アクセスマップお問い合わせ
談話会「日本の科学技術を俯瞰して」

 2011年11月24日、談話会を開きました。お話は文部科学省科学技術・学術政策局 科学技術・学術戦略官 行松泰弘さんによる「日本の科学技術を俯瞰して」でした。平成23年度科学技術白書にくらしとバイオプラザ21の活動が紹介されたご縁で、行松さんと一緒に科学技術白書を執筆された同局 下村智子さんも来てくださいました。

写真 写真
お話される行松戦略官 会場風景

お話の主な内容

自己紹介
昭和63年科学技術庁入庁。法律出身だが、2年目からはずっと技術畑。理研、スプリング8整備、原子力、防災対策(ロシアの放射線廃棄物投棄が明らかになったときの国際調査に参加)、核融合(ITER)、宇宙(ISS)、外務省モスクワ日本大使館出向(科学担当官として)、ライフサイエンス課(ミレニアムプロジェクト担当)、放射線医学総合研究所出向、教育ODAで途上国に日本の理科教育の種をまく、JST理数学習支援部、国際科学技術センター(モスクワ)、2010年から科学技術白書制作に関わる。文系出身だが、科学技術分野のブルーバックスを読んだりして、学びながら歩んで来た。科学はとても面白い。早く気づけばよかったと思っている。

テーマを決めた理由
23年度科学技術白書の第1部はその年にふさわしいテーマを決め、第2部は総計やデータという構成になっている。今年のテーマは、「社会とともに創り進める科学技術」。
第4期科学技術計画が2011年スタートし、この白書は7月に発行された。2010年は、はやぶさで社会の目が科学技術に向いた年であり、事業仕分けを通じて、科学技術行政に市民の目が向いた年でもあった。

第1章 科学技術は社会をどう変えてきたのか 社会の意識
内閣府「科学技術と社会に関する世論調査」をみると、
「国際的な競争力を高めるために科学技術を発展させる必要がある」と8割が思っている。
「資源、エネルギーの問題は科学技術による」と思う人が2割増しで8割になった。
科学技術のプラス面とマイナス面を比べると、マイナスへの意識が少し高まっている。
一方、1970年末から物質だけでなく心の豊かさを求める姿もみえる。
科学技術と社会の関係では、年表にして、国内外の近年の動向を紹介した。クローン羊「ドリー」誕生(1996年)、東海村の臨界事故(1999年)など。今年は、チュニジアやエジプトの政変に影響したフェイスブック革命があげられるだろう。
社会と科学技術の関係は深まっており、英国ではサイエンスワイズ事業、米国ではAAAS(アメリカ科学振興協会)が、社会との関わりに注目しながら進めている。日本でも、社会と科学技術の関係が深まるようにと願っている。そのために、科学技術白書をひとりでも多くの人に読んでもらいたい。それで、白書のコラムでは、読む人の興味をひき、「一休み」になるような記事を書いた。例えば、「分子生物学を創始したデルブリュックス博士がクリスマスカードに平家物語の英訳を書いたこと」(白書P49)など 

第2章 科学コミュニケーション
研究者と社会一般だけの対話でなく、いろいろな人(産官学、メディア、、、、)が同じ平面で行われる意義をわかってもらいたい。それが科学コミュニケーションだと思う。
その意味で、「はやぶさ」がどうしてここまで社会で注目されたかは、分析・研究に値すると思う。ストーリーがよい。大気圏突入がインターネットで同時に見られたので、自分も科学プロジェクトに参加した感覚を持った人たちが多かったのではないか。
日本、米国、英国で関心を持っている科学技術の動向について尋ねると、英米は新しい科学に高い関心があるが、日本人は低い。日本人が英米に比べて顕著に関心が高いのは高齢者問題。
科学は楽しいと思う中学3年生はOECD平均とほぼ同じなのに、高校1年になったとたん、最下位から2番目になってしまう。理科のリテラシーを見ると、子どもたちの成績は悪くないのに、大人は世界13位(平成16年度科学技術白書)
理科の授業を充実させるために、外部の専門家の授業への参加や連携は必要だという教師は多いが、実際は小学校で半数、中学校で8割が年に1回も実施していない。その上、小学校教員の半分が理科を苦手としている。中学校は選科制になるが、物理・化学・生物・地学となると、4科目とも得意という先生は少ない。ことに地学を苦手とする教員は多い。

リテラシー向上に向けた社会との連携例(下村智子さんの報告)
○刈谷少年発明クラブ(白書P75):日本で最も歴史のある発明クラブで、トヨタグループのOBが多い。クラブ会員数も最大で、しっかりとした教育理念の下、カリキュラムを作っている。毎週土曜日に指導員による指導内容に関するミーティングを行い、指導法の向上を図っている。オデッセイオブザマインド世界大会(子どもたちの創造的な問題解決能力と技能を競いあう世界大会)に平成16年から参加し、平成22年には第2位を受賞。参加した中学生に体験を作文に書かせて、教育に生かしている。理科の楽しさを伝え、理科好きなこども増やすのに貢献している。
○浜松の小学校 理科室が楽しくてカラフルで昼休みに子どもが集まってくる。校長先生が理科実験をしている。理科支援員として、フラワーアレンジメントの専門家が部屋をきれいにレイアウトしていた。理科支援員制度は行松戦略官がJSTの理解増進部長をしていたときに進め、良い成果を出していた。仕分けにあってしまい残念に思う。公共の力で理科教育を支援していかれるとよい。
くらしとバイオプラザ21にも、この事例のひとつとして取材を行った。

社会と科学技術との新しい関係構築に向けて
平成16年から行っているアンケートによると、科学や技術者への関心は高まっている。しかし、その機会は足りていない。
科学技術コミュニケーション活動として、平成18年よりサイエンスアゴラが開始された。青少年のための科学の祭典の開催地は100箇所までに増えてきている。特に、科学の祭典熊本大会は、参加者数は3-4万人と多く、地方テレビ(広報と運営)、地元企業、大学、学校の先生(実験の出し物)、ボランティアが連携し、大規模に運営されている成功例。
研究機関のアウトリーチとしては、東大地震研究所がメディア対象の勉強会をし、サイエンスカフェの数は5-6年で、活発になって増えた。一方、サイエンスカフェでは、初参加者が増えない、シビアな問題は扱えないなどの課題もでてきた。
サイエンスコミュニケーションは、いろんな主体がいろんな場でやらなくてはならない。

第3章 未来を社会とともに創り進めるために
社会・国民の参画による科学技術を生かした課題達成をめざし、社会が科学技術に能動的に関わった事例を紹介した。

事例紹介 下村智子さんより 
○防犯活動支援システムをPTAと連携(白書P93)
つくば市では地域のヒアリハット体験の場所の調査を行い(GPSなど、ロウテクを用いて)、防犯計画を科学警察研究所とPTAや地域の防犯団体が一緒につくる。対策も、危なそうな場に危なそうな時刻には、犬の散歩に行く人がそのあたりにいるようにするなど、市民ならではの連携。
○熊本水害プロジェクト(白書P94)
度重なる川の氾濫に対して、どんな防災訓練をして、氾濫したときにはどういうルートで逃げるといいのか。熊本大学が熊本市と協力して、計測結果を基に防災プランの作成を行った。大学、行政、市民がともに日ごろから防災訓練を行い、地域防災情報システムや防災プランを改善している。この研究者は「市民はシビアな共同研究者だ」といっている。
なんてんプロジェクト(白書P95)
電波望遠鏡「なんてん」をチリに移設するときに、2.1億円の資金の半分の寄付を市民と民間企業が行った。名古屋大学の研究者が、電波望遠鏡設置の予算不足を市民との談話会を重ねることにより、市民の天文分野への関心や理解が高まり、市民が寄付したり、企業にいってお金を集めてきたりするまでに至った。サラリーマンや主婦といった一般の市民が、研究者らと対話することにより、知的好奇心を共有していった好事例である。
○ながはま0次予防コホート事業(白書P96)
長浜市と京都大学が協力して、長浜市民のゲノム情報を集めて、ゲノム疫学研究を実施した事例である。長浜市の健康増進プロジェクトと、京大のゲノム研究と方向性が合致。NPOを市民が立ち上げて、市民が中心となって市民1万人の参加を募った。
個人情報(ゲノム情報)の保護に配慮しつつ、京大の先端研究をスムーズに行うための新たなルール(長浜ルール)を作って実践した。

政策立案へ
エビデンスベースで政策立案をめざすときに、「熟議」というプロセスを取り入れて、国民や若手研究者の意見を聴取したり、NPO法人などの「新しい公共」の力を借りたり。
「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』」に関する研究プログラムの公募をしめきったところで、対話と相互理解、国民の参画によって、様々な科学技術が生活にも入ってくるだろう。自らの未来をどういう科学技術で実現していくのかという意識をもって、政策に参画してほしいと思う。
東日本大震災では、科学技術に関わる者は大きな課題を与えられた。情報提供が遅れたり、情報がわかりにくかったり、風評被害を生んだりしてしまった。リスクコミュニケーションの改善が必要であり、リスク評価とリスク管理も改良していく必要がある。

科学技術白書執筆にあたって苦労したこと
・科学技術と社会というときの社会は何か。科学技術が国民に貢献するとき、経済活動に貢献するときの対象のことだろうか
・科学技術コミュニケーションの意味が多様で、目指すところは何なのか、なぜリテラシーが必要なのか。政府のために理解増進をするのでないことを伝えたかった。けれど、これはとても難しかった。


写真 写真
「科学技術白書を普及しましょう」 行松戦略官と下村さん

話し合い 
  • は参加者の発言、→はスピーカーの発言)

    • 科学技術白書は何人で作るのか→第1部は編集長と課員4名で執筆し、第2部は文部科学省全体で書く。閣議決定が必要で、民主党文部科学部門会議の了解を得ながら作成する。
    • リテラシーは理解し、受容する土台、推進する基礎だと思う。「はやぶさ」や「なんてん」とリテラシーはどうつながるのだろうか。地学は絶滅危惧種のような科目になってきているのに、東大で地球や惑星は人気の授業。知ることとロマンはつながっていない。すると、理科教育は科学へのロマンをそいでいるのか。
    • 小学校は外部の専門家の参画を求めているが、私の小学5-6年の先生は理科の先生で、校長も理科の先生だった。理科が嫌いな先生に接しているのが問題なのではないか。ならば、外部講師招聘で解決するだろうか。
    • 昭和36年生まれ。特撮が楽しくて好きだった。最近のアニメが子どもに理科の楽しさを伝えるものがないのではないか。
    • 理科が嫌いだから小学校の先生になるという、教員養成システムが問題だと思う。小学校に理科が好きな先生が多いといいのではないか。
    • 小中学校時代、理科の先生に恵まれなくて、文系になった。定年退職後、仕事柄、理科を知りたいと思っていたら、理科が面白くなってしまった。最初が大事。私が住んでいる千葉の市川では、現代産業科学館と図書館が隣接しているので、文系と理系が両方体験しやすい場になっている。
    • 小学校の理科の教科書を集めたら絵や写真ばかりで唖然とした。これを使って教える先生は大変。教え切れていない先生が多いだろうと思う。先生の指導を助ける参考書購入の予算も足りないようだ。
    • 小学生には「理科好き」というこどもが多い。第1回サイエンスアゴラに関わり、地域で地味に行われているサイエンス活動を拾った。こういう活動をしている人がいっぱいいるのに、子どもに知られていないことがわかった。活動が足りないというより、活動が子どもに知られていないことが問題なのだと思う。
    • 理科支援員制度で出前実験をしたことがある。こどもたちは乗ってきた感じがした。理科支援員はとてもいい事業で、これを仕分けたのはよくない。教育が基本!!
    • 白書はいろいろあるが、科学技術白書は国民に知らしめるべきものだと思う。我々は平成16年の白書にヒントを得て、バイオカフェを始めた。科学技術白書の普及活動をすべき。○(行松)科学技術にどうやって興味をもってもらうか。サイエンスコミュニケーションにおけるメンバーの固定化、来ない人への働きかけ。「はやぶさ」や「なんてん」にどうして普通の人が寄ってきたかを分析してみたいと思う。
    • 理科の授業が苦手な小学校の先生が5割であるうえに、中学の理科の先生でも物理31%、化学13%、 生物28%、地学44%が苦手と回答している。先生の質の向上も必要(白書67ページ)
    • 理科支援員も、理科が苦手な先生には理科教員OB等ベテランの方になっていただく方が良いだろう。
    • 教員研修が重要だと思っている。理科教育のリーダーが地域にいて、先生同士が向上するような仕組みがいいと思う。学習指導要領で理科の内容が増えたので、それをカバーできるように教員研修をしたり、教科書の質を改善したり、底上げが必要。実際には、理科教育センターはどんどんなくなっていっている。
    • 白書の普及活動が大事で、今日のように白書の話をできる場があれば、出向いていく。
    • 産業界でも科学技術白書を読んでいる人がいる→コラムには興味をひきそうな話をちりばめたりしている。
    • はやぶさは人々の夢。夢は社会に貢献できるのだろうか。市民が科学を評価する方法はあるのだろうか→純粋科学は人類の知の蓄積 知ることの意義が実感されるようになるといい、ロマンも社会に貢献できる価値として認識してもらいたい。
    • スパコンは一番にならないといけないのかという仕分けで有名になったが、高い目標がないところに技術革新は生まれない。夢が国民に浸透してこそ、技術革新が進む。NASAは宇宙のロマンを解明していくが、周辺技術を多く開発した。これらの周辺技術を上手に説明すべきではないか。
    • 好感度は大事。キュリー夫人の研究実績を知らなくても、女性として素敵、優れたストーリーは好感度を広げ、結果的に価値観の間口を広げてくれる意義がある。
    • (下村)リテラシーは単なる知識ではなく、実生活に活かされるものでなければならない。好奇心や興味関心がリテラシー向上の機動力になる。名古屋大学の物理教室で一般市民がなんてんに夢中になったのは、興味関心の喚起があったからこそ。関心喚起には学校教育だけでなく社会教育も重要。
    • 小学校の先生は大学受験で文系に絞られているが、論理が好きで法科に行く人もいる。
    • (行松)私は法科出身で理科が面白いと気付くのが遅かったが、科学技術庁に入庁してから面白くなった。
    • はやぶさには、ストーリー性、ゲームのような面白い仕掛けがある。
    • はやぶさ、宇宙戦艦ヤマトは、困難に打ち勝つ素晴らしさがある。宇宙兄弟などは、理科の先生のネタや導入に使える。
    • 科学教育学会で興味関心をどうやって育むのか、ポスドクの出口の問題、理科好きな子どもに出口がない、 科学人材育成、就職の安定が大事、白書に書いてください。
    • 父が理科の教師だったので、池の金魚が死んだときに解剖して埋めるような家庭で育った。小さいうちから、理科に関係があることを体験するといいのではないか。私は家庭教師として、小学3年から大学3年まで教えたことがある、家政科に入った大学生に有機化学を教えたこともある。勉強がわからなくなったときにヒントをくれる人がいたら、嫌いにならないのではないか。いきなり専門的になると嫌いになると思うので、子どもころから体験しているのがいいと思う。
    • 科学リテラシーを持つ人は少ないが、製品を使いこなせるのはかっこいいと思う。基礎理論がわからなくても、使えることが重要ではないか。また、山中先生がiPS細胞の話しをされると市民は1―2年で実現すると思ってしまう。このように、市民との間にギャップがあることを科学者は知るべき。
    • 科学技術白書作成の裏話を聞きたいと思う。編集で外部の人の知恵を入れたりしないのか→テーマの絞り込みには外部の意見も取り入れる。取材には多く出かけた。目次を立てたり、まとめ方でも知恵をお借りした。競争力がテーマのときには統計データが中心だったが、今回は足で稼ぐ取材が中心だった。
    • 原発事故は日本の科学技術にどういう影を落としたのか→テクノロジーアセスメント、なぜ起ったのかなど、来年の6月の白書ではもっと整理しないといけないが、悩んでいるところ。
    • 例えば、科学リテラシーについては、福島では放射線リテラシーは切実な問題。
    • 地震学者の中にはこれまでのアウトリーチ活動では、地球物理学の楽しさを伝えてきたが、それで良かったのかと悩んでいる人もいる。
    • (下村)震災後、生きていくためのリテラシーの重要性が増しているが、科学技術リテラシーの持つ興味関心や楽しさという側面もないがしろにしてはいけないと思う。
    • 科学技術政策研究所の7月の訪問調査によると、科学技術者への信頼は少しさがっている。24年度では、コミュニケーション、リテラシーをどう扱うかが難しい
    • こども科学技術白書に関わっている。こども版では、「事故には逃げないでまっこうから向かおう!正直に言おう!」で進めている。