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メディアとの情報交換会「東北地方太平洋沖地震と風評被害の防止に向けて」

 2011年3月22日 芝パークホテルローズルームにおいて メディアとの情報交換会「東北地方太平洋沖地震と風評被害の防止に向けて」が(財)食の安全・安心財団と食の信頼向上をめざす会共催で開かれました。
 唐木英明氏((財)食の安全・安心財団理事、職の信頼向上をめざす会会長)より、風評被害をなんとか食い止めるために緊急に情報交換する必要である旨、挨拶がありました。
 食品安全委員会小泉直子委員長より、「食品安全委員会では、今の状況下でできるだけデータを集めて評価することになった。私自身の阪神淡路大震災から考えて、優先すべきことは、①感染症拡大の防止、②寒さ対策。風評被害は本当に困る。リスク評価された食品が出回っているので大丈夫ですから、国民全員が自分も被災者だと思ってこの事態に向かい合ってほしい」という発言がありました。
 3月18日(金)学術会議「今、我々にできることは」緊急集会でも、「今回のことから私たちは、自分自身のエネルギー問題をとらえなければならない」という同様の発言がありました。研究者やメディアも今、私たちにできることを探っています。私たちが今ここでできることは、①落ち着くこと、②買占めをしないこと、③節電すること、④現場の方のご苦労を思い、活動に敬意を表し、「評論家」にならないことだと思います(最後にわかりやすい情報提供サイトをご紹介します)。


「福島第一原子力発電所事故」     東京工業大学原子炉工学研究所 有冨正憲氏

何が起ったのか
次の3つの事が、地震の被害でなく津波によって起きた。
①自己発電が止まった時のための非常用ディーゼル発電機の燃料タンクが壊れたり、外部電源がとれなくなったり、二重、三重の備えの電源すべてが使えなくなった。
②外から冷却用海水を取り入れる施設などすべての海水設備が壊れた。
③崩壊熱を除く非常用炉心冷却システムが効かなくなった。

施設内の事故
福島には1〜6号炉があり、それぞれに使用済み燃料プールがある。この他に平均して15年冷却期間をおいた共用プールという使用済み燃料を収めてある施設がある。
1〜4号炉では津波で冷却水が回らなくなり、水が蒸発、水位が下がったために、ジルコニウムという金属でできた炉心の鞘が水と反応して、水素が発生し爆発が起きた。現在は海水注入、放水により、1〜2号炉は外部電源とつながり監視できるようになった。3〜4号炉も順に監視できるようにしていく(22日までに1〜6号炉で外部電源とつながった)。
http://www.tepco.co.jp/nu/f1-np/press_f1/2010/2010-j.html

これからのこと
点検中で停止していた5,6号炉のプールに真水を満たすこと。海水は冷却プールを腐食し冷却能力低下の恐れがあるので、1〜4号炉のプールも真水に早く切り替えることを、使用済み燃料が6,375本入っている共用プールも今のうちに水のラインを確保しておくこと。
ダムの水をろ過水タンクから引くラインが確保したり、応急配管工事、海水を真水にする装置の組み立てなどを進めてもらいたい。

放射線量と被曝線量率
東工大でも敷地内30-40箇所で放射線量を計測している。地震4時間後、線量率が平常時の15倍になったが、ここは建屋に風がぶつかって落ちる所で、20日には平常値の1.4〜1.8倍程度になった。道路のような吹きさらしはあまり高くなかった。平常時は0.5毎時マイクロシーベルト(μSv/hr)。毎時というのは1時間その場にとどまって浴びる線量。1回のレントゲン検査で浴びる線量は50μSv。1万m上空を飛んで海外に行けば1時間で5μSv/hr。海だと0.03μSv/hr。
湯治場では放射線を浴びることになる。赤外線で新陳代謝があがり、体が温まる。アメリカの基準より高いが、アメリカ人も温泉にやってくる。
放射線は怖くないが、浴びないですむなら浴びないほうがいい。
普通の人が1年で受ける自然放射線は2.4m㏜。生物に必須のミネラルであるカリウムには、放射性のカリウム40が0.0012%含まれていて、放射線を出しており、食物から受ける放射線は自然放射線2.4m㏜の1割にあたる。
事故対応する現場の人たちが手一杯で気がつかないことなどを、私たちは専門家として、将来を予測して助言して、がんばっていきたい。

質疑応答
○被害は想定内であったか→地震で壊れたものはなかったので、安全性は担保されたと信じている。津波は想定外(チリ津波の経験から5mは想定内だっただろう)だった。 
○塩分がたまると冷却能力が落ちるのはいつごろか→共用プールの水温上昇はゆっくりしているが、共用プールも含めて真水への切り替えは少しでも早いほうがいい。弁が塩分で固着することがある。


「放射性物質と食品の安全性について」     秋田大学名誉教授 滝澤行雄氏

放射能汚染の来歴
原子の火は、広島・長崎で悲劇的実用化のスタートを切ることになった。1975年、セラフィールド工場周辺で25歳以下に白血病、リンパ腫瘍が多く発生したが、はっきりした影響はわからなかった。
1986年、チェルノブイリで4号炉が爆発し、セシウム137(半減期30年)がまき散らされた。2-3年で減って元通りになった。男性・女性への影響は3年後には無視できるまで下がった。30 km圏内かどうかが避難のモノサシになっている。セシウムの放出がなければ、1年経たずに落ち着いただろう。

注意すること
避難は放射性雲の移動を考えて行動するのが大事。降雨、降雪で地表に沈着した放射線源から食べ物や飲み物を通じて摂取するのがあぶない。乾いた天候だと粉塵で舞い上がって降りてくる。雨は放射性粉塵を集めて落ちるので注意。事故後、初期は屋内退避、避難。中期で飲食物に注意するのがいい。
1986年、厚生労働省は暫定基準値を定めた。ヨウ素(牛乳)は220㏃/ℓ、ヨウ素(野菜)は7,400㏃/kg。セシウムとストロンチウムは全食品を通じて370㏃/kg。これは輸入品への勧告値でもある。欧州の食品中の放射能制限の基準は主に乳製品と肉で、野菜中心の日本とは異なる。
茨城県の緊急モニタリング検査結果、放射性ヨウ素(ネギ)は461.1㏃/kg、セシウム6.3㏃/kg。ホウレンソウ(ヨウ素)は10,451㏃/kgで、セシウムは359.7㏃/kg。
原乳ではヨウ素が16日から18日で、1,190から932㏃/kgに減少。セシウムは17日以降検出されていない。

食品からの摂取
事故直後 農作物の表面が汚染。ビキニ水爆被災で焼津港に水揚げされたマグロ類も体表に付着した表面汚染だった。
しばらくすると根から作物に吸収され、特に粘土質の有機物に土壌汚染が生じる。
食物連鎖では ミルク、卵、小魚から大きい魚、動物へと濃縮される。ストロンチウムやプルトニウムは甲殻類に、ポロニウムは海産物と魚に蓄積しやすい。
食品から摂取については、「合理的に達成できる限り低く保たなければならない。(As Low As Reasonably Achievable)」の考え方「ALARA」を採用する。

食品からの放射能除去
放射能を持つ物質が付着したら、洗い落せばよい。
野菜(ナス、キュウリ)のストリンチウム90は水洗で5-6割、キュウリは酢漬けで放射性降下物の9割、葉もの(ホウレンソウ、春菊)は煮沸で、ヨウ素131、セシウム137、ルビジウム106の5-8割が除去できる。
牛乳では、ストロンチウム90、セシウム137、ヨウ素131の8が脱脂乳に移り、バターには1-4割しか移行しない。
飲料水のヨウ素123はイオン交換樹脂で100%、牛乳のヨウ素123などイオン交換樹脂で20分間振とうすると80-85%が除去される。
肉のセシウム137は食塩と硝酸カリウムの水溶液につけておくと初期濃度の5%にまで下がる。4-5時間冷凍した肉のセシウム137は4〜5時間塩水につけると90-95%除去できる。

放射線安全の許容量
世界の平均的な自然放射線による被曝は、2.4m㏜。
低線量の放射線発がんが5%増えるのは1000mSv(日本人のガン死亡は約30%だから、これが35%になる)。
中国には自然放射線を年間54mSv受ける地域に住む人たちがいる。近藤宗平先生は「放射線は年間50mSv以下なら安全」と評価されている。
チェルノブイリでは心理的放射ショックが発生し、ヨード剤が1850万人に配布されたが、予防内服は無意味だったと今日かされている。

まとめ
「スウェーデンの放射能対策」では次にようにいっている。①窓の開閉は差し支えない、②ヨード剤の予防内服は不要、③母乳を中止しなくていい、④屋根で雨水を集めて飲んではいけないが、水道水や井戸水は飲用してかまわない、⑤牛乳は規制しないが、大気中に数日暴露された牧草は用いないこと



まとめ          唐木英明氏

風評被害とメディアの役割
風評被害は危機管理への不信につながるので、対策は小出しにしないこと。同時に費用対効果を考えなくてはいけない。
出荷規制などは、事態を過大に見せる可能性があり、注意が必要。
現状では出荷しても売れないから、一部農産物出荷制限はやむをえないかもしれないが、県単位で出荷制限をした影響は考えるべき。時期をみて早期に解除し、安全のためでなく安心のための出荷制限であることを繰り返し伝えるべき。
今こそ、メディアの見識が問われる時。米国80kmは過大反応ではないだろうか。福島の事故の中心地がチェルノブイリ並みでないから、放水したり、計測したりできており、日本政府の進め方は妥当だと評価する。

暫定基準
厚生労働省が示した防護基準はICRP勧告を基にしている。ヨウ素131について、防護基準の年間50mSvを超えるためには、牛乳1500ℓ、ホウレンソウ151kg分に相当する。

最悪シナリオ
最悪はスリーマイルアイランドくらいになるだろう。現在のスリーマイルはどうなったかというと、炉心溶融が起こり放射性物質が放出された(例えばヨウ素は555ギガ㏃)炉は使えなくなっている。16km以内の住民が避難したが、現在も原子炉のうちひとつは稼動し、人々は作業し、近くで生活している。線量の多い被曝者も出なかった。

会場全体での話し合い 
  • は会場参加者、→は唐木氏、滝澤氏、小泉氏

    • 魚介類など出荷制限のかかる品目はふえるのか→海への排水放出口界隈の放射線濃度があがった。ローカルな問題で1キロ離れた場所はゼロだろう。あっという間に希釈される。
    • 政府関係者が行う「ただちに人体に影響なし」という言い方は不安を増す表現ではないか→ただちにという表現には問題があるのは同意。いい表現を探したい。 
    • 暫定基準値は1年摂取し続けたときの数値だが→セシウムは生殖腺をはじめとする筋肉全身、ストロンチウムは骨に蓄積すること計算した文献がある。JCOの事故の被曝者の事例から考えて、50 mSv以下なら、臨床症状はない。
    • チェルノブイリ事故と子ども甲状腺がんとの相関関係は。汚染ミルクを心配している人が多い→チェルノブイリ事故後、発症したのは小児甲状腺がんばかりで大人のがんはない。福島はレベルが低く、甲状腺がんの恐れはない。
    • 福島の牛乳は貯蔵されていた飼料を食べているはずなのに牛乳に出てきたのはなぜ→可能性に水もあると思うが、調査しないとわからない。
    • イオン交換樹脂について→積極的な除染として欧州では、ぶどう酒、チーズをつくるため膨大な研究をしている。食品安全委員会も資料を公開している。
    • 風評被害をどうおさめていくか→基本は政府だが。伝えるのはメディア!
    • 規制解除は誰がすればいいのか→政府、情報をよく集めてよく判断すること。政府がどれだけ信頼されているかが問われる。
    • 現場で風評被害が始まっている。お願いは、ネギ、ピーマン、キャベツは暫定基準値より低かったのだから、茨城県産がすべてだめにならないようにいってほしい。
    • 補償されない風評被害の作物は厳しい状況になる。チェルノブイリやスリーマイルの風評被害対策を教えてください→最大の処方箋は時間という意見がある。そのときに「ちゃんとやっている」ことがわかると不信感は減って行く。


    ◆ バイオカフェにもおいで頂いた小林泰彦さん(日本原子力研究開発機構)から、わかりやすい情報提供サイトをご紹介いただきました。
     ・食品と放射線:(財)日本分析センター
    
 ・食品から受ける放射線量
     ・放射線の測定についての簡単な解説:(独)産業技術総合研究所
     ・東北地方太平洋沖地震に伴い発生した原子力発電所被害による食品への影響について:(独)農研機構・食品総合研究所
     ・バイオカフェレポート「放射線を照射した食品って安全なの」(小林泰彦さん)