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2009年度筑波農場見学会レポート

2009年8月4日(火)、筑波で見学会を開きました。第7回の今回は高校生、NPO、教員、主婦など約30名が参加。行きのバス車中より、遺伝子組換え作物の実物を見てみたい、施設を見てみたいなどの声が多く、今年は、初めて遺伝子組換えカイコの見学もあり、一同ワクワクと出かけました。

1.(独)遺伝子組換えカイコ研究センター

町井博明研究主幹から研究の状況をご説明いただいた後、遺伝子組換えカイコによってつくられた生糸やニット作品を見学しました。

お話の主な内容
・蚕の作出:卵に遺伝子を注入し、生まれた蚕を交配して、遺伝子組換え蚕を得る。
・基盤技術の開発:キヌレニン酸化酵素遺伝子(同研究所で開発したマーカー)を白い目の蚕に導入すると、褐色の目をした蚕ができることから、目の色が選抜のマーカーになるとわかった。絹糸には主に二つのタンパク質、セリシン(中部絹糸腺で作られる)とフィブロイン(後部絹糸腺で作られる)が含まれていて、それぞれ、合成される場所が異なる。外来の遺伝子を中部絹糸腺や後部絹糸腺などで組織特異的に発現させる技術を開発。
・実用化:養蚕だけでなく、有用物質の生産(検査用抗体、人工血管、動物用医薬品など)のために利用できる。
・新規機能絹糸:

  1. 細胞接着性のある絹糸
    人工血管の素材化として注目。
  2. 極細絹糸
    世界で最も細い絹糸を開発。
  3. 蛍光カラー絹糸
    他の生物由来の蛍光タンパク質遺伝子を導入して光る蚕を作出。これを実用品種と交配して、赤、緑、オレンジ色の蛍光色を発する生産性の高い系統を育成。これらの蛍光タンパク質は、煮繭のときに高温で壊れてしまうので、60℃以下の低温で繰糸する技術を開発した。


蚕の展示を見る 糸には薄い色がついている
オレンジフィルターをかけると美しい蛍光色が見えてくる 穀物見本園の見学


2.(独)農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター

香西業務第一科長に案内していただき、穀物見本園、雑草園、隔離ほ場、バイオます資源エネルギー産学官共同開発研究施設などを見学しました。予想に反してお天気がよくなり、水分を補給しながら歩きました。

コシヒカリの系図 なじみのあるお米の名札が並ぶ
作物より育てるのが難しい雑草園の雑草 バイオ燃料の実験施設
バイオ燃料はこうして作られる 遺伝子組換えイネの説明をされる大島正弘先生


3.隔離ほ場

作物研究所大島正弘先生にご説明をうかがい、7月30日に大臣認可がおり、田植え直後の遺伝子組換えイネや交雑の状況を調べるために植えられるモニタリング用のモチ品種のイネの栽培状況を見学しました。普通の飼料では、トリプトファンというアミノ酸が不足しているため、これを摂取するためのダイズカスを沢山加えなければならず、結果として排泄物が増えてしまいますが、この組換えイネはトリプトファンを大量に含むので、これを飼料とすることで、結果的に排泄物の量が減るというメリットが期待されます。
水田には一面にクサホナミ(倒れにくく、700Kg/10aと収量が高い。普通は400Kg/10a)が植えられ、その中央部に3列ずつ3種類の遺伝子組換えイネと日本晴が植えられていました。イネの場合、一般農家との隔離距離は30m以上ですが、ここでは500m以上離れています。

質問1 周りの畑に何も植えていないのは、何か問題があるのですか→これから畑作をする予定で、今、植えていないことに特別な意味はありません。
質問2 認可がおりるのに半年かかって8月に田植えをしたそうですが、半年は長くかかった方ですか→順調な方だと思います
質問3 米国でもトリプトファンを多く含む飼料を作っていますか→トウモロコシで開発しています。

設けられた囲いの外から稲を見学 トリプトファン含有イネは中央部の色の薄い部分だけに植えられた


4.バイオプラントリサーチセンター

閉鎖系温室や特定網室を見学しました。閉鎖系温室は研究開発中の遺伝子組換え作物が始めて栽培される場所で、空気、水の出入りが管理されています。特定網室では網戸があって、直接換気はできますが、虫が出入りして遺伝子組換え農作物の花粉を持ちださないようになっています。これらの部屋で段階を経て、試験栽培を行った後、遺伝子組換え植物は野外のほ場で栽培されます。

バイオプラントリサーチセンターでの説明1 バイオプラントリサーチセンターでの説明2


5.展示ほ場

遺伝子組換え技術を用いた除草剤耐性ダイズと害虫抵抗性トウモロコシの栽培ほ場を見学しました。害虫抵抗性トウモロコシは甘い食品用の品種であるため、非組換えトウモロコシはアワノメイガという害虫にひどく食い荒らされていました。

おしべを切り取られて背は低いが緑色の遺伝子組換え
トウモロコシ
アワノメイガに食い荒らされた非組換えトウモロコシ
雑草だけ枯れたダイズ畑の中の遺伝子組換えダイズ 田部井先生のお話

6.講義

遺伝子組換え研究推進室長田部井豊先生のお話をうかがいました。

  1. 育種とは:私たちの食生活を豊かにしている農作物は、野生種の形質を変化させてつくられたもの。遺伝子を変化させると形質も変化する。交配、細胞融合、放射線育種、遺伝子組換え技術すべては育種のひとつの技術である。
  2. 遺伝子組換え技術とは:アグロバクテリウムという土壌微生物の力を借りて遺伝子組換えをする方法や、パーティクルガン法などがある。
  3. 遺伝子組換え作物のメリット:農薬の削減などが可能になり、世界の農家から支持され、栽培面積はこの10年で急増した。
  4. 新たに実用化されている遺伝子組換え作物:ウイルス抵抗性パパイヤ、色変わりのバラがある。2011年には、ビタミンAを強化したお米(ゴールデンライス)が実用化される予定。
  5. 生物多様性への影響評価と食品としての安全性:開発された遺伝子組換え作物は、閉鎖された温室から多くの審査を受けながら畑で栽培できるようになり、実際に用いられるようになる。
  6. 一般市民と遺伝子組換え食品:アンケートでは不安と回答する人が多くても、不分別と表示された食品が出回るなど、理解は進んでいるのではないか。よく知り、理解してもらえるように、私たちも見学の要望を積極的に受け入れたり、情報提供をしたりしている。

質疑応答
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 遺伝子組換え技術を使っていいことも、悪いこともできると思うが→カルタヘナ法などの法律による規制があり、研究者はみな研究者の倫理感を持って研究している。また、研究計画の段階で複数の人が審査する。
    • どんな環境が整った国なら遺伝子組換え技術を使いこなせるのだろうか→CODEX委員会で話しあい、合意のもと、各国で規制を作ってコントロールしている。ルールを守り切れるようにする基盤整備も必要で、発展途上国からそのような環境整備の支援の要請が先進国には来ている。
    • 除草剤耐性が微生物を介して他の植物に伝播しないのか→植物には種の壁があり、交配できる範囲が決まっている。
    • 無関心な人はこのようなイベントに来ないと思いますが、どうやって働きかけたらいいと思いますか→市民参加型イベントを行ったり、情報がほしくなったときにいつでも必要な情報にアクセスできるようにすることが重要。教員のアンケート(2008年内閣府調査)が話題になったが、先生たちにも情報が届くようにすることなどを進めていくのがいいと思う。

    帰りのバスでは参加者のほぼ全員が、いろいろな実物、現場を見ることができて満足だという感想が述べられました。
    ・研究者と直接お話しができて真摯な姿勢でおられることがわかった(NPO)
    ・遺伝子組換え作物のホンモノが見られてよかった(ほぼ全員)
    ・遺伝子組換えカイコの研究に期待したい(会社員・研究者)
    ・高校の授業に取り入れたい(教員)
    ・遺伝子組換えなんてとんでもないと思っていたが、そうでもないことがわかった(主婦)
    ・前から見たかった研究施設をみられて満足(建築関係者)
    ・市民とも語り合える研究者になりたい(学生)
    ・研究者どうしも議論している事がわかり感動した。私もそのような議論を理解できるように勉強しようと思った(市民)

     
    集合写真