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バイオカフェレポート「いまさら聞けない農薬のイロハ」

 2011年5月13日(金)、茅場町サン茶房でバイオカフェを開きました、お話は、日本獣医生命科学大学名誉教授 鈴木勝士さんによる「いまさら聞けない農薬のイロハ」でした。初めに横山ゆうこさんによるフルート演奏。金属のフルートと黒檀で作られたフルートの聴き比べなど、楽しい演奏でした。

横山ゆうこさんの演奏 鈴木勝士さんのお話

お話の主な内容

初めに
大学で生理学を教えてきた。獣医には動物の病気を治す仕事と、殺す仕事があり、私は後者。30年間で40万匹のラットの親子を使って遺伝の研究をした。人間は動物の犠牲なしに生きられないことを感じている。
震災で放射線が話題になっているが、リスクや安全性の考え方はすべて農薬の考えに通じている。

食料を得ることの難しさ
戦後しばらくは米穀通帳というのがあって、お米は配給で1月に、一人300gの15日分だった。足りないので大豆、芋、ムギを足していた。江戸時代から大正まで米は自由に売買できていたが、大正7年米騒動が起り、間接統制になり、完全に自由化したのは平成16年。
最近、食品の安全性が問題になるが、食料が足りているからいえること。安全を求めすぎではないか。
今は、米余り現象が起っている。戦後、草丈が短く早く収穫できる米ができて、北海道での栽培が可能になり、収穫量が増えた。米が余るようになったのは①品種改良と②農薬開発で単収があがったため。大規模化、機械化、低温倉庫での保管も貢献している。一方、一人当たりの消費量が減り、米以外の食料も多様化し、日本は農業以外で得たお金で海外から食料を購入。
去年は4万ヘクタール減反しないと余る計算だったが、津波・地震の被害で栽培不可能な面積が増えるので、今年は減反しなくていいとなるかもしれず、これも考えもの。

農薬嫌い
今のフードチェーンでは、食べる人と作る人が完全に乖離し、お金があれば、いつでもどこでもほしいだけ、食料が手に入る。この背景には、生産技術、保存技術(冷凍。冷蔵、食品添加物)、物流や交通網すべての進歩があり、エネルギーが多く使われている。
大量に良い品物を入手できる状況にいた私たちは、震災、食糧不足を初めて経験した。
アンケートでは8割以上が農薬は不安だと回答。無農薬農業の施策を進められている。不安がっている人は飛びつくが、JASが認定した有機の食品は全体の0.36%。市民は本音では、市場で入手できるものは安全だと思っているから、ある程度安くないと買わない。

農薬の役割
農薬には①病害虫駆除(殺虫剤、殺菌剤など)、②成長調整(種無しブドウ)、③天敵(BTという細菌など)の3種類がある。
ポストハーベストのように、収穫後に農薬を使う時には食品添加物の扱いになる。それで、農薬のメリットは食べる前のメリット(生産者のため)と認識されている。
実際に害虫がつくと商品にならないし、量と質の確保に農薬が必要。消費者は残留レベルゼロを求める。農薬業界はクロラントラニリプロールという昆虫に猛毒だが、哺乳類には毒性ゼロを開発した。
100年前から稲の収穫量を見ると、作業時間は昔の1/5になり、草取りが不要になった。三ちゃん農業、減反(補助金をもらう)しても米余り現象になるくらい農業は合理化されている。
無農薬だと100%収穫できない作物も何割かとれるものもある。桃は農薬なしでは全くとれない。キャベツも農薬なしは無理で、手での害虫駆除は不可能。

人々が恐れる健康被害
化学物質のリスクというと、発がん性が問題になるが、大量に投与するとガンになったり、肝臓に障害が起ったりするのは当然の話。ハザードとは死亡、臓器不全、機能不全、感覚障害、アレルギーが起るなど。
最も恐れられる発がん性について。放射能の場合は非常に低い値を基準にしてしまった。日本人の3割は自然にがんになっているのに。がんは治りにくいから怖がられる。
催奇形性も怖がられている。奇形は元にもどらないから怖い。子どもに影響するというのも、人々は恐れる。

リスクと濃度
発がん性など、人々が恐れる状況が起るのは濃度が高いとき。低い用量では起こらない。
リスクとは、実際の濃度でどのくらい起るかという確率。人で起るリスクやハザードは事実がないとわからないが、だからといってヒトで実験することはできない。
ヘルシンキ宣言により、動物実験で安全性がわかるまで人の試験はできない。さらに動物愛護とのバランスも難しい。
ディラニー条項(ディラニー議員の提案)で「発ガンが証明されたら利用できない」と決まった。分析技術が進み微量の発ガン物質を含んでいることがわかると使えないものが増える。ディラニー条項を廃止して、繁殖試験や、子供への感受性の試験をして、利用範囲を広げる方向もでてきている。しかし、子どもだから影響が強く出るというのはうそ。母親に影響がないのに、子どもに影響が出るのは母乳を介してのこと。これは子どもの感受性が高いのではなく、小さい体重で母乳だけしか摂取しないために子ども摂取量が相対的に多いから。
欧州では高濃度でガンや奇形の可能性があるときは、表示することになった。

農薬の安全性
農薬の効果を現して残留性が低い農薬が開発された。
残留レベルの農薬で事故はない。また規制も厳しい。それでも不安で、農薬はいらないという意見もある。
低レベルで長期間の影響については、自然被爆とあわせて考えないといけない
一律基準の意味は安全基準ではない。間違った使用がないかを見るための基準。日本では一律基準を安全基準と位置づけてしまったので、直ちに危険はないという表現になる。それよりも、急性の安全基準を作って、その基準より下だからOKとはっきり示すやり方がいい。
一方、人がつくる毒物は避けられるが、アフラトキシンのようなカビ毒は規制できない。アフラトキシンの被害は世界で発生。見つかったら、廃棄しかない。きのこ、トリカブトは見つけたら廃棄するしかないグループに属す。
基準ができると、その数値が一人歩きし、検査が必要になり費用がかかるようになってくる。

量との関係
パラケルスス(15世紀)は「全てのものに毒がある。用容量が多いと毒になる。少なければ毒性も減る」といっている。ビタミンAのように無くなると欠乏症が出るものもあるが、一般的に少なければ毒性は出ない。従って、使っていい範囲というものがある。
容量―反応曲線を見ると、無毒性量(NOAL)が決まり、その1/100をADI(一日摂取許容量)にする。毒性試験では閾値があることを確認しているが、現実の暴露レベルは閾値以下で非常に低い。
急性参照量というのは、1回に大量に摂取して毒性を示す量の最小値。
動物実験でNOALを決め、人はもっと感受性が高いと予想して100分の1をかける。
知られていないことに、ダイオキシンに人は感受性がないことがある。ダイオキシン感受性ノックアウトマウスと同じくらい人の感受性は低いことがわかっている。ダイオキシンの誤解から落ち葉炊き、焼き芋ができなくなってしまった。ダイオキシンについては、モルモットとハムスターで100倍の開きがあり、ラットでさらに100倍、ヒトとはさらに100倍以上の感受性の開きがある。大阪でダイオキシンの高い暴露があったが、最高裁の決定でも人に健康被害は認められていない。それでも大阪府は罰金を払うことになってしまった。PCBとダイオキシンは違うことが理解されていない。

安全性審査
医薬品:農薬ほど厳しい毒性試験をしない。医薬品は副作用があっても薬効があれば使えるし、医者がついているので副作用が出ても助けられる、治れば薬はやめられる。薬はメリット中心で考える。医薬品では臨床試験もあり、副作用には本人同意の上。
食品添加物:品質・保存の改善のために利用。長い食文化の歴史がある。例えば、香料は微量で使うから、試験では大量に集めて行わなければならず、一部試験が免除されることがある。無添加だと腐るという可能性も日常生活の中でメリットとしてみえる。
農薬:ヒト対象の試験がなく、非意図的・非選択的(農薬なしでは得られない作物もあるので避けられない)。長期間曝露(低濃度でずっと使われてきている)。ありとあらゆる場合を想定した厳しい試験が課されている。口にはいるものとして、環境影響の両方の試験が必要。医薬品で農薬なみの試験をしたら、副作用は減るだろうが、それではペイしない。

規制
食品安全基本法ができて、科学に基づいて独立して公開で議論されるようになり、信頼度は上がった。法律が何種類もあるので、一元化が必要ではないか。食べるという視点が基本。評価書をみると、農薬の場合は多くの試験が課されていることがわかる。
食品安全委員会ではADIを決める。残留試験から試算をし、ADIの合理性を確認するが、残留基準は決めず、厚労省にゆだねる。農薬取締法(罰則がある)が発効し、安全度はさらに向上。農薬のリスクアセスメントは、網羅的、原則的でとても厳しく基準が作られている。ポジティブリストも効いている。
農薬はリスクアセスメントの優等生だが、すべての化学物質で徹底してリスクアセスメントをするのは難しく合理的思考が大事。


「フルートには金属製と木製があります」 会場風景1
 
会場風景2  

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 薬効があり環境に優しい「すごい農薬」を作った会社は→デユポン。リアノジンという物質の受容体をブロックするメカニズム。この農薬の外国の安全基準レベルは日本より高い。
    • 遺伝子組換え作物の方が農薬よりリスクが少ないというが→組換え体も農薬も安全性試験がされている。自分の胃袋を信じて食べましょう。
    • 日本の農薬の安全基準は欧州に比べるとどうか→しっかりしているのは米国EPA。 ポジティブリストはないが、10年間に1800人を大動員して500数十種類の農薬のADIを決めた。欧州では期限内にADIが決められなかった農薬は使用禁止になった。グリーンピースは少しでも発がん性があればハザードベースで使用禁止にしようとしている。 私が食品安全委員会の専門調査会座長をしているとき、260剤の基準を策定。1年で70剤を決め、ぶれも少なくて驚かれた。
    • 日本の消費者の食べている食品の毒性は世界と異なっているのか→世界でそんなに違いはない。日本の食べ物が危険なら事故がもっと多いはず。
    • 日本の農薬メーカーは原体を作る企業と混合する企業の二重構造だと聞いた。基準はどこをカバーしているのか原体は輸入か→原体を混合する企業は製剤として農水省に登録する。原体で基準を決め、残留基準では原体ごとにみる。3つの剤を使うと原体の基準でみる。日本は原体の見直しをしていない。1970年代で登録された剤は今まで見直しをしてこなかった。 原体の再評価から始めないとだめ。原体は国内外で製造されている。日本の原体は海外に負けている点もあるが、頑張っている。
    • 口に入れるものの安全性はどう調べるのか→食品安全委員会では、農薬、食品添加物などの専門調査会がある。農薬、食品添加物の方が一般化学物質より、高い順優先位。私は座長を6年(ポジティブリスト以後3年)務めた。厚生労働省が審査の優先順位を決め、資料集めをした。ギョーザ事件のときには、メタミドホスを優先させた。
    • 農薬は悪者だと思われるようになったのには「沈黙の春」の影響が大きいのではないか→「沈黙の春」「失われた未来」の影響は衝撃的。定性的で、定量的でないと思う。また、低レベルのものを重ね合わせても影響はまずないのに、「複合汚染」はそのことを書いている。

    〜この続きは談話会で、お話していただくことになりました(日程未定)〜