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バイオカフェレポート「タンポポのくらし〜いま、目の前で起きている進化」

2010年4月9日(金)、茅場町サン茶房にてバイオカフェを開きました。お話は、タンポポ工房代表保谷彰彦さんによる「タンポポのくらし〜いま、目の前で起きている進化」でした。初めに山形一恵さんによるフルート演奏があり、ビゼーカルメンの間奏曲など3曲が演奏されました。

山形一恵さんの演奏 保谷彰彦さんのお話

お話の主な内容

タンポポはどんな花
タンポポには黄色だけでなく白い花もある。
シロバナタンポポは、西日本から関東に生えている。日本中のシロバナタンポポの遺伝子はすべて同じで、一つの株から広がったことを示している。
それ以外の日本のタンポポはだいたい黄色。
日本のタンポポは総苞片という緑の萼(がく)のようなものが、花の根元にあり、これがピタッと花についている。総苞片がそりかえっているのはセイヨウタンポポか雑種。

タンポポの体の構造
花の下にある茎のような部分は花茎(かけい)とよばれ、タンポポは花が花茎にひとつずつつく特徴がある。タンポポの茎は根と花茎の境目の短い部分。
花が咲き終わると花が倒れて種が熟し、その後、立ち上がって、ワタゲは花より高くなる。これは、植物ホルモンが花茎の片側に分泌され、分泌された方だけが伸びると、横に倒れたり、立ち上がったりしているからと推測されている。これは種子が熟する間に、折られたりしないようにしているためだと思う。人の近くに暮らすタンポポの知恵ではないか。
花と思われている部分は小花が100個くらい集まっている。一つの花は花弁1枚分。
外側の小花から開く。タンポポの花は、花弁が開いた形の舌状花から成る。キク科の花には、舌状花、筒状の小さい花である筒状花を持つ特徴がある。小花の根元を包む冠毛(かんもう)という毛が萼(がく)にあたり、これが後にワタゲになる。

タンポポと似た植物
ブタナ:タンポポと花の形はそっくりだが、花茎が枝分かれする。
ノゲシ、ニガナ:花はタンポポに似ているが、花が複数つく。
アザミの仲間はすべて筒状花 タンポポのグループはすべて舌状花。舌状花と筒状花が混ざっているものもキク科にはある。

タンポポの受精
タンポポの小花の葯(ヤク:花粉の入っている袋)の中から柱頭(めしべ)が伸びて花が開く。タンポポには自家不和合性という性質があり、自家受精はしない。

タンポポの種類
キク科タンポポ属は40節2500種あり、アラスカ南部、アイスランド、スカンジナビア半島、ヒマラヤ、日本が世界のタンポポの五大産地。日本には20-30種類があり、タンポポの種類が豊な国。
タンポポの分類は難しく、昔は約100種類ほどに分類されていたが、再編成すると20-30種類になった。それでも日本はタンポポが豊富な国。例えば、白いタンポポは世界で5種類しかないのに、日本にはそのうち3種類ある。セイヨウタンポポは欧州が原産で、1000種くらいある。これは1000のクローンがあることを意味する。
タンポポには、遺伝子のセット(ゲノムという)を2セット持つ2倍体と、3セット以上ある倍数体がある。2倍体は他のタンポポの花粉を貰わないと種子ができない。シロバナタンポポは5倍体なので、受精せずに種子ができる。2倍体は人が棲む平地に多く、倍数体は北アルプスや八ヶ岳などの山の上にある。東北、北海道は倍数体ばかりで、関東から九州北部は2倍体。

セイヨウタンポポの上陸
タンポポが豊かな日本に、1900年よりも前にセイヨウタンポポが入ってきたようだ。セイヨウタンポポは北海道に野菜として入ってきたとされる。1904年に牧野富太郎博士は倍数体なので、日本中にどんどん増えると予見している。1960年代ごろから市民と研究者によるタンポポ調査が始まり、どのくらい、セイヨウタンポポが入り、日本のタンポポが減っているかを調べてきた。
新潟大学の森田竜義先生は、セイヨウタンポポと思われていた中に雑種があると発見。
1990年代後半、愛知、神奈川で、セイヨウタンポポだと思ったものの8割が雑種だとわかった。
2000年、芝池博幸博士が全国のタンポポ800個体ほどを調査したところ、85%が雑種だった。これを、緑の国勢調査という。その結果、関東以西には雑種が多いこと、日本の2倍体タンポポが母親でセイヨウタンポポが花粉親であることがわかった。雑種の分布は母種タンポポのそばに広がっている。東北と北海道にはセイヨウタンポポが多い。
セイヨウタンポポの見分け方は、総苞片のそりかえりが強いのがセイヨウタンポポで、そりかえりが弱いと雑種。そりかえっていても4倍体は花粉がないなどの特徴がある。

日本のタンポポの現状
私は、伊藤元己先生のもとで、セイヨウタンポポが少なく、雑種が増え広がった理由などを研究していた。
日本のタンポポは近くに林があり、土が柔らかな半自然的な環境で他の植物も多い所に群れて生える。他の植物との日照をめぐる競争などをうまくくぐり抜けている。
日本のタンポポは2倍体なので、種子をつくるには交配相手が必要。虫が花粉を運んでくれるところでないと種子が作れない。日本のタンポポの種は重くて多くまで飛ばない。
だから日本のタンポポは広がりにくく、一度土地が開発されて消えると再び生えにくい。
セイヨウタンポポはクローンで増える。公園の空き地など増える 交配相手は不要。 種子が軽くてよく飛ぶ。

性を捨てたタンポポ
交配相手を必要とする日本のタンポポに対して、セイヨウタンポポは単独で増えることができ、種子も軽くて飛びやすく、よく増える。
その結果、雑種タンポポは単独で暮らすことができ、受精なしで子孫を残せるのでよく広がる。有性生殖をしないので、これは性を捨てた生き方だといえる。生物が40億年前に生まれてから、無性生殖の状態が長く続いた。有性生殖が始まったのは20億年前。環境の変化にも対応しやすい多様な子孫が残せるようになり、種が増えた。
なぜタンポポは性を捨てたのか、進化の流れに逆行しているようにもみえる。これは次の課題だと思う。
都会のように土地がなくなり、虫がいないところでは、性を捨ててクローンで増える方が生物として有利なのだろうか。これは都会で生きていきやすいひとつの進化なのか。他にも、ツユクサ、カタバミなどの都会に生えている植物には、自家受精で増えるものもある。
人の手が入ったことで、種の在り方が変わってきているのは奥の深いことだと思う。
それでは、無性生殖で生まれた子孫の多様性をみてみる。日本に多い雑種タンポポは、二倍体のニホンタンポポが母親、セイヨウタンポポが父親。2倍体の種類が多いので、出てきた雑種は多様。その結果、有性生殖のよいところと無性生殖のよいところをあわせ持つタンポポになっているようだ。


ルーペでタンポポの花を観察する参加者 会場風景1
タンポポの花 会場風景2

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 3倍体の花粉はどうなっているのか→スロバキアなどのセイヨウタンポポの原産地では、セイヨウタンポポには2倍体と3倍体が共存していることがある。3倍体では、その花粉には染色体が2セットか3セット入っている。これが2倍体とかけ合わさって、2倍体と3倍体が共存している。日本でも同じことが起こっている。
    • なぜ、自家受粉しないのか→同じタンポポの花粉と柱頭に目印になるたんぱく質があり、これを認識して受精しないような仕組みになっている。また、2倍体に3倍体の花粉がいっぱいかかると、自家不和合性が壊れて、自家受粉してしまうようになる(自家不和合性の崩壊)。
    • 遺伝子のどの部分を調べるのか→核の中の遺伝子の一部と葉緑体の中の遺伝子の一部を調べる。葉緑体の遺伝子は母親由来。核は両親由来なので、母親と父親の遺伝子を調べることになる。
    • 日本のタンポポは夏に消えるが 雑種は?→雑種は夏も残っている。しかし、日本のタンポポの居場所には他の植物が多いので、日本のタンポポは葉を枯らして休むとも考えられる。雑種は他がいないところにいるので葉を広げることができる。
    • タンポポの研究は我々の暮らしに影響を与えるのか。面白いだけか→鋭いご指摘。気分的には面白いからという気持ちはある。けれど①外来生物が入ってきたときに日本の生態系にどんな影響を与えるかというモデル研究になる、②外来種の影響から植物の進化の仕組みの研究ができるなどの意義がある。③クローンで増えるので、有性生殖をせずに増える遺伝子を取り出せたら、よい農作物を増やすのにその遺伝子を利用できるのではないかという意義もあり、オランダのチームはこれを研究している。

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