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第9回一般農場と遺伝子組換え作物隔離圃場比較見学会開かれる

 2011年7月26日(火)、NPO法人くらしとバイオプラザ21主催の見学会を開きました。参加者の半分がバイオを目指す学生さんという構成で、平均年齢の若い見学会となりました。往復のバスを含めて、率直な意見交換も行うことができました。


農業生物資源研究所見学会

遺伝子組換えカイコ
(独)農業生物資源研究所で、遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット長 瀬筒秀樹氏よりお話をうかがいました。
「カイコは逃げることも飛ぶこともできず、大量に糸を吐くように家畜化された動物。1つの繭からとれる糸は野生のクワコの数倍の1000〜1500メートルに品種改良された。幼虫の体重も20日で1万倍に増えるので、医薬品などの原料となるタンパク質などを短期間で生産するのに都合のよい、昆虫工場になる。初めは卵の殻に穴をあけて遺伝子を注射する技術を持つ人は1人だったが、今では機械を使ってできるようになって効率が上がった。遺伝子組換えカイコによって、光る糸を作らせて美しいドレスができたり、蜘蛛の糸のような細くて丈夫な糸をつくる研究も行われたりしている。昨年から群馬県の数戸の農家が手をあげて、県の施設で組換えカイコを飼育して、産業化を目指している」

展示室で説明する瀬筒さん 講演会場にやってきたカイコたち

一般圃場・資源作物園
(独)農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター 研究支援センター業務第一科長 吉川亮さんのご案内で圃場を歩きました。
前の年にエンバクやダイズを緑肥としてすきこんだ土地にトウモロコシや大豆を植えて、適した緑肥を検討する実験が行われていました。大豆の野生種であるツルマメを栽培して、ツルマメの病気に強い性質を調べる研究が行われていました。雑草園では、雑草の種子を集めて保存し、除草剤の研究用に主に使われています。雑草の種子は脱粒性といって不規則に飛び散るので、集めるのも一工夫が必要。見本園には、食用、工芸用などに使う作物が、所狭しと植えられていました。

雑草園 ツルマメの栽培

遺伝子組換え作物の作出1
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所畑作物研究領域上席研究員 小松 節子さんの説明を受けました
 この研究棟は建物全体で遺伝子組換え植物を扱えるような構造で、審査を受けている。イネのDNAマーカーを用いた品種改良や、遺伝子組換え技術を用いた研究を行っており、トリプトファンの含有量を高めたイネもこれらの研究の中から生まれた。他に、ムギとダイズの湿害の研究をしており、遺伝子組換え技術を用いて冠水しても枯れないダイズやムギ作出を目指している。


特定網室 虫が入らないようにした温室 水田から畑に転換した土地が水浸しになっても枯れない
ダイズを育てるためのテスト

遺伝子組換え作物の作出2
農業生物資源研究所 植物ゲノム機能解析棟 耐病性作物研究開発ユニット主任研究員 高橋 章さんの説明。
 この棟には法律に従って拡散防止措置を講じた温室があり、遺伝子組換え作物を栽培できる。この温室では環境中への拡散を防ぐため遺伝子組換え生物や、温室内で使用された水は滅菌され、温室内の空気はフィルターで濾過されて廃棄される仕組みになっている。私はここで、イネの変異株を使って、白葉枯病やいもち病の仕組み、関係する遺伝子の働きについて解析を行っている。植物にも免疫機能があることがわかってきており、それを研究し得られた知見を元に、病気に強いイネをつくることを目指している。


明るい照明をつけて、冬場でも強い光でイネを育てられる
ようにしてある
高圧滅菌する装置。遺伝子組換え作物はすべて、高圧滅菌して
からでないと、研究棟から出せない。水もすべて滅菌処理され
廃棄される

遺伝子組換え害虫抵抗性トウモロコシ・遺伝子組換え除草剤耐性ダイズ
農業生物資源研究所 隔離圃場・展示栽培圃場で、広報室 笹川由紀さんから害虫抵抗性トウモロコシ、除草剤耐性ダイズについて説明を受けました。
除草剤をかけるとダイズも雑草も枯れるのに、ある除草剤に対して遺伝子組換えダイズだけは枯れた雑草の中でピンと立っていました。しかし、異なる種類の除草剤を散布すると、その遺伝子組換えダイズも枯れてしまっていました。
害虫抵抗性トウモロコシには、ガの幼虫、いわゆるイモムシがついていませんでしたが、非組換えトウモロコシの茎の粉をふいたようにみえるところには、小さいイモムシがいました。また、除雄といって、遺伝子組換えトウモロコシの雄花を切って、遺伝子組換えトウモロコシの花粉が飛ばないようにされていました。

花粉症治療イネ
同じく農業生物資源研究所の隔離圃場では、機能性作物研究開発ユニット主任研究員 高木 英典さんから、栽培中のスギ花粉症治療イネの説明がありました。
「花粉症治療イネといっても見た目は普通のイネと同じで、肥料、水などの世話の仕方も同じ。ここに植えられているイネは、おいしくて人気のあるコシヒカリにスギ花粉症の治療効果を目的とした遺伝子が導入されています。
金網で覆われた圃場には4アールの田んぼが2枚あり、400Kgくらいのお米が収穫できます。水場も器具もすべて、囲いの中にあり、収穫まで隔離されて行われます。隔離圃場は決まった人以外が出入りできないようになっています。赤外線のセキュリティシステムとビデオ監視システムも備えています。」


展示ほ場配置図 異なる除草剤で枯れる除草剤耐性ダイズ
スギ花粉症治療イネ 講演会と意見交換会

講演会

「生物多様性影響評価」 農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究推進室長 田部井豊氏
世界では27カ国で日本の国土の約4倍もの耕地で遺伝子組換え作物が栽培されている。バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書には、国境を越えた遺伝子組換え作物が開発国以外の国で環境に悪影響を及ぼさないようにしなくてはならないと書かれている。
生物多様性評価は、主に①競合における優位性(組換え生物が強くて野生生物の駆逐)、②有害物質産生性、③交雑性による置き換わりの3つの視点から判断する。 
遺伝子組換え技術は、生物種に関係なく有用遺伝子を利用できることと、従来の品種の持っている特性を損なうことなく新しい特性を導入できるようになるなどのメリットがある。


「植物の生存戦略からみた食品の安全性と遺伝子組換え農作物」 筑波大学遺伝子実験センター長 鎌田博氏
植物の成長に影響する地球環境には、重力、光周期、年周期、光量、温度などがあり、その条件の中で植物は繁殖してきた。害虫に対しては、忌避物質、毒物をつくる。毒をいつも作っているとエネルギーがいるので、虫がかじると毒をつくる。
カリフォルニア大学(米国)のエイムス博士は全ての野菜や果物は天然の毒素を持っていることを示した。
食品にはいろいろな情報が表示されているが、本当に健康被害に関係するのはアレルギーだけ。
天然が安全と思っている人が多いが、世界で最強の発癌物質はカビ毒、花をつけたモロヘイヤは強心配糖体をつくり心臓が弱い人には危険など、天然でもリスクのある食品がある。
野生種は品種改良で全く異なる形になって作物として利用されている。どのくらい遺伝子が変化したかはわからず、農作物は人手が加えられており自然のものでない。
野生の植物は実を守るために毒物を多く持っていて、ニンジンの野生種と栽培種を植えると栽培種にキアゲハの幼虫が来る。害虫を防がないと、作物栽培は成り立たない。
カルタヘナ法は野生の生物多様性を守ることが目的で農作物ではない。
食品の安全性は既存のものと同じならば食べてもよいと考える。私は、食品安全委員会遺伝子組換え食品専門調査会の委員をしているが、毎月開催される。私は納得できるまで何度でも安全性審査をやりなおしてもらっている。
日本は食品・飼料の安全性の評価のための基本的な考え方を世界に示し、それが世界(CODEX)のスタンダードの基礎となった。また、表示の正しさを科学的に証明するための独自の検知方法を確立し、この検知方法は世界のスタンダードの一つになっている。
食品安全委員会は厚生労働省とも離れているので、科学だけで検討・判断している。
このように私たちはしっかり安全性審査をしているのに、ベビーフードの小魚の目玉を異物だと思われて、除去しなくてはならないような今の状況はおかしいのではないかと思う。


 
参加者のみなさん