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バイオカフェレポート「塩水に強いユーカリのお話〜遺伝子組換え技術で夢の木材」

2009年10月27日(火)、サン茶房でバイオカフェを開きました。お話は筑波大学大学院生命環境科学研究科渡邉和男さんによる「塩水に強いユーカリのお話〜遺伝子組換え技術で夢の木材」でした。 はじめに福田徳子さんによるフルートの演奏がありました。珍しいフォーレの子守唄に始まり、お馴染みにラルゴ(ヘンデル)、里の秋が演奏され、会場はこっとりした雰囲気になりました。

フルートの演奏 クイズを交えた渡邉先生のお話

主なお話の内容

私たちは遺伝子組換え技術がすべてだと考えてはいない。今回、遺伝子組換えユーカリの研究を民間と共同で行っていたところ、アフリカ銀行からアフリカで植林に使いたいとお申し出をいただいたところ。

ユーカリってどんな木?
コアラ1頭の年間のユーカリの食費は1500万円。国内で栽培され、50の動物園がコアラを飼育している。
原産地オーストラリアでは、30-50mになる高木から、3-5mの低木まで含めると800種類ものユーカリがある。
原産地でも乾燥に強い品種だが、緑のない場所でも育つ品種を作りたいと考えている。

世界の水不足
見えない所では、永久凍土層、水蒸気。人が使える真水は0.007%。日本は雨も降るので、世界の中でそんなに水の消費が多いほうではない
農業には水が必要。大豆1トンをつくるのに、1000tの水が循環しなくてはならない。水田だと4500t。
人口が増えると、人は食べる、水洗トイレ、お風呂などで水を使い、水は不足。先進国でも水利権など水の問題はまだまだ解決していない。
世界人口60億人で、今は水が何とか足りているが、ベトナム、カンボジアには砒素の入った水があり、病原菌で汚染される水など、水があっても使えない場所も多い。そこに、水利権の競争、乾燥地帯の広がりの問題がある。元から水の少ないイラク、シリアは上流のトルコのダムで水を止められ、より深刻な水不足に陥っている。そして地球温暖化で更に水が減ってしまう。
アラル海(淡水湖)はソ連時代に灌漑で綿栽培をしていた。水が減り、地下水をくみ上げることで、毛管現象で地表に塩が集積。今は干上がって、大アラル海と小アラル海になってしまった。サハラ砂漠、ブラジルの中央部、ペルーチリの海岸の近くの乾燥地が広がっている。季節的に雨の降るタイも乾期には水不足になる。
年中水不足の場所、乾期に水不足の場所では、管理が悪いと植物が枯れていく。
アメリカも土地の3割が灌漑と水不足で乾燥地化してきている。

塩害
マングローブのように海水で育つ植物もあるが、陸に上がったところでは、台風や大波で、塩水に弱い植生が枯れてしまう。植物は適応性が高く、マングローブや塩水を吸って葉から塩を出して生きている植物もある。
砂漠化でオアシスが砂に押されてしまえば、植物がやられ、毎年150-200万haの緑地が失われていく。今までも、ジャガイモ、サツマイモ等塩や乾燥に強い植物の研究がされてきた。

塩水の強い形質
緑を回復し食料としても使えないかと考え、日本製紙等との共同研究で遺伝子組換え技術を使って研究している。マングローブの塩水に強い遺伝子「マングリン」(東京農工大小関良宏先生が発見、単離)は細胞の水の出入りを調整しており、植物のいろんな遺伝子のスイッチをオンにする。塩水や乾燥に強いだけでなく、耐寒性にも力を及ぼす。酵素の性質は塩濃度、温度で変わるが、マングリンは酵素が失効しないような調整機能も持つらしい。
海水(塩濃度約3%)を与えるとユーカリは枯れる。オーストラリアやアフリカの天然林や植林数年後で枯れた事例が報告されている。
塩類障害は内陸部、沿岸部で起こっており、ユーカリに、開催の3分の1の濃度にあたる1%位の塩濃度の水に対する付加価値をつけられないかと考えた。

遺伝子組換え塩害耐性ユーカリの開発
塩害耐性を持つユーカリの育成だけでなく、環境影響の評価方法の開発もしてきた。ユーカリが他の生物に悪影響を起こさないかも調べている。
塩水に強い品種の前例がなく、耐性の評価方法もなく、共同研究者もいない時分には、いろいろなことを考えながらユーカリの苗に塩水をやっていたことを思い出す。塩水の自動灌水機などもひとつずつ考えて作り出しながら進めてきた。
海岸部で海水をかぶったときの評価として3%の塩水を与えると、非組換え体は枯れたが、組換え体は生存した。塩水に強かった組換えユーカリを選抜した。
今では、担当の学生も手伝っている。塩水と乾燥に強いので水遣りを忘れても枯れない。

評価と審査
実験計画の審査を受けて、自分たちも評価する
松は苗から成木になるのに20年かかるが、ユーカリは8年。筑波のように冬寒くても、2年で4-5mになった。苗で塩水お大きい株を選抜し、大きくなった木が塩水にどのくらい耐えられるかも調べる。
他の植物への影響:ユーカリを植えると他の植物が育たない。例えばセイタカアワダチソウが広がるのはアレロパシーといって根から他の植物を寄せ付けないような物質を分泌するから。組換えユーカリのアレロパシーを調べたり、ユーカリを訪問する虫への影響はどうかなどを評価する。
土壌1グラム中の微生物の数は10億といわれているが、すべて同定できているわけでない。そういう状況の中で、土壌微生物への影響をどう評価するのか。
植物を育てるのに必要なものは、水、光、温度だが、土だと思っている人が多い。水耕栽培や寒天栽培と土の違いは、①土壌微生物がいること、②土壌微生物はりん窒素カリウムを植物の使いやすい形に変換してくれること。植物には共生できる菌が必要。こういう評価を組換え体でもしないといけないが、通常の作物ではそういう評価はしていない。
生物多様性影響評価は時間がかかり、植物だけでなく微生物の勉強もしないと評価できない。土壌学、無機・有機化学の勉強も大事。例えば、土壌の微生物の研究にはいろいろな方法がある。土壌全部のDNA分析をすることもある。土壌、微生物の研究やそういう研究者との協力も必要。予算もかかるが、安全性の証明には、予算がつきにくく、研究者やスポンサーの理解も得にくい(薬作りは健康の役に立つが)。
BRCS(ブラジル、ロシア、インド、中国のこと)の国々の方が日本より組換え体の評価は進んでいる。インドでは遺伝子組換えナスが近く出るが、日本では来月やっと遺伝子組換えバラが出る。
個別で微生物を見られる人はいても総合的に遺伝子組換え植物をみられる人がいない。日本の周りの国には、そういう環境ができつつある。農林水産省独立行政法人、筑波大学を除いて、人も育っていないし、審査のしくみも整っていない。
遺伝子組換え作物は、常に評価されていることを理解して下さい!

海外の植林活動
アフリカ銀行総裁、セネガル大統領(西アフリカ)からアフリカにグリーンベルトを作るために、砂漠化している国から遺伝子組換え技術も使いたいと連絡が来た。
薪を使って暮らしている人は世界人口の6割。家を作ったり、薪を使ったり、植物資材を使っている国は多い。海外の環境問題研究として、共同研究者たちとアフリカ視察をする予定。そこで、遺伝子組換えユーカリや5-10種類の地元の木などの樹木栽培への支援をする予定。
水不足で問題があるのは、西アフリカのベニン(ガーナの隣)、ブルキナファソはサハラ砂漠のすぐ近くの国々で、海水をかぶる海岸沿いの国々、東アフリカ(ルワンダ、ケニア)も季節的に乾燥が強い国で、支援の候補地。
同時に、資源植物を集めてきて、移植してときに爆発的に成長したり、毒素を出したりしないかを調べる。世界にはアカシアの仲間の葉を食べたり、毎日薪が必要な人々が多い。国際機関や国内の研究機関(オールジャパン)で体制作りをしている。産業向けの植林地への投資では、日本製紙、NEDO、文部科学省が協力してくれている。

 
会場風景  
話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • ユーカリはずっと温室で栽培するのか→初めは寒さに弱いので温室で育てていたが、今は4メートルになり温室の骨組みをはずした。400mmの降雨量で育つ。
    • 耐塩性ユーカリは何年後実用化するのか→評価方法の開発も研究対象だったので、実用かされるときには次の品種になるだろうと思う。また、アフリカでは、組換えでない品種を使って、苗を育てたり増やしたりする技術を伝えるところから始める。
    • オレゴン州でハイブリッドポプラの栽培量はどのくらい→1haに1000から1500本植えられる。ユーカリの(E. grandis)場合バイオマスは100t/ha/年で収量は高い。ユーカリは緑化に使われるが、葉の油含量が高いものもある。E. radiataの場合4%のものもありディーゼル油が絞れる。1500-2000本植えて葉からディーゼルを絞れて、石油が2008年度くらいの高値になれば、戦える値段になるだろう。また、石油を買うお金のない国でディーゼル油として利用できる。
    • サトウキビは収穫後に株出しをするが、ユーカリはどのようにするのか→サトウキビは畑においておくとはびこって病気が出るので抜いてしまう。ユーカリはパルプをとる場合は2年ごとに切って植林の場所を変えていく。
    • 海水でも育つマングローブや沖縄の塩水をかぶる地域に生えるチョウズソウなどがあるそうだが→塩水や乾燥に強い地は塩に強い物の宝庫でもある。アイスプラントは塩分がない土地では育ちにくい。早く成長することと塩に強いのは別のことで、今は塩分に強いユーカリの研究をしているが、成長を早める研究も進めたい。
    • マングローブは塩水を吸って排出するのか→何枚かの葉を犠牲にしてそこに塩をためて塩を排除している。複数の機構が働いて塩水に耐える植物になっているらしい。塩分に強い植物は植物細胞の水が塩のところに出て行かないようにするしくみを持っている。白菜は冬、細胞が凍らないように適合組織を作って凍らないようにしているので、寒い時期の白菜はおいしい。
    • 塩水への対処方法は、細胞から塩を排出するしくみ、細胞膜でナトリウムをやりとりする仕組み、濃い塩などの異常な環境でも酵素が働くしくみなどがある。
    • 砂漠での植林はどのくらいの本数を植えるのか→1haに1000-2000本植える。苗木は弱いので、なかなか進まない。植林事業支援のためにアジア開発銀行から、数万haを提示されても、苗の数と管理が追いつかない。学生時代に1haの畑を管理した。手掘りで耕すだけで1週間かかった。共有の意識がないと管理はできない。
    • 苗木は誰が用意するのか→元株をこちらで供給して、現地で苗木を増やし管理する方法をとる。
    • 苗木の栽培管理をする人は→JICAや草の根活動で、筑波大学で勉強している将来の指導者もいるし、日本の学生の中にもアフリカで働ける人を育てている。
    • ユーカリ油は石油に代われるか→ディーゼルとして絞り、搾りかすをペレットにして燃料にして、無駄なく使う。刈り取ってもまた葉が得られるはず。石油がなくなったときに、植物軽油として使えるのではないか。食用油との競合を心配する人がいるが、食用油はリノール酸など炭素が16つだが、飛行機に使う油は炭素が8つで匂いが強くとても食用にはできない。だから競合の心配はない。油を作る植物は種類が多いので、資源のない国でそこにある植物を使えばいい。油のとれる桐、南洋ハゼなどがある。