7月13日から18日まで、第20回国際生物学オリンピックつくば大会が開催され、56の国と地域から221名の生物学に秀でた生徒たちが集まりました。
国際生物学オリンピックは1990年に東欧で始まりましたが、日本が選手を派遣するようになったのは2005年の北京大会からです。日本での開催は初めてのことであり、秋篠宮殿下が名誉総裁に就任なさいました。
国際生物学オリンピックには20歳以下で大学等の高等教育機関に所属していない生徒を、各国4名まで参加させることができます。日本からは、2482人が参加した第一次予選から、第二次、第三次予選を勝ち抜いた高校生4名が参加しました。
国際生物学オリンピックは、実験試験と理論試験により、生物学に関する知識と技能を競います。金メダルは1人だけでなく総合成績の上位1割の生徒に授与されます。次の2割の生徒には銀メダル、その次の3割には銅メダルが授与されるので、上位6割までの生徒はメダルを受け取ることになります。
実験試験は(1)カイコの体の構造などを解剖して調べる(2)酵素の活性を調べる(3)ショウジョウバエを使った遺伝の計算(4)酵母の細胞分裂周期を割り出すという4問をそれぞれ90分、計6時間かけて行われました。
理論課題は午前中120分、午後から150分の合計4.5時間行われました。出題は細胞生物学から生態学まで生物学全般にわたります。(表参照)
試験問題は英文で書かれていますが、言語による不公平さを排除するため、各国の委員により自国の言語に翻訳されます。試験問題の流出を防ぐために翻訳作業は前日に行われます。
出題分野とその配分 | |
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出題分野 | 配分 |
細胞生物学(分子生物学,生化学を含む) | 20% |
植物解剖学と生理学(種子植物に重点) | 15% |
動物解剖学と生理学(脊椎動物に重点) | 20% |
行動学 | 5% |
遺伝学および進化 | 15% |
生態学(生物圏とヒトを含む) | 15% |
生物系統学 | 10% |
国際生物学オリンピックはメダルを競う場というだけでなく、生物学を志す世界各国の生徒の国際交流の場でもあります。開会式後のウェルカムパーティーに始まり、閉会式後のフェアウェルパーティーそしてダンスパーティーと交流の機会が多く設けられています。
つくば大会では、日本ならではの交流の場として「折り紙ナイト」と「つくばナイト」が開かれました。折り紙ナイトは筑波大学の学生が企画・運営し、海外の選手に折り紙を教えました。ORIGAMIの人気は高く、選手たちはお土産として配られた日本手ぬぐいでねじり鉢巻きをし、折り紙に挑戦していました。
つくばナイトでは、筑波大学構内に設置されたステージを中心に、選手とスタッフおよび近隣の高校生たちが一緒になって、よさこいソーランを踊りました。選手たちは「どっこいしょ」という日本語を覚えたことでしょう。
折り紙ナイト | よさこいソーランを踊る |
今大会では日本チームとして初めて大月亮太さん(千葉県立船橋高三年)が金メダルを獲得しました。中山敦仁さん(兵庫県・灘高二年)、谷中綾子さん(東京都・桜蔭高二年)、山川真以さん(同三年)の三名も銀メダルを獲得し、国別でも6位となり、2005年の参加以来もっともよい成績となりました。
中国と米国は、参加した4人がいずれも金メダルを、シンガポールは3人、台湾は2人が金メダルを獲得しています。
国別成績 | |||
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国名 | 金メダルの数 | 銀メダルの数 | |
1 | 中国 | 4 | |
2 | アメリカ | 4 | |
3 | シンガポール | 3 | 1 |
4 | 台湾 | 2 | 2 |
5 | オーストラリア | 2 | 2 |
6 | 日本 | 1 | 3 |
7 | タイ | 1 | 3 |
8 | 韓国 | 1 | 3 |
日本の予選の参加者数は2500名程度であり、国際生物学オリンピックの知名度もまだまだ低いのが現状です。中国での予選参加者は約10万人、タイは約8万人に及ぶそうです。
今回の国際生物学オリンピック開催にあたり、筑波大学オリンピック実行委員会では、「日本と世界をつなぐ」という思いを込め、国際生物学オリンピックの認知向上をめざして海外からの選手に折り鶴で作った首飾りをプレゼントすることにしました。ホームページ等を通じて、日本各地の小中学校等に折り鶴提供を呼びかけたところ、7千羽を超える折り鶴が集まりました。
この折り鶴を筑波大学の学生が糸でつなぎ、フェアウェルパーティーの際に、日本チームから海外選手たちにプレゼントしました。
折り鶴を折った小学生は、生物学オリンピックの存在を身近に感じるようになり、「高校生になったら選手になる!」と宣言した生徒もいるそうです。
今まで日本では、科学好きな生徒にスポットライトが当たる仕組みがほとんどありませんでした。しかし、今回の日本人初の金メダリストになった大月亮太君は多くのメディアに取り上げられ、国際科学オリンピックの認知度も一気に高まりました。これからは「野球好きな生徒が甲子園を目指すように、科学好きな生徒は科学オリンピックを目指す」ことが当たり前になっていくかもしれません。そのための一歩として、今回の国際生物学オリンピックの成功は非常に大きなものでした。
日本の選手から海外の選手へオリズルの贈呈 |
この記事は、筑波大学生物学類サイエンスコミュニケーター尾嶋好美さんよりご投稿いただきました。