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「原発事故から1年・食のリスクと風評にどう向き合ったか-この1年を振り返り、今後を考える」開かれる

 2012年3月26日、ベルサール半蔵門にて、食の安全安心財団・食の信頼向上をめざす会共催により、標記意見交換会が開かれました。2011年3月11日より、原子力発電所の事故と食のリスクについての情報提供を定期的に行っており、今回で7回目の開催となりました。


講演1:「食品中の放射性物質の検査について-現状と今後の取り組み-」

     厚生労働省 医薬食品局 食品安全部 監視安全課 水産安全係長 前川加奈子氏

これまで
震災後以来、厚生労働省では暫定規制値を定めるとともに、ガイドラインに基づき地方自治体において検査を実施してきた。原子力災害対策本部は内閣官房、原 子力安全委員会、消費者庁、文部科学省、厚生労働省、農林水産省と連携して、検査結果を基に出荷制限とその解除を決めてきた。
2012年4月から食品の新たな基準値が決まった。これは、事故発生時の基準をもとにした暫定基準値でも一般的に安全とされているが、より一層の安全・安心を確保するために、食品からの被ばく線量の上限を1mSvに引き下げることとなった。

新基準値の設定
飲料水、乳児用食品、牛乳、一般食品の4つのグループに分類。飲料水の基準は(WHOガイドラインを踏まえて)10Bq/Kgに設定した。飲料水からの線 量を差し引いて、最も摂取量が多い13〜18歳男子の限度値が最も厳しくなり、これを基に一般食品の基準値を決めたので、すべての世代を考慮したことになる。輸入食品も対象に含まれているので、食品の汚染割合は50%と見積もっている。
原材料だけでなく、加工食品にも基準値を適用することを原則とするが、乾物などは水に戻した状態で、お茶は抽出して飲料にした状態で基準値を適用する。
新基準設定に伴い、「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」が改正され、一般食品100Bq/kgに適応できるように、技術的な要件を見直すとともに、食品中の放射性セシウム検査法を新たに定めた。

検査計画のガイドライン改訂
出荷制限の指示実績をもとに検査の必要な自治体の分類、放射性セシウムの検出レベルに応じた対象食品の分類、検査の頻度の設定、検査計画の公表などがガイ ドラインに定められている。具体的には、対象の17自治体を「福島県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県」と「青森県、岩手県、秋田県、山形県、埼 玉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県」に分けて、放射性セシウムの検出レベルなどに応じた異なる検査頻度を示した。また、野菜、乳、 茶、水産物、小麦、牛肉、米に対する検査方法の考え方も見直した。
引き続き、国では新基準値の設定等についてリスクコミュニケーションを行うとともに、地方自治体の機器整備への財政支援、国立機関での検査受け入れ、流通段階での買い上げ検査を行う。 


講演2:「農業生産現場における対応-これまでの取り組み-」

          農林水産省 食料産業良く食品小売サービス課外食産業室長 山口靖氏

基本方針
「国民に安全な食料を安定供給」するために、①照射性物質検査が円滑に、迅速に行われるように関係県、生産者に科学的助言・指導を行い、②厚生労働省に協力することを基本方針としてやってきた。

米の調査結果
全国17都県、3,217地点で実施し、50Bq以下が99.2%。福島県の1,276地点で、50Bq/Kg以下は98.4%でその9割は20Bq/Kg未満(2011年11月17日時点)。
検査後に高い数値が出た理由を分析するために、土壌、用水、森林の状況を調査。暫定基準を超えた米の生産された水田のある地域は限定されており、23,247戸の農家で検査した結果、放射性セシウムが暫定規制値(500Bq/Kg)を超えた農家は38戸。
暫定基準値を超えた理由は、①土壌セシウム濃度が高く、カリウム肥料の施用量が少なかったためにセシウムがより吸収されたため、②山間部で深く耕せず根が浅かったために表層のセシウムを吸収したためと考えられた。
2012年度は100Bq/Kg以下の地域での作付制限は行わないが、それ以上の所では制限したり、全量管理・全袋調査を行ったりして対応する。

米以外の調査結果
17都県19,537点を調査した。85.4%が100Bq/Kg以下だった。検出されたのは、きのこ、お茶、野菜(3〜6月)。(2012年2月29日時点)
原乳は17都県、1,730点を調査し、50Bq/Kg以下が99.5%。これを超えた8点は3月のみ。
食肉・卵は全国80,334点で、98.7%が100Bq/Kg以下。

現場の取り組み
肥料、土壌改良資材、培土等の暫定許容値を設定し、これを超えるものの利用を自粛。
農地の除染、樹皮を削る、お茶の木の剪定、表土と下層土の反転による農作物の吸収を抑制し、暫定基準値を超えた飼料は家畜に与えない。
食肉・卵の出荷制限(4県)、畜産物の全頭放射性物質検査、牛乳・乳製品のモニタリングを厚生労働省と連携して実施していく。 


講演3:「風評被害の状況と現場の取り組み」

     (株)グリーンファーム代表取締役・うつくしまふくしま農業法人協会会長 高橋良行氏

私は福島のブランドを売るため、農産物の卸しをしていた。
3月17日、「放射能に汚染された食品の取り扱いについて」という通達が厚生労働省から来たが、対応について厚生労働省、農林水産省に具体的な案はなかった。
3月20日から原乳の検査公表が始まった。実際には燃料がなくて、農家は出荷できなかったので、汚染した作物は出回っていないと思う。
モニタリング検査を経て、2011年10月12日、福島県知事は安全宣言を行った後に、農家の自主検査で米から基準値500Bq/Kg以上のセシウムが検出され風評被害を助長した。農家自ら出荷を止めた。
2012年3月31日、牛肉から出たというので、再検査をしたら検知されなかった。それでも、さしの入ったA4〜5という等級の高級牛肉は2500円/Kgから300円以下になった。
検査値は生産者にとって、「つくっていい」という指標だと思っている。生産者がとてもつくりたがっているというのは真実ではない。全量全品検査・顔の見える流通、生産者と消費者の交流の中で、判断していく。
だから、葉たばこや加工用トマトの作付けは組合で自粛を決めた。南相馬市も、後から出たらいやだから自粛を決断した。今は、除染、果樹の樹皮洗浄を寒い中 で行って頑張っている。300Bqの飼料を食べた繁殖用牛の処分ができない、加えて堆肥の流通が止まっており、これでは廃業も出るだろう。我々農業法人の ような、自分で作って自分で売るという者は、在庫管理をしながら売っていき、生産された農産物の安全に責任を負わなければならない。それに対して一律に生 産から販売までを組合等々に委託している農家にとっては、代金の決済が終われば自分のものではないという意識があり。直売農家との温度差がある。そのことが 作るのか否かという温度差に繋がっているのではないか。
物産展で売れたものが駅で捨てられていたという話や、サービスエリアのごみ箱に福島みやげが山になっているとの週刊誌報道には傷つけられた。その中で、天皇陛下のお言葉「国民皆が被災者に心を寄せ・・・・」には涙が出た。

日本農業の社会貢献
ドラッガーの提言「顧客はだれか」にあるように、今までは顧客を考えて作ってこなかったことがわかった。TPPも同じ。農業がどうやって社会に貢献するの か。食料、農業、農村の問題を、事業性、社会性、革新性から考えて、安全な食料の安定供給をしなくてはならないと思う。これからは、社会に貢献する農業、 社会の中の農家(ソーシャルファーム)を意識していく。
福島は復興します!


講演4:「放射性物質に対する生協としての考え方と具体的対応-消費者にとって必要なこと-」

          日本生活協同組合連合会品質保証部本部長 内堀 伸健 氏

生活協同組合とは
生協には商品の開発・製造・販売・流通、安全品質管理、社会的発信・運動の3つの働きがある。
プライベートブランド商品の基本的な価値としては安全確保、品質の確かさ、低価格の実現をめざしている。
○東日本大震災に関する生協の取り組み
現地の対策本部に人員を派遣し被災地と被災地外の生協が連携できるようにし、①流通機能を利用して被災地支援、②組合員の支援、③地域復興の支援(COOPブランドを委託している被災地企業を応援など)を行った。
○放射性物質による食品汚染に関する基本スタンス
国の基準に沿って対応する。独自の基準は設けない。
しかし、組合員の不安に応える(実態がわからなくて不安な人には実態を解明する、得た情報はわかりやすく開示使用)。

国への要請
・食品モニタリング強化
・国は省庁横断的に市民に対して丁寧なコミュニケーションを行い、国民の不安に応えてほしい。
○生協の行う検査
(1)生協の検査の目的:行政モニタリングの補強、コープ商品の管理、組合員の不安に応える。
(2)検査対象:プライベートブランド商品(商品、工場)4,000件、問い合わせが多い食品、単協の生鮮物(検査機器がない単協のため)500件。
(3)検査実施:チェルノブイリ事故の時に購入した機器を使って2011年3月末から検査を開始。今は、検査機器を2台にして新基準値に対応する準備のための調整を行っている。
(4)会員生協との連携:検査機器の導入、検査の分担と連携(あまり必要のない地区に、混んでいる地区の検査を依頼するなど)

検査結果
プライベート製品は原料段階で検査し、加工後に廃棄するなどの無駄をなくす。原料より製品段階で検査した方が合理的なときは製品で検査する。

まとめ
これからも組合員の不安に応えていく(学習会での質問に答えるためにQ&Aを作成、電話問い合わせが震災後2,000件/月に増えて、なかなか減らない)。
国の基準を満たせばいいので、ダブルの検査はしないが、2012年も新基準値への対応を考えて、計画的にモニタリングを行う。

課題
・復興支援の継続
・取引先・製造委託先の合理的な分担(いつも同じ所の原料が使えるとは限らない)による検査ネットワーク構築
・組合員に対する情報提提供の強化 



「原発事故から1年 食のリスクと風評にどう向き合ったのか-この1年を振り返り、今後を考える-」

食の安全安心財団 唐木英明氏 ・森川洋子氏

食の安全安心財団が実施したアンケート結果を報告する。

消費者
8割が不安と答えながら、購入時に検査結果を見る人は数%で産地で選んでいる人が8割。
外食で気にしているのは「おいしい」「安い」で産地表示は9位(3.6%)だった。聞かれれば不安といいながら、産地しか気にしていないようにみえる。
本当は気にしていないのか、質問されると不安になるのか、消費者の本音がわかりにくい。

外食事業者
自主検査や検査依頼によって、事業者の6割が検査をしている。事故の影響が大きかったという回答は4割。影響の内容の第1位は売上減少、それに次いで自粛ムードや節電で客足が落ちるなどだった。
安全確認ができたら、積極的に東日本農産物を使う(薬4割)が、今は静観して扱っていない所が多い。

生産者
風評被害について関東、中部地方の人は2〜3年で終息するだろうと思っているが、東北の人はもっと長いと思っている。
これからの取り組みついて東北の生産者は、「いい品質の生産物をつくっていく」つもりだが、販売促進はしていない。

まとめ
事業者の6割が検査しているが、消費者の3%しか検査結果は見ていない。検査を求める一部の人たちの声に事業者は振り回されているのではないか。
行政以上の検査をすることは風評被害対策になるのか、行政のやっていることが信頼されていないことが問題なのか、それでは誰がリスクコミュニケーションをするのか。政府の信頼回復とリスクコミュニケーションが重要であろう。 



パネルディスカッション

講師に加え、合瀬宏毅さん(NHK解説委員)、阿南久さん(全国消費者団体連絡会事務局長)、奥地弘明さん(農林水産省食料産業局食品小売サービス課外食産業室課長補佐)が加わり、唐木英明氏の司会により、話し合いが進められました。

合瀬宏毅さんのお話
食品の安全性についてのニュース解説をしている。 放射能について専門家ではないので、この1年は手探りでその時にわかっていることを伝えるのに終始して きた。危機管理の視点からいうと危険性のわからないものはまずは止める。状況が分かったものから規制を弱めていくのが大原則。しかし放射能の影響について は、議論が分かれていたため、分かっている範囲で取材して対応するしかなかった。
人は理解できない状況に直面したときに不安を感じる。低線量被ばくについて、専門家の意見が対立していることで、人々の不安は増したと思う。放射性物質は 事故後に出てきたものだけではない。我々はカリウムがたくさんある中で長い間過ごしてきたわけで、セシウムとカリウムの放射線にどういう差があるのか、整理した方が良い。
福島での農産物作りは止めた方が良いという人がいるが、収穫してできた農産物を徹底的に調べるしか、不安の払しょくはできないと思う。それを報道していきたい。

阿南久さんのお話
47消費者団体が参加しているネットワーク組織にとって大変な1年だった。
放射性物質汚染についての学習会を5月から始めた。電力会社から節電のため冷蔵庫の温度対応を上げましょうという提案があったので、食中毒の学習会を行った。その他に被災地応援(福島県産品を使った食事会と学習)、産地訪問、討論会などを行った。
消費者基本法に「消費者は自主的に情報を得て、合理的に行動せよ」となっているが、消費者の情報源はテレビ、ラジオ、インターネットしかない。政府の発表、科学者の説明が不十分(わからない、不信だけが膨らんだ)。
行政や科学者は誠意を持って説明して下さい。
事業者はもっと検査結果をわかりやすく熱意を持って伝えてください。
メディアは不安を警告するだけでなく、問題の本質を伝えて下さい。
消費者も正しい理解と批判的な視点を持って学習していきましょう。
消費者庁は全国に検知器を貸与しており、消費者が持ち込んで測定することができる。また、リスクコミュニケーション推進への支援も行っている。情報共有して、共感の場をもっと広げて行きたい。

奥地弘明さんのお話
食品の検査、放射線の高い地域の作付け制限をしてきた。これからも適切に厚生労働省と連携していやっていきたい。
パネリスト、会場を交えて話し合いが行われました。主に次のような意見がありました。
・データ収集は行われているが、わかりやすい説明は難しい。
・自然放射やカリウム40とセシウムの体内での働きは同じだが、自然由来と事故によるもので異なるような誤解がある。
・私たちはゼロベクレルの世界の住んでいないことを伝えるべき。
・そんなに神経質になっていない消費者もおり、福島県産品も価格、タイミングで売れるのではないか。消費者からは被災地応援で買うという声はある。
・500Bqから100Bqへの基準値の変更の理由の説明が不十分で、今までは危険だったと思ってしまう人がいる。
・消費者は選べるのである意味では不安はない。生産者が安心して出荷できるようにすることが重要。


結びのことば 唐木英明氏

 厚生労働省には丁寧な説明を続けて頂きたい。風評被害対策は政治の安定と信頼回復が必要。すべての国民が福島復興を決意すること。現在の管理体制で健康が 守られていることを認識しよう。企業も福島排除をやめよう。メディアの論調がかわってきて、がれきを引き受ける地域がでてきたように、皆で努力しましょう。