2010年6月5日、遺伝子組換え実験安全研修会が、全国大学等遺伝子研究支援施設連絡協議会の主催、国立大学法人中国地方バイオネットワーク連絡会議の共催、文部科学省の後援により、学術総合センター(東京、一ツ橋)で開かれました。土曜日の10時から17時まで全国から国公私立大学や企業等の遺伝子組換え実験安全管理に携わる関係者、約130名が集まり、熱心な情報交換と議論が行われました。
午前中は分科会ごとの情報提供と話し合いが行われ、午後の全体会議には文部科学省ライフサイエンス課の担当官も加わり、午前中の議論の報告の後、全員で議論をしました。
分科会のテーマは次の4つで、参加者はそれぞれ、関連する分科会に参加しました。
「遺伝子改変マウスの取扱いについて(組換えウイルス感染実験を含む)」
「多様な遺伝子組換え動物(ショウジョウバエ、メダカ、カイコ、他)の安全管理(拡散防止措置等)」
「遺伝子組換え実験の申請書式と機関審査体制について」
「植物の遺伝子組換え実験(第一種)の今後について」
分科会の会場風景(大学遺伝子協) | 全体会議での鎌田博先生(大学遺伝子協) |
初めに「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性確保に関する法律(カルタヘナ法)について」という講演が、文部科学省ライフサイエンス課 生命倫理・安全対策室 専門官 美留町潤一氏により行われました。 「カルタヘナ法とは、カルタヘナ議定書を国内で担保するためにつくられた法律で、できて6年。大学では第二種使用等(実験室内)に該当する実験がほとんどだが、それぞれ安全委員会の審査を受けて進められている。対象になる生物の増加、技術の進歩、世界の動向の中で、皆さんと検討していきたい」
熊本大学生命資源研究・支援センター 准教授 荒木 正健氏
全国の大学では、組換えDNA技術を用いる実験が行われている。そのほとんどは実験室内で行う第二種使用(拡散防止措置を伴う)で、それぞれに安全管理の努力が行われているが、場所によって温度差があるようだ。最も重要なのは、従事者の訓練。今後、P2Aレベル実験に備え、どんなときにP2Aが必要なのかも検討しておくべきだと思う。
広島大学自然科学研究支援開発センター 教授 田中 伸和氏
大学遺伝子協で関係団体の協力を得て、大学で、メダカやカイコを使って実験するときの拡散防止措置要件を策定中。 ニワトリ、ウズラ、カエル、ウミシダ、ホヤなどの検討も開始した。動物の特性にあわせたハード(飼育箱など)要件とソフト要件を検討している。過度な拡散防止措置にならないようにしたい。
東京医科歯科大学疾患遺伝子研究施設 教授 中村正孝氏
カルタヘナ法は、それまで用いていた「組換えDNA実験指針」より書き方が具体的でなく、法律用語が多くなり、わかりにくいところがある。実験計画書の定型書式もなくなり、機関によっては使いにくい書式となっている。そこで、大学遺伝子協のホームページでは詳細な書式と簡単な書式の両方を公開し、申請業務をサポートしている。
http://www.tuat.ac.jp/~iden-kyo/newsletter/Exp_plan/Exp_plan.html
大事なことは従事者の教育訓練で、毎年、盛んに行われているが、毎年、受ける実験者のインテンシブを高める工夫も必要ではないか。これからは、動物委員会とのタイアップ、事故対応を事故を起こす前から考えて準備すること等が必要なので、検討していきたい。
筑波大学遺伝子実験センター 教授 鎌田博氏
欧州では数百件の隔離ほ場試験が行われている。日本では、植物の第一種使用は農林水産省と文部科学省の二つの別な窓口があり、農林水産省は産業利用(農業利用)するもの、文部科学省は基礎研究を対象としている。法に基づく規制は厳しくすればどんどん厳しくなっていくが、実際に重要なことは研究が進むこと。現在は基礎研究として野外で試験栽培を行っているのは筑波大学と東北大学のみ。
特定網室については、具体的な環境影響評価のことも考慮しないといけない。
教育訓練は努力義務で、やり方も特に定められていない。事故があったときに、教育をしていたかを問われる。教員が学生にその場その場で教えていてもいいわけだが、それを教育訓練として意識されていないと、各人の意識向上につながらないので問題がある。
事故が起これば機関の体制と責任が厳しく問われることになるので、努力義務といってもきちんと教育訓練をするべきだと思う。
- 感染症に関わる実験について →感染症法にも関係し、場合によっては届出や事前許可が必要。大学で扱うために届出、審議のための仕組みがないと感染症法違反になる。各大学でバイオセーフティ委員会を設置して欲しい。
- 実際、学内にバイオセーフティ委員会を設置しようとすると、すぐにできないことがあり、こういうときは、国からの指導があったほうがやりやすい。
- 遺伝子組換え植物の展示について →遺伝子組換え植物の管理は、法律上は実験中、保管、運搬の3つ以外にはない。遺伝子実験施設の公開日、出前授業等で光る植物、色変わりの花などの実物を見せると学習効果が上がる。しかし法律上「展示」という言葉はない。現在は、許可を取りつつ実験中として扱う場合、および、運搬中(密閉容器の中に入れてあり、誰も直接さわることはできない)に見てもらっているという解釈で見てもらっている場合があり、実際に、以前、首相にも運搬中として見てもらったことがある。サイエンスコミュニケーションとして一般の人に遺伝子組換え技術を伝える立場からは、実物を見せることが重要。透明なケースを試作したので、こういう道具を上手に活用していきたい。
http://www.tuat.ac.jp/~iden-kyo/index.html
我が国における遺伝子研究・遺伝子組換え研究の発展に貢献することを目的に活動している。もともとは国立大学遺伝子実験施設・センター等の協議団体であったが、2008年11月に、参加団体を拡大する形で全国大学等遺伝子研究支援施設連絡協議会(大学遺伝子協)として組織替えを行った。全国の国公私立大学や独法・公私立研究所等の遺伝子実験施設や遺伝子組換え実験安全委員会等が参加。会の主な役割は次のとおり。
①遺伝子組換え研究の推進と関連人材の育成
②遺伝子組換え実験に関連する教育の充実や安全確保等に関する情報の収集・公開・意見交換
③関連研究の推進に必要な機器の共同・連携設置や共同・連携利用等の円滑な推進方策等の検討