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バイオカフェレポート「飼料自給率向上を目指して〜アミノ酸いっぱいの遺伝子組換え飼料米」

 2009年2月13日(金)、茅場町サン茶房にてバイオカフェを開きました。お話は農林水産省技術政策課の小松晃さんによる「飼料自給率向上を目指して〜アミノ酸いっぱいの遺伝子組換え飼料米」でした。初めに松村一郎さんによるバイオリン演奏がありました。数学的理論をとりいれたバッハの作品が選ばれました。

松村一郎さんの演奏 小松晃さんのお話

お話の主な内容

遺伝子組換え技術とは
はじめに、細胞外で加工したDNAを細胞に導入する手法を遺伝子組換え技術と言います。農林水産省では遺伝子組換え技術による農作物の開発について、育種法の一つとして有効な手段であると認識し、今後も推進していく方針です。市民とは双方向で話し合いながら、正しい知見に基づく情報提供を含めて、コミュニケーション活動を全国で実施しているところです。
農作物における品種改良では、それぞれ味が良いとか病気に強い等の良い点持っている作物同士を掛け合わせても、良いところ同志をあわせ持った品種がすぐには作出できません。F1といって、交配してできた第一世代の作物は、悪い点も含めて色々な性質を親から受け継いだ個体ができてしまいます。もう一度、片親をかけあわせる「戻し交配」を重ねることで、作物種によって大きく異なりますが、およそ4から8年位で目的とした作物に到達します。
ちょうど、赤色と白色の絵具を混ぜて先ず桃色にして、そこから白色の絵具をどんどん桃色に足していき、最終的には一滴の赤色(ほしい遺伝子)が入った、見た目にはほとんど白色にしか見えないような色を作り出すような作業になります。そこで、交配してから何度もかけあわせて、先ほどの例えで言うと全体が白色になるまで繰り返し戻し交配することになります。
これが遺伝子組換え技術を使うと、導入したい一つの遺伝子のみを入れるので、原理的には導入した当代で目的の形質のみをあわせ持つ個体が作出されることになります。もちろん遺伝的な固定や、最良の個体を選抜するステップは必要ですが、桃色を作ってから白に戻していくのではなく、白色に一滴の赤色を混ぜて極めて白色に近い色を一回で作ってしまうようにして、目的の作物を作っていくのが遺伝子組換え技術の利点ということができます。
では、どのように植物へ遺伝子を導入するかというと、実ははある土壌微生物のもともと持っている、遺伝子を植物に導入できる力を借りて作業します。土壌微生物の名はアグロバクテリウム。アグロバクテリウムは、感染した植物に、自身がほしい成分を作らせる賢い生き物です。

遺伝子組換え農作物の世界的広がり
次に世界的な遺伝子組換え農作物の栽培動向についてですが、国際アグリ事業団(ISAAA)の2008年度の報告によると、世界の耕作面積は、12500万ヘクタールに達し、我が国の耕地面積の約27倍になっています。1996年当時1カ国で栽培していましたが、2008年には25カ国になっています(3カ国アフリカが増えて、フランスが商業栽培をやめて試験栽培になったので、ひとつ減っている)。
これだけ急激に増加した背景には、栽培農家にそれだけのメリットがあることが挙げられます。例えば、除草剤耐性ダイズを作ると除草剤散布の回数も減り、除草作業も軽減できます。また散布にかかるエネルギーコストの低減が可能になるとともに、雑草との競合がなくなり収穫が増える傾向にあります。また不耕起栽培が可能になるため、表層土壌の流出が減るメリットがあるなど、総合的に判断して農家がメリットを感じているということになるかと思います。ただ、同じ農薬ばかりまいてしまうと、遺伝子組換え作物に限ったことではありませんが、耐性雑草は出現してきますので、当然、体系的な防除法は併用しなくてはいけないと思います。

日本での安全性評価体制は
日本の中では食品としての安全性は、食品安全委員会と厚生労働省、飼料としての安全性は、食品安全委員会と農林水産省、環境への影響は農林水産省、環境省で評価を行っています。
また研究開発においては、環境への影響に配慮して、はじめは実験室で組換え植物を作り、次に閉鎖系温室で栽培します。目的の形質を示す個体であればその後代を特定網室(窓の開閉があり、虫は出入りしない、)で育て、ここで有望なものができると、生物多様性影響評価を行い、野外栽培申請をします(すべてを閉鎖系温室で栽培し評価する場合もあります)。ですから現行法を守れば、うまくいって3から4年目で隔離圃場栽培でき、その後食料・飼料としての安全性審査を経て、実用品種となります。
これまでに遺伝子組換え技術を用いて作出されてきた、除草剤耐性、虫害抵抗性の品種などは、生産者にメリットがあるため栽培面積が増加してきましたが、消費者にとってはメリットが感じられないため、組換え農作物に対する理解が遅れてしまっているのが現状です。今後は、機能性が付与された品種(花粉症緩和米、血圧降下作用のある米、コエンザイムQ10高含有米、アレルギー低減米、鉄分強化米)等を開発し、消費者にもメリットが感じられるものが出てくる予定です。
この他に、ファイトレメディエーションといって、遺伝子組換え植物を使って、カドミウムなどによって汚染された土壌環境を改善するため、カドミウムを吸収して土地を浄化する植物や、アルカリ性や酸性の不良土壌環境でも育つイネが研究されています。
また、高付加価値飼料米として、家畜の排泄物が増えると土壌の窒素汚染が日本国内に広がるので、窒素排泄物を少なくするための低タンパク質の飼料に利用できるような制限アミノ酸高含有飼料米の研究も進めています

アミノ酸高含有飼料米
アミノ酸の桶理論とは、必要量に満たないアミノ酸が一つでもあると、他のアミノ酸がいくら足りていても、成長に影響が出てしまうというものです。豚や鶏が不足しがちなアミノ酸としてはリジン、トリプトファン、スレオニン、メチオニンが挙げられます。そこで、不足しがちなアミノ酸にあわせて、全体として多くの飼料を与えると、総蛋白質が過剰になり、今度は窒素排泄物が増加し、環境汚染を招いてしまうことになります。
そこで、現在は低タンパク飼料に不足しがちなリジン、トリプトファン、スレオニン、メチオニンのような制限アミノ酸を、ピンポイントでサプリメントのように与えてアミノ酸効果を維持しています。しかし、中には単価の高いアミノ酸もあります。リジンは170円/Kgですが、トリプトファンは3200円/Kgと、現時点では非常に高価なアミノ酸の一つです。またリジンは安価ではありますが、その市場規模はおよそ100万トンを突破しているといわれています。 
私たちは、輸入飼料用のダイズやトウモロコシにかわって、休耕田を利用した飼料米作りを増やすことで国内飼料自給率を少しでも上昇させたいという思いがあります。しかし、国内栽培はコストがかかってしまい、補助金なしではなかなか飼料米の普及を進めることができません。そこで、先ほどお話ししたアミノ酸サプリの成分を、はじめからイネに高含有化させ、海外輸入飼料との価格差を少しでも縮めるための付加価値を飼料米につけられたらと考えました。
また、そのような開発研究と合わせて、社会的受容に対して可能な範囲で配慮した遺伝子組換えイネを作出したいと考えています。社会的需要への配慮のための技術として、抗生物質マーカーを使わないですむ方法や、発現カセット遺伝子だけを入れる方法、イネ由来の特性のあるプロモーターを使用して、収穫率が低下しないようにする方法などを模索しています。
一方、非組換えの一般作物との、花粉の飛散による交雑に対する不安も実際にあると思います。現在、閉花したまま受粉するような特性をもった変異系統がイネで見つかり、開花せずに花の中で自家受粉し、花粉は外へは飛散しないので、今後実用的な遺伝子組換え系統を作出する際に利用できればと考えております。
実際に遺伝子組換え技術を用いて改良したポイントについてですが、イネが本来持っているフイードバックレギュレーション(トリプトファンはある程度細胞内で足りてしまうと、トリプトファン合成をやめてしまう仕組み)を非感受性にして、トリプトファンを作り続けるようにする戦略をとりました。これにより、「日本晴」という品種で129-130倍まで遊離トリプトファン含有量を上げることができました。


会場風景1 会場風景2


質疑応答 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 遺伝子組換えのお米で窒素排泄物低減などの環境保全までできるというのが、目からウロコ。飼料米は実際に使われて販売されているのか →飼料稲全体を発酵させて牛にあたえるのは既に行われている。飼料米はブタやニワトリが対象。お米を動物にやるのはけしからんという意見も昔はあったが、休耕田の利用がみなおされ、飼料米はのびてきている。ただ、先ほどもお話しした通り、価格面で輸入トウモロコシとダイズとの競争となると実際は厳しい。
    • 組換え飼料を食べた家畜の肉の表示は →飼料には表示義務はない。畜産業の人は表示がないのでわからない。
    • 牛の酪農家がソルガムを作っている。酪農家で今回開発された飼料イネを食べさせているところはあるのか →今回は養鶏、養豚で利用するための飼料米としての利用を将来的には目指している。ただ飼料米自体にも解決しなければいけない問題があり、例えば、鶏が飼料米を多く食べると卵の黄身の色は薄くなる。消費者は黄色い黄身が好きなので、配合割合などの検討が必要になる。
    • 餌として作ったお米が人の食べる米に混じったらどうか →飼料イネや飼料米は食味が劣るのが一般的。加工性は高いが、味は食用のものよりは悪い。
    • トウモロコシを食べた牛やブタと飼料米を食べた牛やブタの味の違いは →飼料米で食べたブタはモチブタでおいしくなったという話を最近よく聞くが、我々はまだそのような試験段階ではない。
    • 特許はどうか、アメリカが持っている特許で日本の農業が支配されないかと心配 →外国の農薬会社が組換え農作物開発の関連特許で目立っているが、日本も後れを取らないようにしなくてはいけない。良い品種を開発すれば、自然と農家は使ってくれる。日本は基礎技術があるので、遺伝子組換えの実用開発研究を怠らなければ、必ず日本からも魅力ある組換え農作物はできるはず。
    • モンサントの特許は切れたときいているが →たいていは関連特許やつなぎ特許というのがその後も出されたりして、実際にはなかなか切れないのが現状なのではないか。我々もアミノ酸高含有化するための植物由来遺伝子に対しては、国内外の特許をとっている。
    • 日本で売っている種の製造国を見たら外国産ばかりだった。
    • 種を作るのはコストがかかる。日本では、篤農家が遠い所で作っている。
    • トリプトファンやリジンを米でなくトウモロコシでも作らせられるのか。トウモロコシより米が安いのか →お米なら休耕田で作れる。利用面から考えればコストが安いトウモロコシに入れるべきだが、農林水産省として国の農業を活性化する役割があると思う。日本のコメ農家はお米を作りたいと思っていて、畑作物に転作を奨励してもやはり米を作りたいという思いがあるのが現実だと思う。
    • 直播(水田に移植するための苗を作らず、じかに水田に種をまくこと)はコストが安い? →直播に向く品種、向かない品種がある。直播だと労働コスト低減になるが、新たに改良しなくてはいけない問題もある。
    • 飼料米がパサパサなのは、なぜ →全部がパサパサしているかはわからないが、飼料イネ、飼料米は収量性の向上をめざして食味は考えないのが一般的なので、インディカ米の系統を利用することが多い。結果的にもちもち感が減り、パサパサだが、加工適性が高い場合もある。米粉として価値がある場合もある。
    • 新潟の飼料米は軌道にのっているというが →補助金を出しているので、補助金も考えに入れてコスト計算すべき。
    • 今回の高アミノ酸含有米をホールクロップ(イネ全体)で使えないか →牛はアミノ酸合成菌をルーメンの中に持っているので、アミノ酸は足りているはずだが、リジンを与えると牛乳の出が良くなるという報告を聞いたことがある。現場では、バイパスリジン(ルーメンで分解されない)というものが使用されているらしい。
    • 農地は水田しか余っていない。水田の有効利用のためにも飼料米が開発されるといい。
    • カドミウムを高吸収できるイネはどう処分するのか →OECDでファイトレメディエーションについて議論が始まっているようである。生物多様性影響評価でも、悪い土壌環境を積極的に良い環境にする遺伝子組換え作物として評価を考えなおす必要がある。今までは土壌環境に変化を与えないことが、安全性審査基準のひとつだった。
    • イタイイタイ病の流域でできたお米にカドミウムが入っていたら国が買い取ったそうだ。カドミウムを吸った米をのりなどにして使えないか。