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「バイオによる食糧問題の革新」開かれる

2009年10月7日にパシフィコ横浜で開催されたバイオジャパン2009において「バイオによる食糧問題の革新」をテーマに、(独)農業生物資源研究所 遺伝子組換え研究推進室長の田部井豊氏がモデレータとなり4題の講演がありました。主な内容を以下のとおりです。

Biotech作物による食糧生産の現状と将来
     〜世界の人口増と飢餓・食糧不足解決のために〜
               Randy A.Hautea ISAAAグローバルコーディネイター

 グローバルな視点からのGMOの現状と今後の展望についての講演。その要点は次の通りである。
2050年には世界の人口は約90億人となる。その人口増加は開発途上国の増加により、飢餓人口は約10億人となり、その絶対値からみるとアジア・太平洋地域が2/3を占める。他方、世界的には、農地は開発し尽くされている中で、現状、毎年1%の収量増を続けているが、今後は、年2%の収量増が必要である。IFPRI(国際食糧政策研究所)の試算ではGMO技術と既存技術を生かした組み合わせで、最大で1%の生産性向上を試算している。
 GMO栽培農家は1,300万人でこのうちの90%が開発途上国である。GMO生産国は25ヵ国であり、GMO輸入国は、日本、韓国、台湾、EUなど30ヵ国である。日本のGMO承認品目数は80で世界第2位であるがGMOの栽培はしていない。
 第一世代GMOは農家には生産性向上、消費者には低価格、環境にはプラスの効果を示し、第2世代は栄養強化と乾燥耐性作物などで効果をもたらす。
 今後のGMO作物として、耐虫性ナス、乾燥耐性コーン、害虫耐性コメ、青いバラがある。
 AFIC(Asian Food Information Centre)の調査によると、次の5年以内にバイオテクノロジーの恩恵を受けるかとの質問で、ハイと答えた人は、日本11%、韓国24%、フィリピン73%、インド70%、中国55%であった。また、GMOによって持続可能な恩恵をうけるとするなら、バイオテクノロジーを支持するかとの質問では、日本67%、韓国71%、フィリピン92%、インド95%、中国94%であった。開発途上国や中国、フィリッピンでは家族に直接メリットがあると考えている。

先端技術を用いた食料生産技術革新と課題解決に向けて
               横田敏恭 農林水産省 農林水産技術会議 技術政策課長

 日本の現状についての講演で、GMOの現状分析と課題、及び国民理解、コミュニケーション(大規模 小規模コミュニケーション)などであり、その要点は次の通りである。
 サントリーの青いバラが日本で栽培されるが、唯一の日本での栽培作物となる。日本では、GMO(油用、飼料用の大豆やトウモロコシなど)を全て輸入しており、地方は栽培規制を自治体ごとにかけている。地元ブランドを守ることを理由としている。
 安全性については、食品衛生法などにより試験されている。その内容は①食品の安全性②エサの安全性③生物多様性への影響(野生生物への影響)及び④表示である。
 表示については、「遺伝子組換えでない」の任意表示について、GMO賛成、反対の両方から、それぞれの意見がある。今後、新しく設立された消費者庁の意見も聞き検討する。
 今後のGMO開発のターゲットは、①飼料用、バイオマス用としての超多収性、耐多病性②機能性の付加③耐塩、耐乾燥性(海外に向けて)④土地汚染対策(カドミウムなど)、難分解性汚染物質の除去、その他、交雑を避けるための閉花受粉性作物の開発がある。
 総合科学技術会議でコミュニケーションの必要性が言われている。数百人を対象にした大規模を2回/年と20-30人の規模(face to faceの意見交換を行う)50回/年実施する予定である。
 2007年の調査では、GMO賛成;44%、よく分からない:44%、反対14%である。  2008年の調査では、コミュニケーションの実施の前後で調査すると、後のほうが安全であると思う人が増えている。


先端技術を用いた食糧・機能性食品・飼料の開発と展望
               廣近洋彦 独立行政法人農業生物資源研究所 基礎領域研究長

 新農業プロジェクトを中心にGMO(特にイネ)の研究開発の新しい方向を展望した。  現在、水田の35%が人手不足によって遊んでいる。食料自給率向上、環境問題から飼料米の開発に取り組んでいる。機能性ペプチドを導入したお米(Nobokinin 血圧降下作用)やリジンやスレオニン強化米の作出を進めている。Blast disease(カビ、いもち病)とLeaf blight disease(細菌、白葉枯病)の複合抵抗性のイネの発現の最適化に目処がたった。ウイルス病害対策(中国、ベトナムで問題)では、RNAiを利用したRDV-RSV抵抗性イネを作出できた。海外の食糧問題、砂漠化対策としての耐乾燥性GMO(RSO3PRIO遺伝子を導入)した米が作出できた。その他、光合成の増強、気候対応のコメも目指している。


先端技術を用いたGMO作物・食品等の安全性評価と受容性
               手島玲子 国立医薬品食品衛生研究所 代謝生化学部長

GMOの4点(安全性評価、アレルギー性、GMCropの現状及びリスクコミュニケーション)についてのうち主に安全性評価についての講演であった。2008年12月現在、日本で許可しているものは食品97品種、植物7植物である。安全性(実質同等性の考え方)については、①元の植物との比較②元の食品(栄養分)との比較③組み込まれたDNA情報の正確な把握④Gene Productのアレルギー性、毒性の4つのチェックを行っている。

質疑応答 

Q:遺伝子組換え食品の任意表示は消費者の選択のために導入されたが、今は、安全を保証することのように間違って使われている。表示の変更は?
A:意図せざる混入率の表示は5%以下の基準で行っている。行き過ぎは適正(?)にするようしている。今後は、表示については、消費者庁とも議論して進めたい。
Q:乾燥耐性作物で生産する場合、水不足のところでも水を使うことになるので、水不足がより深刻とならないか。
A:効率よく水を使用する作物を作ることであり、水不足は進行しない。
Q:GMOの研究成果が消費者につながることが大事だと思う。花粉症緩和米の研究は素晴らしいと思うが思うようには進展していない。その原因として縦割り行政に問題があると思う。開発戦略を立てて研究開発を着手するべきではないか。
A:花粉症緩和米は食品と思って開発を進めてきた。厚生労働省から医薬品扱いとの判断が示され遅れている。開発中の機能米については、厚生労働省の意見を聞きながら進めたい。

 最後に、田部井豊氏は、食糧問題を考える上では、どのような技術をどこに使うか、すなわち最適な技術を使うことが大切であり、その中で、GMO技術をうまく使っていけるようにしたいと、まとめられました。