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国際獣疫事務局 (OIE) 総会にて日本はリスク管理の国に認められた

2009年6月1日(月)食の信頼向上を目指す会によるメディア意見交換会が行われ、5月29日に閉会したOIE総会で、日本が「管理されたリスクの国」と認められたことについての説明が行われました。
参考サイト: http://www.oie.int/eng/en_index.htm

意見交換会では、食品安全委員会が全頭検査は不要だとしても自治体は消費者の要望があるとして、検査をやめない現状の根底にある意識修正は誰が行うのかが話しあわれました。政府などの責任ある組織が発言すべきという意見や、生協の活動の経緯において危険情報が強調されてきたが今は、改めて日本人の見解を変えるように皆で議論を起していくべきだとする意見など。これはBSEだけでなく、食品添加物、農薬、遺伝子組換え作物・食品、食品照射などへの誤解でもいえることではないでしょうか。


「OIEによる日本のBSEリスク評価と日本BSE対策変更の必要性」
          国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部長 山本茂貴氏

OIEとは
174カ国が加盟し、国際貿易上重要な意味を持つ家畜の伝染性疾病を経済・社会的影響に応じて分類し、防疫のために適当と認められる家畜衛生基準などを策定、世界各国における家畜の伝染性疾病の発生状況等についての情報の収集・提供、家畜の伝染性疾病のサーベイランスおよび防疫に関する研究の国際的調和を図る。
1924年設立され、本部はパリ

BSE コードとは
BSEについては、家畜衛生及び公衆衛生の観点からBSEコードを策定し、3分類に基づくBSEステータス評価については2007年から実施。
2009年5月の総会で、日本は「管理されたリスク国」に認められた。
無視できるリスクの国、管理されたリスクの国、不明な国の要件は次のとおり。

○無視できるリスクの国: 発生がない、あっても輸入牛だけ。フィードバン(飼料規制)が8年以上。サーベランス(報告・教育)が7年以上行われている。
国内発生があっても、過去11年間に生まれた国産牛にBSEが発生していない。フィードバンが8年以上。サーベランスが7年以上行われている。
○管理されたリスクの国: ピッシング(と畜時に針金状の器具を頭部から入れて脊髄神経組織を破壊する方法)を行っていない。危険部位(SRM)が除去されている。
全月齢の扁桃、回腸遠位部と30ヶ月齢超の脳、眼、脊髄、頭蓋骨、脊柱を含まない。フィードバン(肉骨粉を使った飼料を使わない)が効果的に実施されている(8年未満)。日本では完全なフィードバンは2001年10月から行われた。サーベイランスが7年未満。
○不明のリスクの国: ピッシングを行っていない。危険部位が除去されている。
全月齢の扁桃、回腸遠位部と12ヶ月齢超の脳、眼、脊髄、頭蓋骨、脊柱を含まない。
無視できるリスク、管理されたリスクのいずれにも該当しない。

BSEリスクの分類
リスクには侵入リスクと暴露リスクがある。
侵入リスク:どうやって入ってきたか。例えばBSE病原体の存在の有無、自国産の半数動物由来の肉骨粉・獣脂かす、輸入された肉骨粉・獣脂かす、輸入されたうち・めん羊・山羊、輸入された飼料や飼料原料、牛に与えられた可能性のある危険部位を含む食用お半数動物由来製品、うちへの対内利用に使われる半数動物由来の輸入製品を介して、入ってくることが考えられる。
暴露リスク:肉骨粉・獣脂かずやそれによって汚染した餌を牛が食べてBSE病原体が循環・増幅すること、反すう動物のと体や副産物および畜産廃棄物を利用して発生するもの、反すう動物由来の肉骨粉・獣脂かすを反すう動物が食べて起こるもの、実施されたBSEサーベイランスの程度とその結果。

OIEのサーベイランス基準
4種類(BSE様症状の牛、歩行困難の牛、死亡牛、36ヶ月齢超の通常と畜牛)の牛からサンプリングして検査する。

日本の立場
日本では陽性の牛が確認されたので、発生した国として評価される。
BSE発生防止の対策(BSE発生国から牛や牛肉の輸入禁止、肉骨粉の輸入禁止、飼料工場での交差汚染防止、と畜場での検査実施、農場での死亡牛の検査実施)をとれていることが評価される。
日本がやってきたこと:完全飼料規制(平成13年から)、特定危険部の交差汚染防止、全月齢のと畜牛のBSE検査を実施(2008年7月まで自治体の自主検査を補助してきた)。
1996年前後に生まれた牛にBSEが発生したので、肉骨粉使用禁止
2002年1月頃に生まれた牛は1996年までの餌を食べたと考えられ、その牛が生まれてから11年が経過しなければ(2012年までは)「無視できるリスクの国」の評価は受けられない。
BSEステータス評価を受けると、毎年サベーランス結果を報告しなくてはならない。
日本とアメリカはOIEでは同じ「管理された国」となるので、現在の2国間の規制は少し厳しすぎるようだ。


「OIE判定を機にBSE問題についての雑感」     生活協同組合コープこうべ参与 伊藤潤子氏

OIE判定変更に伴って
OIEの日本の判定が「リスク不明の国」から「リスク管理がされている国」になった。BSEへの理解が必ずしも十分でなく、今も全国自治体で全頭検査が行われている現在、私はこれをBSEの正確な理解の機会とすべきだと思う。

消費者の印象
BSEを全く知らず食べている人、全頭検査しているから食べるという人、未だに食べない人もがいる。
鳥インフルエンザは早目に食べることへの情報提供があったので、生協では鶏肉の消費の回復は早かった。新型(豚)インフルエンザンの場合も呼称変更と、豚肉についての早期情報が出たので、豚肉を食べるのをやめている人はいない。初期情報の差が影響しているだろう。
コープこうべの問い合わせは通常約150件/日、トリインフルエンザのときは400件になった(74%が安全性に関するもの)。鶏肉では、食べて安全の情報が早く出て買い控え期間が短くてすんだ。BSEには、映像(クロイツェルフェルトヤコブ病の患者さんやBSE感染牛)の影響が大きかった。また、補助金をもらうための国産偽装事件が起こり、続いて偽装事件報道増加が始まって、適切な情報提供・修正の機会を失ってしまった。
その後、食品安全基本法改正、食品安全委員会設立など食品安全の社会的制度は整ってきたものの、BSE問題はよく総括されないまま、今日に至っているのではないか。

全頭検査の及ぼした影響、引き起こした誤解
全頭検査が消費者に誤解を与え、これが無作為に放置されて定着した。鳥インフルエンザや新型インフルエンザの経験から学ぶものがある。
専門家の意見の尊重が大切だ。科学的評価は専門家に任せ、「決意表明」などは、大臣がするなどの分担が必要だろう。またリスクの受容を国民全体で共有化するような配慮も必要だ。、適切なマスコミの報道・軌道修正(新聞報道がワイドショーに影響した)もが重要。
新聞の表現には気をつけてもらいたい。例えば、新型インフルエンザは命に関わる病気ではなかったのに、「友よ、先生よ大丈夫か?」というタイトルなど重篤な症状を連想する表現がみられた。
固定化しつつある認識への働きかけが必要。関係者が、全頭検査の意味を正しく認識して機会あるごとに伝えていくことが大切。ただし、伝え方も大切。消費者の知らないこと・関心のあることに配慮することだ。すでにBSE感染牛を食べた可能性は十分にあるということ、BSEの安全確保のために必要なのは飼料管理と、特定危険部位の除去だということ、今も行われているのは、疫学調査であって安全検査ではないということなど。全頭検査の意味が日本では世界の常識とずれてしまっているのだが、これらのことは消費者には知られていない。BSEの問題意識を放置したままではよくない。


「OIE判定と日本の畜産業者の考え方及び対応の変化」      中部飼料㈱ 山村登志夫氏

BSE発生時の生産現場の状況
平成13年9月に日本でBSE牛が発生し、出荷制限と極端な価格の下落がおこり、自分が発生農家になるのではないかという不安の中で、厳しい絶望的な状況だった。
牛用飼料製造ラインと鶏・豚飼料製造ラインの完全分離を行った。動物由来タンパク質が混入しないようにしたA飼料(牛用)とそれ以外のB飼料(鶏豚用)に分けた。

同様に配合飼料の製造と流通における完全分離
畜産農家の考え方〜当事者である畜産はどのようにとらえていたのか
・安全と安心は分けて考える
・安心に関して全頭検査による効果が感情面で大きく問題があるので、議論が必要
・全頭検査で安心の部分を説明していると、牛肉全体への不安が再燃しないか不安
・BSE検査の有無は全国で同じ条件にすべきではないか。
・BSE検査を止めるときには、国民への十分な説明が必要だろう。
・乳用種は20ヶ月齢前後、交雑種は26ヶ月齢前後、黒毛和牛は30ヶ月齢前後でと畜する。と畜月齢に差があることについて、国民への説明が必要だろう。
・搾乳牛から雌が生まれたら乳牛になるが、雄は肉用として肥育され、輸入牛との価格競合にさらされる可能性が予測される。

畜産農家は今後についてどう考えているのか
牛肉の生産現場を知ってもらいたい。例えば個体識別情報検索サービスを活用すると、トレサビリティが調べられるばかりか、食育にも利用できるのではないか。携帯電話でも情報をとれるのがいい。
消費者と交流できる機会を増やして、牛肉のできる過程を知ってもらい、食材の生まれるまでの文化と歴史、生産者の思いを伝えたい(例えば、学校や料理教室など)。
生産農家による直接販売(消費者からは生産者が見え、生産者も自分の牛肉への評価がわかって意欲が向上した)、差別した牛肉作り、技術の利用(雌雄分別技術の運用、和牛の受精卵移植、遺伝子レベルでの肉質向上技術)にも意欲を持っている。

まとめ 

唐木会長より、「OIEの判定から一番安全だと思っていた日本はやっとリスク管理の国に入ったというグローバルの視点、不安が解決されないまま忘れてしまうのはよくない、現場はBSE発生時のトラウマから開放されておらず全頭検査に頼る気持ちがある」という、講演の総括がありました。
その後、参加者全員による意見交換が行われました。主な内容は次のとおりです。
  • は参加者、→はスピーカーの発言


    • 認識の意識的修正はだれがどうやってやればいいのか→責任ある権威がある人、国が意見を表明する。関わるすべての人がそういう場をつくりしっかり伝えるのが大事(伊藤)。
    • 政府は全頭検査を間違っていたとは言わないし、言えないだろう→政府は食品安全委員会にリスク評価を依頼したのだろう。食品安全委員会はデータを集めて全頭検査は不要だといったが、自治体はやめなかった。米国産牛肉再開と同委員会の判断が重なり輸入促進と誤解され、タイミングが悪かった。今回をきっかけにもう一度話し合いたい(唐木)。
    • 厚生労働省が20ヶ月牛の補助が辞めたとしても、日本には見解を変えるのに寛容な文化がないのではないか。
    • 全国の生協のギョーザ調査をしたところ、コープこうべの反応は落ち着いていた。コミュニケーションがうまくいっているためだろうか→組合員さんからの反応が出そうなときには、すべての食品の担当者が情報を共有していた。総代会に反対意見が出たどきには、コープこうべの考え方を伝え、よく理解してもらっていたと思う(伊藤)
    • OIEの絶対安全物品としての牛肉で「不明のリスクの国」は30ヶ月齢未満の骨なし牛肉が月齢制限無しに変更になったのか→骨のない肉については全月齢で流通してよいことになっている。一方サーベイランスは36ヶ月以下で検査してもいいが、ポイントが低い。よってBSE検査は36ヶ月で線引きしている。SRMは30ヶ月以上は除去する(山本)
    • 韓国はOIEのBSE評価を受けているのか→韓国は評価をしていない(山本)。
    • 生産者は全頭検査廃止を求めていると思っていたが、今日のお話で逆だとわかって驚きだった。生産者が安心情報を出しすぎるので、消費者が右往左往するのではないかと思う。
    • 1993年以降、安全安心のコンセプトが出てきた。1970年には生協は安心だとして売ってきた。2000年に同じことが続いているのが問題。生協はスーパーと変わらなくなったときに、生協が果たした役割は評価されてしかるべき。動の中で食品添加物や農薬をワルモノにしてきたところがあったのは事実だと思う。その背景には、当時、情報は公開されていなかった状況がある。食品安全委員会が出来るまでは、厚生省の審査は通ってもその評価データは公開されなかった。生協は独自で情報を集めて、過剰に危険だといってきたところがある。それほど危険ではない状況だったと今はわかるが当時は情報がなかった。
    • 今までのことをふまえ、一般消費者は全頭検査があるから安心だと思っており、OIEの判定変更をきっかけに全頭検査は安心の担保になるの?という議論をおこすべきだと思う。21ヶ月齢、23ヶ月齢の感染実験で出なかったことをしっかりと周知すべきで、21ヶ月で発生したという消費者団体ととことん話し合う必要がある(日和佐)。
    • 21ヶ月、23ヶ月でBSEが出たというニュースが注目されたが、感染性はなかった。そもそも3分の2のBSE牛は食べられているはず。危険部位の除去とピッシング廃止こそが安全確保になる!21ヶ月、23ヶ月のBSEはむしろ科学的には面白い課題だろう(唐木)。
    • 食品安全委員会が決めたのに、自治体は全頭検査を続けている現状を食品安全委員会はこの現状をどう思っているのか→20ヶ月以下の牛の検査をしないことを厚生労働省が決めたのに、後は自治体に任せるしかない。食品安全委員会は評価をするだけで、OIEの評価を踏まえ、管理する部署に冷静に考えてもらいたいと思っている。OIEが評価したのはあくまでBSEの評価。EU15カ国(2004年)ではサーベイランスの検査月齢を48ヶ月以上に変更したが、混乱なく認められている。健康な牛への検査はサーベイランスであり、特定危険部位除去、飼料管理こそが安全対策だと理解されていることを示している(山本)。
    • 農水省が海外に牛肉を出すためにOIEに評価を出したいからだと思うが、国際基準をもとにするなら、日本より2年先にリスク管理国になった米国からの牛肉の輸入を制限するのはおかしい。
    • 食品安全委員会の委員7人のうちに民主党は米国産牛肉輸入再開に関わった1名を認めない。委員選出の基準 論理的に考えるべきだと思う。
    • 吉川先生は中立な議論をされていて、30ヶ月にしたらという発言もされた。今回の記事は適切な報道でないと思う(唐木)。
    • BSEのことを知らず、科学的根拠より民主党の中から聞いて書いているのではないか。BSEは政治性が強いテーマで、選挙との関係も出てくる→根深い問題がある。2005年食品安全委員会ができて二百数十名の専門委員を集めたが、日本にはリスクの専門家が少なかったために、基礎科学の研究者が多く参加した。リスクの専門家の特徴は行政の要望に応じて科学の不確実性を確率論で乗り越えて出来る限り短期間にリスク評価を行うことだ。一方、基礎科学の研究者にとって不確実性は次の研究課題であり、確率論で結論を出すことには抵抗があるので答えを出そうとしない。こうして一度始めた全頭検査を止めるという結論を出せない基礎科学の研究者もいる。このような態度は「慎重」と評価されて、市民は基礎研究側の考え方にシンパシーを表すことが多い。しかし、少ない税金を効率的に使ってリスクを削減するためには、リスク評価を参考にして適切なリスク管理を行うことが大事だ(唐木)。