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シンポジウムレポート「遺伝子組換え作物とその利用に向けて」

 2010年8月6日(金)、日本学術会議主催により標記シンポジウムが、日本学術会議にて開かれました。300名近い研究者、企業研究者などが参加しました。


開会 日本学術会議 会長 金澤一郎氏

 「日本学術会議では、7月1日、「我が国における遺伝子組換え植物研究とその実用化に関する現状と問題点」という提言を発表した。この中で、①植物遺伝子機能解析の戦略的な取組み、②遺伝子組換え技術の安全性の検証と野外圃場試験地の整備、③若手人材育成、④遺伝子組換え植物の社会的受容の推進の4つを提言。
10数年前、米国はこの技術の初めての実行において、強い決断とその経過の議論を示した。日本では、市民になかなか理解されず、導入された遺伝子が体内で悪さをすると思っていたり、文系の教員の半数以上がこの技術を危険だと思っていたりする。
日本学術会議は、①政府の科学技術政策への提言、②国際共同作業、③科学コミュニティのネットワーク、④科学リテラシー向上の機能を持っている。4つ目が最重要で、今日は、この4つ目を議論する大事なシンポ。よろしくお願いします」

開会趣旨 日本学術会議農学委員会委員長 真木太一氏(筑波大学北アフリカ研究センター)

 「遺伝子組換え植物においては、高収性、耐寒性、耐乾燥性などを付与できる。世界の多くの国で普及し、食品、添加物、工業原料として日本にも多く輸入されている。国民にこの実態が理解されておらず、野外試験栽培が十分にできていない。知識・情報の国民への還元のために、繰り返し情報発信すべきだと思っている」


「環境ストレス耐性作物の開発」   東京大学大学院農学生命科学研究科 教授 篠崎和子氏

はじめに
遺伝子組換え技術を使って劣化する環境に耐えられる植物を開発している。植物はストレスを受けるとシグナルが伝達されてストレス耐性を獲得する。実験には6-8週間で種子がとれて、2倍体で遺伝学的解析が容易、全塩基配列が決定され、世界各国にストックセンターがあり、研究がしやすいモデル植物であるシロイヌナズナを利用している。

乾燥ストレスで誘導される遺伝子
乾燥ストレスで誘導される50種類の遺伝子を単離し研究。4種類のシグナル伝達系があり、アブシジン酸による系とアブシジン酸以外が関与している系があることがわかった。
アブシジン酸以外で発現し、ストレス後すぐに誘導される特徴を持つ遺伝子RD29Aに注目し研究を開始。RD29Aは低温や乾燥・塩ストレスで発現。2つの転写因子(DREB1A,DREB2A)が関与。転写因子が強く発現すると、DREB植物は低温、乾燥に強くなる。植物には約300種の乾燥耐性遺伝子があるが、約50個にDREBが関与。DREBを高発現させると、低温・乾燥耐性ができる。耐性ができると生育が抑えられ、種子の収穫が100分の1に低下する欠点もある。そこで、低温・乾燥ストレスがあるときだけ働くプロモーターを使ったシロイヌナズナを作った。ストレスがないとDREBは働かず、収量は落ちない。

海外との共同研究
イネのDREB、シロイヌナズナの3種類のDREBをイネに導入するなどして、世界の20カ国と共同研究をしている。メキシコではトウモロコシと麦、フィリピンではイネ、インドではピーナッツにDREB遺伝子を導入している。中国では、砂漠化防止のためのキク科のグランドカバーにDREBを導入し、乾燥・塩耐性を付与しようとしている。ブラジルではダイズ(中国向けに大量栽培)に導入して南西部の乾燥地帯で試験栽培を始めた。

まとめ
転写因子DREBはストレスのマスタースイッチとして働いていることがわかった。この仕組みを利用すると、環境耐性の分子育種に役立つ。DREB2Aは乾燥に強いが、発現を不安定にする配列がある。その配列を除去した品種を作ったら、高温ストレスでも発現することがわかった。現在は転写因子をネットワークとして解析する研究を進めている。研究者として市民、学生に情報を示して行けば理解されると思う。真実を伝えることが大事。
会場質問:ストレスを受けたときにDREB組換え体は生き残った後、どうなるのか→生き残った植物体は、ストレスがなくなるとまた収穫(収量は減るが)ができる。

「医療に役立つ経口ワクチン米の開発について」
          農業生物資源研究所 高岩文雄氏
          東京大学医科学研究所 副所長 清野宏氏

植物型ワクチンとは
ワクチンには注射型(全身系における防御免疫誘導)と経口型ワクチン(粘膜系免疫、および全身系免疫を誘導)がある。注射には接種時に痛みや精神的不安があり、投与に関して医療専門職の関与が必要である。経口型ワクチンは、注射器・針が必要なく、疼痛もないので、次世代ワクチンとして期待されている。一方で、経口投与ではワクチン抗原が腸管免疫組織に届く前に消化されてしまうという問題点があり、それを克服する点から植物にワクチン抗原を発現させ、ワクチン投与体として応用することは魅力ある戦略である。
色々な植物発現系の中でイネ種子を使うと目的分子(ワクチン候補抗原)を大量に発現・蓄積でき、安定保存できる。転写レベルを操作して、いつどこで発現させるか工夫した。翻訳レベルを操作して、安定的な大量蓄積を可能にした。

種子ワクチンの強み
経口で投与された抗原を取り込み、抗原特異的免疫応答を開始する組織は腸管関連リンパ組織であり、そこに効果的にワクチン抗原を選択的に送達させることが重要である。種子細胞の二重の殻(細胞壁、タンパク質顆粒)が消化酵素の働きや腸の蠕動運動に耐えて、ワクチン抗原を腸管関連リンパ組織など各種腸管免疫担当組織まで届けることができる。
特異的なプロモーターを使って胚乳に抗原を高発現させた。例えば、スギ花粉のペプチドをタンパク質顆粒1(PB1)に入れると、効果的にペプチド抗原を腸管免疫担当組織に運搬して免疫を動かせる。一方で、同様の効果を合成した精製ペプチドを使う場合には、より多量にペプチド抗原が必要となり、費用対効果という視点からもコメ発現系を駆使した経口ワクチン開発は有効と考える。さらに、種子は室温長期保存、輸送に便利で、医薬品の長期保存に向けての自然型貯蔵体としてもその有用性が期待される。

まとめ
 遺伝子組換え体は、今後の医薬品開発を考慮した場合、非常に有用であり、次世代型の医薬品製造、保存、デリバリー体として、今後の医療での応用が期待される。

免疫細胞の働き(ここからは清野先生のお話)
 人体を口腔・鼻腔から始まる1本の管だと考える。その管の中核的存在である腸にはじまり、その表面積はテニスコート1.5面分に相当し、そこは常に外界と接触していることになる。その広大な粘膜面から、飲食・呼吸などの生理的行為を介して、我々は感染症を引き起こす様々な病原体の侵入に曝されている。それに対して、我々の免疫系は最前線の生体防御機構として、粘膜に数千億から1兆個の免疫担当細胞を配置しており、それを総称して粘膜免疫システムと呼んでいる。その粘膜面に配置されている各種粘膜免疫担当細胞を効果的に作動させるためには、ワクチン抗原を粘膜面から直接投与することが有効であり、この第一線の防御機構である粘膜免疫応答は注射型では効果的に誘導できない。

次世代型経口ワクチンとして
 開発途上国ではワクチンの冷蔵保存が非常に困難であり、WHOの試算によれば冷蔵保存のために500-600億円が使われているという。さらに、注射型の場合には、莫大な接種対象者数に対して使い捨て用注射器・針を使用することから、その廃棄について環境との問題がある。イネの植物体としてのユニーク性を応用した経口ワクチンは、これらの課題を克服する点から魅力的なシステムである。その具現化に向けては、今までの植物を使った「食べるワクチン」という発想から、「ワクチン生産体、ワクチン貯蔵体、ワクチン投与体(注射がいらない方法)としての米」への発想転換が重要であり、その視点からの開発・審査体制の構築が重要となってくる。
 3年常温保存したコレラ菌による感染症対策ワクチン候補抗原を発現したコメである「ムコライス」では実験用小動物(マウス)で、経口ワクチンとしての有効性が証明された。さらに、同免疫効果が低下したとき再度、同候補ワクチンを経口投与すると防御免疫応答が戻り、長期に抗原特異的免疫応答を誘導・維持できることがわかった。さらに、コレラ菌由来毒素だけではなく、同様な症状を惹起する毒素原性大腸菌による下痢発症に対しても効果が確認できている。
 小動物を使った検討での成果をふまえて、よりヒトに近い霊長類を使った研究においても、その効果が検証されている。限られた匹数ではあるが、ムコライスを3匹のサルに経口投与し、抗原特異的免疫応答誘導効果が確認された。小動物での結果を反映して、追加投与においても抗原特異的免疫応答を回復維持できた。ムコライス投与群において、異常な免疫反応も確認されていない。これらの成果をふまえて、コメ発現系技術を駆使した医薬品開発に向けて、全身免疫系、粘膜免疫系の両方に効果的に感染防御効果のある免疫応答を誘導する経口ワクチンとしてムコライスの開発が期待される。

質問(○は会場参加者、→は講師の発言)
○米の中の含有量をコントロールできますか→米を粉末にして、医薬品の粉末原材料として正確に把握できるようにする。
○生米を炊飯するのか、どうやって摂取するのか→粉末の医薬原材料として、水に溶かして飲んだりする粉末剤、錠剤やカプセルにしたい。炊くお米は、医薬品としての開発が難しいと考えている。



「科学技術と社会 遺伝子組換え作物を素材とした検討」
           宮城大学 食産業学部 国際センター 教授 三石誠司氏

はじめに
 今までの発表を聞いていて「バベルの塔」の話のようだと思った。一般市民の理解との乖離を感じつつ、先端技術の発表を聞いていたが、これらの話の本質がどの程度、市民に伝わるだろうか。

当たり前の現実
 医療では遺伝子組換えは当然のように利用されているが、社会科学系の研究者は今もこの技術の可否を議論している。短期的視点と長期的視点、より大きな視点で考えてみる必要がある。
基本的な数字を把握し、もし、遺伝子組換え作物が日本になかったらと仮定してみると良い。我々の生活を維持するのに本当に必要なものや仕組み、「見えないインフラ」(コンビニに食料があり、水道が整えられている日常など)についても考えてみると良いと思う。
 日本語という障壁の中でいまだ意識が鎖国に近い日本は、世界の主要穀物・油糧種子の生産量27億トンをどう分配してもらうのか。世界的にどう分配するのが適切なのか。これが重要なポイントになる。

日本の現状
 日本は3000万トン以上の穀物(麦、米、コーン、油糧種子、ダイズ)を輸入している。例えば、トウモロコシは毎年1,600万トン輸入されているが、そのうち、コーンスターチなど工業用が400万トン。残りの1,200万トン、つまり、毎月100万トンの大半がパナマックス(最大5万トン載せられる船)でパナマ運河を通って日本に輸入される。この、1200万トンの家畜用トウモロコシの輸入が止まったら日本の畜産業はなくなる。エネルギー、つまり原油がシーレーンで海外から供給されているのと同様である。なお、1600万トンのトウモロコシのうち、米国からは96%を輸入している。米国のGMの作付比率は85%だから、単純計算でも1300万トンは輸入されていることになる。
 米国とカナダから来るダイズ、トウモロコシ、ナタネをあわせると、そのうち1700万トンが組換えとなる。国産を増やすのはもちろん重要だが、これには10-20年の腰をすえた取り組みが必要である。現実には輸入との2本立てで考えなくてはならない。
 日本の耕地は、463万ヘクタール(江戸から昭和40年代半ばまでは約600万ヘクタール)。日本で使っている農産物の生産に必要な農地は1700万ヘクタール。日本は1000万ヘクタール以上を海外の農地に依存していることになる。日本の米は1995年から今まで、生産調整で減産傾向にある。これに比べて、アルゼンチンとブラジルのダイズは15年で3倍から5倍に生産量を伸ばし、現在では多くを中国に輸出するまでになった。
 世界人口は2010年の約70億人から2055年には91億人になる。だからGMだということではなく、食料問題をどう考えるのかが重要である。日本の人口は2055年には9000万人程度になることが見通されている。人口減少そのものはロシアと似たパターンだが、ロシアは天然資源が豊かである点が日本とは異なる。中国の人口は2030〜40年頃がピーク、インドは2055年にはまだピークに達していない。資源のない日本は2055年に向けてどのような現実的な対応ができるのかを考える必要がある。
 現実問題として、仮に1ヘクタールで養える人間が10人なら、日本は4670万人しか養えない。二毛作や技術の進歩で仮に2倍収穫できても9000万人を養うのがやっとである。これから、30-40年は輸入を継続しながら、少しでも国産を増やして行かなくてはならない。日本は知的資産に期待するしかない。それには、直面している現実を冷静に見直さなければならず、現実を見ずにどんな対策も出てこない。
 技術論だけでなく、社会全体で客観的かつ合理的、科学的根拠に基づく合意形成と将来戦略の実践が急務である。


質問
○一般市民に日本の厳しい食料事情をつきつけたら不安や反発をもつと思うが→卑屈になる必要はない。貿易における相互依存の現実をみることだ。頭を下げるだけでなく、実際はお互いに合意して輸入している。現実を噛み砕いて話し、こういう状況が広く理解されなくてはならない。作物の技術を詳しく知っていても、日本人の生活が「見えないインフラ」に依存していること、人や資材が入ってこなければ何もできないことを知ってほしい。ロシアは今回、小麦を禁輸したが、例えば2008年に穀物価格が高騰したときでも、米国、オーストラリア、カナダは禁輸措置をしていない。その重要性に、日本人の多くは気付いていないのではないだろうか。
○科学の説明は理解できても感性の不安をどう解くのか→初等・中等教育で聞いた話、そして、社会科や家庭科の先生の影響を含め、教育の役割が大きい。社会科学の先生に日本や世界の状況を理解してほしいと思う。
 私が情報提供をするときは、科学技術の専門家と連携して実施してきた。社会科学系と自然科学系のペアがいいと思う。消費者意識を知るためにはマーケティング分野の人と組むのもいい。自然科学者が誠実であればあるほど、コミュニケーションに向かないこともあり、二人三脚がいいと思う。




「世界における遺伝子組換え作物の原状と社会受容に向けた取り組み」
           筑波大学遺伝子実験センター長 鎌田博氏

 世界のGM作物栽培拡大の理由は、農薬の低減、少人数の管理、単収アップなどによるコスト削減。旱魃耐性トウモロコシなど環境耐性作物作出が今、最も中心的な動き。

中国
 増大する人口を養う食料確保のための農業生産拡大と食糧増産に政府資金投入。モンサントとの共同研究等、民間も参入している。2009年BTイネに商業栽培認可がおりた。中国は野生イネの原産地で、BTイネは10年は認めないと聞いていたが、政府の意向が大きく働いた結果。組換え規制の法体系はしっかりできているが、実際はどうなのだろう。遺伝子組換え植物をめぐる科学、経済、法体系などに関わる国際会議も活発に開催している。

フィリピン
 ウイルス耐性パパイヤやBtナスの開発が進んでいる。国際イネ研究所(IRRI)では、世界に新品種(ゴールデンライス)を配布できるシステムを構築中。日本など、フィリピン以外で見つけられた遺伝子を入れたイネの研究開発もしている。開発が決まったときから農家、大学、市民にわかりやすいパンフをつくって理解増進活動をしている。

シンガポール
 自国では生産していないが、輸入しているので受容に向けた取り組みを地道に進めている。カルタヘナ議定書非締約国だが、まじめに取り組んでいる。国の組織(GMAC)が国民向け情報発信、間違った情報への抗議、大学の先生が情報提供するときの教材パッケージ提供を行っている。政策担当者に組換え実験を体験させ、理解促進を図っている。

EU
 国によって対応は異なるが、EUにおけるGM作物への理解(受容)は家畜飼料に限定されているようだ。

ポルトガル
 反対グループによるGMほ場破壊に国民が反発するような社会環境にある。共存法を作り行政、大学、企業、農家が一体となり、GM作物栽培を推進。全体で共同で活動している。
ポルトガルの栽培許可申請は複雑だが、国、企業がサポートしていて、値段を含めた扱いは非組換えと区別がないのでコストが低い組換えが有利。集荷した日の国際価格で売買され、飼料もGM表示されている。

ドイツ、フランス
 ドイツ、フランスは予想どおりやや否定的。市民にはGM栽培ほ場破壊を認めている風潮があるが、政府は規制や反対運動で企業や知的財産が国外に流出するのを恐れている

イギリス
 科学リテラシーの取り組みを一生懸命している。米国のGMトウモロコシが輸入されないとイギリスの畜産業はどうなるかの試算をして報告した。畜産業界も議論し、政府高官があちこちで発言し、GM飼料を受容するようになった。国立科学館ではGMの特別展示を行っていた。また、イギリス政府は有機栽培の成分を調査し、特に有機が優れているわけではないと報告・公開した。

インド政府
 Bt綿を大規模栽培中。Btナス栽培は一時凍結状態(貧困を前にそんな反対運動をしていていいのかという裁判官の言葉が印象的)。ナスには殺虫剤を120日間に20から25回散布。多い時は70回。バングラディッシュは120回散布しているという。Bt作物を作りたい農家は州政府が禁止しても隣の州から持ち込むし、種子のついた綿が市場で売られている。

オーストラリア 
 旱魃耐性小麦開発に注力しており、政策決定者はWSでしっかり勉強させている。

まとめ
 教育の影響が大きい。日本は今まで、遺伝子組換え技術の有害情報ばかり出して利益情報を出さなかった。科学の常識、利益、信頼、心情の和を考えた情報提供が大事だと思う。
 実際には、消費者の購入時の関心は、価格、産地、期限、評判などで無農薬野菜の市場は0.36%に過ぎない。遺伝子組換えの不安についてのアンケートで尋ねられると不安が引き出されてきている状況ではないか、今後は以下が重要。

質問
○国の将来、食料の将来をはっきり示す。農水省は市民に現実をどれだけ伝えているだろうか。政策も伝わっていない。
○遺伝子組換え技術だけでなく食全体の安全から入る情報提供が必要。シンガポールの教育パッケージのように使える教材が日本でも使えたらいいと思う。
○サイレントマジョリティには、サイエンスアートがいいかもしれない。イギリスのような常設展示が日本でできるだろうかと考えている。




「遺伝子組換え作物・食品」
           NPO法人 くらしとバイオプラザ21 佐々義子

なぜサイエンスコミュニケーションは必要なのか
 研究者・開発者・行政などが市民から信用されるには、技能と意図の両方が満足されなくてはならない。これは市民に情報発信するとき、知識だけでなく市民とともに考えて行こうとするコミュニケーションの重要性を示唆するもの。日々のサイエンスコミュニケーションの充実が、遺伝子組換え作物・食品への理解につながるのではないか。

バイオカフェからの学び
 私の属するNPO法人くらしとバイオプラザ21では、実験教室、見学会、130回を超えるバイオカフェの経験から、少人数で双方向性が高いコミュニケーションで情報がよく伝わり、反論を含めて対話が進むことがわかった。参加者が他の人に伝えたり、ホームページのレポートに多くのアクセスがあったり、スピーカーの動機が高まるなどの波及効果も大きい。

現状からみたこれから
 日本国内では、自治体の規制もありなかなか野外の試験栽培もままならない状況であるが、今年は大学での試験栽培が2箇所に増えた。ここにこられた多くの研究者の方には、私たちコミュニケーターと連携し、市民に対し積極的に語って頂きたいと思う。

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 日本学術会議副会長 唐木英明氏の司会、全スピーカーと会場参加者が話し合いました。
    • 国による差は、どうして生まれたのか→国の政策の違い。ポルトガルの共存法は栽培するため、ドイツは輸入させないため、というように国の背景が繁栄される。中国・インドは食料問題が切羽詰っているので積極的(鎌田)。
    • 環境ホルモンの検討時、絶対にクロという物質が3つ出て、化学会、経産省等が出資し、OECDで研究してもらっている。遺伝子組換えにはクロというものがない。遺伝子組換えは国際機関による世界的合意がよいのではないか→FAO、WHOは発信しているが皆の元に届いていない。CODEXも日本が貢献して標準を決めたが、合意は進んでいない(鎌田)。
    • 「見えざるインフラ」を日本のユーザーに、ベースとして知ってもらいたいと思う。輸出サイドとしてすべきことは→ファーマーエクスチェンジプログラム(アメリカの農村体験プログラム)が有効ではないか(鎌田)。→農業現場を知らない人が多いのが問題だと思う(三石)。
    • 輸入作物に未認可のものが含まれるリスクは。リスクヘッジを目的とした技術開発は→使っている遺伝子は植物由来で危険でなく自然界にも存在しているものばかり。今、使っているものまず危険ではないだろう。しかし、安全性試験は行わなければならない(篠崎)→医薬品は閉鎖系で栽培するのが基本。流通で食品と混ざらないことが大事。花粉症緩和米では、色素をつけて普通の米に混ざらないようにしたり閉花系を使ったりした(高岩)
    • 生産者の意見が今日は取り入れられていないのが残念。農家の声を知ってもらいたい。今日、紹介された作物は日本の農家に貢献できるだろうか。→日本の農家が求める付加価値のあるものを開発中(高岩)。→研究してきた乾燥耐性作物は海外で利用されようとしているが、日本の農業で利用されたら、非常に嬉しいです(篠崎)。



    最後に、愛媛大学南予水産研究センター山内晧平氏(日本学術会議 食料科学委員会委員長)より「今日は有意義な情報提供と議論が行われた。これからの科学・技術の推進は地域イノベーションが不可欠。今日のような議論を地域とつなげて行きたい」というご挨拶がありました。