2009年3月13日(金)、食の信頼向上をめざす会により、メディアとの情報交換会「BSE検査について」が開かれました。BSEのサーベイランスに関するお話、同会が実施した自治体への全頭検査継続状況に関するアンケート結果紹介がありました。その後、参加者全員による意見交換が行われました。
食の信頼向上をめざす会 http://www.shoku-no-shinrai.org/index.html
BSEの歴史的背景と日本の安全神話
国際獣疫事務局(World Organization for Animal Health :OIE)は世界のBSEをずっと監視してきた。欧州は特定危険部位の除去を主体にした食肉の安全対策を継続してきたが、日本は全頭検査を牛肉の安全対策として開始し今日に至る。
2000年にEUは日本にBSE発生を警告し、2001年には日本にBSEに関する技術支援を申し出たが、日本は両方を否定、拒否したという経緯がある。
日本の全頭検査では、1999年に欧州で開発された迅速テストを2001年から使用してきた。当初日本ではこの検査で全ての感染牛が検出できるといっていたが、その後の日本での研究でこの検査方法では感染牛の約20%しか検出できないことが分かってきた(約80%位のBSE感染牛は検査をパスして市場に出回っていたことになる)。
EUでは、各国に検査頭数を割り当てBSEの存在の有無や分布状態を調査してきた。例えば、EUのリスク評価でドイツにBSEが存在すると予測できたが、ドイツはこれを否定し続けたこともあった。EUは迅速テストを主にBSEの疫学的動向を把握するために使用しきたが、日本ではその検査方法を牛肉の安全対策として導入し、安全神話が出来上がった。
BSEの潜伏期間は平均5-6年(若い牛が大量に摂取すると潜伏期間が少し短くなることもある)。これは、異常プリオンが回腸から神経系統を通じて脳幹部にゆっくり到達するからである。そして、6つの組織(脳、脊髄、背根神経節、回腸、三叉神経、眼球)に約99.7%以上の異常プリオンが最終的に蓄積する(なかでも脳と脊髄を除去してしまえば、約90%の異常プリオンが除去できることになる)。
しかし健康牛の迅速テキストでは、感染していても異常プリオンの量が少ないため陽性にならないこともある。日本で今までに見付かった陽性頭数は36頭だが、日本では、大部分の牛は30-36ヶ月齢以下でと畜されるので、BSEに感染していても発症前にと畜されているので、多くの牛が検査で陰性となってしまう。
日本で見付かったBSE陽性牛は1996年頃に生まれたA群と、2000年頃に生まれたB群に分ける事ができる。これは、それぞれの時期に汚染飼料が出回ったためと考えられ、A群は本州や九州で多く発生し、B群は北海道内だけで多く発生し今も続いている。
BSEのリスクの考え方
OIEは、BSEの疫学的状況により、世界の国々を次の3グループに分類している
カテゴリー1:リスクを無視できる国(アルゼンチン、フィンランド、シンガポール、アイスランド、ノルウェー、ウルグアイ、オーストラリア、スウェーデン、パラグアイ、ニュージランド 計10カ国)
カテゴリー2:リスク管理のできている国(ブラジル、カナダ、チリ、スイス、台湾、アメリカ、デンバーク、ドイツ、イタリア、アイルランド、オランダ、キプロス、ギリシャ、フランス、アメリカなど 計31カ国)。日本はOIEのカテゴリー2に申請中である。このカテゴリーの国では、BSE病原体を含む飼料の流出は完全に管理されており、必要なサーベイランス(監視)が出来ていることが証明されねばならない。
カテゴリー3:リスク不明の国(リスク管理の出来ていない国)
OIEのサーベイランス基準では、各国の成牛の総頭数とカテゴリーにより、検査に必要な点数が決められている。ポイント数は、調査した牛の年齢(1-2歳、2-4歳、4-7歳、7-9歳、9歳以上)と健康牛、死亡牛、緊急屠殺牛、擬似疾畜群のいずれかによって、それぞれに異なる点数が定められている。BSEは潜伏期間が5〜6年であるために、4-7歳でBSEが発見されることが多いため、健康牛の場合は2歳以下では0.01点、2-4歳では0.1点、4-7歳では0.2点、7-9歳では0.1点が与えられることが決められている(最も高い点数はBSE様の症状を示した4-7歳齢の牛で750点、4-7歳の緊急屠殺牛ならば1.6点と大きく異なる)。検査は出来るだけ効率よくBSEを発見することを目的にしているため健康牛のみを検査するのではなく、死亡牛や緊急屠殺や擬似患畜群を含む4群のうち少なくとも3つの牛群を検査することが求められており、それらのポイント数が累計される。必要最小限の点数は、その国の成牛頭数とカテゴリーによって決まるが、カテゴリー2の国はカテゴリー1の国の2倍の点数が必要となる。日本がカテゴリー2の国と認定されるためには、成牛数が100万頭以上いるので300,000点以上が必要と定められている。
緊急屠殺牛は健康牛や死亡牛に比べてポイント数が高いので、各年齢別のBSEの存在は緊急屠殺牛を調べると、必要な点数を稼ぎやすい。
OIEは36ヶ月齢以上の健康牛(と蓄場)、30ヶ月齢以上の死亡牛、擬似患畜、起立不能牛に対してBSE検査を行うことを求めているが、日本では未だに健康牛とBSE様症状を召した牛は全頭、死亡牛と起立不能牛は24ヶ月齢以上を対象に検査を続けている。
2003年ごろからは、それまで見つかっていた異常プリオンと、タンパク質の分子量や糖鎖型が異なる非定型的な異常プリオンが見つかった。非定型プリオンは動物の感染実験の結果や脳内での分布の状況も異なることがわかってきている。また非定型プリオンはウエスタンブロット法(たんぱく質を解析する方法)で現れるバンドが定型的BSEのバンドより高い位置(H型)と低い位置(L型)に出る。日本はではL型が発見されている。
まとめ
2000年頃に生まれた牛がまだ北海道で生存しているので、サーベイランスは今後も続けるべきで、検査の実施か否かには、消費者の理解と判断が必要。
日本がOIE基準でリスクが管理された国と認められたら、OIEの基準と日本の基準の違いを精査し、食品安全委員会に諮問すればよいことになる。
非定型BSEに対しては、監視と研究を続け、必要ならば新たな安全対策を考えればよい。
(例えば、カナダは9歳齢以上の牛は食用としないことを決め、安全対策としている)。
食の信頼向上をめざす会 会長 唐木英明氏
背景
全頭検査には、BSEを見逃す可能性があるので、食の安全対策で重要なのは危険部位の除去。全頭検査は消費者の不安を払拭するために選択したことは明らかだったが、「全頭検査こそが牛肉の安全を守る」という誤解が生じ定着してしまった。2003年、行政は軸足を産業育成から消費者保護に移したので、全頭検査の誤解をとくことができなくなっている。2003年に検査をやめようという風潮があったが、21ヶ月、23ヶ月の若い牛でBSEが見つかり(これは感染していなかった)、米国に全頭検査を要求することになった。
以上により国は全都道府県での全頭検査を3年間、助成した。助成期間が終わった2008年8月から、食品安全部長は20ヶ月以下の牛の検査をやめるように発言し、食品安全委員会委員長は20ヶ月以下の牛の検査をやめても安全であることを発表したが、自治体は自ら20ヶ月以下の全頭検査を続けている。
そこで食の信頼向上を目指す会は全都道府県に対してアンケートを実施した。
BSE検査に関するアンケート
日本には214箇所のと畜場があり、大動物を扱っているのが171箇所。
「検査継続の判断理由は何か」という質問に対して、第1位は消費者が求めている、第2位はその他、第3位は他の自治体と異なった判断をするのは難しいであった。3自治体は安全確保のために必要と回答した。
「市民に対する全頭検査続行の理由の説明」の第1位は「消費者が求めている」、第2位は「その他」、第3位は「他の自治体と異なった判断をするのは難しい」で、判断理由と一致していた。ここでも安全確保を説明理由とした自治体は3つあった。
また、市民への周知活動については、記者会見、ホームページ、特に行っていないという回答が多く、周知活動はほとんどやっていないのが実情のようで、作業が煩雑、予算が少ないためとなっている。その理由までは説明されていない。
アンケート回答に全頭検査を継続する希望が多いとなっているが、周知活動を行わないで、市民が検査続行を求めるといえるのだろうか。
検査費用は北海道の5000万円以上を除いて余り高くなく、10-50万円が14自治体、100-200万円が10自治体で、畜産の施設がないなど0円という自治体が3。実際、石川、福井、福島県は県内で牛のと蓄を行っていない。
検査をやめる時期については、全県、未定という回答。当面、全頭検査をやめても得をする人はいないようだ。自治体は全く説明をしようとせず風向きが変わるのを待っているように見受けられた。
食の信頼向上をめざす会の声明
お話の最後に唐木会長より声明文が読み上げられました。
- 国と自治体に対して BSEの安全対策は危険部位の除去であることを伝え、全頭検査が牛肉の安全を守るという誤解を解く努力をしてください
- 都道府県に対して 20ヶ月以下の試験を廃止してください
- メディアに対して 全頭検査神話誕生にはメディアの影響力が大きかったので、誤解をとくための努力をしてください
自治体における全頭検査の継続
- 全頭検査をしている獣医は無駄なことをさせられてやる気をなくしていると思うが、獣医の現場の声を集めたものはあるか→重要な指摘。メディアの方に開いて教えてほしい。私の教え子の獣医の声は人獣共通伝染病、食中毒など重要なことがあるのに、何時間も全頭検査に時間を使わされていることを嘆いているが、公務員は上司に逆らえない。現場の獣医師は大事な食中毒対策や人獣共通伝染病研究に関わる時間を奪われている(唐木)。
- 自治体は検査の費用が少ないから実施するという感じがした。
- マスコミがきちんと伝えればこの問題は解消するのか。そんな安い費用で皆が安心するならやった方がいいというのが普通の考えではないか。30ヶ月以上も対象になると検査費用も大きくなるので、月齢で議論するのがいいのではないか。
- リスク対策とコストのかねあいが問題→行政の信頼がない。意図、能力、価値観の共有が整っていない。
- 検査をやめるのは食の安全をおろそかにするようでいいにくい。全頭検査廃止はいっせいにやめないとだめ。先走った自治体の風あたりが強い。
OIE総会を機に全頭検査の廃止を
- 日本が全頭検査をやめる機会はOIEの総会が終わる5-6月。OIEにリスク管理ができる国だと認められるために、今からその準備が必要と考えられる。
- OIEに管理の出来ている国と認められることは、日本に新たなBSEの危険がなくなったと認められたことになる。日本の汚染飼料の管理も整っているので、若い牛に新たなBSE感染群が発生するリスクは当分考えられない。北海道の約100ヶ月齢(8歳齢)前後の牛だけに感染した牛がまだ残っている可能性はある。また非特異的BSEの監視を続けるために8歳以上の牛の検査を続ける必要がある(小澤)。
- 30ヶ月、36ヶ月の議論を始め、議論を巻き起こすことが大事ではないか。OIE総会をきっかけにするのがいいと思う。EUのすべての人が安心しているのではない。
- OIE総会の機会を逃すと、安全のための検査という刷り込みが生まれ、修正は困難。
- 日本の基準はOIEの基準とどうしてこんなに違う点が多いのか。OIEの考え方、世界の状況がもっと理解されるべき。
市民とのリスクコミュニケーション
- 食品安全委員会のリスクコミュニケーター養成があるが、誰がやるかが重要。地域でサイエンスカフェなどで議論を起こしていけばいいのではないか
- コープ組合員内で無理なら、全国民の理解は無理。行政がしっかりすれば問題ないはず。
- 安全と安心は違うことは浸透しており、国は助成をやめたはず→20ヶ月以下の安全性を論じるつもりはない。全頭検査は安全性のためと誤解させていることを止めさせたい。
- 全頭検査が廃止されない理由を消費者のせいにするのでなく、事業者、行政が自らのプロ意識で進めるべき。市民の意識や同意を待っているようでは困る。
最後に唐木会長より、「30ヶ月の議論を起こしたらどうか、消費者のせいにしないでほしいという貴重なコメントを聞くことができた。現場の獣医や畜産農家の声も聞こえるようにしたい」というまとめがありました。