑肥
畑に生える雑草の見本園 背の高いトウモロコシは畑の地力を増すために植える緑肥
大麦・小麦の育種圃場。秋の播種までの期間は大豆を植えて緑肥にする 大豆畑で機械や除草剤で取り除けない雑草をとる作業をしているところ、手前の畑は雑草の試験栽培中
大麦・小麦の育種圃場。秋の播種までの期間は大豆を植えて緑肥にする 大豆畑で機械や除草剤で取り除けない雑草をとる作業をしているところ、手前の畑は雑草の試験栽培中
健康食品として期待されるアマランサスの育種圃場
健康食品として期待されるアマランサスの育種圃場

独立行政法人 農業生物資源研究所
(説明者:宮原遺伝子設計研究チーム長、半田新機能開発研究チーム長)

 はじめにビデオで本研究所の役目、遺伝子組換え技術の種類などの説明を受け、どんな遺伝子組換え農作物を利用した食品が出回っているかが説明されました。
 隔離温室としては閉鎖系温室32u 6室、非閉鎖系温室64u 2室があります。ここでは、遺伝子組換え農作物の環境に対する影響について閉鎖系温室で栽培し、成分分析、遺伝子の存在と形質の獲得の確認、近隣の植物への影響などを調べます。排水や排気は排水溝、陰圧、ヘパフィルターによって制御されています。使用された土、植物、水はすべて高圧蒸気滅菌をしてから外に出されます。文部科学省の実験指針に従っていますが、これからはカルタヘナ議定書国内担保措置法に従うことになるので法的罰則が伴うようになります。今まで、閉鎖系温室で今まで試験されたもので、途中から栽培を中止しなくてはならなくなった遺伝子組換え作物はありません。
 農業生物資源研究所の研究成果をパネルを使って説明していただきました。ここでは花粉症や貧血に効くものや、コレステロールや血糖値を下げる効果がある機能性米が研究されています。
 灰色カビ病耐性きゅうり(イネの遺伝子を導入。野外試験は終了しているが、実用化はまだ)、光合成能力を高めるためにトウモロコシの遺伝子を導入したイネなどが開発されています。
 遺伝子組換え技術の利点は導入された遺伝子がわかっていることで、開発期間は、安全性審査に要する時間を考えると従来の交配より早いとはいえません。


つくばリサーチギャラリーに展示されている作物種子の標本 非閉鎖系温室では、使った水の管理。窓はネットを張り虫、
花粉などの出入りを管理。空気は出入りできる。
つくばリサーチギャラリーに展示されている作物種子の標本 非閉鎖系温室では、使った水の管理。窓はネットを張り虫、花粉などの出入りを管理。空気は出入りできる。

独立行政法人 農業環境技術研究所
遺伝子組換え植物隔離圃場(説明者:岡生物環境安全部長)

 平成2年に作られた日本初めての遺伝子組換え植物の安全性を評価する隔離圃場で、現在は全国で公立、民間を加えて21箇所に設置されています。遺伝子組換え植物も、海外から移入する生物と同様に、国内では新しい生物のひとつとして環境保全の視点から注意して扱わなければならないという立場をとっています。ですから、人の自由な出入りも規制され、長靴はき替えにより、中の土が外に出ないようになっています。
 ここでは組み込んだ遺伝子の存在とその発現が安定しているかどうか、近隣の植物への影響や、組換え作物を栽培した後の土やすきこんだ後の土に他の作物(ダイコン等)を植えて、変化がないかどうかを見ています。除草剤耐性作物の周辺植物への影響評価では、非組換えに除草剤をかけない場合と比較して、組換え体にそれぞれ除草剤をかけたときとかけないときの回りの雑草の種類や生育状況を調べています。今までにも、この隔離圃場では多くの組換え作物を対象に、研究や一般圃場で栽培することを目的に調査されました。
 現在は遺伝子組換えとうもろこし(デュポン社)2種類が畑で、遺伝子組換えイネ(作物研究所開発、アミノ酸のトリプトファンを多く含むニホンバレ、飼料用)が水田で栽培中です。

モニタリング試験について

 農業環境技術研究所では5年計画で、遺伝子組換えダイズとナタネのモニタリング調査を行っています。これらを継続して調査して、データを蓄積することが目的ですが、モニタリングの手法を開発することも重要な目的になっています。こうした調査手法の基準を国際間で話し合いながら、国内の実状に応じた方法と指針を提案することにも努力しています。


遺伝子組換え作物隔離圃場の正門(普段は鍵がかかっている) 隔離圃場では見学者所定の長靴に履き替える。後ろは場内の植物や各種資材を焼却処理する炉(高温焼却炉)
遺伝子組換え作物隔離圃場の正門(普段は鍵がかかっている) 隔離圃場では見学者所定の長靴に履き替える。後ろは場内の植物や各種資材を焼却処理する炉
(高温焼却炉)
遺伝子組換え稲(向かって右)と非組換え。まったく見た目は変わらない
遺伝子組換え稲(向かって右)と非組換え。見た目はまったく変わらない

講演会「遺伝子組換え農作物をとりまく情勢」
講師:(独)農業生物資源研究所 田部井豊 植物細胞工学研究チーム長

従来の品種

 育種ではまず目標を設定し、利用できる遺伝資源を探索します。突然変異などを利用して、変異を拡大して遺伝資源とすることも多く、そのあと交雑させ、新品種ができあがります。
 突然変異体をつくるためにコバルト60などによる放射線照射をします。色変わりキク、白いエノキダケ、20世紀ナシなどがこの方法で作られています。
 細胞融合でできたものにオレタチ(オレンジとカラタチ)などがあり、そのものは商品化されませんでしたが、品種改良の途中の段階で用いる間母本をつくることなどに利用できます。

遺伝子組換え技術の位置づけ

 一番大きい利点は入れたい性質が導入できることで、安全性審査にかかる日数を入れると開発期間はそんなに短縮化されません。

遺伝子組換え作物の利用の現状

商品化されている遺伝子組換え農作物:
   大豆、ナタネ、トウモロコシ、パパイヤ、かぼちゃ、
カーネーション、わた、てんさい
栽培している国:
米国、カナダ、アルゼンチン、中国、フランス、ウクライナ、
南アフリカなど
作付け面積:
1996年170万ヘクタールから2002年5870万ヘクタールに増加中

開発中の遺伝子組換え農作物

 たおれにくい(背丈が短い)遺伝子組換えイネや生産力が増加し、ワクチンなどに利用できる可能性のあるイネなどがあります。

社会的容認の難しさについて

 研究者がわかりやすい説明をしていないことも手伝って、育種、分子生物学の知識が十分でない消費者に安全性などがよく伝わっていないようです。基本となる生物学や科学の教育の充実が必要でしょう。
 また「組換え」ということばは誤解されやすいので遺伝子導入作物とよぶことで理解を深めることはできないでしょうか。今のままでは農業と消費者の距離が広がっていくばかりです。人は理屈だけでは動きませんから、時間をかけて情報提供する必要があると思います。


講演される田部井先生 講演会風景
講演される田部井先生 講演会風景

質問1:除草剤耐性遺伝子はどこで見つけたのか。
回答:土壌細菌から。

質問2:抗生物質マーカーを用いないマーカーがあると聞いたが。
回答:稲由来の除草剤耐性を利用して、除草剤で選択するしくみを日本で開発した。また、抗生物質耐性遺伝子を抜くことができるように研究中。

質問3:カルタヘナ議定書への国内の対応はどうなっているのか。
回答:国内担保措置法が成立しており、さらに省令つくりをしている。

質問4:食品の安全性はどのように考えているのか。
回答:既存食品との差で見る。具体的には組換え体の安全性、新しく合成されたたんぱく質の安全性(アレルゲン、人工消化液分解の様子。胃液だと15秒、腸液だと32分と報告されている)。
 長期影響についてはタンパクはアミノ酸に分解してしまえば蓄積しない。急性毒性は自主的に行われているようだ。

質問5:アレルギーは腸に傷がある人の傷から吸収されておこると聞いたが。
回答:アレルギーを起こすのはペプチド(アミノ酸が十数個から数十個つながったものでたんぱく質よりは小さい分子)が体内に入り反応するためで腸からは大きなたんぱく質は吸収しない。

質問6:EUで組換え農作物を認めたが、日本はどのくらい認めているのか。
回答:厚生労働省が認可した品目が55品目ある。

質問7:食品の主成分でなく微量な物質が組換えたことに変化したらどうなるのか。
回答:具体的な物質がわからないと、評価はできない。

質問8:非組換えの表示は組換え食品を悪く印象づけていると思う。
回答:非組換えは任意表示なので、不安を持っている人にとっては非組換えの表示は商品の差別化につながっているようだ。


 アンケート(37名分回収)によると「わかりやすかった」と「難しかった」が半々でしたが、遺伝子組換え作物の実物を見れたこと、日本の農業について考えたことがよかったという感想を多くいただきました。見学したのは研究施設なので、実際の農家とは様子が異なりますが、あつい一日、畑を歩き回っただけでも、私達にとってはよい経験になりました。各研究所のかたがたの暖かいご対応に感謝したいと思います。







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