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米国農務長官来日〜学生との対話集会、食料安全保障国際シンポジウム開催

 2010年4月7日(水)、アメリカ大使館講堂で、「トム・ヴィルサック米国農務長官との対話集会」が開かれ、学生など150名が参加しました。タウンホールは、札幌アメリカ総領事館、福岡アメリカ領事館、那覇アメリカ総領事館に設けられた会場でも同時開催されました。初めに、長官のお話があり、その後は4か所の会場を衛星回線でつないで質疑応答を行いました。

会場風景1 トム・ヴィルサック米国農務長官

トム・ヴィルサック米国農務長官のお話

はじめに
50年前、山梨県は二度の大きな台風の被害にあい、豚がほぼ全滅してしまいました。そこで、アイオワ州の農家から36頭の豚がお見舞いに空輸され(1頭は途中で死亡)、1500トンの飼料トウモロコシが船で送られました。これで、山梨の養豚業は復活し、同時に穀物飼料による畜産が始まりました。農業の交流という意味では、アメリカあるいはアイオワ州でもダイズが栽培されていますが、それはかつて日本から持ち帰ったダイズの苗木が始まりです。私は山梨と友好関係のあるアイオワ州にずっと住んでおり、来日すること、若い皆さんと対話ができることを楽しみにしてやって来ました。

アメリカの農業の状況
農業人口は50%から1%に減少し、後継者の問題とも取り組んでいます。
日本はアメリカの農産物のよいお客さんでもあり、日本の人たちの要望を知ることやアジアの人たちの食の好みも知ることになり、とても意味があることです。

日米の協力
日本はグリーンテクノロジー(環境)では先進的な立場にあり、日米は世界の二大経済大国として、世界の8-10億人の飢餓にも共に立ち向かっていかなくてはなりません。



会場風景 衛星中継で結ばれた4会場

質疑応答 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 私はアメリカの農家で働いた経験があり、アメリカには大規模な経営をする農家と都市部にあって小規模な経営をする農家の2種類があると思いました。小規模農家をどう思いますか→アメリカの農家の6割の所得は1万ドル以下で、食料以外のものを作っています。大規模農家は5%以下。この他に中ぐらいの規模の農家もあり、この層は経営が厳しくその数は減少しています。こういう農家はバイオ燃料(トウモロコシ、草など)の原料を栽培するのもひとつの方法だと思います。これに対して大規模農家は海外で売れるものを作るのにむいています。
      後継者問題に対しては、Know your farmer! Know your food!という運動して、農業への関心を高めています。
      地域ではコミュニティが農業を支援して、地元の野菜・果物を定期的に配達したり、市場を開いたりする活動も行っています。地産地消は、コミュニティの経済を活性化させるよい方法です。
    • Foodは武器だと発言された議員がいらしたが、どう思いますか →私はFoodは武器ではなく、人をつなげるツールだと思っていて、食料の安全保障は戦争回避の道具でもあると思います。祝い事やパーティに食べ物がつきものであるように、食料は人をつなげ、友好関係を強めます。だから、日米は道義的に世界の飢餓をなくすという課題に取り組まなくてはならなりません。飢えている人は働くことも勉強することもできません。豊かな農業は貿易を起こし、政治を安定させます。戦争するよりビジネスをする方がずっとよいですね。
    • 長官は穏健派といわれていますが→アメリカは多様な国だから、いろいろな人を民主党は受け入れています。上院議員になるとディベートばかりでストレスを持つ人もいるかもしれませんが、個々の発言は余り気にしないで、大きな方向に進むことが大事だと思います。アメリカは、今までなかなか通すことができなかったヘルスケア法案を遂に通過させることができました。政治の力はすばらしいものです。皆さんも政治に関心を持って下さい。
    • 付加価値をつけた作物が重要だと思いますが、アメリカではどんな付加価値を考えていますか→農家でバイオ燃料やバイオプラスチックを作ることができれば、農家は生産以外に加工という事業の機会を得られます。これも付加価値の付け方です。生産地の近くで消費して運搬費用を削減し、生産コストを削減することも作物の価値を上げることにつながるでしょう。有機栽培をして、有機栽培作物を買いたい人へ選択肢を広げることも、付加価値が増したことになりませんか。バイオチャコールといって廃棄物から肥料を作ったり二酸化炭素を吸収させるものを作り出すことも行っています。
    • 日本には国産品を安全だと考える人が多いが、アメリカはどうですか→食の安全性への意識は世界共通。経済が成熟すれば食の安全への関心が高まります。私は大統領、保健福祉省と協力して食の安全性の意識を高め国際的競争力を高めるために、50の検査項目を決め、病原体の解明やその影響力の研究も進めています。
      日米で市民の食への不安感は同じで、事情が理解しやすい国産を信用するのは自然なことだと思います。科学とルールに基づいた安全性審査基準を明らかにし、皆がそれを共有することが重要です。豚インフルエンザの流行の時、安全性に問題はなかったのに豚肉の購買が低下し、アメリカを含む38カ国で豚肉市場が混乱しました。残念なことだと思います。また、自国の農家だけを守ろうとする国が出ると貿易が衰え、消費者の選択の幅が狭まります。貿易を基盤とする消費者主導の世界にすれば、戦争もなくなるでしょう。
    • 遺伝資源と生物多様性の保護が重要だと思います。少数の大企業が世界の種子を独占するようなやり方をどう思います→(アメリカの視点からしか発言できませんが)私の経験では、農家を招いて公聴会を行い、科学技術の応用、技術の集約化、種の購入において農家は公正な立場に置かれているかを尋ね、話し合い、農家の立場を守るにはどうしたらいいかを検討しました。今は多収、耐病性など高い品質の品種を企業が作りその特許が切れた後どうするのか。民間企業が開発した品種のときはどうするのかを検討しています。
    • 日本の人たちは遺伝子組換え食品を敬遠する傾向がありますが、アメリカの人たちはどうですか→ノーベル賞を受賞したノーマン・ボーローグ博士は私と同じアイオワの人間で、緑の革命の父といわれ、科学で収量増加を目指した人でもあります。我々、人類はいつも飢えていて、その歴史は食料獲得のための困難な道のりでした。小規模の農家は自分の家族を養う程度の生産しかできなかったのが、ハイブリッド種子をつくり、肥料を改良し、機械化を進め、今ではひとつの農家で150人分の食料を得るまでになりました。
      私たちは2050年に世界人口が38%増加する日に備えなくてはなりません。人口が増える国のほとんどは途上国で、そのときに安定した暮らしのできる人はどのくらいいるでしょうか。温暖化や水資源の不足による減収も予想されます。それでも、増えることのない耕作面積からより多くの食料をどうしても得なくてはならないのです。このような状況の中で、私は遺伝子組換えも有機も共存できるように、両方をサポートしていこうと思っています。
    • 農業の後継者問題はどうですか→アメリカの若い人たちの農業への関心ははっきりいって低いです。75歳以上の農業従事者が30%を占め、25歳以下は20%減少しました。仕事としての農業のアピールが足りないと思います。農業のグローバルな役割をもっと伝えていくべきです。
    • 九州大学では地元の農家の生産物を販売したり、学生が農家に働きに行くなどの交流をしています。アメリカの大学でもやっていますか→アメリカではインターンシップという制度があり、学生が農務省や農場で働いています。農業を初めて始める人のコース、町の園芸、家庭菜園などいろいろなメニューがあります。オバマ大統領夫人も家庭菜園を実践しており、このようなプログラムの中で人々は農業とその苦労を知ります。さらに人々は農業に、食料や環境の問題など様々な問題への解決の可能性があることに気付き、農家の仕事を評価し感謝するようになるでしょう。そうすれば、雇用の可能性も広がるのです。
      農業は科学であり、農業には無限の可能性があります。食料だけでなく、繊維、プラスチック、紙、燃料など。私は、日本とアメリカが協力してしなくてはならないことはたくさんあると思っています。

     同時通訳はありましたが、4つの会場の学生たちのほとんどが英語で長官に質問し、時間いっぱい活発な質疑応答が行われ、対話が途切れることはありませんでした。また、参加した学生の多くは農学系だったので、彼らに大きな学びがあったこと期待したいと思いました。


    食料安全保障 国際シンポジム

     同日8:30〜17:00、ホテルオークラにおいて「食料安全保障 国際シンポジウム」が、米国大使館主催、アメリカ穀物協会講演により開かれました。トム・ヴィルサック米国農務長官、赤松宏隆農林水産大臣をはじめとする国内外の研究者らより、食料安全保障や環境問題への取り組みが紹介されました。アフリカを中心とした飢餓撲滅のための活動においては、日米は協力して先進国としての義務を果たそうという意思表示がされました。
    最後に、緑の革命でノーベル平和賞を受賞したノーマン・ボーローグ氏に、早期よりアフリカの問題提起を行った笹川良一氏の遺志を受け継ぎこの問題に取り組む日本財団会長笹川陽平氏に、ワールド・フード・プライズ(世界食糧賞)基金会より、ボーロ-グメダルが贈られました。

    笹川氏へのボーローグ・メダル贈呈
    (写真提供:アメリカ穀物協会)
    アメリカ穀物協会理事長トーマス・ドール氏による閉会の辞