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バイオカフェレポート「『すごいっ!何これっ!?』を引き出す魚の透明標本の活用」〜進化生物学研究所の活動から

 2011年12月15日、星と風のカフェ(東京都三鷹市)で、バイオカフェを開きました。お話は進化生物研究所 研究員・東京農業大学 非常勤講師 蝦名元さんによる「『すごいっ!何これっ!?』を引き出す魚の透明標本の活用〜進化生物学研究所の活動から」でした。カフェの前に停まった進化生物学研究所のワゴン車から蝦名さんがたくさんの標本をかついでおりられたとき、会場の参加者は飛び出して行って、わくわくしながら、標本運びを手伝いました。

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大きなナナフシの標本を手にする蝦名さん 美しい魚の透明標本

お話の主な内容

一番大きいこと
博物館は、昔から人々に興味を湧かせるものを集める。これは、お化けヘチマ(2m50cm)、今年栽培したヘチマは、今、寒風に吹きさらしており、2m70cm。記録更新しました。
世界記録は中国の4m。
緑のカーテンでつる植物が新たな注目を浴びている。ゴーヤ、キュウリ、ツタなど。ヘチマの種は指にのる大きさなのに、夏の間、10数メートルのつるがのびて実をつける。植物の生長の凄さを実感する。
お化けスイカ、お化けカボチャコンテストのように、栽培目的、競争意識が働いて、いい教材だと考えて、品種の開発をしている。
ヘチマの実は夏、一日に10数cm以上のびることもあり、観察に適している。ヘチマには雌花と雄花がある。花の外にも蜜線があり、そこにアリがやってきて、他の害虫からヘチマを守る。ヘチマからは昆虫との共生を学ぶこともできる。

財団法人 進化生物学研究所の紹介

財団法人進化生物学研究所は、東京農業大学育種学研究所を前身として1974年に、遺伝・育種学者でナチュラリストであった、東京農業大学名誉教授の近藤典生先生を理事長、京都大学名誉教授の木原均先生を所長として設立されました。
近藤典生先生は種無しスイカを作出、自然再現型の動植物園のプロデュース等をされた方だが、博物学では「お客さんにいるところに出て行こう!という考えを実践され、デパートでの昆虫展など実現された方でもある。世界の食糧問題に貢献されたコムギの研究者である木原均先生とも関わりがある研究所。
私たちの研究所にいるもの。鶏、マダガスカルの原猿。私の専門は魚。東南アジア淡水魚がいる。古代型魚類といって、太古の姿でいきている種類がある。例えば肺魚は、幼いときはえら呼吸し、肺呼吸になっていく。両生類に分類されていたこともある。分類は人間が都合で決めているにすぎない。
蝶などの昆虫の標本箱は約1万箱。先日はブータン国王からブータンシボリアゲハの標本をいただいた。ブータンに2011年、日本蝶類学会とブータン政府の共同調査隊(研究所からも参加)が送られた。1978年採集された5個体のうちの1つを研究所に寄贈いただいた。今後、公開も検討しておりますので、お楽しみにしてください。

植物では、バオバブ、ひょうたん、屋上・壁面緑化の植物。ウンカリーナというマダガスカルの植物は、シャンプーの木と言われる。葉を持ってきたので後で水につけてみましょう。他に、古生物の化石の収集、展示、研究も行っている。
マダガスカルに実在した、エピオルニスという既に絶滅してしまった象鳥の卵のレプリカ(一部本物)。半化石化した破片が出土する。


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会場風景1 卵は大きなひとつの細胞です

標本とは
目的は①鑑賞(収集して、鑑賞する。趣味の領域)、②研究(調査し、教育に用いる)のふたつ。
古代エジプトから、珍しいものは宝物として、記録として、収集・保存された。それは権力の象徴でもあった。
大航海時代には、必要でなくても(役に立たなくても)、好奇心で集めるようになった。特に王侯貴族が何でもあつめた。
15〜16世紀、ヨーロッパでは珍しいものを集めて陳列する部屋がつくられた。ドイツではヴァンダーカマー(脅威の部屋)と呼ばれた。これが、博物館に展開していく。
どうやって、大航海時代に珍しい生き物を原型をとどめて運んでくるか。標本をつくる技術が発達した。
学術標本には、①研究材料として、②証拠として(いつ、どこにこれがいた)、③教育普及のため道具として、という3つの役目がある。
標本というと、埃をかぶって汚くて気持ち悪いイメージがあるが、それを払拭するのが透明骨格標本!

透明標本とは
多くの手間がかかるが、画期的標本。
歴史は、約40年前、筋肉を透明にして骨を全部赤く染める技術ができた。約30年前に軟骨だけを青く染める技術もでき、硬骨と軟骨の染め分け(二重染色法)ができるようになった。
骨格標本には硬い骨にしか使えないし、組立てないといけない。レントゲンは、照度、角度の調整が難しい。とても小さな動物の骨格を観察ができるようになった。
つくるには 何種類もの薬品が必要で、危険な薬も含まれている。使った薬品の処分法も大変。博物館などの講座でつくるのがいいと思う。薬品を一通り揃えるには10万円近くかかる。


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間近に見る透明標本 フタゴヤシの種は世界一大きな種


つくり方
ホルマリンで固める。ホルマリンを抜く。
軟骨染色液(アリューシャンブルーとエタノール)で染める。コンドロイチン硫酸を染める。色をぬく(エタノールから真水に変えていく)
トリプシン混合液に入れて、酵素で肉を溶かす。この溶け具合が難しい。
硬骨染色液(アリザリンレッドと水酸化カリウム)で染める。カルシウムと反応する。
オキシドールで漂白することもある。
細胞内の水分をグリセリンで置換する。
ウロコを取り除く。
小さい魚でないと綺麗に作れない。マウスは皮や脂肪を取り除いて処理する。
動物は胚のとき、軟骨にカルシウムがついて硬骨ができる。軟骨から形成されていくのが、胚の標本を作ると観察できる。マウスのように何匹も産む動物では、胎児は柔らかくないと共存できないので理屈にあっている。

生命を扱うということ
美しい標本はオブジェとしても使われるようになってきた。生き物に興味が喚起されるのは嬉しいが、商業主義に走るのは心配。命を扱っていることを認識して標本を作ったり、扱ったりしていくことが大事だと思う。私は、自分の意志を明確に持って、お話をしないといけないと常々思っている。
標本づくり講習会では、魚をすくってホルマリンに入れ、命をいただいていることを学ぶ。
材料のタイリクバラタナゴは外来魚であるので、外来生物の勉強になる。
日本人は魚の死は受け入れやすい状況がある。魚屋やスーパーでは頭つきの魚の死体が並んでいるが、当たり前の環境。
食と農の博物館では、肉食魚が魚を食べる展示をしている。今は猛獣が動物を捕らえても食べるところは放映しない。動物が動物を食べるのは大事な営み。魚は瞼がなくて表情がなく、痛点がなく、鳴かないので、食物連鎖の展示にむいている。肉食魚が一口でパクッと食べられる小さい魚を餌に選んでいる。展示中の肉食魚のポリプテレスはアフリカでは食用にするので、人間も食物連鎖の中にいる事がわかる。残酷かどうかでなく、生き物は食物連鎖の中で生きていることを知ってもらいたい。
動物は痛みを感じるから、ひどい痛みで脳が壊れるので、失神して、脳がこわれるのを回避する。
博物館の強みはモノ(実物)があること!私たちの研究所もいろいろ見てもらい、触れてもらい、 五感で味わってもらう講座、展示を目指している。何かを感じ取ってもらいたい。文章や写真・映像、学校や家庭では得にくい感動を提供したい。

実物を扱うリスクと効果
博物館教育は陳列、展示が基本。劣化、破損、盗難のリスクがある。レプリカを使うこともでてくる。
実物などの一次標本を見せる工夫をしていきたいが、大事なものには警備員を立たせるなどの方策も必要。人件費は展示日数、展示時間を区切ればクリアできることもある。
リスク回避をしつつ、本物をみせるために、講座にして対象をしぼるなど。ジブリ美術館は、時間と人数を制限して運営していて、日本では珍しい形。
体験型イベントをすると参加者にインパクトを与えられて、お客さんの反応を見られるメリットがあるし、その場で質問に答えると即効性があり、これは対面式の講座の強みでもある。例えば、サルの檻に人が入るなど踏み込んだことも可能。
これを見たから驚くだろうという「いいこと」は想像がつくが、クレームを想定するのは難しい。例えば、サボテンは触ると針が刺さるが、触って怪我をするとクレームがきて、柵をしなくてはならなくなる。




進化生物学研究所には「バイオリウム」という生き物の空間(展示温室)がある。
マダガスカルのサボテン、マダガスカルの原猿が約70頭(ニホンザルは真猿(しんえん)と呼ばれるグループだが、マダガスカルの猿は原猿(げんえん)と呼ばれ、キツネザルがこのグループになる)、カメ、カメレオンや放し飼いのイグアナを見ることが出来る。
ショップもある。ツアー、ふれあい体験もできる。
ふれあい体験にはリスクを伴い、責任は運営者側になるので、人手・時間に余裕があるときに企画する。リスクを回避しないと、お客さんにも、生物にも問題が生じる。
生き物を飼うと、時間・資金の問題の他に、食べ物と排泄物、除草と水やりなどもしなくてはならない。



水につけたシャンプーの木の葉から透明な粘液 世界一美しい蝶 モルフォチョウ

きれいな標本が次々に回覧され、とても楽しいバイオカフェでした。大きい魚の透明標本はできないのかという質問に、ヒトの手のひらくらいの大きさが限界とのこと。「透明人間は無理なのか」とがっかりした参加者もいました。
シャンプーの木の葉を水につけると、昆布のようなぬめりがでてきて、これを髪につけるのだそうです。ゆすがなくても乾いてサラサラになるので、介護に使えるのではという提案をした参加者もいます。
透明標本作りは、5月から7月にかけ2ヶ月で5回通ってつくる講座があるそうです。
そして、進化生物学研究所に行って、そこで、もう一度お話を聞きたいと参加者全員の意見が一致して、お開きとなりました。