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平成22年度一般市民向けバイオテクノロジー実験講座開催報告

 本実験講座は2003年開始以来、年2回の開催しており、今年度も、東京都立科学技術高等学校で2010年11月27日(土)、28日(日)に、茨城大学遺伝子実験施設で、2010年12月4日(土)、5日(日)に開催しました。①東京都立科学技術高等学校の講座には、同校、日本科学未来館友の会、茨城大学遺伝子実験施設、NPO法人くらしとバイオプラザ21の4機関の共催で開催、一般の方11名、高校生7名の18名(写真1)が参加しました。②茨城大学遺伝子実験施設の講座には、同施設、同大農学部とNPO法人くらしとバイオプラザ21の共催で、一般の方15名と高校生3名の18名(写真2)が参加しました。
 開催に当たっては、2010年度(独)科学技術振興機構(JST)科学技術理解増進活動 地域の科学舎推進事業 地域活動支援(草の根型)の支援を受けて実施しました。
 初めに、参加者は、講師の茨城大学遺伝子実験施設長の安西弘行教授から、2004年2月制定のカルタヘナ法及び遺伝子組換え実験についての説明を受け、この法律に従って、実験しました。

東京都立科学技術高校の参加者 茨城大学の参加者

各実験講座では、講義、実験、施設見学会と茶話会を行いました。
1.講義、
①バイオテクノロジーの基礎(安西弘行先生)
②東京都立科学技術高等学校:植物バイオテクノロジーの最前線(安西弘行先生)
②茨城大学遺伝子実験施設:身近な植物ホルモン
(茨城大学農学部 教授 鈴木義人先生)
2.実験
 ①光る大腸菌を作る
 ②犯人は誰だ PCRでDNAを増殖すると電気泳動でDNAを見る
 ③納豆菌からのDNA抽出
 ④納豆菌の培養液から単一コロニーを作らせる

I. 講義「身近な植物ホルモン」    鈴木義人先生
1.植物ホルモンの重要性
植物ホルモンとは、植物の様々な生理現象※1(成長・発達)を制御する化合物で生体内に極めて低濃度※2で含まれる物質である。
植物ホルモンには、オーキシン(IAA)、ジベレリン(GA)、エチレン、アブシジン酸(ABA)、ストリゴラクトン、サイトカイニン、ブラシノステロイド(BR)、ジャスモン酸(JA)などがある。

※1 生理現象:発芽,茎部伸長,葉の伸展,花芽形成,果実の生長,老化
※2 極めて低濃度:pg〜ng/g新鮮重
pg:1ピコグラム= 1/1012グラム、1兆分の1グラム
ng:ナノグラム=1/109グラム、10億分の1グラム

2.ジベレリンの発見と応用
台湾で稲が徒長し枯死するバカ苗病(茎や葉がむやみにのびる病気)の研究をしていた農事試験場の黒沢栄一(1926)は、その原因となる病原菌が生産する毒素によることを発見した。東京帝大の藪田貞治郎、住木諭介両教授(1938)は、馬鹿苗病菌の毒素(ジベレリン)を結晶化し、物質としてとらえることに成功した。ジベレリンは作物生産と密接な関連を有している重要な植物ホルモンである。
①よく知られている例として、種無しデラウェアブドウがある。種無しブドウは開花前期に花穂をジベレリンで処理するとできる。
②20世紀後半に作物の生産性を飛躍的に高めた農業技術開発「緑の革命」をもたらしたイネとコムギの多収穫品種は、それぞれ、ジベレリンの生合成や情報伝達が抑制された品種であることが判明した。この多収穫品種は、矮性(背丈の低い)品種で、肥料を与えてもひょろ長く伸びず、台風などの強風で倒伏しない利点と無駄な栄養成長をしない利点がある。
③作物を矮化して生産性をあげている例として、プロヘキサジオンなどの矮化剤処理があり、ヨーロッパでは、小麦栽培の80%、大麦栽培の60%で行なわれている。因みに、プロヘキサジオンにはジベレリンの生合成を阻害し、植物体内の活性型ジベレリンの量を低下させる作用がある。プロヘキサジオンはリンゴの栽培で品質・収量の向上に、トウモロコシの健描育成にも使われている。矮化剤は、品種によらず、成長に応じて必要な時期に処理できるという特徴がある。
④キャベツをジベレリンで処理すると巻かずキャベツと予想がつかないとても葉と葉のあいだが長くなり、背丈の高い植物体となる。

3.その他の植物ホルモンの生理作用の実例
①エチレン:カイワレダイコンをエテホン(エチレン発生剤)で処理すると胚軸の伸長抑制と肥大化が起こり、子葉基部の屈曲(フック)が極端に促進される。
②ブラシノステロイド:植物体全身の伸長成長、維管束の分化などを促進する。このホルモンが正常につくられないと、例えば、アサガオの背丈の低い渦こびと呼ばれる変異体のように極端な矮性種となる。
③オーキシン:植物の成長(伸長成長)を促す作用を持ち,重力や光屈曲反応の制御に関わっている。また,分化の方向性の制御にも関わっており,脱分化組織であるカルスからの発根を促す。

4.「虫えい」形成現象
「虫えい(英語でGall ゴール)」は、植物の内部に昆虫が住みついて、植物組織が異常な発達を起こしてできるこぶ状の突起のこと。


シバヤナギハウラタマフシ
(シバヤナギにハバチが作る虫えい)
エゾマツシントメカサガタフシ
(エゾマツにアブラムシが作る虫えい)
 
クスノキハクボミフシ
(クスノキにキジラミが作る虫えい)

(虫えいの写真提供:鈴木義人先生)

「虫えい」の名前は、[植物名][植物の形成部位][虫えいの色や形状など][フシ(=虫えい)]の順で漬ける。次のようになる。
・シバヤナギハウラタマフシ:シバヤナギの葉の裏にできる玉状のゴール
・ヨモギハシロケタマフシ:ヨモギの葉にできる白毛の玉状のゴール 
「虫えい」形成機構の研究
「虫えい」は、とても巧みに植物の組織の状態を操(あやつ)り、植物の細胞特性を変化させており、「虫えい」についての研究は新しい技術につなげられる可能性がある。他方で、農作物,木材,庭園木や街路樹へ被害を与えることから、「虫えい」が作られるメカニズムを追う研究で、この問題解決への糸口が見つかる可能性がある。目下、これらの目標に向けた研究を進めているところである。
「虫えい」が、葉にできるのは、最初に虫が葉に産卵、ふ化し、摂食刺激することにより、摂食中に唾液(産卵時に産卵管)から分泌される化学物質が関与しているのではないかと考えられている。瘤状の「虫えい」の内部組織は分裂の盛んなカルス様の組織であることから、植物ホルモンであるオーキシンが関与しているかどうかを調べてみた。「虫えい」の外側と内側ではオーキシンは内側の方が2倍ほど多かった。一方、幼虫には大量のオーキシンが検出された。また,幼虫自身がトリプトファンからオーキシンを合成する能力があることが分かった。
これらの結果から、虫が植物ホルモンを作って、植物組織の状態を操作している」と推測されるが,現在、①虫の作るオーキシンが虫えい形成に関与していることを如何に証明できるか、②サイトカインが関与していないか、③未知の活性物質が関与していないか、に絞って研究を進めている。


Ⅱ.実験

東京都立科学技術高等学校、茨城大学遺伝子実験施設ともに、安西弘行先生のご指導のもと、オワンクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)を大腸菌に入れる実験を行いました。


科学技術高校副校長 高野学先生の挨拶 講師 安西弘行先生
講義をされている鈴木先生 TAと参加者(1)
TAと参加者(2) TAと参加者(3)
大腸菌の単一コロニーの分離 PCR装置
アガロースゲルにサンプルを注入 電気泳動後のDNAバンドを見る
小型ミキサーで菌液を均一に 納豆菌からのDNA抽出実験
施設見学(1)  植物の培養設備(2) 
修了証書授与


Ⅲ.茶話会から
  • 高校で物理を教えているが、今年から生物を教えることになって、実感をもって教えられないのではと思っていたが、今日は参加してよかった。
  • 高校生。やってみてすごく楽しかった。
  • 本を読んでも実感できなかったことが、TAさんに聞いて実験をするとわかるのでよかった。
  • 動物細胞を扱う実験助手をしている。大腸菌や納豆菌を扱いたかった。少人数でTAが多くて贅沢な教室。シングルコロニー(単一コロニー)分離が難しかった
  • 社会科の高校教員。科学技術を知っていて社会科を教えたい。遺伝子組換え食品は大丈夫か。バイオエタノールが利用できないかと思って参加した。 単語の意味がわからず、ついていくのが大変だった。でも、とても楽しかった。遺伝子を操作するのは神様の領域だと思うが、DNAを食べているといわれて身近に感じた。
  • ちょっと予習してこないと大変だった。
  • 安西先生;高校生、一般市民、農学部出身と様々であり、作業したことの意味付けが不十分ではないかと悩みながら、多くを経験していただきたいと思っている。


Ⅳ.アンケートから

自由意見から

  • 講義はその場その場はなんとか理解できたのですが、実験は「TA(補助員)に言われたボタンを押しただけ」でして、そこまでのプロセスや意味合い等はいまだ完全には理解できていないのです。よって、実験は成功したようですが、全てTAの方の指導の結果であり、参加者としてはマグレです。このところを改良していくことで、NPOとしてのバイオや遺伝子組換えの理解普及といった目的達成に役立つのではないでしょうか。
  • 周囲でバイオや遺伝子技術等のニュースに触れましたら、強く目を向けたいと思っております。
  • バイオテクノロジーの基本的な言葉等を最初に説明していただきたい。A,T,G,C塩基配列など
  • TAが付き、手際良く受講できた
  • 大変よい企画と思うが、2度参加する気はない
  • 実験はとても興味深い、楽しく学習出来ました。大変よい企画と思う
  • 初めて参加した。次回も機会があれば参加したい。2名
  • 機械、物理、電機系の人向けの遺伝子講習があると、新しい製品のアイデアにつながり、より遺伝子が身近になると思う。
  • 実験を実施して終わり。楽しかったがそれだけ。単発に終わってしまうのではないか。実験数を減らして啓発活動にも時間を割くなどしてはどうか?
  • 自分が何をやっているかわからないまま進んでしまいそうです。3名
  • 講義内容の時間が足りず、とばされた部分がありましたが、レジメなどでいただけるとよかった。
  • さらに勉強したい人のための「推薦文献一覧」みたいなページがあるとよい。
  • 「一般市民向け」とレベルが一般をかけ離れていると思います。
  • 安西先生の講義もわかりやすく、ユーモアがあり、すばらしかったです。