2009年9月28日(月)、農林水産省と財団法人食品産業センターの共催により、ヤクルトホール(東京)で開かれました。食品ロスとは何か、関係者は削減に向けてどのようなことをしているのか、そして、私達にできることは何か、情報提供と意見交換が行われました。
中西哲生さん(スポーツジャーナリスト)が聞き手となり、牛久保明邦さん(東京農業大学教授)から食品ロスに関するお話がありました。
食品ロスとは
食品リサイクル法に基づく食品廃棄物の定義によると、食品廃棄物は製造段階では産業廃棄物、流通・消費段階(外食産業)では事業系一般廃棄物、一般家庭では家庭系一般廃棄物に区分される。
そのうち本来食べられるのにもかかわらず廃棄されたものを「食品ロス」という。
食用に向けられる国内外の農林水産物9100万トンのうち、一般家庭から発生する食品ロスは200-400万トン、食品産業から300-500万トンが発生し、合計すると500-900万トン(食用向け農林水産物量の最大約1割)が食べられるのにもかかわらず廃棄されており、これは国連が食料支援量(主として穀類)とほぼ等しい。
食品製造業・食品流通業 (卸・小売業)の食品ロス
食品製造業から発生する食品ロスには、規格外品、返品の他余剰在庫等があり、食品流通業からは、定番カット品、余剰在庫および「販売期限」食品の返品等がある。
外食産業の食品ロス
食堂レストランの食品ロスは3%くらいだが、結婚式場や宴会では4分の1から5分の1が食品ロスになっている。宿泊施設も多い。ドギーバッグといって持ち帰れる食品は持ち帰るようにする運動も行われている。
家庭からの食品ロスの発生
過剰除去(皮を厚くむいてしまう。脂身の除去)が家庭の食品ロスの中で最も多い。
食べ残し、作りすぎが、家族の人数が少ない家庭や高齢家庭に増えてくる。
冷蔵庫に入れたままでの期限切れ食品は直接廃棄される。腐敗、カビが生じた場合は捨ててもいいが、賞味期限を少し過ぎたときにも捨てる人が増えている。
崎田裕子さん(環境ジャーナリスト)さんのコーディネートによってパネルディスカッションが行われました。初めにパネリストが、それぞれの立場から食品ロスへの取り組みなどについて紹介しました。
岡本邦義さん(山崎製パン株式会社総務本部環境対策課長)
製造業者として発言する。全国に27生産工場から1日2回、販売店に製品を送り出す
廃棄物は年間10万トン前後でそのうち半分はパンの耳。
ます、3R(reduce reuse recycle)ために、受注から納品までの各段階で廃棄物を計量し把握。前日に注文を締め切り作りすぎ抑制の努力をしている(受注締め切りを早めると工場のロスは減るが、お店でのロスは増えるかもしれない)。原材料の管理も厳しく行う。パンの耳を焼いてチョコで固めた「チョコの山」というお菓子にして再利用しているが、これが好評。他には、子会社で揚げ菓子にし、輸入コンスターチの代替としている。実際には、食品廃棄物発生量(112,613トン)の9割が飼料(エコフィード)になる。エコフィードで育てた家畜の肉を使い、他社と連携して食品にしている。
森出芳孝さん(ミニストップ株式会社環境・社会貢献部長)
廃棄物を出さないように次のような努力をしている。
単品管理の向上: 販売予測、発注の調整。
販売管理: 陳列方法など、売れやすい工夫をする。
賞味期限切れ対策: 棚がえ(値下げで早く回す)。
冷凍食品の賞味期限が迫り、期限内だが店頭に置けないときは、外食産業等に回す。
こうして、ヤマザキの90%以上には及ばないが、リサイクル率は46.2%。食廃油や食品残渣のリサイクル(豚の餌にする。その家畜の肉をお弁当に使ったりする)、家畜の排泄物で堆肥にして生産した農産物をミニストップで利用する。
問題になった「見切り販売」が発生した場合は、店舗で判断する。値下げ競争を起させないように、加盟店を指導すべきだと考えている。
宮腰智裕さん(株式会社エム・エル・エス(松家)常務取締役)
外食の代表として参加。760店舗のほとんどが直営店。
お店での食品ロスはほとんどない。野菜クズなどの食品ロスは工場で発生するが、飼料として利用。ミニどんぶりを作り、食べ残しを減らし、三百数十店舗(東京の周囲)からの食品廃棄物は堆肥にしている。食券売り場と直結したモニターでオーダーミスを防止している。オーダーは、本社にも報告される。中の見える冷蔵庫を松屋仕様の冷蔵庫を使い、中の食材には開封時間、温度、使い切る時刻を表示したシールをはる。
時間ごとの食材の出る数の予想をする(去年の同じ日に何時に何個出たか)。
鬼沢良子さん(NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット事務局長)
食品ロス削減には消費者への情報提供が有効。見切り食品の意味を知れば消費行動も変わるはず。食品ロスの話題を取り上げることも大事。メディアにも協力して欲しい。
3Rを進めている8団体が3000人アンケートをしたところ、第1位の関心ごとは二酸化炭素削減だったが、4位に食品ロスがあり、意識向上を感じた。どういう情報を誰に伝えるかが大事。
新井ゆたかさん(農林水産省食品産業企画課長)
みなさんの努力をお聞きし、広がっていくことを期待。食品ロス削減はみんなで努力することが大事。それには、食品ロスを出さない、出したらリサイクルすること。
日本の食品ロスの起源は、消費期限、賞味期限の影響が大きい。日本では消費期限、賞味期限を絶対的に考えている人が多い。特に若い男性が賞味期限を過ぎたらすぐ捨ててしまう。海外より日本の食品メーカーは短めに賞味期限を決めている。消費期限と賞味期限を理解して、ものの特性(腐りやすい)と関係があるので、ケースバイケースで考えて欲しい。消費期限が長いと保存料使用を嫌がる人がいるが、包装の仕方など色々な工夫で消費期限は長くなっている。店頭では手前の商品から買うのが、食品ロスを減らす近道。日本の企業は欠品を出さないように在庫管理を厳しくする特徴があるが、お客さんも欠品があっても怒らないこと、食品廃棄物で作った飼料で育てられた家畜肉を少し高くても買うことも、一人一人ができる貢献だと思う。
コーディネーターのリードでパネリストがそれぞれの立場から発言しました。
- 今日の会場は事業者と、市民・マスコミ・研究者などがほぼ半々。消費期限(安全に食べられる期限)と賞味期限(おいしく食べられる期限)の違いがあるが、両者ともに廃棄期限だと理解する人が多い→牛乳は開封したら、早く飲まないとだめ。平成7年に期限表示が始まり、期限表示に頼り過ぎ、五感でリスクを評価できなくなってきているようだ。消費期限、賞味期限は食品メーカーそれぞれがつけている。
- 消費期限はそれよりも早く食べられることが多いが、缶詰などの賞味期限が長いものの期限過ぎはどうすればいいのだろう→五感に頼る、新しい表示の仕組みが必要。
- 食品ロスの削減のために食品事業者にお願いしたいことは→食品ロスを金額で表す(可視化する)、削減のための行動計画を示しし公表するなど。
- 消費期限・賞味期限は科学的根拠に基づいて設定されているが、賞味期限内を納入期限や販売期限を設定ほぼ3分の1ずつに分けたルールが食品メーカーから小売店までの間に設定されるケースがある。外食産業では食べ残しの持ち帰りができるようしてほしい。
- 消費者にできることは→消費者は買い物前にリストを作る。賞味期限を把握する。冷蔵庫の掃除を通して、食料の保管状況が把握できる。残り物は1週間に1回お好み焼きにするなど。食物への感謝の心を大切にし、「もったいない」を思う習慣を身につける。
- 食品ロス削減の意義は→日本の食生活は海外に6割を依存している。食品ロスを減らすと、食料自給率(41%)も数%あげられるかもしれない。
- 期限表示を消費者はどう考えたらいいか→期限表示の根拠を知る。イギリスでは食品廃棄の6割(410万トン)、米国では4300万トンで供給量の4分の1が食品ロス。
- まず、出されたものは食べきろう、買いすぎ・作りすぎに注意すること。一人の努力も有効だと知って欲しい。
- 企業努力で減らせる食品ロスはあるか
→1-2日で期限が切れるものばかりを扱っているので、消費期限は短い。一方、消費者の受け取り方が厳しい。焼きたてパンがかごに並んでいると、こげ色が違っても手作りと歓迎されるが、袋に入った製品だと品質管理が悪いといわれたりする。
→販売管理について、加盟店は2-3名で24時間販売している。本部主導で店員教育をしている。自動発注システムはあるが、祭時、温度には対応しきれない。今年はパスタの期限を1日延ばしたら、廃棄が減った。関係者との話し合いで期限延長ができた。発注から納品までの時間が短いほど、食品ロスは減る。 - フードバンク(包装の損傷などで流通できなくなった食品を企業から寄付してもらって、生活困窮者に配る活動)についてどう考えるか
→フードバンクには、中華まんじゅうのように季節によって販売できないものをお願いしている。PB(プライベートブランド=自社開発)食品をフードバンクという形で外に出していいのか。廃棄処分は有償なので、無料で引き取っていただけるのは助かる。 - フードバンクについて説明して下さい→フードバンクの実践と普及をしている。食品関連企業、小売業から規格外の食品を寄贈品として与り、高齢者、児童福祉施設に無償で食料寄贈品として配送している。去年850トンを預かった。米国では200万トンがフードバンクに預けられている(セカンドハーベストジャパン 秋元さん)。
→牛丼は、フードバンクに適していない。食品ロスの減らすために、ミニどんぶりに早期に取り組んできた。工場の段階でかなりそいできたので、お店で出るのは食べ残し、だけでそれを堆肥にする。食べ残しに使ったナフキンやよう枝を入れないで欲しい。分ける手間が必要。
→メニューにミニ丼があることを書く。リサイクルのために食べ残しに紙類を入れないようにもメニュー表に書く。消費者は言いにくかったりする。企業も「見切り品はお得」などのプラス情報として大いに書いていいと思う。
→地域により見切り品コーナーに行きにくいところもある。福井県では外食中心に食べ残しを減らす運動をしている。レジ袋みたいに、みんなでやっていくことが大事。見切り品の棚に消極的な事業者が多かったが、不況などでそういう雰囲気は減ってきている。今後もいろいろな場でシンポなどをやりたい。みんなで行動してみることが大事(新井)。
その後、パネリストが食品ロス削減に向けたキーワードをひとりずつ発表しました。
鬼沢さん 情報のやりとり
宮腰さん ねぎぬきというメニューがあるが、個人に合わせて食べ残しを減らす
森出さん ステークホルダーとともに
岡本さん もったいない
新井さん ひとりの行動が世界を変える
最後に牛久保さんが今日の議論をまとめられました。「今日は食品ロスの議論を川上から川下まで一緒に議論ができてよかった。皆の努力が国民運動に広がり、自給率向上、安全・安心確保まで進むように。“週1お好み焼き”では、米粉を使って下さい」。