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日本サイエンスコミュニケーション協会が設立されました

 2012年1月21日(土)、福武ホールで一般社団法人日本サイエンスコミュニケーション協会(Japanese Association of Science Communication: JASC)設立記念シンポジウム「今こそ、科学の芽を育む!」と総会が開かれました。

開催趣旨説明         JASC理事 縣秀彦氏(国立天文台普及室長)

1995年に公布された科学技術基本法に基づいて策定された科学技術基本計画により、科学・技術の振興が図られてきた。当初から科学教育の大切さが指摘されていたが、第3期科学技術基本計画(2006〜2011)ではサイエンスコミュニケーション(SC)の推進が謳われ、日本におけるSC活動が一気に加速した。そして第4期(2011〜)では科学・技術政策への国民参画の促進が謳われている。今やさまざまな分野、地域にあって有意義かつ多様なSC活動が展開されており、SCのプラットフォーム構築の必要性が増した。JASCは、民間の自立した組織として、①情報の共有・交流の場をつくり、②産官学地域コミュニティなどの連携と協働、③SC研究の推進、④政策決定への寄与に取り組む。東日本大震災での教訓を踏まえたSCの新たな展開に貢献したい。

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縣秀彦氏 吉川弘之氏


基調講演「社会の中の科学 社会のための科学」
               JST研究開発戦略センター長 吉川弘之氏

 社会で「ある対象」が持続的進化をするための基本ループは、観察者(対象者から抽出して警告)、構成者(観察者から聴取して助言)、行動者(構成者から選択して行動)、対象(行動者と同化して状態を提示)からなり、この4要素間のコミュニケーションが重要。このような情報循環の中で、公費で研究を行う科学者は社会に責任を持つべき。「科学コミュニティは社会的契約を履行し、社会の期待に応えるべきである」とJane Lubchenco は唱えた(1998年)。
 情報循環の中には、①観察型科学者(評価する)と②構成型科学者(行動者に知識を与える)が存在する。例えば、社会や地球環境に構成型科学者の知恵を得た専門家(科学者、行政、企業、技術者、政治立案者 報道関係者、芸術家など)が変化をもたらし、観察型科学者はそれを評価する。しかし、炭酸ガスはどうして発生するかはわかっても、実際の炭酸ガスの状況はわからないように、観察は十分にできていない。
 さらに、情報循環の完全化のために、科学者は社会的期待(social wish:顕在化しているものと潜在的なものがある)に気づき、応えるため、社会全体を観察しなくてはならない。
 最終的にはいろいろな真理(科学)を束ねる科学が必要になる。異なる分野の研究者(観察型、構成型、知識利用型)が連携し、本格研究ユニットができなくてはならず、そこにはコミュニケーションが必須。
 具体的には、構成型科学者と観察型科学者が科学的助言を行い、政策策定に貢献することが重要。そのためには、科学者の合意した声が必要。科学者も個人の意見を言ってもよいが、組織を代表するものでないことを明らかにすべき。
 また、助言においては次のような「中立性の水準」を守りつつ行うべきである。
科学者は不確実な部分を示し、その確からしさを示した助言をする(科学的助言)
科学的実証に基づいて潜在的インパクトを予測して助言をする(政策にやや踏み込む)
助言ではメリット、デメリットを明らかにする。
科学的論争をオープンで行う。
イデオロギーや特定の集団の利益のための助言(有害な助言)をしてはいけない
 科学者の責任は大きく、一致した声を学会の外に出すべき。社会の対立を激化させてはいけない。
地球温暖化問題は情報循環構造がうまく機能した事例。科学者のまとまった声を国連に提案し(1992年)、炭酸ガス問題で戦争が起らなかったのは集合的知性が役立った。
日本では、総合科学技術会議と日本学術会議が車の両輪として働くべきで、総合科学技術会議を司令塔と位置づけ、科学技術顧問を置くのがよい。科学技術顧問は、科学者コミュニティと政策の架け橋として働く。


パネルディスカッション「日本におけるサイエンスコミュニケーション活性化への提言」

美馬のゆり氏(JASC理事、公立はこだて未来大学教授)のコーディネートによりパネルディスカッションが行われました。

「科学コミュニケーションとは」 北原和夫氏(JASC理事、東京理科大学教授)(欠席のため美馬氏が説明)
SCとは科学を根拠としたコミュニケーション。その使命は、精密かつ冷静なSCを行うことによって社会のあるべき方向性を共に考える社会の構築。3月11日以降の混乱は専門家間のコミュニケーション、科学コミュニケーションの欠如に一因があった。これからは、社会的意義と協働可能性を問うことが必要。

「自然史系博物館の仕事」齋藤靖二氏(神奈川県立生命の星・地球博物館館長)
 自然史研究・博物館活動を支えるには、もの言わぬ標本などと対峙し、観て習い、間違っては学び、感じ取るセンスが大事。博物館では、解剖準備、標本作製、剥製修復、化石剖出など、入場者には見えない作業が年単位で行われている。日本の自然史系博物学芸員は標本処理、調査研究、登録整理、保存管理、情報処理、普及講座、野外観察、展示開設、展示企画、展示制作、研修受入など、厳しい環境ですべてを担当している(外国なら、それぞれに専門官がいる)。いろいろ異なる相手(人だけとはかぎらない)とのコミュニケーションが大切。

「何のためのサイエンスコミュニケーション活動」滝川洋二氏(NPO法人ガリレオ工房 代表)
 ガリレオ工房は1986年設立。92年にメンバーの後藤道夫氏が科学技術館と「青少年のための科学の祭典」を開始。その中で教員と市民を中心としたサイエンスコミュニケーターが多数育ってきた。物理系3学会が理科離れ防止を求める声明を出し、他学会も追随。科学技術理解増進に予算がつくようになった。理数系学会教育問題連絡会が活動を開始。大学、企業、地域、日本学術会議も科学リテラシー向上への取り組みを始めた。小さいボランティア団体と学会から始まった動きが国を巻き込み、大きな動きになってきた。SCに関わる人が現在は10万人だが、100万人になれば社会は変わると期待している。

「学校の理科教育を超えて」小倉康氏(埼玉大学教育学部准教授)
 国立教育政策研究所で18年間、教育に関わる国際調査、TIMS、PISAを担当してきた。日本の子どもの成績は悪くないが、科学に関わろうとする意欲が低い。理科教育では、社会で利用されている科学・技術の意義が伝えられていない。そこにはSCが必要だと思う。専門家、学校、市民のコミュニティがSCで結合することで、科学技術の智を人々に与えることができるようになる。科学・技術を人々に伝えるのは難しいことだから、JASCが架け橋となれるといい。学校の理科教育は継承されてきた文化であるが、それだけでは不十分。フォーマル教育、インフォーマル教育で、JASCが貢献することを期待する。

「企業におけるSCの必要性」 藤原洋氏(㈱ブロードバンドタワー代表取締役)
 社会発展の原動力は科学技術で、科学技術は経済成長をもたらす。そこには国民の理解も必要。海外では富豪が、科学・技術の発展に貢献してきた歴史がある。1897年にシカゴの鉄道王ヤーキスがウイルソン天文台の世界初の1m屈折望遠鏡設置を支援したほか、カーネギー、ロックフェラーも天文台への寄付をした。天文学とSCは歴史的に深い関係がある。21世紀の今、天体望遠鏡をめぐる競争は激化している。日本では京大、名大、国立天文台、ナノオプトニクス・エナジー社が連携して、3.8m口径の分割鏡型大型望遠鏡の研究開発を行っている。財団を設立し、それを用いた体験的SCを全国展開する予定。

「マスメディアから見た専門家」元村有希子(日本科学技術ジャーナリスト会議理事)
 3月11日の福島第一原子力発電所事故は科学不信を最大にした。原発を地方に押し付ける都市住民への不信、電力会社への不信、断言しない専門家への不信。専門家は常に正しいわけではなく、科学は正しい唯一の答えを常に用意しているわけではないことが明らかに。今は相互不信状態。市民も自衛策をとり始めた。勉強し、情報交換し、線量計を持って子どもを散歩させ、防護策を実行し、おかしいと思ったら声をあげ始めている。相互不信の結果として、非専門家の間で能動的な協働が始まったということなのだろう。 
目指しているのは、判断を下す根拠を示せる科学ジャーナリズム。「専門家は低線量被曝に対する市民の不安にちゃんと応えているか」という記事を毎日新聞に載せたところ、反響は市民からだけ、専門家からの意見はなかった。専門家も明日から活動してほしい。

「行政の視点から」倉持隆雄氏(文部科学省国際統括官)
 理学修士課程を修了後、1979年に科学技術庁入庁。科学技術を社会に伝えることが仕事だったが、それが一番難しいと今も思っている。駐米大使館勤務時、地元の高校に通っていた子どもが、科学の教科書の不完全な部分を考えさせる教育を受けていることに驚いた。帰国すると、理科離れ対策で美馬先生や北原先生たちが活躍していた。「社会の中の科学技術」を意識する場面にいくつも出会ってきた。政策形成への国民参画は重要だと思う。


パネリスト全員で、「JASCのこれから」についてディスカッションが行われました。

・JASCは学校と連携し、子どもたちの体験の場をつくる。 ・サイエンスコミュニケーター養成講座修了生などの活躍の場創出のために発言しよう。 ・ボトムアップで先生方を応援し、行政の理解を促そう。 ・地域の科学の祭典の活動を通じ、サイエンスコミュニケーターは科学好きだけでないと実感。小さい資金で地域とともに何かを創りだすことは科学の普及より大事だと思う。 ・利益を生まない文化が無視されている現在だが、博物館は学校教育と同じように未来への投資。地域にありながらグローバルな地位も持っている。博物館を応援してほしい。 ・企業の支援を受けるだけでなく、企画に企業をまきこむことが大事。3.8m望遠鏡ができたら一般市民に開放したい。 ・文部科学省としてはSC活動推進プログラムを持っており、この政策が活きるように、JASCと連携していきたい。会場の担当者も同じ気持ちのはず。 ・皆で立ち上がり、価値のあるものを皆で支え合おう。共通の関心を共有していきたい。


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有馬朗人会長 会場風景

引き続き、JASC第1回の総会が行われました。

「会長のことば」           有馬朗人氏

 我が国に科学技術基本法ができた意義は大きい。教育基本法はあったが、これに5年毎の基本計画の設定とその予算がつく仕組みができた。SCは、科学技術基本法の一環として、しっかりした計画と予算を定めて行くべきで、教育とともに重要。
 次の2点をお伝えしたい。
1.科学と技術を守ること、科学と技術を離してはならない。国は予算をつけてしっかり進めてほしい。
2.日本の子どもの学力は下がっておらず、問題は成人の科学への関心が低いこと。先生方の努力を評価しよう。
 学力低下というが、少子化で母数が減ったことや高校で文系・理系に分かれる環境などが配慮されていない。昭和30年の全国調査から見て、数学も国語も成績は上がっている。教員の努力をもっと評価しよう。
 PISAの成績についても同様で、参加国の変化を配慮していない視野の狭い報道が多い。問題は成人学習、生涯学習にある。JASCは科学博物館活動の推進を進め、日本中の学芸員が誇りを持って働けるように、論文発表の場を用意してほしい。産業界、国、地方自治体には教育のための予算を増やすようお願いする。



「サイエンスコミュニケーション促進による市民参画型社会の実現を目指して」
         JASC理事 小川義和氏(国立科学博物館学習企画・調整課長)

2000年以降、理解増進からサイエンスコミュニケーションを促進してきた。これに呼応するように「21世紀型科学教育の創造ワークショップhttp://www.sci-edu21.org/」、サイエンスアゴラ、サイエンスコミュニケーター養成などが行われてきた。しかし科学への関心の高い人の関わりが多く、提言などが政策決定に関わるまでは進んでいない。JASCは地域に根ざしたサイエンスコミュニケーションを目指していく。本協会に入会してください。



「日本サイエンスコミュニケーション協会設立にむけて〜2011年度事業計画」
          JASC理事 高安礼士氏(全国科学博物館進行財団公益事業課長)

 次の6事業を展開する。
①情報の共有・交流事業:つながる(交流サイト運営、年会・地域交流会の開催)
②調査および研究事業:深める(認証制度に関する基礎的調査など)
③実践および支援事業:実践する(公募型事業の支援、専門領域交流会)
④意見表明事業:発信する(協会誌発行)
⑤人材育成事業:育てる(3月から毎月第3日曜日に定例研究会を開く)
⑥その他連携事業:拡げる(企業や大学との連携を模索する)
事業予算については流動的に考えている。会員の皆さんの積極的な関わりを期待している。



「JASCコモンズについて」      JASC設立世話人 内尾優子氏(国立科学博物館研究推進課 係長)

https://www.sciencecommunication.jp/activity/commons/
 紙媒体のニュースレターではなく、コモンズネットを活用して、写真付きの活動記録を掲載し、情報共有できるサイトを開く。投稿できるのは会員で(掲載は認証制)、投稿でき情報は写真と400字以内の原稿、名前と所属。2月以降に公開予定。
 サイトを訪れた人が記事を読み、自分の活動の参考にできるような内容にしたい。コモンズエディターは、目的、オリジナリテオィーの視点から投稿記事を選択し、掲載を判断する。さらに深い内容が期待できる記事の執筆者には、“ピックアップ(文字数や写真を増やした記事)”コーナーや会誌への投稿を依頼する。貢献の大きい投稿者を顕彰することも検討中。

 理事・監事、設立世話人が紹介され、会場参加者全員による話し合いが行われ、総会は終了しました。当日の運営には筑波大学の学生、国立天文台科学プロデューサーコース受講生・修了生はじめ多くの関係者が協力しました。