「食品表示を考える〜食品表示の一元化と適用範囲の拡大をめぐる議論」
2012年5月18日、食の安全安心財団・食の信頼向上をめざす会の共催で、意見交換会「食品表示を考える〜食品表示の一元化と適用範囲の拡大をめぐる議論」が開かれました。ふたつの講演とパネリストによる議論が行われました。
消費者庁 食品表示課 企画官 平山潤一郎氏
食品表示の一元化については、より多くの消費者が店頭で選ぶときにわかりやすく役に立つ表示を目指し、2011年9月から検討会において御議論いただいているところ。なお、2012年6月の報告書取りまとめに向けて全10回の議論を予定している。
中間論点整理とそれに対する御意見
2012年3月に、それまでの御議論を踏まえて「中間論点整理」を取りまとめ、4月まで意見を募集したところ、1084件の御意見が寄せられた。
新たな食品表示制度の目的については、「消費者の権利」を明記すべきとの御意見が多かった。
表示事項については、「表示事項を絞り込み、文字を大きくする」という御意見がある一方で、「義務表示事項の範囲を広げていくべき」との御意見があった。
食品表示の適用対象となっていない販売形態(量り売り、外食など)については、アレルギー表示を求める御意見が多かった。
加工食品の原料原産地表示については、「従来の要件に従って検討していくべき」「事業者の自主的取組を推奨する方向で行うことが適切」との御意見がある一方で、「原則としてすべての加工食品に表示義務を課すべき」との御意見があった。
栄養表示については、「義務化すべき」との御意見がある一方で、「現行の制度を維持すべき」との御意見があった。
論点についての検討方向(たたき台案)
食品表示の目的については、消費者基本法に示された消費者の権利を踏まえつつ、食品の安全性に関わる情報が消費者に確実に伝えられることを最優先とし、また、品質など消費者の選択に資するために重要な情報とすることを提案。
表示事項の変更については、慎重な検討が必要であるが、検討に当たっては、優先順位を考慮して検討することを提案。
表示を分かりやすくするための取組については、情報量にかかわらず、可視性を向上するための方策を提案。
食品表示の適用範囲については、外食や量り売りにおいて、アレルギー表示に係る情報提供が可能となる方策について検討することを提案。
加工食品の原料原産地表示については、これまでの「品質の差異」の観点にとどまらず、原料の原産地に関する誤認を防止し、消費者の合理的な商品選択の機会を確保する観点から義務付けることを提案。
栄養成分については、原則義務表示とした上で、栄養表示が困難な事業者については義務対象から除外して自主的取組を推奨することや、一定の場合に容器包装への表示を省略できることとすることについて検討することを提案。
考え方
食生活が変化し、自給できない食品は海外からのものを使うことになる。
いろいろなところから食材を得ていくうえで、表示は健全な食生活のために不可欠。
表示は消費者の知りたいことを伝え、供給側が知ってもらいたいことを伝える重宝な情報伝達媒体。
生産者から消費者までのつながりである「フードチェーン」が複雑になり、生産者と消費者の間が広がり、不明瞭で消費者の不安が大きくなる。その不安を払拭するために、表示に対する依存度が高まりつつある。
表示の実態
表示は、国産品の差別化のため、国際的調和を図るため、表示偽装事件の増加防止のためなどにより規制の強化が行われてきた。
食品の産地偽装は、平成19年4件から平成21年には34件になり最近落ち着いてきて12件。それに伴って検挙される人員数は増減している。
「消費者基本法」が平成16年6月に制定され、安全が確保され、必要な情報が提供され、消費者は適切な選択ができ、消費者教育を受けられる権利などが基本理念として記されている。
「食品安全基本法」では、国民の健康保護が最優先とし、食品供給行程の各段階で適切な措置が行われ、食品関係事業者は正確で適切な情報を提供することが定められている。食品安全基本法の第18条に定められているように、表示制度が適切に運用され、消費者に食料の消費に関する大切な知識を与えるものであるべき。
食料・農業・農村基本法では、基本計画の策定が決められている。具体的には、原料原産地表示義務付けの拡大、インターネット販売の検討、生産者による品質 管理、消費者対応情報の積極的提供、消費者による適正評価機会の増大、事業者の実行可能性の確保について検討している。
表示を通じて、消費者、事業者の理解が進み、信頼関係ができるようにすることが大事だが、消費者、事業者といってもいろいろな立場の人がいるので、よく考慮しなくてはならない。
表示について本格的に議論したのは今回、初めてではないかと思う。
唐木英明氏(倉敷芸術科学大学学長・食の安全・安心財団理事長・食の信頼向上めざす会会長)の司会により、パネリストと講師によるパネルディスカッションが行われました。初めに各パネリストからの意見が述べられました。
「表示がわかりにくい理由の検討が必要」
朝日新聞 生活グループ 編集委員 大村美香氏
わかりにくい表示を改善することが表示一元化検討の目的なのに、文字が小さいなどの物理的要因だけがわかりにくさの原因として取り上げられているようにみえ る。わかりにくい理由には、対象となる食品の範囲が複雑で例外が多い、「レス」「ノン」「無」などの強調表示の意味が一般に普及していない、といった点も あると、取材を通じて感じている。栄養表示は消費者にプラスになると思うが、すべての食品で即刻実施が難しければ、対面販売などの食品は、当面例外扱いに してもよいと思う。
「観念の議論より、科学実証性に基づく論理的議論を求める」
(社)日本植物油協会 専務理事 神村義則氏
食品の表示は、科学実証性に基づく論理性を基本にしなければならない。政治家は、観念や情念で語ることが許される存在かもしれないが、行政庁は、科学実証性に基づく実行可能性を基礎に議論を組み立てねばならないが、現在の消費者庁には、行政機構としての責任感が見えない。
また、基本事項の一つ一つをきちんと定義し、その上に議論を組み立てねばならないが、例えば、基本となる用語である「食品」、「原材料」、「原産地」の定 義を巡る議論が希薄で、検討会の各委員が同床異夢の概念を前提に議論している状態にある。有識の委員から論理的意見が提示されても、すぐに大きい声にかき 消されている。委員の発言にはない「取りまとめ」が行われるのは、消費者庁の事務方が、委員を軽んじているからであろう。
「一元化すれば、すべての問題が片付く」かのごとき幻想を横行させてはならない。現行の食品表示3法を継続することは、それぞれの理念とそれに基づく制度 が有効であることを意味する。表示は、それぞれの理念を表現する手法に過ぎないことが忘れられている。下部構造をそのままに上部構造だけ変えることは、洋風建築の基礎に日本家屋の屋根を載せるようなもので、破綻することは目に見えている。
実証性は、制度の管理・監視を的確に行う上で必須の事項である。観念的な大きい声により制度を作って、監視ができないのでは意味がないことである。消費者庁は無責任行政を行ってはならない。
表示は、食品の情報を伝達する手段であり、多くの情報を得たいという意見は重要であるが、同時に、限られた空間に効率的に記載するという現実的機能を踏まえて議論されなければならない。
「見やすい表示のために義務表示事項は必要最小限にとどめるべきである」
全国和菓子協会 専務理事 藪 光生
表示は、食品のアイデンティティを示す上で重要なものであるが、検討会の議論を聞いていると本質や根本的問題についての検討が欠けている。食の安全性、利便性から個包装化が進んでいるが、現在定められている30㎠(5㎝×6㎝)以上のスペースにできる見やすい表示といえば、自ずから表示内容に限界が生じることは当然である。栄養成分表示を義務化すれば、正確な数値を記載することが不可能であることから、許容範囲とする20%の誤差を悪用する不正表示が増える 可能性もあり、これでは監視、指導、摘発はできない。それでは法とは言えない。海外には原産地表示の考え方がないから、輸入したものにそれを求めることは できず、輸入産品と国内産品との間に不公平が生じる。こうした不完全なものは義務表示にすべきではなく、現行の任意表示で充分だと思う。民主党のマニフェ ストに「自給率向上のために原料原産地表示をする」とあるが、それは大切なことではあるものの、原料原産地表示を拡大すれば自給率が向上するという根拠は どこにもない。表示義務拡大は閣議決定があるからと、それを前提として充分な検討を経ず義務化を拡大しようとする消費者庁の姿勢は非常に問題である。又、 表示については事業者、特に小零細事業者の実行可能性ということを考えなければならない。表示義務化を拡大することにより、調査、分析や人件費などの費用 が負担となって、地域の中で日本の食を支えている小零細事業者が廃業することにでもなればシャッター通りを助長することにもなりかねない。見やすい表示で あるためにも表示義務事項は必要最小限にとどめ、その他は任意表示とすることが正しいと考える。
「消費者庁での表示を検討する意味を考える」
消費生活コンサルタント 森田満樹氏
こ れまで食品表示をトータルで議論する場がなく、わかりにくい表示をわかりやすくするためには、現行の表示のレビューが不可欠であると思う。しかし、検討会 では時間が限られており、①新食品表示法の目的と対象、②原料原産地表示、③栄養表示について、10回の議論でまとめるのがやっとで、レビューまで至らないのが現状だ。消費者庁は消費者団体が長年待ち望んでいた組織であり、消費者、事業者とも協働によってよりよい解決の道を探りたい。
新しい食品表示は安全性が最優先であり、合理的選択ができるような表示。栄養成分表示については、海外の状況などを考えると、実現可能ではないかと思っている。実行可能性を十分に検討しながら、事業者と消費者をつなぐ表示であることを願っている。
「消費者にも事業者にもメリットがある表示」
主婦連合会 会長 山根香織氏
自分や家族の食べ物について知り、選択するためにわかりやすい表示は必要。消費者にとって表示を見て買うことは大事。また、日本の生産者を応援したい。一方、表示でほしい産地が選べているかという疑問もある。
消費者は表示を見るべきだが、事業者にもみてもらおうという態度が必要。
表示に関係する規制は、継ぎ足しながらの規制のために、複雑になってしまった。
表示一元化のための検討を10回で行い、皆が納得するものにするのは無理。せめて、方向性を示すところまでできたらいいと思うが、できるところはやってい ただきたい。日本の消費者団体の注文が多いように言われるが、表示が進んでいるかというと、海外からみると遅れている。また、零細事業者を追い詰めること はしたくないと思っている。
私たちの要望は、偽装表示の防止、的確な選択ができるような表示法の整備。それは消費者だけでなく、事業者にとってもよいことだと思う。
その後、パネリストと参加者による話し合いが行われ、最後に、同財団理事長の唐木英明氏より次の様なまとめがありました。
「検討会は結論を6月までに取りまとめて、来年の通常国会において一元化の法案を提出する予定と聞いている。表示の問題を考えるときに大事なポイントがいくつ かある。第一は何が必要なのかについての論理的、科学的な検討、第二はこうして欲しいという消費者感情からの要求、第三は事業者が実際に実施できるのかの 検討、第四は限られたスペースにどこまでの記載ができるのかといった実現可能性、そして第五は現在の表示がどのように使われているのかの検証である。消費 者も事業者も合意できる点を探すという困難な作業を6月までの短い期間にぜひ達成していただきたい。」