2010年11月3日(水・祝)、千葉県立現代産業科学館でバイオカフェを開きました。お話は独立行政法人 製品技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 稲葉重樹さんによる「カビってこんなに面白い〜アオカビからツボカビまで」でした。初めに斎藤光義さんによるチェロの演奏がありました。
齋藤光義さんの演奏 | 稲葉重樹さんのお話 |
(独)製品技術基盤機構 バイオテクノロジー本部(NBRC)は様々な微生物が保存されている、微生物の図書館。アジアの国々(ベトナム、モンゴルなど)で、微生物の収集活動もしている。カビは小中高の教科書で扱われていないが、今日はカビの面白さをお伝えしたい。
カビは食品につくと嫌がる方もあるが、コメ麹(味噌など)などの発酵食品を作るカビもある。
カビの仲間たち
カビ、酵母、キノコは菌類(核がある真核生物)。バクテリアは核がない原核生物。
カビの体は菌糸からできている。キノコも菌糸から成るので裂いてみると糸構造がみえる。酵母は粒状で出芽して増えていく。
菌類の観察
シャーレや試験管のカビを観察しました。
・酵母の観察:酵母はポツポツがシャーレに現れる。酵母のにおいは、甘酒、パンのにおい。食欲をそそるのは、この酵母のにおいだったことがわかった。
・アオカビ:同じアオカビでも培地の成分で青い胞子ができたり、黄色い色素を出すときがある。ゴルゴンゾーラチーズをつくるのは青カビ、みかんに生えるのはミドリカビで初めは緑に見えて胞子ができると青く見える。
・においを出す菌「ゲオトリカム」はバラの香り、お菓子の香りと同じ香りがする。カビくさいとは言えない。
・ヒゲカビ:長いと柄が20センチにも伸びる。動物の糞に生える。油を好むので、稲荷神社のお供えの油揚げに生え、妖怪の仕業といわれたりする。光に向かって伸びるので、試験管を銀紙で撒いて窓をあけると、窓に向かって伸びる。
アオカビの仲間 | ヒゲカビの仲間 |
カビの栄養の取り方
植物は水、光、土の栄養から光合成をして、自分で栄養を作りだす独立栄養生物。動物は植物の作った栄養に依存しているが、カビも似ている。違うのは、動物は体内で食べ物を消化するが、カビは体の外に消化酵素を出して分解すること。だから、みかんの周囲がびしゃびしゃになる。甘酒が甘いのは麹が出すアミラーゼでお米のでんぷんを分解し、麦芽糖になるから。
「発酵」とは、物質を分解し、よいにおい、きれいな色、うま味がでることをいい、「腐敗」は同じ分解でも、悪臭、汚い色、有害物質を生成すること。しかし、カビにとっては発酵も腐敗も分解でしかない。腐敗する菌は悪い菌みたいにいわれるが、死んだ生物の分解者というのは、自然界の循環の中でとても大事な役割を担う。
カビ毒とは、カビの作りだす物質で毒性を持つもの。例えばピーナッツのカビは強い発がん性があり、食品の規制に対象になっている。
カビはでんぷん、脂質、たんぱく質を分解したものを、水を介して菌糸の膜から取り込む。体外で分解するので、すべての栄養を独占できない。そこに他のカビが生えることもある。黒こうじかび(アスペルギウス
アワモリ)は自分の周りを酸性にして他の雑菌が生えることができないようにして、栄養を取られないようにする。
カビの増え方
パンのカビを見ると、柄の先が箒のようになっていてそこに胞子がある。胞子が発芽して、次のカビが生える。栄養寒天培地だと7-10日でカビの集落が見えるようになる。黒麹カビの場合、白い菌糸の先に黒い胞子ができる。酵母は粒から出芽して次の粒ができる。キノコは傘の下に胞子ができる。このごろの市販のキノコは胞子が余りできない品種になっている。
空気中にはたくさんの様々な胞子が飛んでいて、ヒトは一日1万くらい胞子を吸いこんでいる。カビの胞子は浮遊しながら、生えるのにいい場所を探している。カビは不潔だと言う人がいるが、胞子ゼロの暮らしは不可能。
いろいろなカビ
カビの生育の仕方には次の3つがある。
- 腐生(ふせい) 死んだ植物、動物を分解する、分解者の働き。
- 寄生 生きている昆虫、植物に生えるカビ
つつじに白い玉が付いたり、椿の葉が白い手の形になるのもカビの仕業。不気味な形の葉は浮世絵にも出てきて、見世物小屋で見せていた。植物のうどんこ病もカビ。
冬虫夏草は、芋虫にカビがついたもので高価な漢方薬になる。
ハエカビはバッタにつく。バッタの神経系に障害を起こし、バッタはイネの穂にのぼり前脚から動かなくなり、穂を抱くようにして死んでしまう。そのときに下にいる元気なバッタに胞子を撒く働きをする。
菌につく菌類では、ハツタケにヤグラダケが生えるなどの例がある。
- 共生 植物と菌類が栄養を分け合う。
菌根といってベニテングダケから伸びた菌糸がシラカバの根につながる。シラカバは光合成した糖をキノコに分け、キノコの細い菌糸から集めた水分やミネラルをシラカバに与える。
雲仙普賢岳の後の植生の復元するときに、菌と共生関係のある苗を植えるとよく生えたが、共生関係がない苗はなかなか根付かなかった。
家の中に生えるのは主にクロカビとススカビ。クロカビ(お風呂の壁、冷蔵庫のパッキングなど)は、生える温度範囲が広く、黒くて小さい胞子がよく飛ぶ。ススカビは水気が好きで洗濯機に生える。胞子が黒くて小さくてよく飛ぶ。
カビのいる場所には、落ち葉などの生物の死骸の中、水中、水辺。
カエルツボカビについて
〜マツの花粉についたツボカビの1種のつぼから胞子が薄い膜につつまれて出てきて、やがて胞子が鞭毛運動を初めて散っていく様子の動画を見ました〜
3年前、飼っているカエルに出て騒ぎになった。ツボカビは菌糸を作らない。仮根で、栄養を吸収し、つぼを作って胞子をつくる。カエルツボカビは、足の裏、おなかなどの水に接しているところに生えて、皮が厚くなり、皮膚呼吸ができなくなって死ぬ。日本の両生類も死ぬといわれたが、日本にはいろんな遺伝子型のカエルツボカビがカエルにすでについていることがわかり、外国産のカエルツボカビが入ってきても大丈夫そうだとなった。
ヒトやモノについてきた微生物で問題になっている。カビでブナが枯れている。カビはバランスが微妙で、それが崩れると既存の生物が死んでしまうことになる。今回のCOP10でも動物,植物だけでなく微生物の関係を考えましょう!ということになった。発展途上国の要望に対しては、先進国が基金をつくることで落ち着いた。
私たちは、小中学校で使える菌株の教材を作るなど、カビへの理解を広めていきたい。
シャーレの観察 | 会場風景 |
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カビの生態
- 黒麹は広がり、きのこは上に立ち上がるのはなぜ→麹は広がって栄養を吸収する。胞子を撒くために立ち上るキノコとは構造、機能が異なる。
- カビはどの部位からも生えるのか→胞子だけでなく、キノコを裂いて培地におくと菌糸をのばしてくる。菌類は生存力が高い。
- みかんにカビが生えるとすぐに1箱だめになる→みかんにカビが生え、そこで分解して糖をつくると、胞子はいっぱい飛んでいるから、他のカビも生え広がる。
- 複数のカビが生えるとどうなるのか?→他のコロニーに乗り上げたり、棲み分けしたりする。
- ミズカビの胞子はどこで出来るのか→ミズカビは完全に水中。池の水を汲んできて生ごまを入れるとミズカビが生える。花粉をいれるとツボカビがとれる。
- パンの青カビをとれば食べても大丈夫か→カビ毒があるものはだめ。カビを取って食べることもあるが、その判断は難しいので、研究者としては食べてはだめといいます。
- カビ毒はすべて発がん性か→肝臓に障害を起こすこともある
- パンは焼けばいいか→カビは37-50度に加熱すると死ぬが、カビが生成した毒は残存性が強いものがあり、加熱しても残る可能性がある。カビの毒は完全に排除できない。
- カビのアレルギーは→カビの胞子、カビの出す揮発物質が原因となることがある。
- 食べて大丈夫なカビとそうでないのがあるのか→カビの性質による。一般に油、たんぱく質につくカビが危ないものが多い。でんぷんにつくカビは、余り毒性がないといわれる。
- カビ毒は蓄積性から→カビ毒が肝臓蓄積したり、腎臓の組織破壊がありうる。風土病だと思われていたものが、カビ毒だということもあった。
- 味噌に生えるカビは食べていいというが→私はいいと思うが、危ないカビが生えていないとはいえない。
- ピーナッツのカビ毒はどういうとき注意すればいいのか→よほどに保存状態が悪いとき。日本は衛生管理がいいので、加工品で被害は出ていないはず。
- 腐りやすいのはミネラルウォーターか水道水か→ミネラルウォーター。カビは水中にぽかんと浮く(青カビかクロカビ)。硬水だと、底にカルシウムが析出することもある。
- ヒトにつくカビは→水虫はカビ。そんなに神経質になることはない。
- 私はカビのアレルギーらしい。我が家は大丈夫で、他の家に行くと5-10分くらい咳が出る→パッチテストでカビの種類を調べることはできる。私はカビの研究室にいたが、新入生が入室するとしばらく咳込んだりして、そのうちに治っていたのを思い出した。
- ミズカビなどは人間に悪さはしないのか→ミズカビで養殖中の魚が死ぬ。ツボカビ(水中)は人間に害はない。
- カビのヒトへの影響は→日和見菌のカンジダ アルビカンス、カリニ肺炎はカビが原因。良い健康状態なら、カンジダ アルビカンスは発芽しにくい。抗生物質の使い過ぎも危ない。
- 鰹節にカビをつけるが、鰹節は乾燥している→鰹節のカワキコウジカビは少ない水分で生きられる。甘くして保存性を高くしたジャムや羊羹に生えるカビもある。
- ブルーチーズのカビは体によいか→このアオカビの役割は風味を出すことだと思う。
- カビと微生物の関係は→かびは微生物の中に含まれる。
- EM菌は 家庭ごみを分解する。ホワイトケミカルで病気に強い野菜ができる
- マツタケと赤松は共生ですか→マツタケは菌根菌。シイタケ、ブナシメジは養分さえあれば生えるが、マツタケは生きている赤松と共生するので、人工栽培が難しい。赤松の周囲にマツタケの菌を土に混ぜると、アカマツの根と出会う確率を高めることができる。
- 家の中のクロカビの餌は→わずかなヒトの体の垢、石鹸カス、お風呂の壁を洗って熱湯をかけて拭くとよい。野外では、落ち葉の分解者としてクロカビ、ススカビは活躍している。家に入ってくるのは仕方ない。
カビ毒
生き物につくカビ
発酵食品
その他