2010年8月22日、はこだて国際科学祭 科学夜話バイオカフェを、函館市地域交流まちづくりセンターにおいて開きました。お話は(独)農業生物資源研究所 田部井豊さんによる「私たちはいかにして食料増産を行ってきたか」でした。このイベントはネット配信され、twitterでリアルタイムに意見が届いた、初めてのバイオカフェでもありました。「北海道は遺伝子組換え作物の商業栽培を条例で規制するなど、最も慎重な対応をしている所で、どんな話し合いになるかと思っていたが、いろいろな方が自由に発言し楽しいカフェだった」と田部井さんも言われた通り、和やかに活発な話し合いができました。
田部井豊さんのお話 | 会場風景 |
野生植物の栽培化
私たちの食べている作物で原種のままのものはない。2万年前、人類は定住して食料が得られるようになった。食料で最も大事なことはおいしいことでなく、十分に確保されて食料不足を回避できること。
イネの栽培は1万年前、麦は9000年前、芋は4500年前に始まった。交配による品種改良が始まったのが1700年。1865年にメンデルが遺伝の法則を発見し、1953年にワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発見した。40年前に大腸菌の遺伝子組換えに成功して、1994年遺伝子組換えトマト誕生。2009年には、日本の国土面積の約3倍(13400万ha)で遺伝子組換え作物が栽培されている。
品種改良では、食用部位を増大(容積,数)させ、有害成を減らす(虫を防ぐために植物が自分で体内に毒物を作る!)、種子脱粒性や種子休眠性を低下させる。
2006年、イネの脱粒性を支配する遺伝子の単離に成功。北海道でイネが栽培きるようになったのも品種改良による。
品種改良の流れ
①目標を設定(病気が出ているから害虫に強いものを,暑さに強いものを,耐冷性のあるものを,品質向上)する。
②遺伝資源の探索(今の品種には使われていない種で,必要な性質を持っていたものがいたかもしれない)
③変異の拡大(育種目的に合った素材がない場合、遺伝子組み換えや細胞融合などで必要な性質を探す)
③交雑する。
品種改良では、いいところをうまく合わせるのが難しい,色々な性質を受け継ぐ。目標を立てて改良を進めていても,目標を達成するころには時代遅れになっていることもある。
品種改良の例
生物の様々な性質は遺伝子によって決まる。例えば、キャベツとカリフラワーは花芽を作る遺伝子の違いから異なる野菜になる。つくばの「植物ジーンバンク」には、24万点のコレクションを保管しており、研究用に種の分譲を行っている。
ガンマーフィールドでは放射線を照射して突然変異種を作る。梨に黒い斑点の出る病気は、放射線照射で病気につよい梨がつくられ、商品化された。
細胞融合では二種類の細胞をつけてしまう。例えば、オレンジとカラタチでオレタチ。寒さに強い品種を作ろうとしたが,種が多く、酸っぱくて食用にはならなかった。
マーカー育種という新しい方法では、必要な性質を持つ遺伝子を目印にすることで,短期間で効率的に新品種をつくる。利点は、育ててみないと検定が困難なものを早く選抜でき、その結果、コストや手間を削減できること。
遺伝子を組み換える方法
いくつかの方法があるが、アグロバクテリウム法では植物の病原菌が、自分の持っている遺伝子を植物の細胞に送り込む方法を利用している。病原菌はこの方法で、自分にとっての栄養になる成分を植物に作らせてしまう。そこで、人間のほしい物質を作らせるようにするのが遺伝子組換え技術。米の場合は、次の手順で行う。
①玄米を洗浄し、カルスという細胞の塊をつくる
②遺伝子を組換えたアグロバクテリウムをカルス(細胞の塊)にかける
②カルスのアグロバクテリウムを洗い流す
③感染したカルス(目的の遺伝子組換えが起こっている)を選んで植物体に育てていく
パーティクルガン法では、高圧ガスで有用遺伝子を付着させた金粒子を葉の断片などに打ち込む。
品種改良の目的は、人間にとって役立つ性質を持った作物を作ることで、従来育種では、交雑によって望ましい遺伝子を目的に作物に集めた。
遺伝子組換え作物の安全性審査
日本では、食品利用、飼料利用して安全性を確かめてから製品化する環境への評価と食品としての安全性のふたつを調べる。
遺伝子組換えでは次のように段階を踏んで栽培していく。はじめに、ハウス栽培での評価をする(第二種使用:排水する場合は滅菌し、虫が入らないようにする)。次に野外栽培での評価をする(第一種使用:フェンスで人と物の出入りを管理する)
①環境に対する安全性
・競合における優位性(周辺の野生植物を駆逐しないか)
・有害物質の産生性
・交雑性
②食品における安全性
・組換えと非組換えで,栄養成分,毒素(アレルゲンなど),抗栄養素が変化していないか
・導入した遺伝子が新しいアレルゲンやたんぱく質などにならないか
・既知のたんぱく質と、構造やアミノ酸配列がどう違うか
・人口胃液などで分解できるか
世界的には除草剤耐性大豆、殺虫成分を持つようにしたトウモロコシが有名。日本は外国から3200万トンの作物を輸入しており、この約半数は遺伝子組換えと推定される。
遺伝子組み換え農作物の国民の受容
アンケートをとると約6割の人が不安を感じている。理由は安全性に関わることや情報不足や思い込みによるもの。適切な情報提供をする機会として、大豆の草むしりなどのイベントを通じて理解を深める努力をしている。様々な技術を適切に安全に使って将来の人口増加、環境劣化に備えたいと考えている。
会場のCafé Drip Dropはケーキが名物 |
- 各国でどれだけ遺伝子組み換えが作られているかのグラフに日本は出てこなかったけれど,作っていないのか? →商業作物としてはない.青いバラはどこかで作っているらしいが,作物ではないのでここには載らない
- それは安全性の確認が済んでいないから? →農薬の使用規定の中で,ダイズに使っていいと規定されていないから.除草剤耐性ダイズを作っても,その除草剤がダイズに使えない
- 飼料用のコーンの栽培がほとんどない
- 規定されていない除草剤を使ったら商品として売れない
- あらゆる抗生物質が効かない細菌が出てきたといわれているが,同じようなことが起きるのではないか?
- 一つの作物が複数の除草剤に強い,というようなものは作れるのか →耐性雑草の報告もあるし,可能性としてはなくはないが,広まる前に管理する方法はある.そんなに種類が多くでるわけでもないので
- 管理とはどういうことをするのか? →同時に2つ以上の変異が起こることはほぼないので,何年かに1度違う除草剤を使う。 非組み換えのトウモロコシを必ず混ぜておく
- どうやって薬剤耐性が植物に定着するか、そのしくみはわかっているのか? →薬剤によって耐性が出やすいものと出にくいものがある.薬剤によってメカニズムが違い,はっきりとはまだ分かっていない。
〜このレポートは公立はこだて未来大学プロジェクト学習の学生チームの皆さんのご協力で作成されました〜