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平成20年度一般市民向けバイオテクノロジー実験講座開かれる

 本実験講座を今年度も茨城大学遺伝子実験施設(10月18日(土)、19日(日))と、東京都立科学技術高等学校(11月15日(土)、16日(日))で開催しました。茨城大学遺伝子実験施設の講座には、同施設、同大農学部とNPO法人くらしとバイオプラザ21の共催で、一般の方9名と高校生8名の17名(写真1)が参加し、東京都立科学技術高等学校の講座には、同校、日本科学未来館友の会、茨城大学遺伝子実験施設、NPO法人くらしとバイオプラザ21の4機関の共催で開催、一般の方9名、大学生1名と高校生7名の17名(写真2)が参加しました。
  2003年開始以来今回で12回(茨城大学遺伝子実験施設6回、日本科学未来館3回、東京都立科学技術高校3回)を数え、参加者には2003年までは教育目的の組換え実験指針及び、2004年以後は2004年2月制定のカルタヘナ法について説明し、これに従って講義、実験、施設見学を行いました。

茨城大学の参加者 都立科学技術高校の参加者
司会をする日本科学未来館の出井さん 巽公一校長先生の挨拶

I.講義

1.「バイオテクノロジーの基礎」 久留主泰朗先生(茨城大学遺伝子実験施設長 写真5)

 毎年、この講座で「光る大腸菌を作る」実験を行っているが、この実験にはオワンクラゲからの緑色蛍光タンパク質GFPの遺伝子を使っている。2008年ノーベル化学賞はまさにこのGFPの発見、応用、実用に対して与えられた。生き物が光る別の例としては、ゲンジボタルの発光があり、これは酵素反応で、ATPがあると、ルシフェラーゼという酵素がルシフェリンに働きかけて光る。下村先生(ボストン大名誉教授)は、オワンクラゲもルシフェラーゼで光ると考えてその物質を探したが、見つからず、最後に光る仕組みを解明し、オワンクラゲからルシフェラーゼとは異なるGFPを精製し、取り出した。一緒に受賞されたマーチン・シャルフィー博士(米コロンビア大)は、遺伝子を組換えて光る線虫や光るショウジョウバエを作り、ロジャー・チェン教授(米カリフォルニア大サンディエゴ校)は、GFPおよび異なる色の蛍光タンパク質を作った。蛍光や発光たんぱく質は生命科学分野で特定物質の生体内での存在場所や量を調べることに使われている。
 内閣府は7月24日、遺伝子組換え食品に関する内閣府がステークホルダーの意識調査の結果を発表した。中学・高等学校の先生方に遺伝子組換え技術に対してネガティブな意見が多いことや、、安全性審査が行われていることを知らない人も多いことがわかった。参加された皆さんには、本講座等で、この技術を学び、理解して頂きたい、又、自分としては理解活動を進めていきたい。
意識調査(pdf)


講義する久留主先生(写真5) 安西先生の実験説明風景

2.「植物バイオテクノロジー最前線」 安西弘行先生(茨城大学遺伝子実験施設 教授)
植物の育種には、いろいろなバイオテクノロジーが利用されている。

  1. クローン技術:植物のクローンを作るのは昔から用いられている。
    動物では受精後発生初期(胚)の細胞を使う方法と成体の体細胞を使う方法の二つがある。体細胞を使ったクローン技術ではクローン羊が最初。
  2. 植物ホルモン、コルヒチン処理技術:種無し果実の育種、例、種なしブドウ(ジベレリン処理)、種なしスイカ(コルヒチン処理で3倍体にした)によって作られる。今年(平成20年)、千葉県で開発された種無しビワ(コルヒチン処理とホルモン処理による)が初めて発売された。
  3. 細胞融合技術:異なる植物から細胞膜を取り除いた(プロトプラスト)細胞同士をくっつけて、両方の特性を活かした新しい品種をつくる。例えば、ハクサイとキャベツ(別名 カンラン)でハクラン、オレンジとカラタチでオレタチ。ハクランは、実栽培されたことがある。
  4. 遺伝子組換え技術:根頭がんしゅ病(アグロバクテリウム ツーメファシエンスという名前の土壌微生物が起こす病気)がヒントになってできあがり、アグロバクテリウム法といわれている。他の方法には、パーティクルガン法がある。遺伝子組み換え作物としては、大豆、トウモロコシ、カノーラ、ワタなどがある。ハワイではリングスポットウイルス病耐性遺伝子組換えパパイアがある。
エネルギーと食物の確保のためには遺伝子組換え技術を含めたバイオテクノロジーの応用が期待される。




II.実験
  1. 光る大腸菌を作る
    大腸菌に塩化カルシウム法により、GFP合成遺伝子を含むプラスミド(環状DNA)を導入し、翌日、導入された光る大腸菌を観察した。
  2. 制限酵素でDNAを切って、観察する
    微生物はウィルスの侵入を防ぐ方法として、制限酵素という自己以外のDNAを切断する酵素を持っている(微生物は、自分のDNAはメチルするなどにより修飾し、切断を受けなくなっている)。本実験では、プラスミドDNAを4種類の制限酵素を用いて切断し、切断されたDNA断片を電気泳動により観察した。
  3. 単一のコロニーを分離する実験
    納豆を浮遊させた溶液(100万個/ml)をエーゼでひとつのシャーレの中に広げ、ひとつのコロニーを作ること(単一コロニー分離)に挑戦した。
  4. 納豆菌からのDNA抽出
    納豆菌をリゾチームで細胞壁を壊した後、SDSを作用させ、完全に溶菌させた後、エタノールを加えて、沈澱するDNAを観察した。

各実験台には助手が1名ついて説明
小型遠心機で納豆菌を集める 納豆菌からのDNA抽出風景
電気泳動 サンプルの注入 アガロースゲル電気泳動後のDNAのバンドが見られる
光る大腸菌


III.施設見学

 茨城大学遺伝子実験施設、東京都立科学技術高等学校にあるバイオテクノロジーで使う機器や設備を見学した。

茨城大学施設見学風景 茨城大学施設見学 植物の培養風景


 参加者のアンケートでは、満足度も高く好評。小中学生向けの実験講座は多くありますが、一般市民向けの実験講座は少いのが現状です。私達、NPO法人くらしとバイオプラザ21は、新しい技術を理解する手段の一つとして、実験講座は非常に意義あるものだと考え、今後も引き続き、改良しながら本実験講座を継続実施していきたいと考えています。


修了証書の授与