2009年2月25日(水)、バイテク情報普及会によるセミナー「世界の遺伝子組換え作物に関する状況(1996年〜2008年)」が開かれ、国際アグリバイオ事業団(ISAAA)会長のクライブ・ジェームス博士により、2008年度の遺伝子組換え作物作付け状況の概要が報告されました。
参考サイト http://www.cbijapan.com/
クライブ・ジェームス博士 | 会場風景 |
13年の振り返り
世界の遺伝子組換え作物導入から13年たち、10年を一区切りとすると、現在は第2期(2006年から2016年)の3年目。目標は、2015年までに貧困層を半減させることだが、2008年だけで、貧困層は1億人増加。2008年夏に急騰した食料の価格は下降したものの1年前の2倍。厳しい状況は続いている。
遺伝子組換え作物は、食糧の価格引下げ、気候変動と持続可能な食糧生産性、貧困と飢餓の問題に貢献できるだろうか。
栽培面積
栽培面積は1億2,500万haとなり1996年の栽培開始から74倍まで増えた。これほど新技術が伸びることは画期的なことで、農家は効果があったから受容したことがわかる。特に2008年は栽培面積の増加幅が大きかった。
形質面積(複数の形質を付加したスタック作物の栽培面積)は15%増加。スタック作物とは除草剤耐性と害虫抵抗性というように有用な形質が2つ以上導入されたものをいう。
栽培国
世界の栽培国数は25カ国、うち発展途上国は15カ国(3カ国が新しく加わった)。
栽培面積の多い順は、米国、アルゼンチン、ブラジル、インド、カナダ、中国、パラグアイ、南アフリカ、ウルグアイ、ボリビア、フィリピン、オーストラリア、メキシコ、スペイン(5万ha以上)。
遺伝子組換え作物を生産している小規模な貧しい農業生産者は中国、インド、フィリピン、南アフリカ等におり、その数は1,230万であり世界の遺伝子組換え作物生産者1,330万の9割にあたる。
アフリカの栽培国では、南アフリカに続き、エジプトがBTトウモロコシ(害虫抵抗性)を、ブルキナファソがBTワタ(害虫抵抗性)を栽培し始めた。マリなどの周囲の国は遺伝子組換え作物の栽培を可決した。チュニジア、ヨルダン、マラウイ、ケニア、ウガンダなどもトウモロコシ栽培に意欲を示している。2015年にはアフリカ諸国のうち12カ国が遺伝子組換え作物栽培を導入しているだろう。
ラテンアメリカでは、ボリビアが9番目に加わった。
栽培作物
5カ国が新しい組換え品種の栽培を始めた。
ブラジルはBTトウモロコシ、オーストラリアは除草剤耐性カノーラ。
米国とカナダでは除草剤耐性テンサイを導入した。これに成功するとサトウキビでも導入できる可能性も生まれる。例えば、トウモロコシでのバイオ燃料は32セントかかるが、サトウキビだと18セントでできるので値段の安いサトウキビからのバイオエタノールへの応用が期待できる。
持続可能性への貢献
2007年は、3,200万トンの食糧、飼料、繊維を増収できたわけだが、これは1,000万ヘクタールの耕作面積の増加に値する。そんな耕地があるのはブラジルだけで、実際には、小規模農家が生産してこの数字が達成できた。すなわち貧困緩和にこの技術が貢献できたことになる。
・農薬の削減(有効成分換算をすると77,000トン分)
・バイオ燃料栽培によるエネルギー資源への貢献(栽培面積1,220万ヘクタール)
・持続可能な経済効果は100億米ドル(うち60億米ドルは発展途上国、残りは先進国)
1996年から2007年でみると、440億米ドルの生産性の増加と所得向上(56%がコスト削減、44%が増収による)。15億ヘクタールの耕地で倍の生産ができたことから生物多様性の保全に貢献したと考えられ、9%の農薬使用を削減し、温室効果ガスの排出の緩和(149億Kg)、不耕起栽培を通じて、節水や土壌の保全にも貢献できた。このように、環境に貢献することができた。
将来予測
組換え作物ができて初めの10年を第1期とするなら、今は第2期(2006年から2015年)、組換えイネ(米を食べる貧困層が多い)が2億5,000万の稲作農家に恩恵をもたらすだろう。
旱魃耐性が最も注目されている形質で、2012年に旱魃耐性トウモロコシが実用化すれば、アフリカの飢餓に貢献できるだろう。
2011年には、ビタミンAを強化したゴールデンライスが登場し、フィリピンが主導していくだろう。
発展途上国(ブラジル、中国、インド)で開発された遺伝子組換え作物が利用され、発展途上国同士の協力も始まるだろう。
このように、遺伝子組換え技術を用いた育種の加速化で環境変動に貢献できると考える。
世界の情勢は、G8洞爺湖サミット(2008年)で組換え作物の必要性が認知され、欧州委員会においても食料安全保障、貧困問題、地球環境問題で遺伝子組換え技術は重要であると発表された。
発展途上国の動きが注目される中で、中国は遺伝子組換え技術は、食料問題解決のビッグサイエンスであり、我々は大きく依存しなくてはならないとして、巨額の投資をしている。
組換え技術は従来技術と同じように安全で、害虫抵抗性によってカビ毒のリスクを軽減などで安全面での貢献もできている。
このように、ISAAAは組換え技術を支持している。
日本は、組換え技術を使わなかった場合のリスクを発展途上国の導入の現状をみて考えて欲しい。飢餓では安全な社会をつくれない。
- イネの重要性が指摘されたが、遺伝子組換え米は味を損なわずに節水、農薬削減できるのか。→イエス。ITが進まないとITの恩恵に預かれないように、旱魃耐性などの遺伝子組換え米を使わなければ、その恩恵には預かれない。使わない方がリスクがあるのではないか。
- 温暖化ガスが630万台の車を減らすだけの効果という算出根拠は何か→エコノミストの記事を根拠にした。アルゼンチンの99%に行われている遺伝子組み換え作物を使った不耕起栽培だと、畑を耕さずに栽培ができる。農薬散布削減で機械の使用が減る、作業の時間節約で多くの作付けができ、節水もできる。また耕すと土壌の湿度が失われ、土壌の二酸化炭素が開放される。
- 温暖化で虫害が増加しそうだが、温暖化対策として遺伝子組換え技術は有効か。どんな被害コスト削減の試算があるか→収穫の4割が害虫と雑草によって減収している。害虫と雑草の防除ができれば、収量と所得が倍増する。これからは今まで減収を防ぐだけでなく、保護、増収を実現させるだろう。
- ラウンドアップ・レディー2(除草剤耐性を付与)はどのくらい従来の除草剤耐性品種と置き換わっていくのか→2010年には、2倍の200万エーカー位になるだろう。8-10%の増収になるだろう。
- ゴールデンライスは医薬品になるのか。食品の領域になるのか→複数の組織が協力し、ほ場試験を2008年に終了した。2011年に商業化承認の見通し。ビタミンA欠乏症はサプリメントなども対応できるが、アジアでは米が日常食べられているので、脆弱な立場の人たちが手っ取り早くビタミンAがとれるようになるので、ゴールデンライスが開発された。ビタミンAは取りすぎても体外に排出されるだけで問題はない。食品として考えられている(ISAAA東南アジアセンター理事長ホーテア博士)。
- 日本は青いバラを栽培すると、世界の栽培国の地図に載るのか→イエス
- 中国でのご講演されたときの印象は?イネとトウモロコシの政策的意欲はどのようなものだったか→政治的な意思がなければ動かず、結束がなければ努力は実らない。気候変動に直面して深刻な影響を受けるのは途上国だから、私達は準備を進めるべき。
- 中国の2番目に重要な作物のムギは気候変動で栽培が半減するといわれる。オーストラリア、スペインの旱魃も深刻な影響をもたらす。
- 温家宝首相は遺伝子組換え技術の研究開発に投資し食料、繊維、飼料において自立するとして、理解が広まっている。
- 世界の遺伝子組換えの研究投資はどのくらいか→公式データはないが、民間で50億ドルくらい、世界であわせて80億と推測する。中国、ブラジル、インドなどの公共部門の投資が増えており、中国は35億ドルを投資。
- 遺伝子組換え技術には、何かが起こったときにストップをかけられない怖さを感じる→遺伝子組換え技術に対しては厳格なプロセスを採用してきた。加工食品の72-80が遺伝子組換え技術によって作られ、消費してきた米国で問題は起こっていない。13年間の経験をもとに開発の迅速化も可能になってきている。プールサイドにずっと立っていても泳げるようにならない。日本は遺伝子組換え技術を使うリスクよりも使わないリスクに気づくべきではないか。