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遺伝子組換え食品に関する学習会に参加して
〜くらしとバイオプラザ21スタッフレポート〜

 5月19日(月)札幌市消費生活センターにおいて(社)北海道消費者協会主催による学習会が開かれたので、参加しました。参加者の殆どは、主婦の方々です。同会では今までも遺伝子組換え食品について農政局から講師を招いたりして学習会を行ってきたそうですが、今回は慎重派と推進派からお話をうかがう、という企画でした。聞き取りによるお二人の講師の講演概要は以下のとおりです。

1.遺伝子組換え商品の現状と問題点 ジャーナリスト 天笠啓祐

〜慎重派の立場から〜

主な農作物と世界での作付け:
 日本は世界最大の組換え農作物輸入国で、世界の主な栽培国は米国、アルゼンチン、カナダ、中国。作付け面積は増加中。日本の食卓に出回る可能性のある遺伝子組換え農作物は大豆、トウモロコシ、ワタ、ナタネで、作付け面積の割合と輸入の割合を掛け合わせると、食卓に遺伝子組換え食品が現れる確率は3割から5割強になります。

日本の遺伝子組換え食品の表示:
 表示方法は1)「遺伝子組換え食品を使用しています」、2)「遺伝子組換え食品を使用していません」、3)「不分別」(遺伝子組換え原料と非組換えが流通段階で分別して扱われていないことを示す)で、このほかに4)表示なしがあります。2)は任意の表示です。4)表示なしには、油やしょうゆのように表示義務のない食品である場合、加工食品に使われている原料で上位3位の中に含まれていない場合、遺伝子組換え原料を用いていない場合の三つのケースが考えられます。これを例にとってみても日本の表示制度は、大変紛らわしく、遺伝子組換え食品を選んだり、避けたりしたいという消費者の要望にこたえるものでないことがわかります。

遺伝子組換え農作物の及ぼす影響について:
 遺伝子組換えイネは今年、北海道、岩手、茨城の3箇所で栽培される予定ですが、環境影響など未知の部分も残っています。環境への影響については、メキシコのトウモロコシの野生種や有機農産物の遺伝子の中に遺伝子組換え遺伝子の断片が見つかったという報告もあるようで、遺伝子汚染と呼ばれる現象が出てきています。雑草や害虫に耐性ができるのではないかという不安もあります。

研究の背景:
 遺伝子組換え食品の安全性や環境影響についての論文が多く発表されていますが、賛否両論あります。推進的な結論に至る研究の資金は開発企業の関係から、反対する結論に至る場合はそれ以外から研究資金が提供されている傾向もあるようです。

質疑応答(講演終了時にまとめて質問、感想が受け付けられました)

1) 遺伝子組換え農作物の種は自家採取してはいけないというのは本当ですか
 回答:原理的には採取可能ですが、種子販売会社は自家採取すると特許侵害となるので、毎年購入するように契約を農家と交わしています。有機農作物を栽培しているカナダのシュナイダー氏は収穫物の中に組換え遺伝子を見つけ、種子開発メーカであるモンサントに問い合わせたところ逆に特許侵害で訴えられ敗訴しました。シュナイダー氏を日本に招いて東京や札幌で講演していただくのでぜひ、参加してください。

2) 花粉の広がりとSARSの伝染を結び付けて説明するなど反対の立場の講演だったと思います。

3) 大腸を切除した人の人工肛門から採取された便の中の腸内細菌から組換え遺伝子が見つかったそうですが、そういう人には腸内細菌はいないのではないですか
 回答:小腸などに腸内細菌がいるので。

4) はじめから懸念されていた不安が実証されたことが今日のお話でわかりました。食品の表示制度の見直しを求めていきたいと思います。


2.「遺伝子組換え食品の現状について」
  NPO法人北海道バイオ産業振興会会長 冨田房男

〜推進派の立場〜

私の立場:
 はじめに私の立場をはっきりさせて、お話をします。わからないところはどんどん、声をかけてください。
1) 情報はすべて公開すべきもので、選択・決定するのは市民です。2)北海道の産業の半分は農業やバイオ産業なので、北海道はバイオアイランドとしてバイオ産業を取り入れて進んでいくべきだと思います。3)遺伝子組換え技術はきちんと規制して用いていくべきものだと思います。

長い歴史を持つバイオ技術:
 バイオ技術の歴史は6000年前のバビロニアで作られた発酵飲料にさかのぼります。それ以後いろいろなバイオ技術が発酵食品など生み出し人類のくらしを豊かにしてきました。
 糖尿病の治療に用いられているヒトインシュリンはヒトのインシュリンをつくる遺伝子を大腸菌に組み込み、大量に安価に作られるようになったものです。遺伝子組換え技術によって作られた農作物や微生物では、どこの遺伝子がどのように組み換わっているかがわかっており、従来の品種改良(10年くらい)より短期間(5年くらい)にできるので、成分分析が詳しく行われていない従来の育種でつくられた品種より安全だと私は考えています。

遺伝子組換え食品の安全性:
 除草剤耐性と害虫耐性の遺伝子組換え農作物の毒性試験では100匹のラットのうち50匹が摂取すると死ぬ分量(LD50)の測定、成分の比較、消化される様子の観察、アレルゲン(アレルギー症状を起こす原因物質)として知られるたんぱく質と構造を比較するなどが細かく調べられています。一方、従来の品種改良によってできたものにはこのような評価がされていないけれど、長く摂取してきた歴史から安全と考えられています。
 食品としての安全性は1)実質同等性といって組換える前の農作物と成分など比較する考え方、環境への影響については2)ファミリアリティといってその農作物への精通度(どのくらいよく知っているか)、市場に出た後の事故などに対応するためには3)トレーサビリティ(追跡可能性)がそれぞれ確保されることが必要です。
 Btについては遺伝子組換え農作物であれ、農薬であれ、耐性昆虫を作り出す可能性があるので、どちらもよく管理していく必要があります。健康を害するとわかっているレクチンを組み込んだ農作物を作ることなどは決して行ってはいけないことです。評価すべきなのは製法ではなく製品です。ひとつひとつケースごとによく調べてきちんと評価、規制されるべきです。

イギリスに学びたいこと:
 イギリスでは農業、漁業、食品をひとつの省(Ministry of Agriculture, Fisheries and Food :MAFF )が監督しています。日本のMAFF(Ministry of Agriculture, Fisheries and Forestry)は農業、漁業、林業です。食品は厚生労働省という別な省が監督しており、これでは農業から食卓(Farm to Table)というような連続した安全の確保は難しくなります。日本でもこのような行政が求められています。また英国食品基準局(FSA:Food Standard Agency) 専務理事(chief exusective:CE)ベル博士は白熱した議論の末「十分に注意し、規制した上でバイオテクノロジーに取り組むことを続けなければイギリスは世界の中で取り残される」という結論に達したことを発表しています。私もこの考え方に賛成です。私はすべての食品に対して、成分表示、意味のある情報提供、コスト(製品になるまでにかかる費用)削減、きちんとした規制と透明性の確保された手続きを求めます。まずは、遺伝子組換え大豆95%と表示した納豆を作って販売していく予定です。

質疑応答

1) 遺伝子組換え以前の品種改良はどのように作られたのですか。
 回答:ほとんどがガンマ線照射によって突然変異を引き起こさせたものです。ガンマ線照射は被爆しないように注意して行われました。

2)小麦が種の壁を越えた遺伝子組換えであることについて詳しく説明してください。
 回答:木原博士が見つけられた現在の小麦の品種は分類学上異なる種のものでした。

3)小麦同士ならば種の壁は越えていないと思います。微生物と植物というときに種の壁を越えたというと思っていました。
 回答:それは生物学上の種の定義としては間違っています。

4) 除草剤耐性大豆は何回も除草剤をかぶっているのに、それでもその大豆のほうを食べたいと思われますか
 回答:はい、そうです。

5) 自然に起こる遺伝子組換えと人為的に起こす遺伝子組換えはまったく同じと考えていいですか
 回答:同じです。

6) ラウンドアップ除草剤はすべての植物を枯らすそうですが、そういうものを散布するのはいかがなものでしょう。
 回答:ランドアップ除草剤は短時間で土壌で分解することがわかっていますので、土壌への影響はまったく心配ありません。私は北海道は農業やバイオ産業で生きていくべきだと考えています。北海道の農家の人の除草作業が楽になったり、それで利益を得ることは悪いことではないはずです。それに切るとミミズが何匹も出てくるようなキャベツを私はまた食べたいとは思いません。

7) 除草剤耐性農作物を使った場合と使わない場合では、農薬散布や除草作業はどのように異なるのですか
 回答:イネの場合には双葉を持つ雑草のみに効く農薬をまいて、後は手作業で草取りをします。北海道は涼しいので本土ほど雑草は茂りませんが、私たちは子供のころからいつも草取りをし、させられ苦しい経験をしてきました。除草作業は農家にとって負担が大きいことは事実です。


 天笠氏の講演中に会場より、「遺伝子組換え農作物の不利点に説明が集中しているので、もっと利点も話してください。」という意見が会場から出たとき、途中での質問は受け付けないという回答だったために、質問者に対して「退場せよ」という声もあがり、会場が一時騒然となり、休憩が入る一幕がありました。また天笠氏は午後に冨田氏が講演することを知らなかったので、このような流れでは自分に再反論の機会が与えられずこの企画は不公平であるとも発言しました。このことについては、会場からも事務局の姿勢を問う質問も出ました(事務局は、お二人に同じように講演依頼をしたと回答)。せっかく慎重派、推進派のお二人をお呼びし、合計4時間も時間があるのに、公開討論が行われず、会場とのやりとりも制限されるような企画は講演を聴いているものにとって消化不良の思いの残るものでありました。是非、同協会が科学的根拠を土台にして互いの主張に耳を傾ける姿勢で、パネルディスカッションを次回開いてくださることを期待したいものだと思います。








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