北海道遺伝子組換え作物交雑防止条例施行3年後の見直し
2009年3月6日(金)、かでる2・7において、平成20年度第2回北海道食の安全・安心委員会遺伝子組換え作物交雑等防止部会が開かれました。北海道は、日本国内で最も早い2005年3月、「遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」をつくり、2006年1月に完全施行しました。今年度は3年目の見直しにあたり、本委員会等で点検・検証が行われ、栽培基準は変更しないことが決まりましたが、情勢の変化が大きいことから、これから3年後にはまた見直しについて、点検・検証をしたほうがいいという意見が出ました(通常、条例は5年で見直す)。
北海道 遺伝子組換え作物交雑等防止部会 http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/shokuan/gm-bukai.htm
2008年度は、自治体の単位では交雑防止を目的とする規制は新しく増えませんでした。また、国内7施設で野外の試験栽培が行われました。
安全・安心委員会の報告
冒頭、事務局から2月17日に開かれた安全・安心委員会の報告が行われました。
「3年間の交雑等防止検討調査事業の結果、ゼロにならないが、限りなくゼロに近いので、基準の見直しや調査事業継続の必要性はない」という意見のほかに、消費者への学習機会提供、GM技術への先入観を廃した話し合い、条例見直しは3年ごとがいい(今回条例を5年で見直しに改正する提案がある)、将来の健康に不安などの意見があった。
3年の間、北海道庁では、コンセンサス会議、ワークショップ、道内の意見交換会の開催などのリスクコミュニケーション活動を行った。
議論の内容
交雑・混入防止措置基準ついて
- 本基準は妥当であり、見直しの必要はない
- 交雑は低いが、品種や気象条件で異なる。稲の場合、10aに1万粒の交雑はあるだろう
- 様々な条件で交雑はあるだろう。長期間試験を行い統計処理をして有意差検定はできるかもしれない。科学者の立場では、交雑ゼロはないと考えるべき。数字をこねまわしていても仕方ない。
- ゼロに近いのは事実だが、育種の考え方ではゼロはない。混入率よりも食べる視点が現時点では大きいとみるべき。
- 大人が1年で1俵食べると、確率で試算すると1年で1000粒、1日3粒。こういう試算は尊重すべき。添加物は安全でも1年食べると量は大きくなる。人為的にはできるだけ避ける。
- 交雑防止委員会は1年で何粒食べるかを議論する場所ではなく、花粉飛散や交雑について検討すべき。組換え遺伝子が野外環境に何かを起こさないのだとみるべき。
- 条例を緊急に変更する必要はないが、「現行の条例の見直しの必要なし」より、「緊急性はない」程度にすべき。
- コンバインから落ちると、一粒が環境に残り、数代に残ることになる。
- 北海道は農林水産省の指針で示された基準の2倍を採用したが、その後の調査でこの距離の決め方がはずれていなかったことがわかった。
リスクコミュニケーションについて
- 消費者だけでなく生産者の立場も大事。行政の進め方として、3者のバランスを大事にしないといけない。消費者の不安はあるが、これからの食事情を考えたときに、確実な食の確保のためにGMの研究は大事。理解を深める取り組みを科学者の責任としてもわかりやすく説明していく。それを北海道と行政を支えるべきだと思う。
表示制度
- 表示対象品目の拡大、EU並みの閾値にするなどの表示制度改善を国に求める。
- 食品表示についての提言は交雑防止部会が言及すべきなのか。種子ならわかるが。
- 交雑防止委員会でも、消費者の立場を考えれば、表示など幅広く議論してもいいのではないか。
- 本委員会は交雑のみ議論するのでなく、遺伝子組換え作物全体も議論すべき状況ではないか
- 研究のあり方、コンセンサス会議の結果も社会科学の研究として、本委員会で扱ってもいいと思う
- 専門家同士の議論を市民が見るようなイベントもあっていいのではないかと思う。
- 交雑の調査結果は出たが、研究は持続的にやるべき。
3年目処の検討について
初めに、事務局より次のような説明がありました。
現行の条例では施行後3年の見直しが規定されているので、今回の見直しを行った。条例附則の条文では3年毎の見直しではないので、一度見直しをした後の見直し条項を加える。通常の条例では5年。ここに5年見直し規程を加える改正をしたい。北海道では全条例の見直し規程について検討している。412のうち80条例が見直しの対象。農政部の30の条例のうち8条例の見直し規程を検討している。
- 昨今の遺伝子組換え作物の情勢は大きく変化しており、本条例については3年見直しがいい。
- 竹林局長:現行は施行後3年で見直しをしたが、現行の条例では1回目の見直しの後、見直し規定がない。全ての条例を5年で放置せずに見直すことにしたい(道議会に提案中)
- 国では法律、道では条令が最高規範で、随時見直しはできることになっている。遺伝子組換え作物に関することは3年後に検証すべきというご意見があれば3年後に検証するようにしたい。リスクコミュニケーションの強化・拡充は必要なので、3年見直し規定をいれるとリスコミ強化のための節目としては意義があると私は思っている。
- 本条例では精神はできている。どういうことが予測されるのか
- 予測されないことがあるかもしれないからこそ、3年見直しがいいと私は思う
- この条例の精神は大事なことを述べているので、余り変更しないほうがいいと思う。
- 本条例では試験研究機関は届出、農家は許認可制度になっている、日本のエネルギー政策や食料事情によれば情勢が変化していることを認識すべきで、そうすると3年見直しが必要。
部会のまとめ
最後に座長による、まとめがあり、遺伝子組換え作物交雑防止部会から食の安全・安心委員会への検討結果報告案が確認されました。
- 隔離距離などの基準見直しは不要
- 調査事業継続は不要
- 3年間の検討結果をもとに栽培にあたっての留意事項を整理し、条例の手引きに加える。
- 消費者のリスクコミュニケーションの充実をはかる
- 現行の表示制度の改善を国に求める
北海道食の安全・安心委員会 http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/shokuan/shoku-iinkai.htm
日本国内の試験栽培の状況
現在、日本国内で遺伝子組換え作物の交雑防止を目的とする規制は9都道府県にあり、最も早く制定した北海道(2006年)と新潟県は条例で、残りは指針です。現在、宮城県、千葉県、神奈川県が指針策定の検討を2007年から続けていますが、まだ制定されていません。
2008年度は、農林水産省所管の2研究所、1国立大学、日本企業1社、外資4社が研究を目的とした遺伝子組換え植物の野外栽培を行っています。
遺伝子組換え技術は自給率の低い日本にとって、食料安定供給のための重要な技術といわれながら、野外での試験栽培がネックになって、商業栽培は進んでいません。一方、食品の価格高騰の影響か、試験栽培や商業栽培を認める人が反対する人の約3倍になったというアンケート結果(「遺伝子組換え作物等に関する意識調査」H19農林水産省委託事業)が公表されたり、不分別表示(遺伝子組換え原料が含まれているかもしれません)の食用油やマーガリンの方がよく売れたりするなどの報告もなされています(日経バイオ年鑑2009)。
参考サイト http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/shokuan/gm-bukai.htm