2010年9月28日(火)、食の信頼向上をめざす会 第9回メディアとの情報交換会が、ベルサール八重洲で開かれました。お話は「今更聞けないCOP10」でした。
筑波大学大学院生命環境科学研究科遺伝子実験センター 教授 渡邉和男氏
はじめに
生物には様々な種がある。種内にはいろいろな品種があり、それが様々な環境の中で生態系をなしている。生物多様性は、①生態系、②生物種、③遺伝子の3つのレベルで捉える。過去200年、特にこの50年で、1000倍の速度で急速に生物多様性が失われている。 250-300くらいの環境に関わる条約(水、化学物質など)があり、生物に対してはラムサール条約、ワシントン条約があったが、対象が限定されていた。生物多様性条約に190カ国以上がメンバーになっている。1992年リオ(ブラジル)で、気候変動枠組条約と一緒に採択された。次の3つの目的を持つ。
・生物多様性の保全
カルタヘナ議定書 生物の種の保全
・生物多様性の持続的利用
補足的議定書はないが、ワークショップによるガイドラインがある
国立公園の野生動物の狩猟、海の生物の漁獲に対して
・公平で衡平なアクセスと分配(ABS)
2001年、ボンガイドラインができ、名古屋で議定書をまとめることになり、現在は準備中。領土問題のように強力な主張ができる分野で、多国間で共通の関係でなく、2国間の関係で検討するのが基本。実際には経済条約となっている。
南アフリカのヨハネスブルグサミット(2002年)で、水、エネルギー、農業、生物多様性、労力の5つが重要と定められた。
COP8(ブラジル、2006年)で、ABSとTK(技術知)が主要課題になり、COP9でボンプロトコルができた。
カルタヘナ議定書
遺伝子組換え体の移動に対する事前合意を2003年に定め、103カ国が署名。160カ国が現在加盟している。
遺伝子組換え体を扱わないのでなく、どうやって輸入すれば、輸入先の生物多様性に悪影響を与えないかを検討してきた。今まで経緯は以下のとおり。
COPMOP2 モントリオール 2005年 進展なし
COPMOP3 ブラジル 2006年 先送り
27条の責任と救済について議論していくことになった
COPMOP4 ボン 責任と救済の所在
COPMOP5 名古屋で責任と救済の決着をつける報告
EUは加盟国になっているが、LMO(遺伝子組換え生物)輸出国のほとんどは締約国になっていない
輸出表示、リスク評価・管理、情報整備、補償、能力構築、資金メカニズム等の詳細の運用事項の検討が今後も必要。
遺伝子組換え体の位置づけ
遺伝子組換え体は世界的に容認されている。遺伝子組換え体の国際取引をやめようとする国際的な動きもない。CODEX(FAO/WTO合同で国際食品規格等を作成する)、WTO(世界貿易機構)などにおいても取り決められている。
発展途上国にも、自国で積極的に取り入れようとしている国が多い。
天然資源に関わる技術革新と国際議論
太古:土地と領土→利用の拡大と紛争
過去200年:石炭、天然ガス、石油資源、鉱物→各種化学技術の発展による産業革命と資源の高次加工利用、資源に関わる国際紛争、世界大戦から国際条約へ
過去30年(バイオの時代):遺伝資源はバイオテクノロジーによって、CBDなどの取り決めを経て高次に利用できるようになった
CBDの実態
・WTO(世界貿易機構)、TRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)などの経済交渉の逃げ場になっている
・南北問題が表面化する場になっている。
・よい意味、よくない意味での非政府組織の介入
・途上国には対処方針の整っていない政府もある
国家に属するものとして遺伝資源が強く主張されているばかりで、弱者受益者(自作農家、極地生活者、先住民族など)の権利が真に認知されていないのではないか。
農業生物資源多様性
地球上の地上植物は30万種、食べられるのは8万種、作物として頻繁に利用できるのは300種。品種改良されて活発な投資の対象になっているのは30種程度。例えば、粟は貧しい人の食べ物だったが、今はダイエット食品、高級品として再発見されている。
ミャンマーでは、今も裏庭の植物を取ってきて食卓に乗せるが、そこにはトマトなどミャンマーに自生していないものも混じっている。コロンブスが世界一周する前は、トウモロコシもトマトも欧州にはなかった。
ナス科の作物は、南米から全世界に広まった。トウモロコシ、インゲンマメは南米から特にアフリカへ。ジャガイモはアイルランドやネパールで重要な食料保障をして人口を増加させた。
日本でも多くの作物は外来が多い。日本の国内農業は7兆円マーケットで、マンゴー、パパイヤなどの熱帯果樹は高級品として日本の農業に潤いを与えている。一方、今でも、ヤーコンなど、海外から新しい作物が入ってきている。
また、日本はもらうだけでなく、遺伝資源の貢献もしていることは知られていない。例えば、コムギ農林10号の2つの遺伝子、米のひとつの遺伝子は総計で世界に毎年約5000億円の経済効果を生んでいる。
局所的に用いられている作物にも今後、新たな利用があるかもしれない。アクセスが制限されると、多様性評価ができない国(民族抗争の中で失われつつある資源)の資源の利用はできなくなる。発展途上国の農業食料遺伝資源には、危急に確保が必要で、それは先進国が担当すべきだろう。
遺伝資源は、政治的、経済的な関心で、アクセスが難しくなってきている。国際法で一律に保全しようとしているが、難しい。
CBDCOP10はお祭りではなく、世界中で、よくよく考えて行かなくてはならない。
毎日新聞 科学環境部 副部長 田中泰義氏
はじめに
生物多様性条約は、これまで情報も多くなく、市民の関心も低く、取材の機会も少なかった。2010年9月22日、国連総会で初めて生物多様性首脳級会合が開かれた。生物多様性は経済の視点や主権との絡みで話している人が多い。途上国からみると「自国の資源をこれ以上、持ち出さないでほしい」「持ち出すなら利益を還元してほしい」という主張。
日本からは里山(身近な環境)保全を提案している。海外では、里山から何か利益がえられるので里山を大事にするのか、あるいは日本はおめでたい国なのかと聞かされる。
環境条約
1972年 ストックホルムの会議で、環境に目が向くようになる
1992年 気候変動枠組み条約と生物多様性条約ができた
この双子の条約の下に議定書ができた。
生物多様性について、90年から2010年9月末までに、毎日新聞が扱ったのは720件、気候変動枠組は2692件、京都議定書4281件、カルタヘナ議定書17件だった。このように生物多様性は認知度が低い。ワシントン条約は認識が80%以上なのに、生物多様性を認知しているのは35%、京都議定書は80%、地球温暖化は90%。
関心の低さ〜国立環境研究所や民間企業のアンケートから
生物多様性への関心はなく、多くの人の関心事はリサイクルや温暖化。
生物多様性の恵みを感じるかという質問に対して、感じることはない22%。生物多様性の恵みを感じる場面としてあげられたのは、雄大な自然にふれたとき、きれいな空気や水、自然環境に関するドキュメンタリーなど。薬や食料などの恵みを理由にしている人は少ない。
農林水産大臣、環境大臣、外務大臣は今回の内閣改造で全部変わった。そういう状態で、複雑な交渉をまとめられるのだろうか。
温暖化と生物多様性
温暖化と生物多様性には、共通点と相違点があると思う。
○共通項
温暖化はエネルギー、生物多様性は遺伝資源の争奪戦。どちらも国益。
温暖化で生物多様性の喪失も加速している。
米国は京都議定書、生物多様性条約を批准していない。
○相違点
中国の関わり。温暖化では発言を繰り返し、交渉を複雑化しているが、生物多様性では、薬のもとの提供国であり、開発国でもあり、沈黙しているようだ。
温暖化はIPCCがデータ蓄積を行い評価しているが、生物多様性評価の仕組みが不明瞭
まとめ
COP10の交渉に成功するかどうかは、今後の環境外交を占うことになるだろう。温暖化も生物多様性も国益問題であり、生物多様性への低い関心を高める工夫が必要。
里山へのこだわりだけでいいのか。
温暖化もかつて市民の理解を得るのは難しいといわれた。生物多様性も市民が情報に触れるようにすることが大切。そしれ、基礎データの蓄積が重要。
2名の講師、唐木代表、参加者全員による質疑応答とディスカッションが行われました。
こぼれナタネの問題は環境省などが、モニタリング調査の結果に基づき、日本の自然環境に有害な影響を及ぼしていないことをしっかり伝えれば、NGOの問題に対する関わり方も異なっていたのではないか。COP10まで発展途上国と先進国の意見がまとまらないまま来てしまった状況の中で、厳しすぎる規制によって経済活動に悪影響が生じないだろうか。進め方や考え方がまとまっていない政府があると足並みがそろわず、名古屋議定書はまとまらないのではないかなどの意見が述べられました。
生物多様性保全は温暖化ほど、一般市民に知られていないので、まず広く市民に知ってもらい、広い議論を起こす必要があるということになりました。