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メディアとの情報交換会「地産地消」開かれる

 2010年7月20日(火)、食の信頼向上をめざす会主催メディアとの情報交換会が、ベルサール八重洲で開かれました。今回のテーマは「地産地消」でした。生産と流通・販売の現場、農業経済学の視点から、情報提供が行われました。

食の信頼向上をめざす会 http://www.shoku-no-shinrai.org/shokunoshinrai/index.html


「地産地消とは」      食の信頼向上をめざす会 代表 唐木英明氏

 現在、地産地消に国は33億円の支援をしている。給食への導入、道の駅などの直売所が開かれて、その数13,000箇所に上る。半数以上の事業の収益は、1,000万円未満。地産地消は、国産品の安定供給、自給率向上、農業構造の改革推進、農業景観維持などに貢献をしているだろうか。その他、食育、顔の見える安全安心農業、地域産物の理解推進、輸送距離短縮にも影響を与えているようだ。今回は、「地産」している生産者、「地消」しているコープこうべ、経済学の立場からお話をうかがい、全員による意見交換を行う予定です。


「地産地消について~女性農業士の立場から」      農業士会坂東支部 元会長 荻野利江氏

坂東の農業
 坂東地域農業改良普及センターには、古河、境、五霞、坂東の4つの市の生産者が関わっており、坂東のネギ、古河市の市花であるバラが有名。その他、東京に出す野菜(レタス、トマト、ハクサイ、キャベツ、キュウリなど)が栽培されている。
 私の家では、100頭余の乳牛を私たち夫婦と息子で世話している。搾乳できるのは出産した牛だけなので50-60頭。息子が加わってから30頭を100頭に増やし、パーラーといって、朝と晩に牛を追いこんで一度に5頭から搾乳できる仕組みを導入し、2機あるので10頭ずつ搾乳している。私一人で1回、約90分でできる。最近はヘルパー制度(酪農組合に登録された若手酪農家が手伝いにくる制度。後継者の育成や休日をとれる仕組作りが目的。)を利用し、昼間に自由な時間が持てたり、休みができたりして、以前よりは余裕をもって酪農ができる。

女性農業士の活動
 茨城県では、知事から任命されて、60歳定年で男性は農業経営士、女性は女性農業士になると、リーダーとしての活動を行う。定年40歳で若いリーダーは青年農業士として活動する。
女性農業士として、市民に農業のことをよく知ってもらおうと、道の駅での実演販売や農村体験を行っている。利益を増やす目的よりも、こういう活動をしている人がいることを知ってもらうことや、共に活動するなかでよいアイディアが生まれる等、人とつながりを大切にしている。その他、地区の学校給食センターに地場野菜を子供たちに食べさせたいと提案したり、古河の伝承技術を広める講座で講師を務めたりしている。
 私が今、熱心に活動しているのは「食遊三和」という活動。6名(うち2名は女性農業士)がそれぞれ、加工の資格を持つ製品をワンボックスで道の駅に出したり、調理実習をしたりするなどの活動をしている。ワンボックスがデザイン賞をとり、嬉しくますます互いに元気が増してきている。

これから
 我が家では、息子に「酪農は楽しく利益が上がる」ことを意識させるように「美牛コンテスト」で牛を引かせるなどしてきた。後継者問題の解決に、親が農業をよい職業として、子ども見せていくことも大事ではないかと思う。
「消費者は曲がりキュウリを理解してくれない」、「農薬を使う意味をわかってくれない」などという生産者もいるが、まず、農業を知ってもらうように私たちから出ていくことが大事だと思う。


「地産地消の意義」      東京大学大学院農学生命科学研究科教授 中嶋康博氏

地産地消の実情
 直売所の売り上げは、大きい団体では1億を超えるが、小グループでは約1,000万円。約14,000か所の農産物直売所があるといわれている。
事例1 愛媛県内子町「からり」:道の駅に併設。日本で有名な直売所。売上状況を農家に携帯、インターネット、ファックスで伝え、不足しそうな製品を持ちこんでもらう仕組みを他に先駆けて開発。
事例2 茨城県 ポケットファーム「どきどき」:直売所とレストラン併設。全農茨城県本部が運営。自動車で来るお客さんが対象。
事例3 山形県白鷹町「どりいむ」:出品者の顔写真を掲示。販売所ではトマトが人気。フアンは出品者の名前を見て選んで買う。
事例4 山形県長井市「伊佐沢共同直売場」:共同直売所で、出品者の顔写真とメッセージを掲示。手作りの小屋で運営しているが、とても人気がある。冬は閉所。伊佐沢のすいかが有名で全体的に果物中心(果物の多い山形県)。運営は無理せず、拡大しない。 
事例5 長崎県諫早市「大地のめぐみ」:産直団体組合が運営。有機、特別栽培の農産物を販売。信用できる産直団体の産物(自分たちと同じような基準や信念を持って栽培している)を連携品として販売。

直売所の販売額
 直売所の販売額は、158,820百万円。農協や第3セクターが運営するところの売り上げが大きい。売り場面積が大きい所では3-5億円、大手スーパーよりも1販売員あたりの販売額が高いところもある。
地場産物の占める割合は平均7割。小規模なほど地場の率が高くなる。利用者の6-7割が近隣の人。扱っているものは42%が野菜、米などの穀類が15%、果実、農産加工品、花・花木、豆・きのこ・芋などが10%前後。
農家1戸あたりの販売額は、年平均25万円。しかし1ヶ月の売り上げが20万円を超える農家もいる。
特徴は女性パワーが強いことで、直売所の総数は増加中。

戦後における社会と農業の変化
 戦後、日本は人口が急増し、約2倍に。2005年にピーク。あわせて穀物、青果物、畜産・魚介類の消費量も増えた(人口の伸び以上に農産物が伸びた)。人口は東京、名古屋、大阪に集中して増加。大消費地へいかに効率的に農産物を送るかが課題。都市部の農業はなくなり、北海道、九州などの遠い県から消費地へ運ぶようになった。
東京と大阪の市場で売られたトマトときゅうりの生産地を見ると、昭和30年代は近郊が多かったが、今では九州や東北などの遠隔地がほとんど。この結果、食と農の距離がひろがり、現在は「広域流通」は「大量生産販売」の時代。

地産地消のモデル
 地産地消は次のような生産・流通モデルの発展した結果。
モデルA 地場流通:生産地の消費者が買う。生産地と消費地が同じ地域。
モデルB 産地化・広域流通:生産地と消費地が離れていて、生産地から消費地へ商品を運ぶ
モデルC 地産地販:生産地と消費地が離れている、生産者がわざわざ売りに行く場合と、消費者が自ら買いに来る場合がある。産地と消費者が近づく(顔の見える販売)。

消費者は何を求めているのか
 1970年から1990年 実質食料支出額はカロリー摂取以上に増加。食べきれないほど買って捨てていたことも。
1990年代後半以降 バブルが崩壊し、自分の食を見直す時期が到来。
ホンモノ、新鮮な食材、安全な食材を求めて直売所に向かう市民が現れた。地産地消は地域活性化、自給率向上に貢献すると思う消費者が増えている。

地産地消の意義
 ・規格外商品の販売
 ・小規模農家の販路確保
 ・女性のエンパワーメント
 ・産直組織におけるビジネスの多角化(こだわり農産物の販売)
 ・情報発信の拠点としての期待(コンビニのような役割)
 ・農産物の多様化(作られなくなった伝統野菜の復活)
 ・業務用販路の拡大(シェフが面白い素材を探しに来る)

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 野菜は市場流通が多いと思っていました。最近はスーパーへの販売が増えているようですが、現在の市場の役割はどうなっていますか?→卸売市場のもともとの役割は街の八百屋に生産物を届けることにあったが、その八百屋が減少してスーパーが増えた。セリによる取引は減ってきて、今は物流センターのような役割を果たしている(中嶋)。
    • 価格決定のメカニズムはそこにはあまりないのですか?→価格はセリで決まるのはこれまで通り。相対取引の場合、このセリの値段を参照しながら個別に価格を決める(中嶋)。
    • 曲がったキュウリは直売所では、余り売れないこともある。
    • 生協で曲がったキュウリが売れたりしているのには、まっすぐなキュウリは農薬を使っていて、曲がっているキュウリは安全だと思っている消費者がいるのではないか。
    • 曲がったキュウリはどの位の割合でできるのか→立ちキュウリは紐に巻きつくので、ぶら下がってまっすくになりやすい。肥料不足だと、立ちキュウリも曲がったり太さが不均一になる。這いキュウリの方がキュウリの木への負担が少ないが、まっすぐになりにくい。市場に出回るものはほとんどが立ちキュウリ(荻野)。
    • 地産地消を学校給食に導入したそうだが、鈴鹿市で取り組んだときに、献立が2カ月前に決められ、ある程度の量を確保するのでできなかった。地元漁港と連携し魚ではできた。野菜の分量確保はどうするのか?→古河市では集荷所である程度の量をまとめる。2カ月より前に予定して種をまけば間に合う。茨城県は気候や風土が良いので、野菜の種類は豊富なことも一因(荻野)。
    • 千葉県で、特産物の落花生、サツマイモを二次加工して売上を伸ばそうとしているが、そのまま売れるものにわざわざ設備投資するのはリスクがあると思う農家がためらってしまうが→茨城県には加工センターで、加工について勉強したい人を募る。グループで勉強し、研修して技術を身につける。加工を経営の2本柱、3本柱として期待できるかどうか、利益が出るかよりも、技術伝承、互いの活性化につなげたいという気持ちが大事。小規模でみんなで作ってみましょうという気持ちを積み上げていくとうまくいくのではないか。落花生味噌は千葉県しか作れないことを訴える。サツマイモが人間の体にどんなによいかを教えることから始める。加工できれば、冷凍して年間通して体によい食品を販売できる。
    • 学校給食は地元野菜を100%使おうとしたらアウト、地元の野菜を通して教えることの方が大事。50-100キロは集荷所に出す方が楽でも、農家のおかあさんに学校給食に出すと教育的意義があることを伝えると、皆で協力して分量が集まるようになる(荻野)。
    • 研究者が地場農業を振興するよりも茨城県のように、農業三士を起用するのがいいのではないか。人のネットワークの成果が大きいと感じた。
    • 地産地消の今後の農業の発展への影響は→年総額80兆円の食料支出のうち、農業へ帰着する金額は過去四半世紀で増えていない。食品をめぐるサービスの価値を消費者に提供できた加工業、流通業、外食産業は帰着額を増している(中嶋)。
    • 小さいグループでうまくいっても、大きくするときが難しいと思う→1990年代半ば以降消費者のホンモノ志向が始まった。農業はそこにどれだけ関われるのか。地域の食文化を伝える食べ物、地場野菜やその加工品を提供するためには農業の六次産業化が必要。(第六次産業: 第一次産業(農・林・水産業)である農業が、食品加工(第二次産業)、流通・販売(第三次産業)にも、主体的、総合的に関係することで、より活性化されること)
      また直売所は、生産者が消費者の要望を学ぶ場でもある。創意工夫して売れる商品作りを実現している生産者も多い(中嶋)。
    • 今までの製造業は材料がないとき、他の地域の産物を使っても品質を維持して、品物を切らさないことするのがプロの生産者の役割だったが、これからは「名物は売り切れる」という今までとは異なる進み方もあるような気がした。それで製造として成り立つのか?→1億2000万人が食べ物に困らない様に生きていくためには、大量生産・販売が必要。しかしその隙間に多様な食品が存在している。直売所で世の中の食生活をすべて支えることは不可能。食生活を豊かにするために人々の多様なニーズに応えることが地産地消の意義(中嶋)。
    • 観光バスが100台来てもみんなが買えるものでなく、大量のものが到達できない品格、品位に賛成→「売り切れ御免ルール」が受け入れられなければならない。そのことが一般的になれば、産地偽装などもなくなるのではないか(中嶋)。
    • 売り切れてこその信頼だと思う。主張は明確な方がいい。
    • 三鷹に畑があり軒先販売がある。都会の農家には、この他に景観、緊急避難所、食育などの役割もあると思う。
    • 道の駅への期待に鮮度ということだったが、安くなくてもリーズナブルな価格という期待はあると思う。コープこうべでは曲がりキュウリ、棚落ちスイカを販売し、人気がある。
    • 農薬なしは不可能ということだったが、添加物は別ですか。→はい(荻野)
    • 新潟で普及員をしていたとき、指導農業士、アドバイザー(女性)、青年農業士が新潟知事から任命され活躍していた。農業三士を通じた人づくりが普及活動の最重要事項と先輩からいわれてきた。研究者と三士が連携し、食への誤解が解けるとよいと思った。