2010年10月9日、名古屋大学IB情報総合館大会議室で、標記フォーラムが、ドイツ科学者協会(VDW)、環境と社会的責任のための欧州科学者ネットワーク(ENSSER)、第三世界ネットワーク(TWN、マレーシア)共催で開かれました。本フォーラムはCOP10開会直前に国内外の環境保護団体とその関係者により企画、実施されました。参加者のレポートを基に報告します。
オープニング 黒田大三郎氏 (環境省参与・COP10支援実行委員会アドバイザー)
来賓メッセージ アーメド・ジョグラフ氏(生物多様性条約事務局長)
テーマ導入講演
「地球と都市の環境バランスと生物多様性」
林良嗣氏(名古屋大学教授、COP支援実行委員会アドバイザー)
「COP10/MOP5で期待される日本の役割」
クリスティーヌ・フォン・ワイツゼッガー氏(ドイツ科学者協会)
報告「バイオセーフティに関する科学的知見とMOP5へのメッセージ」
ハートムート・マイヤー氏(環境と社会的責任のための欧州科学者ネットワーク)
パネルディスカッション
コーディネーター:伊藤智章氏 (朝日新聞論説委員)
司会: 新海洋子氏(環境省中部環境パートナーシップオフィス)
パネリスト:
渡邊和男氏(筑波大学大学院生命環境科学研究科教授)
アントニオ・トゥレント・フェルナンデス氏(メキシコ国立農林畜産研究所)
クリスティーヌ・フォン・ワイツネッガー氏(ドイツ科学者協会)
百瀬 則子氏(ユニー株式会社 環境社会貢献部長)
クロージング 加藤正嗣氏 (COP10支援実行委員会総括参与)
開会にあたり、黒田大三郎氏よりご挨拶がありました。
来賓挨拶では、アーメド・ジョグラフ事務局長より、COP10、COPMOP5の準備への感謝と、今回の歴史的な国際会議はぜひ成功させなければならないという期待が述べられました。
次の3つの講演がありました。
林教授より、「私の専門はトランスポートポリシーで、東南アジアンの交通渋滞の研究をしている。生物多様性の戦略、技術、政策について、システムの構成が必要であると思います」というお話がありました。
ワイツゼッカー氏からは、カルタヘナ議定書の背景、主旨とこの議定書をめぐる各国の今までの歩みについて、説明がありました。
ハートムート・マイヤー氏からは、同会場で、この3日間行われていた科学と政策に関するセミナー「バイオセーフティ理解の促進に向けて―最新の科学的知見・政策対応・市民参加」のまとめが報告されました。
パネリストの紹介とともに、それぞれからコメントがありました。
メキシコ国立農林畜産研究所教授 フェルナンデス氏
「メキシコはトウモロコシの原産地で、今まで長い時間をかけて品種改良が行われ、59種の在来トウモロコシが作られ、これがメキシコの農業生態系の75%に植えられ、多様な食文化に貢献してきた。小規模農家が多いメキシコでは、GMトウモロコシを用いる大規模農家には太刀打ちできない。いくつかのタイプのトルティーヤは在来種のものでしか味が出せずGM品種ではダメ。非常に豊かな食文化がみられる。多国籍企業が入って非常に大規模な農業が行われて、多国籍企業は自由放任を求めている。それが多様性に大きな影響を与える。心配している。現在では、在来種や野生近縁種の共存という問題、持続可能な農業、生態系、技術の問題について、外から入ってくるものについてどのような影響を与えるのかわからない」
ユニー株式会社環境社会貢献部長 百瀬氏
「スーパーマーケットは消費者に一番近いところであり、そこで環境にどのように貢献できるのか常日頃考えている。日本では40%しか自給率がない。輸入作物や輸入原料を用いた食品の安全性に、消費者は関心を持っているが、豆腐に遺伝子組換え大豆が使われているかどうか、現場ではわからず、消費者の質問にも答えられない。家畜の飼料も輸入に依存していて、気になる。遺伝子組換え飼料を食べた家畜の肉と、日本の飼料を食べたものとどこが違うのか、わからない。どのくらい食卓に上がっているのか、一般の人にも伝えられない。どのような形で安全、安心な形で提供するのかが、課題だと思っている」
コーディネーター:実際に消費者に聞かれることはないか?
百瀬:関心のある方が、この豆腐の大豆はどうか、お電話で質問がある。報道で大豆が自給率が低いとか聞くので関心があるのだろう。それから菜花を食べるとその時は原産地が三重県と出ていると、そこでは遺伝子組み換えナタネが自生されている事実があり、それが受粉したら、どうなのかと聞かれても応えようがないのが事実です。人間にどのような影響があるのか応えられない。
筑波大学教授 渡邉氏
「今日の話で、いきなり遺伝子組換え農作物が環境中であちらこちらで散らばっていて不安だという話が出た。遺伝子組換え農作物はきちんと科学的に確認されて管理されている。食品や飼料はそれぞれ独立して日本政府の専門家会議が評価し、環境についても評価を行って、管理されている。これはいきなり国際法ができたからやっているわけでなく、輸入が開始された最初からガイドラインで評価してきた。環境省も責任をもってやっている。また食品の安全性も食品安全委員会が審査、承認しており、日本のシステムは世界的にもよく機能している。1996年に世界で栽培されたのに応じて、輸入に頼る日本は、トウモロコシの90%以上は輸入しているのが現状だ。不安に思う人もいるかもしれないが、かなり慎重に政府が評価をしているし、承認されたものについて問題が起こったという事例はない。環境については、遺伝子組換え作物が運搬中に、どうやって広がるのかも把握している。もともと遺伝子組換え体で評価しているので、日本中が黄色い花だらけということはない。ナタネの種がこぼれることも含めて判定し、交雑がどの程度か、通常の農業に影響しているのか、輸入されている油糧作物の評価、その環境影響について評価されている。ナタネについて、市民グループの研究者が発表したということだったが、彼は生態系や理科系の専門家ではない。彼の発表にどれだけ問題があるのか、日本では既に喧伝されているところだと思う」
全体話し合い
コーディネーター:渡邉先生のお話は今までと全く違う見解でびっくりしています。海外からの情報がおかしいのか、メディアのバイアスがかかっているのか、どういうことだろうか。補足していただきたい。
渡邉:本日お持ちしたILSI JAPANが発表した資料があり、今日の話が解説されている、ことばは難しいが、ちゃんとした技術者が見解をまとめたものである。野生種でどうやっているのかも評価されているので、ぜひ、読んで下さい
「遺伝子組換え食品を理解するII」 http://www.ilsijapan.org/Bio2010/rikaisuru2-2.pdf
コーディネーター:フェルナンデスさん、反論お願いします。
フェルナンデス:付け足して申し上げたいのは、メキシコの汚染の歴史が最近始まったこと。汚染は1992-1998年、7-8か所の調査では、30%が遺伝子組換え作物ではなかった。当時、メキシコでへんぴな場所でも種が混ざったことが指摘されていた。トウモロコシの在来種との間の交雑だったが、2002年、いくつかのコンタミが起こっていることがわかりモラトリアム(一時停止)を発表した。このモラトリアムはまだ続いている、この交雑種の新たなものについては、導入遺伝子をメキシコにおいて、どう管理するかかなり重要なものになる。メキシコで野生種をどう守っていくか、ということが重要である。
渡邉:日本政府は、先進国との対話もやってきた。先進国では政治的にカルタヘナ議定書に署名をしないということはない。既にOECDのガイドラインで遺伝子組換え作物を管理してきた。一方、途上国には自分たちの生物多様性を守る枠組みがないまま、この議定書ができた。先ほどの話は、私の日本政府と一緒に交渉してきた経験とは違っている。
コーディネーター:ワイツゼッカーさんに聞きたい。今、かなり相反する話が出てくる。これは杞憂なのかもしれないが、不安があるものは事実。ドイツの事例を聞かせてほしい。
ワイツゼッカー:私たちはケースバイケース、ステップバイステップで、みていかねばならない。アフリカに遺伝子組換え作物が導入されても流動しないだろう。南極にランを入れても損害にはならない、しかしメキシコのトウモロコシは全く違う、ヨーロッパでのキャノーラも違う。原産地でなくても、かなり前にその作物が輸入されれば、多様性に富んでいった。生態系の中で多様化していったのだ。安全については理論的に損害は証明することができる。ほとんどの国が評価ではベストを尽くしている。独立した専門家会合があり、科学的にベストな助言をしている、市場にある遺伝子組換え作物は変遷し、リスクも変化する。我々は常に学んでいかねばならない、最先端のリスクをとらなければならない。2000年の知見では、健康の影響の安全性も十分にわかっていない。同じ品種が色々な場所に導入されるが、試験や動物実験は十分に行われていない。ヨーロッパには遺伝子法があるが、遺伝子については科学的には無知の百科事典と呼ばれている。私たちはまだ知らないことばかり。全て安全だというのも全て危険だというのも、どちらも懐疑的。詳細なところに事実がある。
科学者は心地いいこところに理解を求める、先ほどの小冊子については英語版で詳細な所まで見ていきたい。バイオセーフティには(99%はないが)1%は議論の余地がある。こういう立場で、常に学んでいかねばならない。これまでの科学の事例で最先端の科学で多くの事例がみられる、安全性がないというのは、その時の科学者が悪かったわけではない。知識は必要であり、実際に予見しなかったようなこともあり、我々は謙虚でならなければならない。システマチックに学ばなければならない。ヨーロッパでは食品や飼料の表示が整備される。環境に与える影響、動物の飼料の場合、動物の健康影響があるかもしれない。社会、経済環境に対して責任を持ちたいと。相反する見解が出てきたが、安全性は理論的に証明できない、損害は証明できる、その中で予防原則を証明したい。
コーディネーター:ここでインドのシャンタナンさんが来ているということで、会場から一言お願いします。
シャンタナン:私は農業とバイオの政策や科学を教えている。政府の一員として民間にも伝えている。産官学という三つの異なるステークホルダーにおいて、安全性について、GMOの安全について、アメリカでどのように規制しているのかを見てきた。規制者はデータを見る、そのデータは信頼できるのか。次にどのように解釈するのか。アメリカの環境省は、多くのレポートを出しているが視点は一つ。科学的コンセンサスを得るためには全ての資料を見なければならない、安全性を緻密に評価する。既に様々な疑問が投げられているものも多い。科学的なコンセンサスとは何か。それに基づいて全ての規制を行わなければならない、ベストの規制を求めたい。
もう一つのコメントは、世界的には経済的にペイしない限り持続しないということ。この点については、コンセンサスが得られないまま。豊かな国は豊かに、貧しい国は落ちていく。インドで辺鄙な土地で農業をしていく人たちは、ポケットを眺めながら何が利益かを考えている。それが持続可能なものになるのか、リスクとベネフィットは何か。遺伝子組換え作物は評価されている。インド政府にはガンジー研究所がある、GM製品について研究をしており、カナダの分析結果を獲得して農業の従事者が利用している。新しい技術が農家にとって持続可能なものか、貧しい国が注目している。
司会(環境省新海氏):ここで私からお話したい。今の日本の国内でも市民の声が起こっている。私が住んでいる町でごみの先進技術のセンターで爆発事故が起きて亡くなった人もでた。ここで異を唱えた人たちがおり、市民がごみを減らせばいいのかということに気付いた。私はNGOのスタッフもしているが、一般の人たち、多様な意見を持つ人たちがどう判断するのか。情報提供の仕組みがないと、この議論が延々と続く。市民調査をどうやるのか、お聞きしたい、スーパーの情報交流の場としてお聞きしたい。情報共有の場、仕組みがあれば、議論したい。
渡邉:アメリカで最初のGMトマトが商品化されたときは、パブリックコメント(パブコメ)を求めて、様子をみながら商品化された。日本の場合も遺伝子組換え作物に対して、パブコメ求めている。ここで、市民が全てを決めるわけではないが、意思決定、参考情報、市民が知り、市民や消費者が発言できる場をつくっていく。その過程として、今日のような場はいいと思う。エコロジストとバイオテクノロジストでは立場も違う。産業界にフォーラムのような場所があるとなっているが、百瀬さんの話を聞くと伝わっていないと思った。バイオセーフティクリアリングハウスという情報公開の場があり、日本では、環境省のWEBサイトにある。積極的に市民に情報を伝えている。進んでサイエンスコミニケーションの枠組みを作り、参加できるような仕組みも作り実践している。
百瀬:マーケットでは、どういうことが考えられるのか。消費者の権利として遺伝子組換えでないものしか買いたくないという場合、どうすればいいのか。農業者は農薬を使ってやってきた。この先、私たちがいいが、次の世代になった時、何も影響がないのか、次の時代に責任をとれるのか。子供たちに安全なのか。品を選ぶときに、次の世代まで何にも無いかどうかがわからない。商品を買う時にわかるかわからないかは大きい問題。消費者が購入するかどうかが、「投票」になる。買わないものは作らない、安全安心で選ぶ、そういう生産者の技術であってほしい。
コーディネーター:会場からたくさんの質問をもらっている。既に時間をオーバーしており、時間の関係で絞る、マイヤーさんにいっぱい質問がきている。GMナタネの件で、なぜGMナタネ交雑体が問題なのか。先ほどの話でGMナタネ交雑体が見つかっている、どんどん増えていると報告されたが、そのことがどういう問題なのか?先ほど日本の市民団体が環境影響調査をやっていることについて紹介があったが、科学的にどういう評価をするべきなのか、客観的に評価するのか?マイヤーさんは、どうみているのか、今まで出ている論点とは違う質問がたくさんきました。それからGMを使うことでエネルギー消費が低減される、収量が増える利点についてどう考えているのか?
市民団体の調査の科学的評価、そもそも交雑問題がどうかという質問です。
マイヤー:こういう質問が多いことについて、私はちょっと驚いている。河田さんがおっしゃったことによると、交雑があるという懸念がある。日本ではリスクアセスメントを行っていない。政府はリスクアセスメントを行い、許可したわけだが、河田氏の調査は(それをサポートしたのがあるグループだが)、サイエイティフィックにピアレビューがされているということだと思います。それからこの3日間、収量についての具体的な発表はなかった。また、従来よりも収量があがったということ話を私は知らない。エネルギーについて、コメントは控えたい。
コーディネーター:ワイツゼッカーさんにも質問がきています。予防原則については、どこからそうした概念があるのか、という質問です。
ワイツ:基本的には、リオの環境サミット。ここで三つの重要なシステマチックアプローチのことがでた。ダメージが正確に把握できることが予防原則の原則。予防原則により、各国が義務を果たすことになる。もっときちんと勉強しなさいということになる。名古屋の交渉で議論されるのは汚染者負担の原則。そうしないと犠牲者が負担を強いられる。汚染者負担の原則が加えられ、仕組みが作られ、責任と救済が果たされるべき。インドの経験を話す。汚染者負担原則では、科学的な原則の観点が問題となる。政府が行動を起こすのは、この因果関係全てが確立されたときに限る。これがアメリカがとっているアプローチ。これに対してヨーロッパは怖がってばかりで予防原則に走るということで批判の対象になっている。しかし、リサーチが十分でも、何も見えないから何もしないのはだめ。消費者は予防原則を受け入れてくれる。国が一歩踏み出して、評価するという考え方もある。おそらくこの2週間で新たな条約に向けて。強い意志があることが必要である。
コーディネーター:司会の不手際で全ての質問に答えられなくてすみません。これでパネルディスカッションを終わります。
「今日の話はわかったような、わからないような話で、薩摩と長州が過去の因縁をぶちまけて話し合っているような感じを受けた。自分が食べるものと、ワタのように食べないものでは、消費者の感覚は違うだろう。日本人は自然志向だが、天然と養殖だと、安い養殖を買いやすければ買う。うさんくさいから、リスクがあるといわれてもほとんど理解ができない、具体的なもので説明してもらい、アバウトな感覚ができないと議論はできない。市民を意識し、専門家にもわかりやすく話してほしい。専門家と市民の間にはまだギャップがある。
来週の月曜日からMOPが始まる、会議の中ではどちらかというと、意識されてこなかった領域。今までの積み残しが解決できるかどうか、大きな問題だが、普通の人間にとっては、なんかもめているんだな、という感じでスタートラインに立っている。これから勉強しましょうという人もいる。お互い力を合わせていきましょう。これだけもめているようにみえても、本当に大変だったら、もっとすぐ結論がでているのではないかとも思う。
ワイツベッカーさんが予防原則に話を集中させたが、リスクの判定は推測しかない。予防原則の意味がわかるが、リスクの判定が曖昧ではないかとも思った」