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平成21年度一般市民向けバイオテクノロジー実験講座開催報告
     茨城大学遺伝子実験施設;10月17日(土)、18日(日)
     東京都立科学技術高等学校;11月14日(土)、15日(日)

本実験講座は2003年開始以来毎年開催しており、今年度も2回開催しました。①茨城大学遺伝子実験施設の講座には、同施設、同大農学部とNPO法人くらしとバイオプラザ21の共催で、一般の方14名と高校生8名の22名(写真1)が参加、②東京都立科学技術高等学校の講座には、同校、日本科学未来館友の会、茨城大学遺伝子実験施設、NPO法人くらしとバイオプラザ21の4機関の共催で開催、一般の方16名、大学生1名と高校生7名の24名(写真2)が参加しました。 開催に当たっては、2009年度(独)科学技術振興機構(JST)科学技術理解増進活動 地域の科学舎推進事業のご支援をいただきました。

茨城大学の参加者 都立科学技術高校の参加者


各実験講座のスケジュール

1.2つの講義、
①バイオテクノロジーの基礎(安西先生)
②茨城大学遺伝子実験施設:動物バイオテクノロジーの発展と将来への展望(茨城大学農学部 教授 大久保 武先生)
②東京都立科学技術高等学校:植物バイオテクノロジーの最前線(安西先生)
2.4つ実験
 ①光る大腸菌を作る
 ②「犯人は誰だ(PCRでDNAを増殖し電気泳動で調べる実験)」
 ③納豆菌からのDNA抽出
 ④納豆菌の培養液から単一コロニーを作らせる
3.施設見学
参加者は、安西弘行先生から、2004年2月制定のカルタヘナ法及び遺伝子組換え実験についての説明を受け、この講座が法律に則って実施されていることを初めに学習しました。


Ⅰ.講義「動物バイオテクノロジーの発展と将来への展望」 大久保 武先生

人工授精技術の開発
1780年代、スパランツアニ(イタリア)が人工授精のできることを見つけ、20頭の雌犬に精液を注入して18頭を妊娠させた。1907年には、イワノフ(ロシア)はよい軍馬を生産するために、人工授精技術を確立した。 イワノフ博士のもとには日本からも学びに行った。その後、精液採取、保存、注入などの技術も進歩した。現在、日本の乳牛はほぼ100%が人工授精で生まれている。

胚移植
精液を扱えるならば、受精卵が使えないかということで研究が進み、同種の動物の1個体から受精卵(胚)を採取して他の個体の卵管または子宮内に移植し、妊娠、分娩させる技術ができた。1890年にウサギにおいて胚移植に成功した。
胚を供給する側の要件としては、優れた遺伝形質を持つ個体を見つけることであり、胚を移植される側の要件では、生殖(妊娠、出産)機能が正常であることである。優秀なメスと、よい受精卵がたくさん必要となり、動物生産現場では過剰排卵技術を目指すようになった。

過剰排卵技術
牛の妊娠期間は約280日だから、1頭の牛が一生で生める牛はせいぜい10頭である。もともと、卵巣には数千個の卵母細胞があるのだから、潜在的に受精可能な卵を有効に使おうとする研究で、卵胞刺激ホルモンを数日間、2回/日、与えたところ、1回に10-15個、排卵することが可能になった。1回の排卵が10個、受精卵で回収できるのは約7個、移植可能な胚は5個と仮定し、さらに年間で4回処置したら、20個の胚が得られる。
これらの胚を活用すれば、優秀な1頭の牛が生む牛は10頭なのに、100頭を超える子牛を生産できる。

体外受精技術
ウサギの体外受精成功は1954年、ハムスターとマウスは1969年、その後、牛が1977年 猫が1970年、羊が1986年。
ヒトでは、1969年に体外受精に成功した。1978年ルイーズ・ブラウンさんが初めての体外受精児として生まれ、試験管ベビーと呼ばれた。ルイーズさんはすでに無事に出産もしている。

顕微授精
顕微受精とは、顕微鏡でひとつの精子を卵子に入れる技術で、1963年に牛で、1966年にはカエルで成功した。こうして、精子と卵の相互作用の研究ができるようになった。1985年から86年、顕微授精でウサギが誕生し、不妊治療に応用を可能にした。
このような生殖技術は、家畜を対象として発達し、現在では不妊治療にも利用されるようになった。

クローン技術
クローン技術では、遺伝子は組換えられていないが、種をとることも遺伝子組換えだから、広義では遺伝子を組換えているといえる。
クローンは同じ遺伝子を持っている生物で、多細胞生物では、チューリップの球根、桜の接木、ジャガイモの根茎はすべて植物クローンである。
動物におけるクローン技術には受精卵クローンと体細胞クローンがある。体細胞クローンは雄と雌との受精を経ないという特徴がある。
http://www.s.affrc.go.jp/docs/clone/pdf/qanda.pdf
受精後発生初期の胚(精子と卵子が受精した受精卵が、その後、細胞分裂を続けていく初期の段階)をドナー細胞として用いる。16〜32細胞に細胞分裂した状態の胚を一つ一つの細胞に分け、それぞれレシピエント卵子に核移植・細胞融合し、クローン胚をつくる。できたクローン胚を仮親に受胎させて生まれてきたのが受精卵クローン動物である。生まれてきた子同士は遺伝的に同一で、いわば、人工的に一卵性双子や三つ子を産ませる技術と言える。昭和59(1984)年 受精卵を分割させたことによる一卵性双生牛が、平成2(1990)年に受精卵クローン牛が誕生している。

体細胞クローン技術によるドリーの誕生
クローンを作りたい個体の皮膚や筋肉などの細胞を培養して、レシピエント卵子に核移植・細胞融合し、クローン胚を作る。できたクローン胚を仮親に受胎させて、生まれてきたのが体細胞クローン動物である。
http://www.s.affrc.go.jp/docs/clone/pdf/qanda.pdf
体細胞クローン技術による成長した個体と同じ遺伝子を持つ動物の誕生は大きな技術革新であった。受精後の初期の胚は全能性を持つが、大人になった分化した細胞の核は全能性を失うと考えられていた。このために、動物のクローンの研究はとても難しかった。1996年7月5日 ロスリン研究所(スコットランド)で世界初の体細胞クローン羊“ドリー”が誕生、1997年2月24日にドリーの誕生が公式に報道された(学術雑誌“ネイチャー”に掲載)
  私はそのときに同研究所にいたが、報道と同時に子どものクローン、ペットのクローンを作ってほしいという電話が鳴りっぱなしになったことが印象的だった。その後、ヒト血液凝固第9因子を組み込んだ体細胞クローン羊“ポリー”が1998年に誕生している。その他の動物では、2005年にクローン犬(韓国ソウル大学・黄教授)などが成功している。

クローン動物
クローン牛と自然分娩の牛の死産や生後直死率については、受精卵クローンでは約15%、体細胞クローンでは約30%、自然分娩では約5%となっている。その差についての原因は未だ解明されていない。
国内では受精卵クローン牛は44機関で生産している。そのうち、体細胞クローンは何百頭程度である。受精卵クローン牛の牛乳や食肉は1993年から出荷されている(受精卵クローン牛の大部分は乳牛)。他方、体細胞クローン牛については、食の安全性についての議論が続いていたが、農林水産省、厚生労働省、食品安全委員会の議論を経て、2009年7月に結論が出た。農林水産省の通知では、生産物(肉、生乳、精液、受精卵等)は研究機関において焼却、埋却等適切に処分すること。 試食会を開催する場合には、体細胞クローン家畜等由来の食品であることを明示し、開催後、速やかに農林水産省へ報告するとなっている。
http://www.s.affrc.go.jp/docs/clone/pdf/qanda.pdf 
体細胞クローについての市民の認知は低く、拒否感も強いので、まずは理解活動を進めることが大事と考えている。
体細胞クローン由来の食品についての他国の対応
http://www.s.affrc.go.jp/docs/clone/pdf/qanda.pdf

今後について
既存の技術に新しいテクノロジーを加えて、高い品質を持つ家畜を開発すること、高い能力を持つ「種」を維持することが大切である、一方、生命倫理や動物福祉の視点も考慮して進めることが肝要と考える。


大久保先生 講義を聴く受講生


Ⅱ.実験

 4つの実験のうち、「犯人は誰だ」は、今回が初めてでした。市販のキットを使い、犯行現場由来のDNAと容疑者4人からのDNAをそれぞれPCRで増やし、次いで、増幅されたDNAを電気泳動し、現場由来の2本のDNAバンド(父と母由来)と一致する容疑者DNAバンド探し、鑑定しました。 原理は、ゲノム上にあるDNA配列でshort tandem repeats(STRs)といわれる2-7塩基のくりかえし配列をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅し、何度繰り返されているかを調べて、個人を特定する方法で使っています。例えば、父から3回繰り返し、母から5回繰り返し配列をもらっていると子どもは3-5型に、父から7回、母から3回ならが7-3型となります。

実験内容を説明する安西先生 実験風景1
実験風景2 小型遠心機で納豆菌を集めた
納豆菌からのDNA抽出成功 電気泳動 サンプルの注入


Ⅲ.施設見学

 茨城大学遺伝子実験施設、東京都立科学技術高等学校にあるバイオテクノロジーで使う機器や設備を見学しました。

 
茨城大学施設見学  


Ⅳ.アンケート及び今後について

アンケートでは、「分かりやすく、楽しくできた」と好評でした。 小中学生向けの実験講座は多くあるが、一般市民向けは少なく、一般市民の方が新しい技術を理解する手段の一つとして、講義と実験を取り入れた実験講座は意義あるものではないかと思います。私たちは今後も、本実験講座を実施していきたいと考えています。


巽公一校長の挨拶 修了証書の授与