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第2回バイオ&薬用植物観察会を開催しました

 5月10日(土)、スタッフを加えて24名の参加者を得て第2回バイオ&薬用植物観察会を開催しました。そのうち、昨秋に行われました第1回観察会から続けてご参加いただいた方は5名でした。

1.講演会

(1) 「薬用植物資源とバイオ技術」
国立医薬品食品衛生研究所薬用植物栽培試験場長 関田節子
 

 この栽培試験場の目的は1)漢方薬の原料である薬用植物を国内で安定供給できるように栽培条件を整える研究、2)薬用植物の成分の研究(新しい医薬品の成分の研究)、3)生物資源保存法の研究です。日本での栽培状況を調べてみると日本のすべての県で、99種類の多様な種類の薬用植物が栽培されています。
 薬用植物にはニチニチソウ(小児白血病)、イペカ(催吐剤)、メイアップル(乳ガン、子宮ガン)、イヌサプロン(通風)、カンレンボク(消化器系ガン)ヨーロッパイチイ(抗腫瘍剤)などがあり、治療が難しいと思われている病気を対象とするものもあります。

 
薬用植物の知識を伝える仕事
 

 薬用植物栽培試験場では「薬用植物優良種確保・栽培技術指導」という本を1988年より毎年発行しています。1冊に4-5種類の薬用植物について植物名、利用部位、植物の性状、植物の特徴、生薬の特徴と産地、栽培暦などを詳しく記載しています。

 
植物体がいつでも作れるようにする工夫
 

 すべての植物の種を保存しておけばいつでも植物が生えてくるわけではありません。
 種子の貯蔵条件を検討します。現在128種類の植物の種子が摂氏マイナス20度で保存した場合70%発芽することがわかりました。また法的に栽培が制限されている麻薬植物の保存も行っています。

 
バイオテクノロジーの利用
 

 絶滅の危機にあるムラサキを保存するために、低温保存したバイオシュート(芽)を植物体に育て、発芽率や植物体への戻り率を調べ、合成されるシコニンという色素の含有量を調べたところ、培養で60-70%のシコニンが含まれているムラサキが得られることがわかりました。
 マオウには交感神経抗奮剤や利尿剤の働きがある成分が含まれています。日本では主に中国でとれるマオウを使ってきましたが、中国は輸出を禁止しました。これを受けて、日本で栽培できるマオウの種類を決めたり、最適な栽培方法を検討しています。同様にカンゾウも輸出が禁止になりどんな栽培条件がよいかを決めるための研究をしています。しばらくは日本国内の貯蔵分で対応できます。


(2) 「ミャンマー麻薬撲滅運動について」
御茶ノ水女子大学教授 佐竹元吉
 
 1980年には何もなかった筑波の地に世界中の植物園の見学をしたうえこの栽培試験場をつくりました。世界中の植物園を見学し、ここに小さくても見学しやすいいい植物栽培試験場をつくりたいと思って整備しました。ベラドンナという植物にアグロバクテリウムを使って遺伝子組換え体をつくったところ、葉が縮むなど遺伝子の組み換わった性質を持った植物体が得られた思い出があります。
 ミヤンマー、ラオス、タイの国境近くの黄金三角地帯といわれる地域では麻薬の原料になるケシが栽培され、高価格で売買されています。国連では麻薬撲滅運動が行われています。この地域のカチン州に畑をつくってケシに替わる薬用植物を栽培する試みをNPO法人をつくって始めました。同じようにコカインの原料になるコカの生育地であるアンデスでも撲滅運動の活動を手伝っています。
 具体的には先述の「薬用植物優良種確保・栽培技術指導」を用いてオウレンやニンジンなどの栽培の指導を行っていきます。今、注目しているのは麻薬より強壮剤として高く売れるデンドロビュームをやしの皮にはめ込んでバイオテクノロジーを用いて栽培することです。
 面白いことにこれらの活動を通じてミャンマー政府と対立するカチン独立軍とも交流ができ、今後の薬用植物が取り持ってくれた平和へのネットワークにも期待できそうです。


2.研究室見学

 参加者はふたつの班に分かれて、2回の実験室、標本室を見学し、ここで行われている主な研究のお話をうかがいました。

標本室で説明する佐竹先生
標本室で説明する佐竹先生
 標本室には植物から鉱物まで、漢方薬の原料になるものの標本が集められています。近く、敷地内にできる標本棟に移される予定です。
実験室でマオウのお話をうかがう
実験室で中根研究員よりマオウのお話をうかがう
 3種類のマオウの形態の違い、有効成分(気管支拡張作用:喘息に効果がある)の違いが分析され明らかになっっていることが説明され、薬用植物のバイオとして組織培養(ウィルスにおかされていない頂点培養)が盛んに研究されていました。栽培、保存のほかに成分や未だ知られていない効果についての研究も進められています。
サシチョウバエの被害について説明する高橋研究員
サシチョウバエの被害について説明する高橋研究員

 熱帯・亜熱帯地域に生息するサシチョウバエは吸血性でリーシュマニアという原虫を媒介します。このハエに刺されると、リーシュマニア原虫がヒトの体内に入り皮膚、粘膜、内臓に潰瘍ができるなどの症状を引き起こします。これに効果がある薬用植物が見つかり、その研究が進められています。

3.薬用植物園の見学

 佐竹先生のご案内で園内の春の植物を見学しました。

葛根湯の原料になる薬用植物
葛根湯の原料になる薬用植物
 この一画には葛根湯に原料になる葛根、肉桂、芍薬、ナツメ、マオウ、生姜が植えられています。
大輪の花をつけたオニゲシ カモミール茶で知られるカミツレはかわいいマーガレットのような花
大輪の花をつけたオニゲシ カモミール茶で知られるカミツレはかわいいマーガレットのような花

 秋とはちがった薬用植物の花や若々しい新緑を栽培試験場で味わいながら、参加者全員がことばをかわし有意義な一日を過ごすことができました。漢方薬や生薬は私たちのくらしの身近にあって利用されているのに、余りなじみがなく、ましてその原料の大半が輸入に頼っていることはもっと知られていません。このように今は不足していなくても、バイオの技術を用いてこれらの原料が国内で安定供給ができるように、海外の国にも植物を提供できるように、日夜研究が行うことは余り知られていませんが大切な仕事であると思いました。

説明してくださった先生方と参加者全員
説明してくださった先生方と参加者全員




関田先生のレジメ

薬用植物資源の保存とバイオ技術 国立医薬品食品衛生研究所

筑波薬用植物栽培試験場  関田節子

はじめに

 薬用植物は,調製加工されたものが生薬として製剤化され医療に重要な位置を占めていると同時に新薬のシーズとして医薬品開発に大きく貢献しています。しかし、これら資源の大部分は野生植物であるため様々な環境の変化により枯渇を免れないことからチェンマイ宣言、地球サミット、リオ宣言、アジェンダ21等の国際会議で、薬用生物資源の保存・保護及び研究開発の重要性が指摘されています。国際間では生物多様性条約が取り交わされ,また,絶滅が危惧されている種類についてはワシントン条約で国外への持ち出しが禁じられています。現実に、1999年、2000年と続けて中国は砂漠化防止の名目で麻黄、甘草の輸出について禁止に等しい厳しい制限を設けています。このように海外からの入手が困難になった場合には自国で対応する必要がありますので、生薬の90%以上を輸入に依存している我が国は種子の収集・保存が急務となっています。このようなことから、私達の研究所は主に薬系大学と共同で、わが国あるいは諸外国における薬用生物資源の分布状況等を明らかにし、これらの効果的な保存方法を確立することを目的に、種子保存法の開発、遺伝子解析による種の解明、医薬品に適した品種の開発と栽培法の研究等を行っています。その成果の一部をご紹介します。

国内の薬用植物栽培状況

 現在,漢方薬や生薬製剤に用いられている薬用植物は約250種ほどありますが,そのうち国内では,トウキ,センキュウ,センブリ,ダイオウ等約80種とラベンダー,ローズマリー等数種のハーブが栽培されています。栽培方法については厚生省が栽培指針である「薬用植物 栽培と品質評価」を10年間にわたって作成してきました。

生物遺伝資源の中核機関

 栽培研究を行う一方で,資源の保存研究を行ってきました。国内の野生種子は、北海道、筑波、伊豆(平成13年3月閉場)、和歌山、種子島の5場で、毎年、秋の結実期に2〜3ヶ月程度採取時期を設け、採取後同定し保存しています。圃場、見本園で結実したものについても保存し、約70カ国の植物園、大学等の機関と種子交換を通じて国外の種子も導入しています。多種類の薬用植物をより多く保存するには種子保存が望ましいのですが,植物は種類によって特性が異なりますので,保存の条件もそれぞれに応じた環境が必要になります。そこで,発芽試験と成分の定性的,定量的測定を評価の指標に,温度と通気条件を組み合わせた条件の検討を行っています。
 また,種子から培養シュートを作成し,超低温保存の条件を検討しています。
 これらの研究が基となって,総合科学技術会議において策定されたライフサイエンスの分野別推進戦略(平成13年9月)による生物遺伝資源等知的基盤関係府省連絡会において当試験場が薬用植物の中核機関となりました(平成14年2月)。

マオウの国内栽培と種の同定(鑑別)法

 麻黄(マオウ)は葛根湯,麻杏甘石湯,五虎湯,小青竜湯,防風通聖散などに配合されている重要な生薬ですが,中国に野生している薬用植物で,前述したように現在は輸入できません。そこで,筑波薬用植物栽培試験場の保存株を北海道、伊豆(平成12年度まで)、和歌山、種子島の各場に配布し挿し木法により増殖を行い、生育状態とアルカロイド含量を測定しました。北海道では,雪の下で越冬した株は地上部がすべて枯れ春にシュートが新たに萌芽することが繰り返し観察されました。その他の地域では経年ごとに順調に生育し、4年生株はいずれの地区でも秋期に成分量が低くなる傾向が認められましたが、種子島の一部を除いて局方の基準値であるエフェドリン総アルカロイド含量 0.7 %を充たす結果を得ており、医薬品として利用できるマオウが国内でも栽培が可能であることを明らかにしました。これと同時に、国内の薬用植物園で保存しているマオウの学名を調査しました。マオウは外部形態では同定が困難な植物の一つです。そこで、遺伝子解析を行い、内部形態による分類法を組み合わせ同定法の開発を行っています。生薬由来のchlB遺伝子の塩基配列を解読した結果、国内の薬用植物園に植栽されているマオウは5タイプに分類されました。更に、茎の断面形、髄の有無、皮層部の維管束の有無と数、表皮のクチクラ層の厚さなどを指標にした内部構造の結果を組み合わせることによりE. sinica、E. intermedia、E. equisetina の簡便な同定が可能になりました。

おわりに

 これからの薬用植物の保存・保護には遺伝子組み換え技術が重要度を増すことでしょう。適切な研究を行うことによって私達の健康に役立たせたいと考えています。








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