2012年4月13日(金)、茅場町サン茶房にて、バイオカフェを開きました。 お話はアステラス製薬(株) 東康之さんによる「体を守る仕組みが体を攻めるとき〜免疫抑制剤について」です。初めに佐野理恵さんによるフルート演奏でした。春らしい選曲で「花」が演奏されました。
佐野理恵さんの演奏 | 東康之さんのお話 |
免疫とは
皮膚や粘膜は外界との最前線だから、菌が侵入しない構造になっていることも生体防御機能のひとつ。血液には体を守るために武装した細胞がある。代表は白血球でウイルスやばい菌から守る。血清成分にはイムノグロブリンが含まれている。赤ちゃんは母乳に含まれるイムノグロブリンで守られている。
白血球、リンパ球は自然免疫といわれ、防衛軍として体内をパトロールし、細菌、カビ、真菌をみつけて攻撃する。白血球の中には顆粒球とリンパ球がある。
顆粒球には、好中球(核がくびれている、感染でよく働く)、好酸球(寄生虫、原虫の駆除)、好塩基球があり、中に顆粒が入っている。最前線で最初の一撃を与える。菌を溶かすリゾチームやプロテアーゼ、かゆみに関係があるヒスタミンなどが入った袋を持っている。また、顆粒球は真菌、細菌が来ると、これを認識できる。
リンパ球には自己と非自己を見分ける力があり、敵を記憶することもできる。例えばBCGワクチンを接種すると、結核菌を記憶する。これを獲得免疫という。リンパ球の仲間には次のものがある。
T(胸腺由来)リンパ球 T細胞:侵入者を覚えていて、獲得免疫の指揮官。
B(骨髄由来)リンパ球(B細胞):侵入者に抗体(イムノグロブリン)をつくり排除する。
例えば、O型の血液型の人はA、B、ABに対する抗体を持っているので、A,B、ABの血液を貰うと赤血球の表面に抗体がくっついて溶かしてしまう。
ナチュラルキラー細胞:がんをやっつける。笑うとこの細胞が増えるという報告がある。
マクロファージ:顆粒はない。どん食細胞(攻撃の後の整理をし、異物を取り除く)好中球や好酸球の食べた後を片付ける。掃除をしながら、ゴミの中に変なものがあると、それを白血球に知らせる(提示する)。
血液を顕微鏡でみても、赤血球がほとんどで顆粒球は少ないからなかなか見つからない。そこで、重い赤血球が沈んでから上澄みをとって白血球を集める事が出来る。
T細胞には受容体(タンパク質)があり、相手にくっつく部位があり、くっついて自己と非自己を見分けている。
B細胞も受容体を持っていて、攻撃対象に合わせて抗体(イムノグルブリン)をつくる。
T細胞は、偵察にいっていたマクロファージが自分の食べたものをT細胞に見せて報告するので、そこで、自己・非自己を見分ける。そして、Bリンパ球に抗体をつくれと命令したり、T細胞自身を増やして攻撃準備をしたり、一部はメモリーT細胞になって記憶したりする。
自分を守る仕組みが自分を襲う時
臓器移植で非自己である他者の臓器がくれば、正常な攻撃を行う。これをコントロールできないと臓器移植は実現しない。
自己免疫疾患では自分を敵だと勘違いする。例えば、リウマチ、クローン病、川崎病、重症筋無力症(アセチルコリンレセプター)などがある。関節リウマチでは原因となる決定的な抗原はまだわかっていない。
他人と自分の違いを見つける鍵は白血球の血液型(HLA:ヒト白血球型抗原、あるいはMHC(主要組織適合性遺伝子複合体)。白血球型が違うとT細胞は非自己と認識する。HLAは非血縁者間ではまず型はあわず、兄弟でも4分の1しか一致しない。全く同じHLAが移植には都合がよい。
マクロファージはMHCというタンパクの上に食べたものの一部を載せる。T細胞のMHCは、変なものが乗っているとそれにくっついて調べ、非自己なら戦闘態勢に入る。
移植臓器には自分でないMHCが出ており、それだけでT細胞は他者だと思ってしまう。
T細胞は自分の臓器と他人の臓器を見分けて、B細胞に抗体をつくらせたり、T細胞は戦闘する状態に変身したりしてしまう。拒絶反応の中心はT細胞。
T細胞は異物に反応するので、免疫抑制剤(T細胞の活性化をおさえる薬)を見つけ、服用したり注射したりする。T細胞はおとなしくなる。マクロファージが変なものを見つけたと提示してもT細胞は反応しなくなり、非自己を自己だと勘違いをするようになる。
免疫抑制剤
免疫抑制剤はTリンパ球の活性化を抑えるものや、リンパ球の核酸の合成をとめて増殖を抑えるものなどがある。ただし、増殖を抑えるものの場合に、腸のじゅう毛のように増殖の早い他の細胞の活動を抑える副作用がある。
サイトカインを中和する抗体は、リューマチ治療の改善に寄与。
T細胞受容体に結合する抗体はT細胞をこわす作用があり、拒絶反応の起ってしまった場合の治療として使うことになる。
免疫抑制剤で生体防御機能を抑えることによりリウマチはなおったが、結核に罹ったというのは困るので、使い方のさじ加減が難しい。
腎移植をして透析しなくてよくなって現場復帰して活躍しているスポーツ選手もいるが、免疫機能が落ちているので、普通は罹らないような感染症にかかりやすくなったりもする。感染症の備えは必要だが、移植によって透析をしなくて済むことを考えると、免疫抑制剤を飲むメリットがある。
腎臓移植につかう免疫抑制剤のなかでもカルシニューリン阻害薬と呼ばれる「シクロスポリン」や「タクロリムス」は、移植に関係するT細胞だけをおさえても顆粒球をおさえない。獲得免疫だけをおさえるので無菌室に入らなくて大丈夫。
細菌やカビなど明らかな外敵に反応する部分を抑えないので、自然免疫は生きている。この薬ができて、移植での感染症のリスクをおさえつつ拒絶反応を劇的に抑えて、いただいた臓器を長持ちさせられるようになった。
臓器によって、免疫抑制剤の組み合わせも異なっていろいろな処方をしている。
まとめ
免疫は外界の異物から体を守る仕組みで白血球やリンパ球が主に働く。
Tリンパ球が、白血球の血液型にあたるHLAを目印にして自己・非自己を見分ける。
非自己のHLAを持つ移植臓器は拒絶されるが、免疫抑制剤は免疫の作用が抑えられる。
自己を非自己と見誤るのが自己免疫疾患。
副作用があっても免疫抑制剤を注意深く利用して、移植を受けた人で元気に暮らしている人は多い。
会場風景1 | 会場風景2 |
- HLAの型はどうして開示されないのだろうか。骨髄移植バンクに登録するときはHLAを知りたい。
- 免疫抑制剤には4種類あるということだが、薬をつくるときの作戦は→疾患によって免疫抑制の強さと感染リスクのバランスを取る必要がある。生死に関わるような疾患では、きつい免疫抑制でも行うが、乾癬のように生命にかかわらない場合は、強すぎる免疫抑制剤は敬遠される。リウマチでは、炎症をおさえる必要があり、炎症に関わるサイトカインを中和する抗体が有効である。
- 原因となる抗原(タンパク)がわかっている場合はそれを認識するT細胞やB細胞を特異的に抑えることも考えられる。特異的な治療法で成功例はまだない。その原因がひとつかどうかまだわかっていない。複数かもしれない。
- 症状の重篤度で作戦を立てる。
- 臓器移植を異物だと思うのに、胎児が攻撃されないのはなぜ→父親のDNAを半分もっている胎児のメカニズムが解明できたらすごいことになる。免疫寛容(T細胞には、攻撃をやめておけ、という指令を出す制御性T細胞と呼ばれるものもある)という。妊娠に関する「保護する機能」が研究されており、他に応用したいと思っている。臓器が免疫寛容で定着してしまう例もある。マサチューセッツジェネラルホスピタルでは免疫抑制剤なしの臓器定着の研究をしている。
- 植物にも不和合性(交配しない相性)といって、他者を排除するしくみがある。免疫抑制には特異性でレベルがあるのか→自然免疫(細菌、真菌)が迅速に反応する。動物で保存されている仕組み。T細胞の獲得免疫は高度な機能。臓器移植では、獲得免疫が中心だから、並列に働いていることになる。
- 免疫抑制剤は未分化の細胞にも働くのか→タクロリムスやシクロスポリンの場合、拒絶反応を起こす段階まで分化している細胞を抑える。教育で自己と非自己の見分けを教育される。
- 受け入れた臓器は一生、非自己か→移植を受けた人は怖くて免疫抑制剤をやめられないが、副作用でやめてしまった方でも拒絶反応を受けずに生着している例がある ネズミの実験では初めに強く免疫抑制をして、免疫抑制剤をぬいてうまくいくことがある。サルでは多数の検討ができないが、サルでうまく定着した例もある。こういう状態なら免疫抑制剤をぬいて大丈夫という指標がわかれば画期的なことになるだろう。