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コンシューマーズカフェレポート「今、消費者に求められていること〜振り返りの中から」

 2011年5月24日(火)、くすりの適正使用協議会会議室にて、第3回コンシューマーズカフェを開きました。冒頭、くらしとバイオプラザ21専務理事真山武志より、「被災地にいないわれわれこそが、消費者にできること、自立した考え、リテラシーについて考えたい」とする開会挨拶がありました。スピーカーはコープこうべ参与伊藤潤子さん。お話の後、グループディスカッションや全体討論をしました。

 
伊藤潤子さんのお話  

お話の主な内容

はじめに
コープこうべの活動からある程度身を引いた今、自分のやってきたことを振り返りたい。
震災後明石に住んでいる私のところに、大阪に住んでいる家族から、ミネラルウォーターがほしいといわれたが、店はどこも売り切れていた。関東から関西に水汚染、お米汚染が広がるという噂が広がり、牛乳、水、おむつが順になくなっていった。自分が買うと本当に必要にしている人に渡らないと思いをはせられなかったのだろうか。消費者団体がいち早く、買いだめ自粛を呼びかけられなかったか残念に思う!

消費者運動の起こり
昔、米屋の儲けは枡捌き(さばき)と言われ、容積で売買された。生協は重さ売りを始めた。薬害、食品添加物、森永ヒ素ミルク事件などがあり、市民運動が起った。「町内生協」というくらい、町ごとに生協が誕生した。「琵琶湖をきれいに」という石鹸運動の頃に生協に入った。
「製造物責任法」を策定するときに、保険料が上がり、訴訟乱立で大変になると脅されたが、実際はそうならなかった。いろいろ言われてきたことが、そのとおりにならなかったことも多い。戦後生まれは添加物を食べているので長生きできないというのもその一例。
コープこうべでは、1994年から食品安全に取り組み始めた。
国会請願をしたときは、アクションプログラムで十分、法制化不要といわれたが、法制化を求めて1400万筆の署名を集めた。BSE発生をきっかけに食品安全行政には画期的な変化が訪れた。食品安全基本法、消費者基本法ができた。「安心」ということばが登場したのは食品偽装事件後。「安心」は消費者運動に変化をもたらした。

消費者問題は商品の問題から構造的な問題に、そして法整備により緩和へと変遷
商品問題:食料不足、粗悪品の横行
構造問題:大量生産・大量消費、消費者問題の顕在化・消費者被害、意識の変化、運動の活発化、行政不信
法整備が行われ、BSEや偽装を契機に行政も変化し、格差は是正されてきている。
経済・情報量・交渉力の圧倒的格差があっては消費者は対等な当事者たりえないが、法整備によって消費者が救済保護される立場から、対等な当事者に変化してきたと言える。
食品問題に関して言えば、商品の質・量の問題→健康被害→国際化の中で食品の安全行政の整備が概ね整備されてきているといえるのではないか。

私の気づき
食品添加物大幅緩和に反対していた。このときは、外圧であることが許せないと思っていた。
LL牛乳、ポストハーベスト、食品添加物に反対していたが、ガンや奇形のデータなど一方的な情報がすべてと思っていた。
当時、私たちは、データの信頼性、学会の信頼性は知らなかったし、理解できなかった。
活動の中で気づいたことは、いろんな人がいろいろな考えて持っていること。消費者の本当の役割は何かと考えるようになった。

ピンクのかまぼこ
印象に残っているのは、プライベートブラントでピンクのかまぼこを開発したときのこと。「私は生協商品に合成着色料を使ったものを開発する必要はない、ピンクのかまぼこがほしい人は他社のものを買えばいい」と言っていた。商品開発部長から、コープ商品で一番売れているピンクのかまぼこを作りたいという声、コープが作ったピンクかまぼこがほしいという組合員の声があることを知った。天然色素(トマトのリコピン)で試作したが、光で退色し、添加物より天然色素を大量に使うことがわかった。また、不純物が多く入ることも知った。赤色106号の純度はほぼ100%に近く、少量の使用で済む。誠意を尽くして実験もしてくれた。組合員のほしいものについて「生協らしくない」と自分の思い込みを押し通すのは傲慢だったと目が覚めた気持ちだった。
組織も商品も時代とともに変わらなくてはならない。しかし、これは難しい。
無えん析ハムは、生協を支える運動商品ではあったが、輸入豚、亜硝酸塩、結着剤(乳たんぱく)を使ってプライベートブランドのハム(スライスロースハム)を作ることは組合員の生活に貢献できると確信した。私自身も、一人暮らしの高齢の母のために、躊躇せず安心して保存できる亜硝酸塩の入ったスライスロースハムを選んだ。無えん析ハムがありながら、亜硝酸を使用したハムを開発することについては、亜硝酸塩を使っているNB(ナショナルブランド)、生協仕様商品が売れている現実があること、亜硝酸は野菜由来の硝酸塩から多量に体内で作られていること、無えん析ハムは崩れやすく廃棄量も多くなってしまうことを伝え理解をしてもらった。

アスパルテーム
生協は自主基準をもっているが、それは生協の存在意味と重なる部分もある。自主基準の果たしてきた役割・成果、科学的な十分なデータと、健康管理で使用を必要としている人がいるということなど万全の説明準備をし、基準変更を提案し、問題なく受け入れられた。

蒸しチーズケーキ
7月PB蒸しチーズケーキに組合員宅でカビが発生した。これは自分が副議長として協議した商品だった。消費期限の設定条件が組合員の生活実態(真夏に皆外出し長時間締め切った部屋がどれほどの温度になるか)と合致しているのかという、いわば最も私自身がわかっていることに思いを致せなかったことが恥ずかしく、悔やまれました。権限のない全くの素人が商品開発に深く関わっていいのかと考えるようになった。

遺伝子組換え
食品安全研究会を立ち上げて勉強し、まとめの時期に遺伝子組換えを扱った。私たちは先入観なしに白紙から勉強できた。固定観念が生まれる前に勉強できてよかった。商品政策にあたって、非組換えを望む人の選択の権利を守ることも明記された。
人には得心するシーンがある。私も「予期せぬ遺伝子の動きはいつも起っている」「アグロバクテリウムが木にこぶを作り、アグロバクテリムが抜けた後も植物はコブを作る」という説明で得心した。知識の力は大きい。

求めてきた食品行政は整った
食品安全委員会発足は画期的なできごと。行政の責務として自治体は条例を制定するようになった。
過去の運動の成果として受け止めて、不備なところをみんなで育て上げて行くことは、制度を求めてきたものの責任。
評価と向き合うこと、「理解できるけれど、私は安心できない」という考えに逃げ込まないこと。評価を尊重して、いろいろな立場の人が各々その役割を果たすこと。
今まで成果の上にたって、食品の安全を育てて行きましょう。

食育の見直し
食品の安全性は、制度としては発展してきた段階では、食べ方が適切かどうかが大事。これは生活習慣病予防につながる。
食育には予算をつけて大々的にやってきているのに、伝統、マナー、感謝、無添加、無農薬ばかりで一番大事な「食中毒」が教えられていないことは問題だと思う。

消費者と消費者団体に求められていること
自ら変わること!
変化している社会状況を認めて、生活を守るために必要なことを考える
消費者だからこその優しさや思いやりを自分の生活の中で考える
そのために周囲の人々のことばがヒントになる。例えば、友人が「震災の初めは新聞を読んだけれど、追いつかないので、普通に暮らします」と言っていた。すべて賢く読んでいるのか、そんなに張り詰めたら毎日は暮らせない。消費者が専門的なことを詳細にすべて理解するのは無理で、それを努力不足とは責められない。
行政は消費者に表示をしっかり見ろというが、本当は表示でアレルギーさえわかればいいのではないか。暮らしにはいろいろなことがあり、表示ばかりを見てもいられない。任せるべきは任せて有意義な消費生活を送りたいと思う。
消費者団体が発展し、2003年、法律が整ったことを生協のリーダー層は確認することが大事ではないか。これからは、制度を育て充実させ、食べ方にも注力すべき。

消費者はどんな存在か
消費者は経済活動の最終段階。消費者目線、消費者の要望でこうした、ああしたという人が多いが、それは消費者が本当に望んだ結果か。
消費者は「尊重される存在」だが、「反応を過度に気にする」から「さわらぬ神(消費者)にたたりなし」と思われていないだろうか。「きっと消費者はこう考えている」と先読みされることはいいことだろうか。先読みされないように、我々、行政、生産者、事業者、メディアに率直に発言してきただろうか。

最近、気になったこと
陸前高田市で、自主防災会が運営する避難所が閉鎖されそうになった。被災者と支えたいと思ったボランティアの疲れが原因。
被災地に一時帰宅のときの同意書で、住民からの批判で「自己責任」という文言が消えた。
私の近所でグリーンカーテンのためのゴーヤの苗を広報した通りも条件で、無料配布したら、定員いっぱいになった。もらえなかった人がしつこく文句を言っていた。行政は言い返してはいけないというのかもしれないが、後味の悪い光景だった。

私たちはこれから
弱い立場には限りなく寄り添う「配慮」は確かに必要。一方、福祉事業には批判・評価はしにくい。言いにくいことを曖昧にしていると、内包された問題が長期化し再発し、より多くの労力が必要になるようだ。
「どうしてくれる」と消費者は行政に言うことがあるが、いわれた行政はどうしたらいいのか。行政は攻めても言い返さない。言い返されないところに、消費者は文句が言いやすいのではないか。その場はうまく収まっても、率直に伝えることを積み重ねないと、問題は解決しない。私たちは率直に語るべき、これが私たち消費者の責務です。


会場風景 阿南久さんからコメント

全体討論 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 消費者団体が社会と共に変わっていくべき。どういう団体が変わらないのか→長い伝統を持つ団体が変わりにくい。年齢の問題もあるかもしれない。今は定款の趣旨に沿って入会し、私たちのころのような下働きをしない。
    • 老舗の消費者団体でも科学的判断をするところもあるし、若い消費者団体なのに100年前の科学を守っているところもあると思う→JAS調査委員会でアンケートをすると、消費者団体の8割は添加物はいけないという。小さい団体では更新しにくいし、生き残れない。そういう人の意識をとりあげたい。
    • 外で発言しても、自分の団体の中でそれを伝え切れるのが、リーダーだと思う。
    • 消費者意識といってもそんなに確信しているかというと疑問。理解されていたようでも購買行動とは異なっていたりする。反対されていても売れているものもある。値段と賞味期限を見て買っている人が多いのが組合員の実情。
    • アンケート調査はいろいろあるが、購買行動と一致していない。それでもアンケート結果から食品添加物を嫌っているというコメントが一人歩きする→塩分と脂肪を抑えた食品を要望から開発したら、売れなかった。特に関西では薄味を好むのがトレンド。食品添加物を避けることがかっこいいというイメージに拘束されている企業が多いのではないか。実際には薄味は売れなかった。
    • 食品添加物、無えん析ハム、アスパルテームが理解されるようになったきっかけは何か→カロリーコントロールが必要な人が、コープこうべの薬局で買えるようにしてほしいといった。アスパルテームの調査団をアメリカに送り、提案したが通らなかった。5年後、日生協が基準を切り替えたとき、コープこうべも一緒に基準を変えた。私はコーラが好きだったからアスパルテームを使った食品を置きたかった。トクホのガムが買いたい、ほしいという人も多かった。自信を持って反対していた人に、安全だから皆のために主張するという確信をもって提案したら、しみこむように受容された。反対を想定して準備をした資料も不要だった。企業からフェニルアラニンの説明はしっかりしてもらった。アミノ酸の一種であること、学会発表もされていたことも、受け入れられる要因になったと思う。


    グループディスカッション

    伊藤潤子さん、阿南久さんを囲んで、ふたつのグループに分かれて、次のような活発な話し合いが行われました。

    生協について:薄味好みなど関西の生協の方が食にこだわりがあり、関東は庶民派という傾向があるかもしれない。生協により考え方や活動の方向性が全く異なっていて、生協といっても外からはブラックボックスに見えることもある。リスク分析を勉強している生協は、事故もよくフォローしているようだ。現実的には、組合員が増えず、経営が苦しいところが多い。

    企業は:消費者に自信をもって説明すべき。混乱するだろうと情報を抑制するのはよくない。ときには個人の立場の意見を言いコミュニケーションをとってもいいと思う。

    表示:複雑でわかりにくいこともあるが、詳細に表示してみて、納得してから簡素化するのがいいのではないか。

    食品添加物:不要なものと誤解されているが、企業が説明するしかない。用途、使われているものが複雑でも徹底して表示され、納得して簡素化するのがいい。

    震災をめぐって:物がなくなるという不正確な情報が出たりして、買いだめに走った消費者も多かった。流通が品物は足りていることを伝えられたらよかった。
    不正確な情報に惑わされた人も多かった。人々は最後は新聞、テレビの情報に頼るので、コメンテーターには発言に配慮してほしい。

    食中毒:肉の生食の事件から食中毒について理解されていないことがわかった。食育で採り上げられていないが、最も教えるべき項目ではないか。省エネで冷蔵庫の温度を下げるという話があるが、食中毒防止を考えて、丁寧に情報を出す必要がある。

    まとめ
    阿南さんから:私は消費者団体の中にいて揺らいでしまうことがあるが、伊藤さんからの冷静なアドバイスに支えられてきた。今日は良い話し合いができた。
    震災後の今は危機的状況だが、消費者にとっては“消費者力”アップのいい機会!消費者は自己防衛のために買いだめに走った人もいたが、自分で考え、判断するために、正確で科学的情報を求める人も増えた。全国消団連はそのような消費者をサポートするために、信頼できる情報の収集と提供の取り組みを進めている。生活物資の不足については、メーカーが来て説明してくださり、供給のためにどんな努力がなされているかを知ることができた。
    また、放射性物質に関わる学習会を開催したり、会員団体の被災地支援の取り組みを交流してきたが、放射能が検出される食品、放射能による差別などの問題があることを知った。このような学習のチャンスをうんと活かし、消費者のエンパワメントをはかっていきたい。原発の今後についての議論は重要だが、同時に今直面している問題を真正面からとらえ、共感の輪を広げながら、できることを一つずつ行動に移して解決していくことが何よりも重要だと思う。
    伊藤さんから:阿南さんとは同じ時期に活動してきた。消団連事務局長として奮闘していただいて嬉しく思っている。企業や流通を積極的につないで下さっており、これは重要。今後は、流通という事業者と消費者をつなげていくべきだと思う。