2009年1月31日(土)、道庁赤れんが庁舎1号会議室において標記ワークショップが開かれ、道内外から約40名の一般応募者が参加。冒頭、道農政部 竹林食の安全推進局長より開会の挨拶があり、「道では毎年、リスクコミュニケーションを実施してきた。本日もその一環として開催。多くの遺伝子組換え作物が輸入されているものの、不安は払拭されていない現状。自給率50%を目指した日本の農業の見直しが行われている。午前中は情報提供を行い、午後は参加者一人一人に考え議論して戴きたい」というお話がありました。
北海道は2005年3月、日本国内で最初に遺伝子組換え作物交雑防止を目的とする条例をつくりました。遺伝子組換え作物を試験栽培したいときには知事に届出、商業栽培したいときには知事の許可を得ることになっており、制定以来、栽培の申請はありません。今年度は施行後3年を過ぎ、本ワークショップが開かれ、話し合いが行われました。(農林水産省は所管する研究所を対象とした指針を作っています)。
第1種使用規程承認組換え作物実験栽培指針(pdf)
竹林局長の挨拶 | 一色先生のお話 |
はじめに
いくらO157事件を起こした経験から、現在の函館西波止場は雨が降っても魚を清潔な台で受けられるように改良された。このように、食の安全は日進月歩で改良されている。フードチェーンは関係者全員で努力して信頼されるものだと思っている。
人類は食物を求めて永い旅をしてきた
私達の祖先は、猿人→原人→旧人→新人と進化してきた。アフリカから日本まで人類の祖先は移動してきたのは食物を求めての旅で、その間には食中毒や毒の食物で死んだ人もいたはず。私たちは多くの犠牲の上に安全な職の情報を学んできた。
私達が食物を加工、調理するのはおいしいためだけでなく、可食部を選抜し、消化しやすい形にするためでもある。トマトにはトマチンというアルカロイド、インゲンのプロテインインヒビター(インゲンダイエット事件)、米は炊いてデンプンをアルファ化して消化しやすくする、ジャガイモのソラニンを除去する。
安全な食品とは
食品は、生物的変質要因(腐敗など)、物理的変質要因、化学的変質要因(酸化)によって不健全な食品に変質してし、食べることができなくなる。
食性病害には、有毒成分(ソラニン)、生理作用成分(消化酵素阻害物質)などの内因性のものと、微生物(ノロウイルス)、寄生虫、汚染物(ダイオキシン)などの外因性のもの、酸化油やニトロソアミンのような誘起性のものがある。
まとめると、どんなものでも、食べすぎはだめで毒は量で決まる。食が豊かなときこそ食の安全性を研究し、毒性学的安全性、微生物学的安全性、栄養学的的確性、嗜好性、経済性、食文化的妥当性(宗教など)、信頼性(フードチェーン関係者全員で)を確保しなくてはならない。
日本は6割以上を海外に依存し、世界中をフードチェーンでつないで食料を調達している。
食のリスク
リスクとは、健康への悪影響の発生頻度被害程度のことで、ハザード(危害要因)があっても病気になるかどうかはわからない。それは、環境がヒトに有利に働くときと、病原体に有利に働くときがあるから。
リスクが許容可能なときは加熱したり毒素を除いたりすれば食べられるが、コントロールできないときに食べることを禁止する措置も必要。WHO専門家会合では、安全とは「許容できないレベルのリスクがないこと」としており、リスクゼロ=安全ではないことを示している。CODEXは予期された方法や意図された方法で調理し食したときにヒトに害を与えないという保証のことを食の安全と定義している。
リスク評価とは、有害性確認→有害性特定→暴露評価→リスク判定からなっている。
リスクコミュニケーションは規模が大きいからいいのでなく、二人だけの草の根に始まる。
健康情報の信頼性
東北大学 坪野吉孝先生は健康情報の信憑性をステップ1から6で示されている。
1)具体的な研究に基づいている、2)対象はヒト、動物、長期試験、試験管内培養のどれか、3)学会発表か論文発表か、4)定評ある専門誌に掲載されたか、5)無作為割付臨床研究や信憑性のある疫学的研究か、6)複数の研究で支援されているか。
食品のリスク分析と危機管理には平常時のリスク分析が重要で、これが異常時に利用でき、予防につながる。
予防とは
保護の適正水準(Appropriate Level Of Protection:ALOP)が重要。過剰な予防は問題。適正農業規範(GAP:good agriculture practice)、適正製造規範(GMP: good manufacture practice)を守って、関係者全員が嘘をつかず正直に生きるのが大事!
安心は個人に任せるべきことで、安全達成の努力を必ず続けて信頼された結果、安心が生まれるはず。安心は他人がとやかくいうことではない。
人間は従属栄養生物で祖先から食べ続ける努力を続けて食品の安全を得てきた。これが食品化学。私達は生き物を食べてきたのだから、食物になってくれた生物と作って下さった方に「いただきます」と言う意味を次世代に伝えよう。合成食品も原料は生き物。
質問1:有機で遺伝子組換え作物が認められない理由は?→話し合いでの取り決めによる。科学や安全の観点でない。有機だから安全だといえないこともある。有機でO157が出ることもある 約束事なので、かえることもできる。
質問2:海洋汚染の状況は?→化学物質の海洋汚染には大きな予算をかけて調査されているが、赤潮(有毒プランクトン)や病原菌などの対策は手薄。日本では余り病原菌の被害はないがアフリカのコレラは深刻。食品安全委員会では海外の病原菌情報を提供中。
質問3:環境ホルモンで精子の減少が起きているが→環境ホルモンが許容できるリスクの範囲か考えるべき。一時心配されたほど、環境ホルモンはリスクがないことが環境省の調査でわかり、調査研究もほぼやめた。許容範囲のリスクだったと理解している。
全員による意見交換 |
遺伝子組換え食品の状況
いくつかの被害要因(ハザード)について不安の度合いを尋ねたアンケートでGM食品の不安は下がってきているが、未だに6割が不安。
遺伝子組換えは自然で起こってきたもので、機能のわかった遺伝子を科学的に扱ったのが遺伝子組換え技術。私達は食物の中の遺伝子を毎日食べていて、現代の科学で100%安全すなわち食品にゼロリスクはない。
日本で食品として承認された遺伝子組換え作物は97種類。米国やカナダに次ぐ数。
デントコーンは1688万トン(100%)輸入でその7割が米国から。そのうち7割はGM。73%が餌料に、26%がコーンスターチ等の食品となる。
ダイズは404万トン輸入(国産は23万トン)、輸入の8割は米国から。そのうち9割がGM。製油用77%、食品用20%
ナタネは、213万トン輸入(国産は0.1万トン)。製油用が99%。
安全性はどうやって審査するのか
食べ物の安全性審査では、化学物質のように害が出るまで摂取してみるという方法が使えない。食品の安全性は個別に調べる。
米国の水飲み大会で2時間に8リットル飲んだ2位の女性は水中毒症で亡くなったそうだ。水も安全とはいえない。従来育種だから安全ともいえない。従来育種とは交配や、自然または人為的に突然変異体を作り出して行われる。
遺伝子組換え食品の安全性は利用した材料利用の歴史、導入遺伝子の影響、合成されるタンパク質の量的変化、組換え体全体への影響、合成されるタンパク質による影響を調べる。
アレルギーの起こる理由は未だ解明されていないが、アレルゲンの予測(既存アレルゲンと似た構造でないか、アミノ酸配列はどうか、消化されにくいか)、それが食品の主要タンパク質になっているかどうかを調べる。例えば、除草剤耐性遺伝子組換え作物のCP4ESPSというタンパク質は胃液で15秒、腸液で32分で、消化されやすいことがわかっている。
最近の動き
承認済みの品種をかけあわせたスタック品種が登場してきている。開発当初はひとつの遺伝子を導入するのがやっとだったが、現在は最高8種類も入れられるようになっている。
遺伝子組換え食品に対する考え方のまとめ
・メディア情報に流されない
・単純に安全・危険を判断しない
・情報は複数の情報源から集める
・自分で判断しよう
北海道農業の現状
北海道の耕地面積は日本の25%、農業産出額は12%、1戸当たりの経営耕地面積は都府県の14倍、主業農家率は75%と、大規模で専業的な経営を行っている。
テンサイは100%、インゲンは95%、アズキは88%、バレイショは79.3%、コムギは63.9%を北海道が供給し、国産供給熱量の21.9%を北海道が担っている。
遺伝子組換え食品の表示
表示は次の4つの場合には免除されている。1)導入したDNAや生じたタンパク質が検出できない加工品、2)全原料中の上位3位に入らないもの、3)包装、容器面積が30平方センチ以下の小さいもの、4)対面販売の場合。
「遺伝子組換えでない」との任意表示について、分別管理した場合の意図せぬGM作物の5%までの混入が認められている。
北海道における規制
平成17年3月遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例を公布。一般栽培は許可制、試験栽培は届出制となっている。
道民意識調査の結果
・80%の道民がGM食品を食べることに不安を感じる
・78%の道民がGM技術の試験研究を推進すべきとしている
午後からは、参加者がA、Bグループ(テーマ:安全性について、表示について)、C、Dグループ(テーマ:GMOの栽培について、研究開発について)の4つに分かれ、付箋紙に意見や質問を書き出し模造紙に貼りだして話し合いました。各テーブルでは、道庁の担当者がファシリテーターと記録係をしました。
コーディネーターとして、三上直之氏(北海道大学高等教育機能開発総合センター准教授)、コメンテーターとして大塚善樹氏(武蔵工業大学環境情報学部准教授)、富塚とも子氏(さっぽろ食まちネット代表)、瀬川雅裕氏(農林水産省農林水産技術会議事務局技術政策課技術安全室長)が午前中の講師に加わり、コメント、質疑応答を行いました。
A、Bグループのまとめ
安全性について:安全性は実証されている。種の壁を越えた不安 未解明な部分があるのは不安。GMに関する情報提供が大事
環境影響について:遺伝子による環境の汚染は取り返しがつかないのが不安。
EU並みの表示の義務化が必要。5%の意図せざる混入があるのに不使用表示はおかしい。
C、Dグループのまとめ
一般栽培について:食品安全性、環境影響がわかっていないので行うべきでない。
作りたい農家の権利を守るべき。北海道ブランドを守るためにGM栽培はやめるべき。
研究開発について:医療などの分野では進めるべき。閉鎖系研究開発もやめるべき。
北海道はGMの研究の発信基地となるべく研究開発を進めるべきで、新産業創出に有効だと考えられる。
その他:一部企業による独占が不安。
コメンテーターのコメント
H氏:農作物の品種改良をどこまで自然と考えるか。食品の安全性評価とは何か 食塩ですら0.5%の微量成分を含んだら安全性評価はできないし、長期の慢性毒性試験は非常に難しい。5%未満で不使用と書くのはおかしいというが、分別管理をしても5%は入ってしまうことがあり、EUの0.9%、韓国の3%には科学的根拠はない。
O氏:日本の表示は消費者の選択のために考えられたので最終製品で残っているタンパク質を目安にして考えて決まった。宗教を目安にするなら、閾値は関係ないはず。
研究開発については、既に遺伝子組換え食品が存在しているのだから、戦略をもって研究開発をすべき。遺伝子組換え作物は開発コストがかかるので、ある程度の投資が必要。資本力のある企業が向いているもある。大企業が優良な技術開発をするのは悪ではない。
S氏:ネガティブ情報を含めて広報をすべき。メディアはネガティブ情報ばかりを報道するが、農林水産省では研究所で検証したリスク情報を発信している。
欧州の共存ガイドラインは科学に基づくものでなく、円滑な経済活動のためであると明言している。生態系の影響の確認はカルタヘナ法によって行っている(駆逐しないか、有害物質を分泌しないか、交雑して野生種にGM作物は影響しないか)
T氏:遺伝子組換え技術は確立した技術ではない。有用遺伝子が何所の遺伝子座に入ったかは確認できず、導入遺伝子の機能しか確認しかしていない。パズタイ博士やエリマコバ博士の実験には批判がありが追実験が行われていない状況。
北海道農業の振興にGMは不要で、農業技術以外に税金を投入すべき。
2003年5月、北海道農業研究センターで市民の反対を押し切り試験栽培を行った。目指したように収量が増えなかった。交雑試験の結果は紙では出されなかった。後に、試験場内の水田の稲を全部刈り取って処分されたので、試験研究の実情が地域の人に伝わっていないと思った。
O氏:アンケートでGM表示のある食品を買うという人は少なかった。北海道は国に表示制度の充実を求めている。一方、表示義務の有無や5%以下の意図せぬ混入の場合、不使用と表示できることを知らない人が7-8割おり、表示制度の内容の広報が重要。
北海道は条例を制定し、GM栽培を規制している。道民の8割、国民の7割がGM食品に不安を感じている中で、規制なしにGM栽培が行われ、一般作物との交雑が大規模に生じる事態となれば消費者の北海道農業に対する信頼は大きく損なわれることが懸念される。
H氏:富塚さんの導入された遺伝子の座の変化は不明というのは誤解。ダイズのゲノム解析がどんどん進んでいる。パズタイ、エリマコバの実験の解説は今日、配布されたバイテクハンドブック92、102ページを読んでください。それでも不安がある人は私にメールや手紙を下さい。説明します。
(1) 商業栽培について
- 小野塚さんへ:遺伝子組換え作物と交雑が起こると北海道のイメージダウンだという発言はいかがなものか→消費者の意向を重視すべき。農業は生産性向上を目指してきたが、消費者は高品質や安全安心を求める。北海道はニーズのある実用的研究、国は基礎的研究を行うといった役割分担(小野塚)。
- GM作物の種には特許があり、交雑が起こるとうちのように種取りをしている農家は訴えられるのかと不安→知らないで交雑が起こっても特許権侵害にはならない。欧州では共存で有機栽培農家を守ろうとしている(日野)。
- 小野塚・瀬川さんへ 北海道経済が厳しい、今までの農業政策を見直す時期ではないか。効率を求める低コストの栽培より東京で5倍の価格で売れるものを作るべきではないのか。
- 参加者:GMは技術のひとつで、食料、エネルギーの重要なツールだと思う。北海道はこれを大掛かりに出来る唯一の自治体だと思うので、スピーディに実現するための農政をしてほしい。
- 国で有機農業を進める政策があるのに、GMを進める政策は矛盾するのではないか。
- 日本は商業栽培をするときには、EUが行っているような共存(非GM農家を守る。閾値0.9%等)を目指す。農家が選択できる技術を開発していきたい(瀬川)。
- シュマイザーさん(自分の畑でGMとの交雑が起こり、モンサント社と訴訟になり敗訴)は家族3代で作った品種をすべてモンサントに没収されたそうだ(富塚)。
(2)安全性について
- 小野塚さんへ:GM食品の安全性について道庁はどう考えているのか→安全性審査済の食品は現在の科学的知見に基づいて安全であり、消費者が不安を感じている中で、生産・流通条の混乱が起こらないように規制している(小野塚)
- 富塚さんへ:これだけGM穀物が国内で流通しているのに、国内栽培を実質的に禁止している。輸入をとめたらどうか→今の自給率では輸入は仕方がない。表示が不備で選べない現状に問題がある(富塚)。
- 日野さんへ:わが国が持っている安全性試験の項目は十分か→はい(日野)
- 富塚さんへ:パズタイの追実験は米国、東京都、オーストラリアで行われた。新しい報告書を読んでいないのか、知っていて嘘の情報を流しているのか→意図的に間違った情報を流しているのではない。1月のモンサントの情報は読んだ。現在の科学的知見に基づいてというような条件付で安全性を確認された食物は食べたくない。何万年の歴史の中で獲得したものだけ食べたい(富塚)
- 日野さんへ:安全性評価の仕方はわかったが、問題点を説明されないので、信用しづらい。今後、ここは調べるときというような課題があれば教えてください→今後出てくるのは植物の代謝系を変化させるような品種。これらはケースバイケースで新たなデータを求めることになる。審査して納得したものしか承認されておらず、現時点で出ているものには疑義はない(日野)。
- パズタイとエリマコバの実験は審査を受けた科学論文になっておらず認められていない。科学は万全でなく、できる限りのことをするのが科学。100%安全は科学ではない。100%安全なものしか食べないなら、食べるものはない。お金をどこまでかけるのか。情報をいっぱいとって妥当な判断をしてもらいたい(日野)。
- 遺伝子組換えが許可されたら限られた外国の会社から種子を買わされ、種の値段を吊り上げられるのではないか→海外で開発されても日本国内でそのまま栽培できないので、日本の品種と交雑して国内用の種子を作る。基本特許は10年経って切れている。品種育成者権は種苗会社が持っている 新しい品種を作るときは日本品種で作るので、ロイヤリティは払うが共同研究をすることになるだろう(日野)。
- 大企業しかGM開発はできないという発言があったが、フォードに負けていたトヨタが勝てたのはアイディア勝負。遺伝子組換え作物の開発には、それなりの研究開発資金が必要だが、大企業しかできないというものではない。
ワークショップについて http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/shs/shokuan/090131__riskcomunication